第十三話 お試し合宿
本日二度目の更新です。
ニールは焦っていた。
さぁ寝るか!と思って部屋に帰ったら魔法錠が書き換えられていたのだ。
やられた。さほど時間が建っていないと思って油断していた。
「しかも何だよこれ!簡単だと思ったらなんか結構難しい!!」
明日は早い。早く寝ないと差し障りが出るかもしれないが、残されたパズルが解けない。
落ち着け、落ち着いて考えるんだ。焦ったら負けだ……。
パズルを解くときには焦るのが一番駄目なんだ。そう、まずはよく観察をすることから始めるんだ……。
「うう……取っ掛かりがない!なんだこれ……本当に解けるのかな?いやでもコリーのは一応解けるようにしてあったらしいし、私のだけ難しくは……いや、どうだろう。テンペストの考えていることが読めない!」
前にロジャーがやったように別な方法で解錠してみようかとも思ったが、罠が仕掛けられていることに気づいてやめた。
気づけたのは偶然だった。
何度も何度も見落としがないかを確認して居る時のこと、やっとで気がついた。
それは扉が引き戸であることに気づかず、何回も押して開けようとしていたようなとても単純な仕掛け。
単純すぎるがゆえに一度嵌ってしまうと抜け出せない。そんな感じの物。
「やられましたね……。まさかこんな簡単なことに気が付かなかっただなんて……!」
ちょっと頭をひねるとすぐに分かるような物に、結局1時間ほど掛けてしまった。
もっと柔軟な頭を持つようにしなければと、反省して新しい魔法錠を掛けて漸く眠りにつくことが出来たのだった。
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翌朝3人はロジャーに引き連れられて王都の外へとでていた。馬車に揺られながら約半日。
着いたのは山小屋だった。
ここで3日間ロジャーの監視の元、3人で生活を共にして親交を深めながらサバイバル知識を増やしていく。とは言えすでに兄弟子二人の方は何度も経験済みなので、今回はテンペストのためと言っても過言ではない。
「そんなわけで今日から3日程皆にはここで暮らしてもらうよ。水も食料も全てが無い状態で、いかに生活していくかが課題だよ。そして……テンペスト、これがこの辺に居る魔物と植物の図鑑だ。与えられるのはこの本だけだよ」
ここには自分の身ひとつで来ている。つまり、身を守るための防具も、攻撃のための武器も何もない。
全てを魔法を使って生活する。
これが出来るようになり、また更に色々と修行を積んだ後は1人で同じことを1ヶ月行うそうだ。
「今は俺達も居るから楽だが、暫くしてやることになる1人でのこの訓練は結構きついぞ。今のうちにやれることを増やしておいたほうが良いぜ」
「まずは食料の確保と水の確保からだね。……またこれが始まるのか……本当、1人の時はめっちゃくちゃ辛かったな……」
「ニールはかなり苦手だったな」
ニールは魔法の威力が高いのだが、そのせいで細かい出力の調節が下手らしく……獲物を焼きつくしてしまったりと色々と上手く出来なかったらしい。
水を出しては出しすぎて風邪を引き、仕留めようと炎を放てば木々を燃やし、それを消そうとまた水で……と散々だったようだ。
最終的に何とか調節できるようになり今に至るそうだが。
「まあ、こういう場で自分の苦手なものとかを発見するのも一つの勉強だよ。僕がいるから危険な魔物が来ても安心さ。あぁ、それから寝るときに関してはテンペストは僕の所で寝てもらうよ」
「くっ……エロジジイめ……」
「なにか言ったかなニール?」
「いえ何も」
ニールはかなりテンペストに惚れているらしい。今回寝顔が見れるとちょっと期待していたようだがあっさりとロジャーにブロックされてしまって本音が漏れてしまった。
そしてロジャーの開始の合図で3人の共同生活が始まる。
まず、ニールとコリーが魔物を狩りに行っている間にテンペストはロジャーに貰った本を暗記していく。一字一句忘れないように。インデックスを作って擬似的に検索をかけられるようにするのも忘れない。
「……覚えた。次は……食べられるものを探しましょう」
あまり遠くに行かない程度の場所で、次々と薬草や香草、食べられる実などを発見し採集していく。
一旦山小屋のところへと戻り、用意されていた籠のなかに放り込んだ。
「鍋や包丁等はありませんか……なるほど、これも魔法で何とかしろということですか」
「その通り。出来る様になると何かと便利だよ。こういうの僕の所以外ではやらないみたいだけど、知っているのと知らないのとではいざというとき全然違うからね」
「ロジャー、突然後ろに立つのはやめて下さい。びっくりします」
ロジャーは気配を消しているのか、いつの間にか後ろに立っているから侮れない。
それで何度も驚かされているし、未だにニール達も愚痴を言っている所に本人が登場して慌てて言い繕ったりしている。
それはそうと、確かにその場でなんでも作り出せるようになれば色々な場面で役に立つだろう。
土を触ってみると粘土質なものであるのが分かる。
それであれば土魔法によって物を作りやすそうだ。
形を形成して固めていく。なめらかな粘土をこねて焼成するように。
1時間ほどたった時にはそこには4人分の食器セットとまな板、鍋、鉄板代わりのプレートなどがそろっていた。
「へぇ……これは綺麗だ」
「練習なので少し凝ってみました。なかなか細かい作業というのは魔力を消費するのですね」
「そんなこと言って……今もまだ魔力に余裕はあるよね?早い内にそれに気づくなんて本当に凄いよ。もう少し経験を積めばほぼ消費無しでこれくらいの芸当は出来る様になるかもしれないね」
「早くそこに到達したいものです」
焦っちゃ駄目だよと言いつつも、ロジャーの目は今しがた作られたばかりの食器セットなどに向いている。
普通、最低限の機能を持った無骨な物が出来上がるものだ。こういう店に売っていそうなものを最初から作れるものはまず居ない。
皿もきれいに真円を描き、その薄さは見事という他無い。
それでいて焼入れも完璧で指で弾いても均一に火が入ってしっかりと出来ていることに驚くばかりだ。
「その中でもこれだね……まさか土からナイフを作り出すとは」
セラミックナイフを参考に創りだしたものだ。とは言えオリジナルのセラミックナイフとは違ってそこまで強度はないだろう。それに恐らく肉を切るのには向いていない。
薄い陶器であることには変わりないため、下手に硬いものを切ろうとすればすぐに欠けるか折れることになる。
それでも、野菜などを切ったりする分には使えるため今回幾つか用意したのだ。
「金属のナイフなどにはかないませんが、植物などを切ったりする分には使いやすいでしょう。肉を切るのにもあまり適していません」
「じゃあ肉はどうするつもりかな?」
「特に問題がなければ焼き切ります。今の私では魔力が足りない可能性があるのでニールにやってもらうと思いますが」
「もちろん、それは構わない。今回は3人で協力しあって生活するのが目的だからね。適材適所か。自分にできて自分にできないことを把握しているという事は凄いことなんだよ、テンペスト」
「そうでしょうか……?」
出来ないことを認める、相手が優れていることを認めるというのは意外と難しいことなのだ。
どこかで対抗心が出て任せたほうが早いのに自力でやろうとして失敗するものも居る。
協力しあわなければならないのに、対抗した所で意味が無いわけだが。
もちろん何でもかんでも投げてしまうのも問題が有る。
「さあ、次はどうするのかな?」
「出来れば木を切り倒したいのですが、私の扱える魔法では少々力が足りないようです」
ロジャー達なら風魔法で木を切り裂くことも出来るかもしれないが、流石にそこまでの出力を練り上げるまでは行かなかった。
焼き切ろうとしても太すぎ、当然ストーンバレットは効率が悪い。
なのでまた土魔法を使うことにした。思い浮かべるのはエイダの使った土魔法。巨大な壁を作り出して周りを囲う。しかし今回使うのはそのためではない。
『テーブルセット、サイズ6。セラミックタイプ』
出来上がったのは6人掛け程度のテーブルと長椅子だった。
「本当に独特の詠唱をするねぇ。うん、食器と合わせていい感じじゃない?ってことは本当は木で作りたかったんだ?」
「形を作るにはまだ私の魔力量は少ないため、あるものを加工したほうが良いと判断したのですが……。おかげですでに魔力量が2割ほどまで落ちています。2人が帰ってくるまで少し休みます」
「あはは、仕方ないね。でもまあ初日に用意するには十分すぎるよ。さて、あの2人は上手くやってるかな?」
テンペストが小屋の中のロジャーの部屋へと入っていくのを確認して、たった今作られたテーブルや食器、調理器具などのセットを見ていく。
しっかりした作りで雑に扱わなければ暫く持つだろうと思われるそれは、商品として出しても恥ずかしくないものだった。
「……テンペストは職人になれるなぁ。鍛冶を覚えさせたら面白いのを作りそうだ。ま、最初に使う用意くらいはしてあげようか」
素焼きのようなそれは、そのままで使ってしまうと食べ物の水分などを吸収して汚れの原因などになる。なので初めて使うときには先に煮込んで水分を吸収させる。
その時一緒に煮込むとてかりが出て水が染み込みにくくなると言われている実を一緒に入れてやると尚良い。簡単なコーティング剤の役割を果たしてくれるのだ。
それによって汚れにくく、長持ちするだろう。
流石にテンペストはまだ知らなかったようだから、起きたら教えてやろうと準備をしていくのだった。
いつもだったら手を出すつもりはないのだが、あまりにも見事な造形の為すぐに使えなくするのも勿体ないと思った。
これは持ち帰って飾っておこうかなどと考えていると、獲物を仕留めてきたらしい2人が戻ってくる。
「あれ?師匠いつの間にこんなの作ってたんですか?私達の時にはやらなかったのに」
「違うよ、これはテンペストが作ったんだ。使い始めの手入れだけはやってあげてるけどね。見事なものだろう?」
「マジかよ……これ店で買ってきたとか言っても違和感ないぞ」
「へえ……調理器具まで……包丁もあるのか」
「調理器具は結局は焼き物だから扱いに気をつけなければならないとは言っていたね。肉を切るのには向かないらしいけど、コリー、エンチャントしてやりなよ」
テンペストは大分慣れてきたとはいえ、まだこっちのやり方に完全に慣れたわけではない。
この世界にはその物の持つ力を引き出したり、強化したりする魔法の付与という技術があるのだ。
本来ならば脆くて使い道が限定されるセラミック包丁であっても……。
『その刃は鋭く、その刀身はより強靭に。骨をも断ち切る業物と成れ』
見た目はあまり変わらないが、他に作ったものと比べるとこの一本だけ異常に鋭く、そして強靭になっている。
重ね掛けしていくことも可能だが、その物の限界が来ればはじけ飛ぶため最低限の事ができれば良しとした。それでも本来の脆さは消えて、獣程度ならば骨ごと叩ききることも可能なまでに強化されている。
「……うん、合格かな。コリーも付与が上手くなったじゃない」
「そりゃもう……必死こいて頑張った甲斐があるってもんだな。どうにも付与ってのは性に合わない」
「大雑把だもんねコリー」
「出力の調節もできなかった奴が何を抜かす」
「う……」
ここにいるのは訓練のためだ。
苦手なものを克服して高め合うのも目的なのだから、苦手なものをあえてやらされるのは当然のことだった。
「ニール、人のことばかりじゃなくて自分のことも心配したほうが良いんじゃないかな?……獲物を捌くのは任せたよ」
「えっ……ちょっ……」
「頑張れよ」
「ああ、そうそう。テンペストは平気な顔して捌いてたからね?今いる中で未だに慣れてないのは君だけだよ。頑張ってね」
「うえぇぇぇ……」
ニールは獲物を倒すまでは出来る。しかし、捌くことが出来なかった。
今だからこそ何とか出来るようにはなっているが、それでもまだ死ぬほど辛い。最初の頃は本気で泣きながら、吐きながら必死に内臓を掻き出していたのだ。
今でも血を見るのは苦手だし、でろぉと腹から零れ落ちる内臓を見ると吐き気がこみ上げる。
「うぷ……。が、我慢……我慢だっ……!」
掘った穴の中に内臓を捨てていき、皮を剥いで骨から肉を削ぎ落とす。
辛い。すでに死んでいるとはいえ、切ったり剥いだりしていると自分がやられているような気がしてきてゾワゾワしてくる。
「おぶっ……ぐ……お、おろろろろろろ……」
「うわきったねぇ!」
「まあちゃんと穴の中に吐いたから良いけどね。ホント慣れないねぇ……」
自分の吐き出した汚物に埋もれていく臓物をまともに見てしまって、また止まらなくなる。
終わった時には涙とよだれが止まらない状態だった。
コリーによって水をぶっかけられて顔を洗われる。
「はぁ……コリー、洗ってくれるのは良いんだけどね、もうちょっとやり方があったんじゃないかな?ずぶ濡れなんだけど?」
「んなもん干しとけ。天気いいしすぐ乾くだろ」
「あぁもう……仕方ない、下着でやるか……」
何とか全ての獲物を捌ききり、内臓や骨等を燃やし尽くして灰にした時にはすでに辺りは暗くなっていた。まだしっとりと湿っている服を着る気にはなれず、近くに火を炊いて温める。寝る時までには乾くだろう。流石に下着だけはそのままにしたが。
そこにテンペストが起きてきた。
「大分回復しました」
「あっ」
「ニール、なぜ裸なのですか?」
「いやこいつ獲物を捌くのにがっ……」
自分の苦手なものをバラされたくないニールが急いでコリーの口をふさぐ。
「言うなコリー!っていうかテンペストもあまり見ないで!」
「……?初日に私の裸を見ているじゃないですか。ならばおあいこです」
「……おい、ニール、俺にそんなもん押し付けんじゃねぇ!」
見ているじゃないですか、という言葉にあの時の記憶が一瞬にして脳裏に思い浮かび……。
とある部分が反応してしまう。
それはコリーの太ももに当たっており……。
「どうしたのですか?腫れたのですか?」
「ち、違う!そうじゃない!」
「しかし……」
「大丈夫、大丈夫だから!!」
「お前子供に欲情するとか……」
「うるさい!リヴェリからすれば見た目的にはすでに大人なんだよ!」
そう、リヴェリは見た目がずっと子供だ。
当然リヴェリであるニールは青年ではあるけどどう見ても子供である。そして見た目が子供のままで成長が止まるということは、今のテンペストの姿はそれこそ妙齢の女性であり、その可憐な美しさはとても人族とは思えないもので……ニールが惚れてしまうのも無理は無いことだった。
ロジャーはそんな弟子たちの様子を見て呆れもしたが、特に仲が悪くなるわけでもなく楽しんでいるようだったので放っておいた。というよりも翻弄されるニールを見て楽しんでいた。
結局パンツ一丁でなんとか己を鎮めたニールはコリーと協力して料理を作り始める。
なお、このキャンプ中はマナの実は出なかったのでテンペストが元気をとりもどしている。
「あれが無いのであればこれ程嬉しいことはありません」
「慣れなよ……。でもまぁ今日はテンペストの作った物のおかげでかなり楽をしているよ」
「いえ。それに結局ロジャーが手助けをしてくれたみたいですし」
「まあ今回は特別だね。あれはきちんと回収して持ち帰るよ。破棄するのは勿体ない出来だ。ああいうのは扱いが少し面倒だけど、使えば使うほど味わい深いものになっていくんだよ。後で手入れ方法を教えてあげよう」
「ありがとうございます。……それにしてもあの包丁はなぜあんなに……」
自分の予測以上にすぱすぱと肉を断ち切り、刃こぼれもしない包丁に疑問を抱いたが、これもエンチャントであるということを説明されて納得する。
同時に自分がまだ魔法というものをきちんと理解できていなかったことを悟るのだった。
出来上がった料理はテンペストが採ってきた香草をふんだんに使い、コリーとニールが採ってきた肉と樹に生る芋のようなものを使って作られていた。
ナンのような薄く伸ばした生地にそれらを載せて食べていく。
「美味しい!」
「頑張った甲斐があったなニール」
「ええ……まだちょっと胃のあたりがおかしいですけど」
「ふむ。ニールは明日も下処理をしてもらうからな?」
ロジャーの言葉に一気に青ざめていくニール。
とにかくニールは血を見るのが苦手で、スプラッタな場面はもう想像すら無理なレベルだった。
ホラー映画があったら毎日のように見せられていただろう。ロジャーに。
だからこそ大出力で確実に灰にするような戦法を取るようになったのは誰にも話していない。
テンペストはといえば、意外と美味しい2人の手料理をぱくぱくと食べていく。なにせあの糞不味いマナの実を食べなくて済んだのだ。要らない食べ物で胃の容量を圧迫されない分、美味しいものを詰め込んでいく。
その幸せそうな顔に全員が頬を綻ばせるのだった。
「美味しかった……」
「なんというか、そこまで喜んでくれたのは嬉しいな」
「私も頑張った甲斐があります。テンペストの為なら頑張って捌きましょう」
なんとテンペストの笑顔はニールのトラウマをも克服させたようだ。
かなりの惚れ込み具合だ。
そして夜になり、明日の予定をロジャーが話しだす。
「さて、今日はとりあえずこんなものでいいだろうね。テンペストもきちんと自分のやることを見つけて動けていたし、初日としてはほぼ完璧だよ。自分の魔力管理もしっかりしている。……そして明日は3人で協力しあってとある魔物を倒してもらうよ。ちょっと早いけどテンペストにとっては初めての実戦だ、2人にとってはそこまで難しくは無いかもしれないね。そこで討伐条件を設けさせてもらう」
提示された条件は……。
シールドボア1頭の討伐。成功条件はシールドボアの毛皮の剥ぎ取り(9割以上が無傷であること)と、シールドボアの頭骨を無傷で手に入れること。
テンペストは貰った本にその名前があったことを確認し、その姿や生態を思い出す。
シールドボアは頭部前面がまるでタワーシールドのようになっており、その中心からは一本の角が生えている。
その攻防一体となったシールドは突進によって攻撃を弾きながら自分は攻撃を仕掛けるという脅威になるのだ。頭骨はそのシールド部分を切り離して文字通り盾として使われる。
大きい割に骨なのでとても軽く、防御をしながらもシールドバッシュをすることでダメージも与えられるという意外と優れたものになるのだ。
毛皮はとても硬い毛が攻撃を弾き返すことになり、生半可な攻撃は通さない。
有効なのはハンマーなどの打撃武器や、槍などの刺突武器となる。
こういった特徴から魔法によって蒸し焼きにしたりしたほうが良いのだが、今回毛皮は無事に手に入れることという条件が付いたためそれが出来ない。
「んーなら俺の電撃で……いけるか?」
「無理。電撃は毛皮の表面を走って地面に放電されるみたいです」
「つまり……テンペストのあの攻撃しか通用しない?」
「ニールご名答。普段ならニールが燃やし尽くせばいいんだろうけどね。今回はテンペストの為の訓練でもあるんだ。だからとどめを刺すのはテンペスト、君だよ」
「分かりました」
しかし毛皮の損傷率は低くしなければならないし、頭骨を確保しなければならないという事からほぼ一撃で仕留めなければならないことは明らかだ。
頭骨に関してはシールド部分が無事なら問題ないということなので、恐らくヘッドショットで仕留めろということだろう。
かなり大型のイノシシの魔物で、チャージと呼ばれる突進に加えて地面を揺らしてこちらのバランスを崩す魔法も使ってくるようだ。混ぜて使われた場合ほぼ避けられずに直撃を食らうことになるだろう。
「じゃぁ3人で作戦会議でもして頑張ってね」
ロジャーが部屋に引っ込むのを見送ると、3人で討伐に関しての話し合いが始まる。
今回、ほぼ役に立たないだろう人はニールだった。
広域を攻撃するのに特化したような魔法ばかりなので、今回のように損傷率が設定されていると一撃で失敗する。なので今回は壁に徹することになった。
コリーは囮だ。適当に気を引いてニールが作り出した土壁にぶち当てるのが目的。
そしてそこで動きが止まった瞬間、テンペストによって横から無防備な頭を撃ち抜く……そういう作戦に纏まった。
後は本番を待つばかり。
「じゃあ、テンペスト。明日は頑張ってね」
「なに、落ち着けばテンペストなら出来る。問題ないさ」
「ありがとうございます。頑張ります」
身体強化を解除して魔力の回復に専念する。
今自分ができるのはストーンバレット位なものだ。それであれば、出来ることを限界まで引き上げよう。