第百三十話 コンラッドの魔法デビュー
ちょっと体調崩し気味です。
アラクネをもらってからニールは急いで自分の倉庫を作った。
テンペストを見習って最初から大きな空間を作っておき、そこに魔晶石を埋めて接続を確認する。
中の湿度や温度を一定に保てるように作ってもらった魔道具を設置しておけば、保管庫としても有用となる。
部屋を2つに分けて一部を繋げておけば冷蔵、冷凍用の部屋と他の別なものを入れておくガレージとしても機能するようになった。
そして……テンペストの屋敷……今のニールの家でもあるそこの庭にアラクネを出して眺めたりしている。
「……格好いい……あ、汚れが……」
まるで新車を購入した人のように自分の為のアラクネを綺麗に洗っては布で拭いて居る。
車用のワックスがあるわけではないので艶は出ないものの、昨日のドライブの時の汚れはすっかりなくなっていた。
なにせコリーはマギア・ワイバーン、サイラスはサーヴァントを持っているのに自分だけのものがニールには無かったのだ。
そこに自分の為の物をテンペスト自らがプレゼントしてくれた。
嬉しくない訳がない。
特にテンペストが入ることになる棺型のケースは、中にいい匂いのする香水をちょっとふりかけたりとかして寝心地が良いようにしてある。
何かあった時にはこれを使って全速力で離脱しなければならないのだ。
できるだけテンペストの身体を傷つけたくない。
「よし!綺麗になった!」
満足の行く仕上がりになり、汚くならないうちに収納する。
専用の機銃は今調整中ということで、あと少ししたら取り付けられるはずだ。
それまでは十全の性能というわけではないが、走りに関してはとても満足している。
悪路を物ともせずに進むことが出来るタフさと、その振動を中に伝えないという繊細さを併せ持つアラクネ。
薄い装甲とは言えど、川に突っ込んでも水は入ってこないし、屋根と窓を収納すると開放感があるのも良い。
軽くハンドルを切ればオルトロスではありえない動きができるし、その自分とアラクネが一体となったかのような爽快感はなかなか味わえないものだ。
あれを覚えてしまった今ではなんでコリーの運転で怖がっていたのだろうと思ってしまうほどだ。
「ニール様、そういう事は私どもにお任せいただければ良いものを」
「んー……違うんだよ。僕が自分でやるって事に意味があるんだよアルベルト」
「そうでございますか。確かに自分の大切なものは自分で手入れをしたいというのは分かります。テンペスト様もご自分の一部のものは必ず自分で手入れをなさっています」
「そうなんだ。……そういえば、僕達が居なかった時の領地経営とかアルベルトがやってたんだよね?」
「はい。何の心配もない経営ほど楽なものはありませんでしたが」
問題があるところが殆どなかったのだ。たまにちょっとした事が起きるくらいで問題といえるほどの物が起こることは少ない。
収入も安定しており、食料の供給も問題がない。
魔導車の販売がかなり美味しいのだ。
出せば売れるし、売れればそれによって領地間の安全な行き来が保証されたことでいろんな流通が増えていく。
まだまだ高いため馬車も現役だし、ゆっくりと行きたい人はやはりそちらを選ぶようだ。
「流石テンペスト……。そう言えばサイラスの領地の話とかは何か聞いてる?最近全然あってないから分からないんだけど」
「ダラム子爵領……でしたか。治めていたものが居なくなってから久しいあの土地に何故と思いましたが……。人数が少ないながらもよくやっていらっしゃるようです」
波が高く荒れやすい海。これをサイラスはエルフの魔法使い達とドワーフの魔法使い達を集めて人工の湾を作った。
海底から海面数メートルまでを土魔法等によって城壁の要領で壁を作り、複雑な形によって消波性能を付与する。これによって波はせき止められ、減衰して湾内へと入る。
それが3段になっているのだ。
おかげで湾内は普通の湾と同じ程度には波が穏やかになり、高波が来そうな時には湾を閉じて海水の侵入を抑えることが出来る様になる。
断崖絶壁で降りることもままならなかった場所もエレベーターの設置で問題なくなり、更に漁師のための家や船なども作り始めているようだ。
一度湾から出ていけばそれなりに厳しい環境となるので、船は転覆することもある。
その為転覆しないような工夫を凝らし、万が一転覆しても復元するような物を出している。
漁師の為の家は大きな土台の上に作られ、その土台自体に浮遊の魔法が使われて居るため、非常時には崖上まで浮上させて波の被害を逃れることが出来る様になっている。
海風も強いし、波も激しいのでそれらを利用して魔力を生み出すことは容易だった。
更に日当たりを悪くしていた背後にある山を削っている。
これはブリアレオスが大活躍しており、日に日にその姿が消えていっているのだ。
その時に出た岩盤を砕いたものなどは、全て海岸へ繋がるスロープ用の素材としても使われている。
同時進行で海面と同じ位置を陸地に向かって掘り進み、サイラスの為の造船所兼ドックを作っている最中でもある。
そこにはリヴァイアサンを更に発展させたという、サイラスの設計した最高の船が来る予定だ。
万が一波が来たときなどは分厚い岩のプレートが降りてきてそれを防ぐ様になっている。
……というのがアルベルトの仕入れてきた情報だった。
「え、何でもうそんな知ってるんですか……」
「長く生きているとそれなりに人脈なども出来てくるのですよ」
「僕より年下ですよね?!」
一応、人族であるアルベルト以上には生きているのだが、そういった人脈などは全く無い。
寧ろテンペストの方が多いくらいだろう。
ここに来て今までほとんど交流をしてこなかった事が浮き上がってきた感じだ。
「人脈って、どういうふうに作れば……」
「そうですね、テンペスト様について歩くと良いでしょう。コリー様でも良いはずです。まずは顔を覚えてもらわねばなりません。一部で有名になるというのも手ですが、どちらにせよ人を見極める力がないと簡単に足元を掬われます」
「なるほど……」
「今回の旅での功績でニール様も子爵となりました。これによって目立っては居ますし……先日の決闘でも大分名を売っています。いずれ嫌でも人と付き合っていかなければならない時が来るでしょう」
言われてみれば未だに手紙とかが来るのだ。
最初のうちは女の子たちからやその親からの感謝の手紙、そしてその次には何故か手合わせ願いたいとか雇ってくれとかいう手紙。
長々とプロフィールを書いてきてくれるのは良いのだけども、戦力として人を雇えないと言っているのにこれなのだ。
弟子にとか教師にとか言うのもあるけど、教えてもらってるような状態で出来るものじゃない。
「……またハンターとしても活動しようかな?」
「それもまた良いでしょう。ハンターとして活動している貴族も少なくありません。そこで信用を得られれば色々と融通がきいたりすることもあります。かくいう私も似たようなものでして」
ただしニールが普通の方法でその仕事を覗くことはまず無いだろう。
どちらかといえばアルベルトは情報戦の方なのだ。
実力を使ったものではなく策略やそれを使っての情報撹乱、情報収集等など。
当然人脈もそちらに特化したものが多く、表にはあまり名前が出てこないだろう。
もちろん、ニールのこともしっかり調べ上げられている。
いつ何処に行ったかなどの行動一つ一つが監視対象だった。
既に問題なしとなってからはそこまではしていないし、恐らく主人であるテンペストにバレるだろう。
「エイダ様からのお告げもまだみたいだし、どうしようかなぁ。正直僕1人じゃどうしようもないからなぁ」
コリー、サイラス、テンペストは領地の経営と研究所の仕事だ。
ギアズは特に何もしていないので組めるとすればギアズ位なものだろう。
今のところ自分の領地を持っているわけではないニールは、このままテンペストの領地を2人で支えていくことになるわけだが……大体1人でなんとかしてしまうのがテンペストだ。
ニールも研究所の仕事があるが、皆の位は忙しくはない。
「ではコンラッド様の様子でも見に行かれてみては?」
「あー。今日だっけか、試験」
午前中の仕事を終わらせてしまえば、後は結果が出るまで放ったらかしでいい。
暇になる時間をそちらに回すというのも良いだろう。
それにコンラッドのことはちょっと気になっているのだ。
なにせ自分の知らないテンペストの事を知っている唯一の人物だ。
出会いは微妙だったとは言え、落ち着いている今なら色々と話ができるだろう。
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「ふむ、まだまだやりたいことがありますが良いでしょう。あなたのおかげで頭の固い古い考えの長く生きただけの魔術学者を黙らせることが出来ますよ」
「案外辛辣だな。いやまあ気持は分かるけどよ……」
どこの世界にもこういう輩は居るのか。
新しいものが出るとまず否定から入る。検証をよくやろうともせずに、自分達の利益が害されるなどという理由だけで消えていった技術などがどれだけあることか。
逆に自分達の技術をゴリ押しして後々大問題になることもあるのだ。
「宮廷魔術師の方では未だにサイラス博士の説に異を唱える人達が居るのですよ。自分が使えないからと僻んでいるのです。それなのに未だに古臭いワードというシステムに縛られて……先入観を捨てろと言われても難しいのは分かりますが、出来ないからと全てを否定しようとするその姿勢ははっきり言って……ああ、この話は止めにしましょう。ではコンラッドさん、既にあなたは基本的なことは出来るようになっています。存分にそれを発揮して来て下さい」
火は比較的楽だった。馴染み深いというのもあるだろうがやはり想像力だけでなく勉強なども必要なのは確かなようだ。
酸素を供給するイメージを出すと火が燃え盛るようになるのがいい例だろう。
電気や水、風も分かりやすかったが土が分かりにくい。
陶芸のイメージでとりあえずツボ作ったが……あっという間に崩れ去った。知識が足りなすぎるのが問題だろう、多分。そもそも濡れてたり粘土すら使ってなかったしなあれ。
テンペストはそんな土をよく使っているようで、今ではバルカン砲の弾に使用されているような物を撃ち出しては敵を殲滅していたそうだ。
エグいことをすると思ったが、飛竜なんてのはそれでも弾かれたりすることもあるらしいから威力が足りてないくらいなのだろう。怖すぎる。
とりあえず、3日程あまり寝ないでひたすら訓練を行った結果……ほぼイメージ通りに魔力を扱うことが出来るようになっている。
「お、おう。あんなに分からなかった魔力とかマナとか、手に取るように分かるぜ。先生のおかげだ。あー……そういや先生の名前聞いてねぇ」
「おや?してませんでしたか。私はアルフリック。あなたは私が教えた生徒の中でも初めて最初からワード……つまり詠唱を使わずに魔法を発現した最初の人物となります」
「っしゃ!なら初めてついでに廊下ですれ違う度に若干小馬鹿にした目をしていた奴らブチのめして来んぜ!」
「期待していますよ」
にこやかに手を振って見送ってくれるアルフリック。
なんというか、エルフというせいもあって物凄く美形で長髪の男がやっているので、少し母親じみた感じがしてならない。
ちょっとだけドキっとしながら、表向き気にしないふりをして修練所へと向かった。
今日はこの7日間の集大成。最初の魔法の試験だ。
実力に合わせて合格ラインが決められ、この試験で更にクラスが分けられるのだ。
上級者と分類されると、今日のうちに今度はもう一度生徒同士での実戦だ。自分の扱う魔法がどういったものか、自分が喰らえばどうなるか、そういったものを教える意味合いもあるのだ。
武力全般がそうだが、他人の痛みを分からない者が居る。
弱い者達を相手にして一人で一方的な勝利をおさめることに快感を得て、非常に嗜虐的になっていくものが居る。そうなる前に与えられる苦痛を教え、受けるものは痛みを感じるものであることを教える。
「映画の主人公みたいになんでも出来るわけじゃないが……俺だって軍人だ。徹底的に仲間を助け敵を倒すことを教えられてらなぁ。流石にそんなクズにはなれないが……それっぽいのが居るんだよなぁ」
簡単な防具にもなる服を着て修練所に着くと、たった1人だけのコンラッドに別クラスの者達から好奇の目が向けられる。
今の時点である程度魔法を扱えると分かっている上級者達が集まる所では、一際見下した視線を向ける者が1人。どこぞのご子息らしいがどうでもいい。
全員自分より若く見えるし、おっさんが今の今まで魔法使えずに何してたんだと思っているのだろう。
初級の奴らは必死で詠唱を覚えている。……それ覚えるより勉強した方がいいぞマジで。
中級も似たようなものだが、少し長めの詠唱のようだ。
どうやら本当に手順をすっ飛ばしたらしい。
「では試験を開始します。級ごとに別れてください。……コンラッドさんはこちらへ」
「あいよ」
皆とはちょっと離れた位置で試験……というか検査が開始された。
マナを感知できなかったのだから仕方ないのだが、なんというか悲しいものがある。
「ではここに手を。……何か感じますか?」
「ああ……やたらむず痒いんだが。マナだろこれ」
「ええ、マナを手のひらに当てています。なるほど感知は出来るようになりましたか。この短期間でこのレベルが分かるなら上出来でしょう。魔法の方は何が出来ますか?」
「一通り出来るぞ。先生の教え方が上手くてすぐ覚えれた」
「……アルフリック先生が……ですか?分かりました。ではこの的になんでも良いので魔法を当ててみてください」
そう言って棒きれを指定してきた。距離は1m程。めちゃくちゃ近い。
訓練ではもっと遠かったんだがなぁ……
「……近くないか?」
「マナを感知できてから日が浅いですよね?それだったら普通はそこまででも難しいはずですが」
ならば、と棒きれごと焼き尽くしてやった。
こんなの剣振ったほうが早いくらいだろ……。どんだけ下からのスタートだったのかと悲しくなるものがある。
上級行けるよというアルフリックの言葉は嘘じゃなさそうだ。
「……無詠唱……」
「まっさらの状態から覚えるならその方が近道だろうってな。確かに最初はコツ掴むまでは難しかったが出来るようになったらただの応用だった」
「分かりました。では練習でやっていたもので向こうにある鎧を攻撃してみてください。どうやら才能があるようだ」
今度は上級と同じくらいの距離だ。50mと言ったところか。
銃器を扱ってきた俺にその距離は楽勝だぜ。ならばやっぱり石か。テンペスト並ではないだろうが使い勝手はたしかに良い。
カーンといい音がして鎧に穴が開く。
小さいが中身があれば致命傷だ。分かりにくく地味だがそれだけに怖いものでもある。
「意識したとこに飛んでいくっていうのはなんか慣れねぇなぁ……」
「だからこそ魔術師には集中力が必要なんです。さて。見たところ鎧は貫通しているし……威力もあるようだ。少し話を聞かせてもらうよ」
「なんだよ、他の奴らとやらせてくれねぇのか?折角頑張ったのに」
「いえ、最終的にはそうなります。ただその前にどういう練習をしたのか、本当に初めてだったのかなど聞かせてもらうだけです」
別室に連れて行かれて色々な事を繰り返し聞かれ、それに対して答えていく。
矛盾が少しでもあるとものっすごく突っ込まれて面倒なことこの上なかった。
しかし最終的に本当にその手段で使えるようになったということを認めてもらえ、上級クラスへと編入する事が決定した。
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「お前……マナも感知できなかったはずだろう?なんでここにいるんだ」
「そりゃぁ、今は魔法を使えるからだろ。」
物凄く不愉快そうな顔をされた。例の嫌な奴だ。
モーリスってやつらしい。フルネームは分からないが貴族か金持ちの出っていうのは確定だが、それ以上のことは知らない。
寧ろなんでそこまで嫌われてるのかわからないくらいだ。
他に10人ほどがいるが、そいつらはまたか……的な顔をしている。
「魔法使えてこっちに来るってことはそれなりに出来るってことだろう?突っかかるなら実戦でやればいいだろ」
「ふん……。マナも感知できなくてどうやって魔法をこの短期間で使えるようになるんだ?使えても初級が良いところだぞ?おかしいだろうが……。この年になってからってのも気に入らない」
面倒くせぇ……。まあとりあえずおとなしくなったので助け舟出してくれた人には感謝しておいた。
正直実戦で上手く使えるようになれば特にやることはない。
次は武器を使ったものをやれるようになりたいところだ。
年取ってからったって……こっちに来たのがこの状態なんだから仕方ないだろうが。もっと若い姿でだと良かったのか……?
考えても仕方ない。
色々と勉強して魔法を上手く扱えるようになるまでの辛抱だ。
と、そこへ筋肉質な体育教師っぽいやつが来た。
実際教師だったが。
「お前たちが上級者か。俺はハンターのアドレーだ。魔法上級者の教師として今日から担当する。よろしく」
「イメージと違う……」
「ん?何のイメージだ?」
「いや……あの、戦士とかじゃないんですか?」
いいぞ。俺もめっちゃ気になってた。なんだあの筋肉……魔法使いのイメージってこう……アルフリックみたいな線の細いやつってイメージが有るんだが……。
あれどう見てもさっきのやつが質問した通り戦士とかそういうのに見える。
戦士の中でも格闘家とかそういうやつだろ絶対。
「ほう……なるほど、俺が魔術師に見えないと?さっき言った通り俺はハンターだ。魔法の研究ばかりしているタイプじゃねぇんだ。常に戦いの中に居る。……つまり……油断すればすぐに死ぬ世界だ。お前、見たところ筋肉も大して付いていないな、そんなんじゃ森で1人になったらすぐ死ぬぞ。……合格点は……お前かな」
俺かよ。
作り物の筋肉だが、実際力は強いから当たってるが。
ちょっとした近接格闘術なら出来るが流石に対人でしか使える気がしない。魔物は無理だろう。
「俺か?ありがたいが流石に魔物と戦えと言われても俺は無理だな。倒せる武器があるなら良いが身一つじゃ正直逃げの一手だ。まだ魔物と戦えるだけの経験も知識もないしな」
「おお、その辺分かってるならお前は生き延びられるな。名前は?」
「コンラッドだ。サバイバルならやったことあるがマジきっついからもう二度とやりたかねぇよ」
「気に入った!」
気に入られた。
むさ苦しいというか暑苦しいおっさんが肩に手を乗っけてくるが、やたらと重い。
馬鹿力かよ……。
とか思っていると、例の奴からまた文句が飛んできた。
「逃げるだって?何のための魔法だよ。魔物と戦ったこともない、会ったら逃げる……使えねぇー」
「あーお前は真っ先に魔力無くして死ぬな。間違いない。あと何もない山の中で一人になった時にどうやって水を確保するか言ってみろ」
「は?そんなもん魔法で……」
言った瞬間にアドレーが鼻で嘲笑う。
何も分かってねぇと言った感じのジェスチャー付きで。
「失格だ。……コンラッドなら分かるか?」
「山の中なら……雨水、朝露なんかから集めるってのが一番危険が無さそうだな。沢水はちょっと怖いがエビが居たらそのまま飲めるってのは聞いたことある。どうしようもない時は小便とか動物の血だ。二度とやりたくない」
「経験者か。なるほどな、それなら鍛えてあるのも分かる。お前ならソロでハンターやれるぞその内。頑張れよ」
まさかこの筋肉ダルマ、ソロでハンターやってるのか。魔術師として。
ちなみに武器を聞いてみたらメイスという納得の獲物だった。物凄く似合う。
「俺は基本ソロだが、仲間が居ても散り散りになったりすりゃ同じことだ。身体は少し位鍛えておけ。そして、1人の時には無理に戦闘しないことが生き延びるコツだ。そういうことでコンラッドが言ったことは正しいんだ。こういうのは腰抜けとは言わない、むしろこの判断ができるかどうかで生死が決まる。コンラッド以外はそういう環境を少々舐めてるようだな、その格好のままでいい。今日から数日は家に帰れないと思え」
魔法を教えてもらったり、実戦訓練が始まるかと思ったらサバイバル訓練が始まってしまった。
ぞろぞろとアドレーの後を付いていき、本当に学園の外へと向かっていく。
本気であることに気づいた数人が物凄く嫌そうな顔をしていた。内1人は突っかかってくるあいつだ。
皆の前で恥をかかされて余計に苛ついているようだ。
大分歩いた後に付いた場所は学園からさほど離れていないところにある鬱蒼とした森だ。
暗くてジメジメとした普通に居ても嫌な感じのする場所だった。
「ここは学園の領地から近い森だが普通に魔物は居る。大して強いのは居ないが油断すれば確実に大怪我をするぞ。で……もう分かってると思うが、ここで各々一人で暮らしてもらう。期間は5日だ。それぞれ別な場所で始めてリタイアしたり継続不可能と俺が判断するまでは帰れない。もちろんお前ら同士で結託しても妨害してもいい。……期待しているぞ」
クリア条件は生き残ること。無理だと判断した場合にはリタイアしてもいい。
ただし今から何かを準備することは禁止し、道具などを持っている場合には没収となる。
許可されたのはナイフのみ。
長い長い5日間が始まった。
お待たせしました。
頭がぼーっとしてますがとりあえず更新です。
コンラッドの魔法デビューでしたが、ちょっと予想とは違った方向に行きそうな感じに……。
昔やらされた訓練を思い出して遠い目になりかけているのでした。