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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第五章 英雄ディノス編
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第百三十四話 セイカーお披露目

遅くなってすみません。

なかなかいい感じにまとまらずに四苦八苦していました。

 ホーマ帝国の東に位置する、絶壁によって閉ざされた国、エフェオデル。

 隔絶された土地で独自の国を作り密かに大きくなっていった。


 大陸中央部をまるまる自分達の土地として、魔物すらも自分達の手駒として扱えるまでに成長していったものの、自分達以外に敵がいなかったために力任せに押し入ることしかしてこなかったのが仇となった。


 一応大砲などはあったものの、それも自らの肉体を使って支えるものだ。

 乗り物という概念は無く、あっても魔物の背に乗るという程度しか無い。

 魔物を操ることが出来るという点で元から多い人数を更にかさ増しすることが出来ているが、力任せの今までの戦法は無意味となった。


 届いていないはずの情報は、既にエフェオデルの内部で話題となっており、見たこともないゴツゴツした見た目に反してやたらと早く、魔物たちを一発で仕留めていく謎の存在でもちきりとなっている。


「テイマー。それは何だ?あれでは魔物をいくら送ってもすぐに意味がなくなるぞ!」

「分からない。あんな魔物は見たこと無い。魔物じゃないかも」

「数少ないタラスクを送って尚、それを突破された……こんなのは初めてだ」

「飛竜まで居る。こちらも出し惜しみしていては負ける」

「まずは報告だ。あの方ならばまた道を示してくださるはずだ」


 テイマー。名前の通り、魔物を従えることが出来るものがこう呼ばれている。

 代々何故か女性しかこの能力は発現せず、テイマーと子を作れるのは一部の限られた者のみ。

女性は国の共通母体……つまり、一つの家族として夫婦が居るのではなく、女性は全ての男性の妻として使われている中でこの扱いは破格だ。


 こうして間接的に魔物の視点から状況を受け取ることも出来るため、偵察としての価値も高い。


 その目から得られた情報はそこに居た幹部たちを混乱に陥れていた。

 ほとんど何も出来ないままに倒れていった魔物たち。

 その動きから毒だろうとは思ったが、その後に出てきた硬く人を載せた何かが問題だった。

 タラスクなどは通用するようだったが、小型の魔物はそれを倒すどころか近づく前に死んだ。

 さらに魔物たちと同じかそれ以上に早く、使われているのは大砲のたぐいだろうが自分達のものとは比べ物にならないほどの物だ。


 ここにいるテイマーは3人。


 大規模な魔物の軍勢を送り込むには十分過ぎる人数だ。

 それを一手に引き受けて、更に遠隔で操ることが出来る能力。

 多数の魔物たちを簡単な命令で動かすことが出来る上に、その場の状況を魔物の目を通じて見通すことが出来る彼女らにとって、本来ならばもっと簡単にうまくいく作戦のはずだった。

 圧倒的な力と物量によって一気に街を陥落させてから、それは確信へと変わっていた。


 それなのに……途中で出てきた少人数の部隊によって全てが退けられ、守りを失った街へ魔物を通じた指示をだすこともできなかった。


「帝国に取り残された者たちの救出を急げ」

「グライドを使わせて欲しい。あれでなければ間に合わない」

「……良いだろう。だが数が少ない、絶対に失うな」

「承知した」


 グライドはこの地に少数生息する特殊な魔物だ。

 ほとんど物音を立てずに凄まじい速度で長距離を移動できる、大きなフサフサとした毛の生えたトカゲの様な魔物で、エフェオデルが確保しているのは僅か3頭。

 戦闘能力は決して高いわけではないが、とても力が強く隠密行動に長けているという事で敵地へ潜入するまでの移動手段などとして使ってきた。


 今回はそれを脱出の手段とする。

 飛竜も手なづけているが、向こうにも居る時点で縄張り意識の強い飛竜は却下だ。かなり遠い位置からでも飛竜の侵入を関知してバレてしまうのだ。

 そういう点ではグライドは適任だった。


 早速小屋からグライドを放ち、国境へ向けて走らせる。

 足の裏にもびっちりと生えた毛が足音を消し、全身の柔らかい毛は風切り音を消す。

 静かに風を引き連れて巨大な魔物が疾走していった。


 □□□□□□


 国境へ付いたグライドが見たものは、取り囲まれ次々と倒されていくエフェオデル兵士だった。

 最後になんとか脱出しようとした者達も、もう既に捕らえられて居る。


 つまり……手遅れだった。

 脱出させる前に帝国の兵士は奪ったはずの街を奪い返していた。

 誰一人として戻ってこれたものは居らず、守りを固められた街は攻め込むにしても少々厳しいものがあるだろう。


 捕らえられたものは死んだものとして見切りをつけ、テイマーはグライドに帰還を命じる。


「早すぎる……」

「軍の移動ならばもっと遅いはず」

「やはりあの何かが……?」


 テイマー達が話し合ってみるが良く分からない。

 しかし複数の人を乗せて動くあれは魔物のようには見えなかった。

 どう見ても人が作った道具のように見える。が、それが何なのかはエフェオデルでは分からない。


 今回の失敗で、こちらへ攻め入る為の口実を与えたことは痛い。

 それも未知の物をつかった脅威が有る状態で。

 急ぎで対策を練らねばならないだろう。

 飛竜という脅威を持つホーマ帝国を迎え討つために、先程テントを出ていった男はあの方へと伺いを立てに行った。


 突如としてこの国へと現れ、次々と実力者を屠りエフェオデルの長となった男。

 見たこともない魔物を引き連れ、エフェオデルに魔物の従え方を教え、身体を強化する方法を教えた。

 それによって今まで以上に強くなったエフェオデルだったが通用しなかったのだ。

 相手の進化が予想以上であったことは確かだが、確実に攻めれるように力添えをしてほしいと思った。強力な魔物たちを使うことで。


「まさかあの魔物たちを使うことになるとは」

「しかしあれを使えれば負けることはない」


 体毛がなくどす黒い体色の不気味な魔物たち。

 性格は凶悪そのもので、管理していなければ仲間割れで全滅もあり得る程。

 翼を有し殆どの者が空を飛ぶ事が可能な上に数が多い。


 もしそれを解き放ったら……如何に強力なホーマ帝国であってもひとたまりもないだろう。


 □□□□□□


 ハイランド王国、王都。


 今日、テンペストがこの世界に来てから初めての空軍が誕生した。

 王都の空に見事な編隊飛行を披露しているのは、コンラッド率いる飛行隊だ。

 空軍と言っても、まだ機体はたったの6機。

 大きな作戦を展開するまでは行かないまでも、飛竜を複数相手にしても負けない戦力となっている。

 何よりも大きいのはその速度で、今までは数日かかっていた道のりは起伏を無視して数分から数時間程度で到着することが可能だ。


 テンペストのマギア・ワイバーンを見て慣れていたはずの国民達も、まるで渡り鳥のように綺麗に隊列を組んで優雅に舞う彼らの姿を見て驚いていた。


 滑走路は以前テンペストがワイバーンの能力を見せつけた時に使った場所……王都の領内で噴火口の壁がすぐ近くとなる南門にほど近い場所へと配置され、騒音対策で今のようなデモンストレーションや有事の際以外では音速を出さずにレビテーションでの移動をすることになっている。


 機体は白くペイントされ、ハイランドの紋章が大きく描かれた。

 青い空に純白の機体はとても良く映えて見え、黒いマギア・ワイバーンと対極のような神々しさを感じるものだ。

 名前はセイカー。

 コンラッドが言うには人に飼いならされた隼で、一度敵を補足するとしつこく追い回すという。

 しかし人に馴れやすく扱いやすいという事で「この機体そのものだろ?」ということだった。


 確かにセイカーはワイバーンと違って人族でも扱えるようにするためにかなり能力を押さえてあるため、そこを人に馴れていると表現するならばぴったりだろう。

 また、「あと、セイカーって名前の大砲も有る。あれは小型化していながらも性能を落としたわけではないって意味ではぴったりだ。なかなか良いものを思いついたと思うぜ」だそうだ。

 セイカーもマギア・ワイバーンと比べると一回り以上小さく、少しばかり頼りなく見えるものの……兵装自体はそう変わるものではない。

 共通した物を使えるようにしたことで専用品を作るコストを削ったわけだが、全体的な戦力の底上げとして働いている。


 色が少々違うだろうが、それはそれだ。

 なるほど確かに面白い名付けをしたものだとテンペストも感心していた。


 式典が終わり、着陸した後にコンラッド達は休憩のために滑走路の建物内で休んでいたが、そこにテンペストが来た。


「お疲れ様です、コンラッド」

「これで俺達は軍人って事だな。何から何までお膳立てしてもらったようで悪いな」

「元パイロットであるあなたはまた私と空を飛びたいと言っていました。その願いを叶えただけです」


 テンペストの不思議な体験の中でコンラッドが語った言葉。

 本当ならテンペストの居るワイバーンに乗って、という意味だったのだろうが……。今は肩を並べて空を飛べるのだ。


「それは感謝してる。出来れば元の世界の方でってのが良かったけどなぁ。まさか自分の体が消えててテンペストが肉体を得ているとか、どこのSFだよって思うぞ?しかもテンペストはこっちで新規にマギア・ワイバーンを作り上げた。とっくにお前はAIの域を超えてる」

「そうでしょうか?」

「AIってのは……基本的に人間が居ることが大前提だ。暴走しないようにという意味もあるが、機械と人の仲介人をするのが仕事だからな。全てを自己決定して独自の発想を得るなんてのは普通できないはずだ。まして感情なんてのは……理解させようとしてついに出来なかったことなんだ。今はどうだ?」


 不完全とはいえ、感情を理解し、ニールと恋愛にまで発展している。

 喜びを表現して屈託のない笑顔を見せることもあれば、怒りによって行動することだって有る。

 それは科学技術の発達したコンラッドの世界であっても、作り物の感情というものは機能することはなかった事から考えても本来はあり得ないことだった。


「……私は……一人の少女の命を代償にして、この身体を得ました。恐らくそれ自体に原因が有るのでしょう。最初のときこそまともに生活すら出来ませんでしたが、身体に慣れてくると特に教えてもらったわけでもない動作を行うことが出来るようになっていました。この身体が覚えていた、と考えるのが自然なのでしょう。感情もそれがあったために得られたと考えられます」

「そうかもな。だが今は一人のめちゃくちゃかわいい女の子そのものだ。機械から人へと進化した初めての存在だぞ、凄いじゃないか」

「ほとんど事故のようなものですが……」


 褒め言葉をまるっと無視されたコンラッドが苦笑する。

 まだまだこっちの方は無理だったらしい。

 ここで少し照れが出たら合格だったのに、と思わざるをえない。


「……隊の名前は決まっているのですか?」

「ウォーロックだ。懐かしいだろ?」

「そうですね。あの時の隊名です」

「この次は絶対に阻止するって決めたからな。リベンジだ」


 為す術無く爆発に飲み込まれたあの日。

 その時の屈辱を忘れない様にと同じ隊名にした。

 こちらの方では隊名は一度決めたら固定のままだが。ある意味で全員魔法を扱えるため間違ってもいない。


「それにしても……展示飛行なんていつ以来だろうな」

「現在から6年と3ヶ月程前の記念式典以来です」

「ああ、そんなになるのか。あっちはスモーク焚いたり出来たから派手にやれたんだがなぁ」


 そこまで難しい技術ではないので恐らく出来るだろうが、そこまでしなくても良いだろう。

 空を飛べる戦力が増えたというだけでも、今のハイランドにとってはお祭り騒ぎになるほどのことなのだから。

 そして、まだ操縦技術が育っていないのでアクロバット飛行は難しい。


 その為、マギア・ワイバーンとセイカーの2機によるアクロバット飛行がこの後行われるのだ。

 当然、セイカーにはコンラッドが搭乗する。

 コリーに関しては飛行訓練の度に度を越したアクロバットをテンペストによって仕込まれているので特に問題なかったりする。

 スモークを使った物は良く分からなくなったりするものも多いため、見て分かるものに限定されるがそれでも少なくはない。


「……そろそろ出番だな」

「ええ。ぶっつけ本番ですが問題ないでしょう」


 本当に練習なんて一回もしていなかったりする。

 指示はテンペストが出し、それに合わせて演技をするという感じだ。


 外に出ると既にマギア・ワイバーンとコンラッドのセイカーが並んでいる。

 黒く大きなマギア・ワイバーンに少し小さくすっきりした見た目の白いセイカー。

 何もかもが対象的な2機の魔導戦闘機。


 コリーとコンラッドが乗り込み、テンペストはニールのアラクネに座ってマギア・ワイバーンへと意識を移す。


 レビテーションによって無音で浮かび上がった2機はそのまま低空飛行で王都上空へと侵入していった。


 □□□□□□


 王都では先程の展示飛行の興奮がまだ冷めていなかった。

 飛竜に対抗できる強力な兵器が新しく6機も出来たのだ。

 しかもこれはテンペストという一人の戦力ではなく、正式なハイランド軍に組み込まれている。

 既にセイカーがどういったものかを、先にあったマギア・ワイバーンによって国民達は知っている。あれは魔導車と同じくサイラスとテンペストが開発した最新兵器であり、中には人が乗っていて自由自在にそれを操るものであると。


 当然、兵士を目指していた子どもたちの中には、あの機体にいつか乗りたい!と志を新たにした子は多い。

 もちろんサーヴァントなど魔導騎兵の方がいいという子も多いが。

 ロマンあふれるものに乗りたいと思うのは何処の世界でも同じなのだろう。


 興奮が続く王都の広場では、屋台の呼び込みの声すらも埋もれてしまうほどざわついていたが、つづくアナウンスによって一気に静まり返る。


「続いてはマギア・ワイバーンとセイカーによる曲技飛行です!」


 突然曲技飛行などと言われても、どういったものかは分からない。

 その為にアナウンスによってある程度の説明がなされていた。要するに普通の飛び方はしないということだ。

 まあ、その普通の飛び方って何?というのが下の人達の正直な反応だろう。


 アナウンスが終わるとまた少しざわつき始めたが、王都の東門と西門にそれぞれマギア・ワイバーンとセイカーが見えるとそれは歓声に変わった。

 マギア・ワイバーンは特に翼竜であるワイバーンに少し姿を似せた独特の形をしている上に、その強さを既に皆知っている。それに乗っているのは一見優男な感じの獣人コリー。

 なんだかんだでコリーは人気があり、よく声をかけられるようだが未だにこれと決めた人は居ないようだ。

 そのせいで余計に女性たちから話しかけられるという状況らしい。


 そして新型機のセイカー。

 大きさは小さくなったものの、洗練されたスタイルを持つその姿はマギア・ワイバーンで見慣れてきた人たちには簡単に受け入れられた。


 それぞれ正面を向き合って2機が空中で静止している。

 おもむろに前進し始めると、そのままどんどん加速していき……観客たちがこの後に起きることを予想して悲鳴を上げ始める中、急上昇を始めその途中で一気に音速を超えた。

 それぞれの腹をくっつけるようにワイバーンとセイカーが加速しながら上昇していき、頂点に達した所でまた左右に別れる。


 その非常に危険な事を軽々とやってのけたのをみた観客たちは一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声をあげる。


 次から次へと宙返りなどの基本的なものから、高速ですれ違ったり、背面でくっつきながらだったりと高度な技を披露され、その度に悲鳴があがったり歓声が上がったりと忙しい。

 流石に超低高度を飛行した時には、建物すれすれを飛んだので観客の間近まで来たのは良いが流石に怖かったようだ。

 腰を抜かしていた者達が上からでも見えているのだった。


「……やりすぎたか?」

『突風は感じたでしょうが、音速は出していません。怪我をする程度のものではないので問題ありません』

「それにしても……コンラッドか。テンペストの合図にきっちり合わせてくるな。凄い腕なのは俺も分かるぞ」

『少々性格は相応しくないのですが、腕は当時でもトップクラスです。だからこそ難易度の高い危険な任務についたわけですが』

「俺も後で教えてもらおうかね……」

『是非。私とともに飛んでいる時間で、実戦も経験しているためコリーも腕は良いのですが、私では教えきれなかったものなどをコンラッドが教えてくれるかもしれません』


 きちんとした訓練を受けてきたわけではないコリーとしては、コンラッドの訓練に訓練を重ねてきたそのパイロットとしての技量を学びたいと感じた。

 特に編隊を組んでの飛行などは今までできなかった事だ。

 仲間が増えて嬉しいのはコリーも同じなのだ。


『アクロはさっきので最後だ。ラストの模擬戦、やるだろ?』

「もちろんだコンラッド。……楽しみだ」

『では模擬戦に入ります。モードをプラクティスにセット、位置についてください』


 地上の方ではまたアナウンスがあっただろう。

 模擬戦ということで、本気で攻撃し合うことになるわけだが、兵装は機銃のみ。その機銃も軽い衝撃が加わるだけの魔法弾だ。

 見た目には撃っているのが軌跡となって見えるので面白いだろう。


『模擬戦開始10秒前。……5、4、3、2、1、始め』


 テンペストのカウントダウンと共に、コンラッドとコリーは一気に加速する。

 今度は上空の高い所で行うため、観客からは小さくしか見えないものの先程までとは違った加速とその速さ、2機の本気の戦いを目の当たりにするだろう。


 先程の曲技飛行と同じく西と東からのスタートだったが、あっという間にヘッドオンで接近しつつそれぞれの機銃から魔法弾が放たれた。

 しかしそんなものは最初から予測済みだ。今度はお互いの後ろを取り合い、滅茶苦茶な機動をし始める。

 コリーの獣人としての並外れた身体と強化、そしてコンラッドの人ではない身体。そして両機の魔法金属というでたらめな金属があるからこそ出来る機動。


 獲物を追いかける鳥の様に、魔導エンジンとレビテーションを上手く使いこなしながらの急加速急制動は下にいる観客たちを圧倒した。

 マギア・ワイバーンすら自分達の目の前で飛竜と戦ってくれるということはまず無いのだ。

 そして兵士たちでもそれは同じだった。

 武装を制限されているとはいえ、本気のマギア・ワイバーンの機動力を見て口が開きっぱなしになっている。


「なんだ……あれ……飛竜より凄くないか?」

「おお、コンラッド殿が後ろを取ったぞ!」

「流石はナイトレイ卿……コンラッド殿の攻撃を危なげなく躱していきますな」

「あ、ああ!ぶつかる!!」


 兵士たちの方も一般の観客よりは落ち着いているものの、似たような状況だ。

 結局、最後まで決着はつかないままで終了し、その手に汗握る模擬戦の様子はハイランドの新しい戦力を見せつけるのには十分なものだった。


 □□□□□□


「お疲れ、テンペスト」


アラクネの車内でずっと模擬戦を見ていたニールの隣で、小さな声とともに目覚めたテンペストにニールが声をかける。

今まであそこまでの動きをしたのを見たことがなかったので、ニールも相当びっくりしているのだが、途中から考えることを放棄していた。

テンペスト達だから、という一言で済ませたのだ。


「……正直、コリーがここまで腕を上げていたとは思いませんでした」

「え、そうなの?」

「今回の模擬戦は、私は機体の制御以外は何もしていません。全てコリーの力です。マギア・ワイバーンの性能に助けられた場面も多いですが、そういった所を上手く使いこなしているのは流石です」


 職業軍人として空軍のエースとしてやってきたコンラッド。そんなコンラッドの技に対して力技でついていったのがコリーだ。

 一段性能の落ちる機体を使っているコンラッドとは言え、人間離れした機動を扱える身体をもって何度も後ろに食いついてセイカーの名前を確かなものとした。しかし、その動きに対して驚異的な反射と勘で攻撃のタイミングを読むコリー。

 肉体の性能的にはコリーは生身に対してコンラッドは作られた身体だ。脳すら無く、通常なら即死するような機動をしても決して意識を失うことも無ければ、当然その程度で死ぬことはあり得ない。

 その点では機体性能以上に大きなアドバンテージがあったはずのコンラッドの機動を最後まで逃げ切ったのだ。


 それだけでなく何度も後ろを取り返して攻撃までしている。

 はっきり言って叩き上げすぎた感じがしないでもない。


「しかしやはり本能的にその場その場で動いているところがあるため、隙が多いのも事実です。まだまだコンラッドから学ぶことはあるでしょう」

「へぇ……ボクから見たら2人共凄すぎて何が何だか……。あ、次は博士の出番でしょ?広場まで早く行こう!」

「ええ、そうですね。サイラスにまともに会うのも久しぶりです」

「流石の博士も領地経営が安定するまではなかなか離れられなかったみたいだからね……」


 研究所の方にも少し顔を出してすぐに戻ったりと、なかなかまとまった時間が取れなかったのだ。

 報告は逐一届いているのだが、領地経営となると勝手が違う様でテンペストに質問が飛んできたりなどもしていた位だ。


 この後、魔導騎兵隊の本格稼働の記念として国民の前でデモンストレーションが行われる。

 これまで表に出てこなかったギュゲスなども出てくるのだ。

 きっと面白いことになるだろう。


ハイランド空軍正式採用魔導戦闘機、セイカーが誕生しました。

マギア・ワイバーンは軍属ではなくて個人所有という恐ろしい状態だったりしますが、セイカーはちゃんと王国所有の備品になります。

なのでコンラッドが勝手に持ち出すことは出来ません。残念。


エフェオデルでの女性ですが、当然ながら誰の子でも産まなければならないというわけではなく、女性に選ぶ権利はあります。

大抵は強い男が人気があり、そういった人の子はやたらたくさんいることになるわけです。

口だけだったり逃げ出した者はその輪の中に入れず誰からも相手にされません。

悲しいね!

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