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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第五章 英雄ディノス編
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第百二十八話 悩み事?

ちょっとお仕事の関係で3日位更新できないと思います。

 昨日のテンペストとのキスから一夜明けて。

 あの後テンペストはキスにハマったらしい。何かとくっついてきてせがむようになっていた。


 テンペスト曰く「初めてした時にはあまり何も感じませんでしたが、先程ニールからしてもらった時にはあの時には感じなかった何かがありました。とても満たされたような、でもまだ足りないようなそういう感覚ですが上手く言葉に表すことが出来ません」だそうだ。

 恐らく「恍惚」だったり「ときめき」なんて言葉がしっくり来るものなのかもしれないが、こういった感情を上手く表した言葉は選びにくい。


 ともかく、その時の感覚がとても心地よく、もっとしたい、もっとされたいという気持が強くなっていったようだ。


 先ほどなど使用人の前でせがまれて少し困っていた位だ。


「嬉しい。すごく嬉しいけど……色々困るよ……我慢できなくなりそ……」


 風呂場でのそれは特に破壊力が高い。

 ニールの意思をミサイルで吹っ飛ばす勢いなのだ。耐える方も大変だ。

 なにせキスしている間はニールもその感触を楽しんでいるし、当然気持ちいいのだ。

 大好きな人とするのだから当然だが、それだけに色々と溜め込んでいるニールにとっては火薬庫で焚き火するレベルでヤバイ行為となる。


 異性の体に対しての興味も出始めたテンペストは、ニールの体を触りたがるし、その対象には当然アレもある。

 最近では生殖に関してを調べ始めたりしているようで、たまにそういった本が転がっているのだ。

 その興味の持ち方はある意味異常なほど。


 流石に頑張っていたもののニールも限界が近い。

 出かけてくると言って屋敷を後にして、コリーの元へと向かった。


 □□□□□□


「おう、ニールじゃねぇか。どうした?襲いそうになったか?」

「……うん」

「やるなよ?」

「わかってるよ!だからこうしてここに……」

「ま、良いけどな。お前好みの子は全部把握してるからな、足腰立たなくなる位してくれる子見繕ってやるからそっちで我慢しとけ」

「……ありがと」


 一応、相談もしに行ったのだがとりあえずそういうこと考えられなくなるまで搾り取られて来いと言われて、VIPルームへ叩き込まれた。

 公営娼館が立ち並ぶコリーの治める歓楽街であるプロスティア地区。もう一つ普通の住宅地や商業施設のあるメルクル地区があるが現在どちらも拡大中だ。

 そのプロスティア地区のとある高級公営娼館は、特に貴族向けの教育の行き届いた者達が居る場所となっている。


 高いだけに中身もサービスも一流であり、そんな場所のVIPルームとなれば中身は別格だ。

 初めて入ったコリーの運営するそこを見てキョロキョロと見回していると2人のリヴェリの子が入ってくる。

 当然、ニールの好みど真ん中だ。


「え、ふ、2人?!」

「はい。足腰が立たなくなるまで、と仰せつかっております」

「ニール様は絶倫であるとお聞きしておりますわ。私、とても楽しみです」


 がしっと左右を固められ、あっという間にひん剥かれ……。


 3時間後、コリーの元へと戻ってきたニールは、何処か悟りを開いたかのようにさっぱりとした表情をしていた。


「……大丈夫か?足震えてんぞ」

「ち、力入らなくて……」


 ニールを抱きかかえて執務室へと運び、ソファに座らせる。

 ものすごく疲れたような感じではあるが、とりあえず何を話したくて来たのかを聞いておかなければならない。


「あ、うん。テンペストの事なんだけど」

「あ?惚気なら1人でやってくれ」

「違うよ!相談事だよ!っていうか本当に困ってるんだから茶化さないでよ……」

「分かったよ……。で?テンペストがどうしたって?」

「それが……」


 最近、特にスキンシップが激しくなってきたこと。

 男の体に対して異常なほどに興味を示していること。

 それによってニールが刺激されて色々と辛いこと等。


「やっぱり惚気だろそれ!」

「違うってば!!本当なんだよ……。ほら、テンペストはまだその、駄目じゃない?だからまぁ僕も我慢してるわけなんだけど、直接触られたりとかされると正直理性飛びそうなんだよ……」

「テンペストが……?想像付かねぇぞ……」

「えへへー僕の前ではすっごく可愛い顔するんだよ?」

「ぶん殴っていいか?」

「止めて!?」


 突然惚気始めたニールにイラッとするコリー。

 散々惚気じゃないとか言っておきながら突然これじゃ流石に怒るだろう。

 がしっと頭を掴まれ半分切れかけてるコリーに凄まれ、涙目になるニールだった。


「まあ、テンペストが変なのは今に始まったことじゃねぇしな。甘い物とかヴィクトルの作った飯食うときとかもあいつおかしくなるだろ」


 食べ物とそれはまた別じゃないのか、と反論したものの……確かに少し傾向が似ている気がした。

 甘いものの屋台があればフラフラとひきよせられ、よだれを流す勢いで見ているのだ。

 興味があるものがあればそれに食いつくというのも共通している。


「えっと……つまり?」

「あいつ、感情に振り回されている感じじゃないのか?特に好きの方向に限っては特に。確か比較的早いうちに怒りとかはわかってるし、それ自体はある程度抑えも効いている印象なんだが……好みに関しては暴走しがちな感じ……というかな、そういう気がするってだけだが」

「あぁ!なるほど……いや確かにそうだよ!」

「そんだけお前が好きってことだろ?もうテンペストの好きにやらせてやりゃいいだろ。最後までしなきゃ文句ねぇって」

「いやいやいやそれは流石に無いでしょ!?」


 だんだん相手するのがめんどくさくなってきたのかコリーが考えることを放棄し始めた。

 どうせテンペストなら分かってやってんだろうし、満足するまでやらせたら良いんじゃねぇの?ということだった。


 もうそれ以上惚気るなら止めてくれ、と回答拒否されニールはコリーの屋敷を出る。

 しかしコリーの言っていたことに関してはなんとなく当たっている気がする。

 怒りに対しても振り切れそうになったことはあるのだが、それもヴィクトルの作る食事を台無しにされたときだけだ。あの時にはまだニールは近くに居なかったためそれは知らない。

 好き、という感情に関しては大抵の場合「欲しい」という欲求がある。

 その欲求をテンペストは抑えられないのではないか?


 好きだから食べたい。好きだからくっつきたい。好きだからキスしたい。

 ではあれに妙に反応するのは?

 ニールが好き→しかしまだ関係をもつことは出来ない→でもできれば自分でなんとかしてあげたい→私がある程度満足させられれば良いのでは?という考えに基づいていたら。


「……考えてそう……。最初っからその気で来てたらそりゃぁ我慢できなくなるよ……」


 一応、考えは分かった。

 分かったが……根本的な解決にはならず、欲求を満足させる為にはその物を与えなければならない。


「え、結局我慢するしか無いんじゃ?」


 最終的に結論は出たものの、到底ニールが納得できるものでは無かった。


 □□□□□□


 同日、学園にて。

 コンラッドは魔法を扱う授業を受けていた。

 子供の頃から憧れていた物が出来るというのだから楽しみで仕方ない。


 たまに教師や他の生徒達が使っているのを見てものすごく羨ましかったのだ。ついに使えるようになれるのだと思えば年甲斐もなくうきうきとしてしまうのも仕方ないだろう。


「……のように、魔法を扱う上で大切なのはまずマナと呼ばれる存在を認識することだ。魔法を扱うための魔力、それをマナから取り入れて自分の体の中で魔力へと変換し、魔力を魔法という現象として放出する。では、マナを感じ取れるものやすでに魔法を扱えるもの、マナを感じ取れないもので別れるように」


 一通り説明を受け、紙をまとめたノートに書き込んでいく。

 地球のものより質は悪くとも、裏写りせずにペンを滑らせて引っかからない程度にはいい。


 座学は最高点を取れるが、こっちはからっきしなのだ。

 しっかりと勉強しておかなければならないだろう。というか、したい。これ程までに勉強をしたいと思ったことなどあっただろうか?


 そしてマナを感じ取れない人たちに割り当てられた部屋へと行くと……。


「うっそだろオイ……」


 誰も居なかった。


 悲しみにくれながら1人座って待っていると、教師が来た。

 耳が長くスラリとした長身。髪が長く美形の……男性だ。

 少々残念に思いながらも、やたらと顔面偏差値の高い彼に少しばかりの嫉妬を向ける。


「おや、今回の生徒は大分少ないですね。あなただけですか、えー……コンラッドさん」

「……よろしく」

「初めてであることを恥じる必要はありませんよ、流れさえ掴んでしまえば後は意外と楽なのですから。もちろん、本人の知識と想像力にかかっていますが」

「俺でもホントに魔法使えるようになるか?」

「そうですね……」


 そう言ってエルフの教師が両手を取り軽く握って意識を集中していた。

 何かを感じることもなく終わったが、彼には何かがわかったらしい。

 記憶をたどるような素振りを見せながら頷いている。


「分かりました。あなたは潜在能力はあるようです。魔力もある程度蓄積されていますが、今は休眠状態となっているようです。……もちろん、本当に休眠しているわけではなく、そうですね、未開通と言ったら良いでしょうか。魔力を流すための通り道がないと言った所です」

「じゃあ……」

「ええ、訓練次第では使えるようになりますよ」


 思わずガッツポーズをとる。

 そりゃぁ使えるなら嬉しいに決まっているのだ。

 ならばさっさと使えるようになって色々やってみたい。


「コンラッドさんはマナと言うものがどういうものかは知っていますか?」


 それはもちろん今日までの授業で何度も言われていたから分かる。完全な正体は未だ不明だが、全世界に濃度の差はあれ普遍的に存在する空気のようなもの。

 それを体に取り込めば魔力となり、魔力は術者が思い描いたものを正確に映し出す。

 だからこそ、どうしてそういう現象が起きるのか、そしてその現象が起きるという揺るぎないビジョンが見えていなければならない。


「しっかり覚えていますね。ま、そのとおりです。その魔法を使うために詠唱を行っているわけですが、最新の研究によってこれは退化したものであることが分かりました」

「は?それは授業でまだ……」

「ええ。段階を踏んで教えるつもりです。しかしあなたは……研究所に居る方ですから。遅かれ早かれ耳にするでしょう。なので今のうちにある程度教えておきます。……さて、サイラス博士は魔法を使っている時にあることに気が付きます。魔物も魔法を扱えること、そして人間たちも詠唱を省略できるものが居ること。……これで何か気が付きますか?」


 そりゃ……本能的にやれるとか、何回も使って熟練度的なものが上がったから手足のように使えるとかそういうものじゃないのか?

 しかしそれでは普通だろう。先程教師は退化と言った。


「退化したってんなら……魔物みたいに元々詠唱なんざ要らなかったとかか?」

「ヒントを与えたとは言え早かったですね。その通りです。その仮説は浮遊都市で発見されたとあるアンデッドによってほぼ確信を得ました。ですから授業で教えたことは合っているとも間違っているとも言えます。なにせサイラス博士は、氷魔法の詠唱を行いながら炎を発生させましたからね。詠唱に意味はないという証明です。……流石に話を初めて聞いた時には唖然としましたよ」


 あいつハンパねぇな!

 頭いいとは聞いているが、何でそこまでこっちの世界に順応しているんだか。

 そしてサイラス博士はテンペストと共に様々な発明を繰り返し、魔法のあり方までも変えていったというのだ。


「と、言うことで……どうせ今回は1人だけですし、色々と試してみませんか?まずはマナを感じるところから。そしてあなたは座学に関しては申し分ない成績を誇っている。であれば後はその想像力にかかっていますが、研究所に居たあなたならもしかしたら詠唱を飛ばすことも出来るかもしれませんからね。……マナすら分からなかったあなたが、私のお墨付きを得て向こうに行った彼らと訓練を始めた時……あなたのほうが魔法を手足のように使えたら。面白いとは思いませんか?」


 最底辺だと思われていたのに、あっちの奴らを一気に飛び越えてしまえば……。そりゃぁ面白いに決まっている。気にしていない風であっても、内心嘲笑っているなっていうのはとっくに知っている。

 悔しがるのを見たいじゃないか。

 すでに勉強の方ではある程度悔しい思いをしている奴らは居るわけだが……。

 魔法に関しては今回が初めてなのだ。

 今現在、スタートラインにすら立てていなかったのだから、そんなやつが突然才能開花させたとかで自分達を飛び越える……気持ちよさそう。


「乗った!そうと決まれば早速やろうぜ先生」

「良いですね、その意気です。私としてもあなたが成功すれば名を売れますからね。しっかりついてきて下さい?」

「協力してやんぜ。安心しろ、妄想なら負けねぇ」


 この世界の魔法の詠唱はある程度かっこよかったから捨てがたかったけども、いちいち覚える必要ないならそっちのほうが楽でいい。

 教師は教師で、学園が出来て以来初の完全初心者からの無詠唱術者の排出に成功した者として名を売れる。

 いい事づくしだ。


「では始めましょう。向こうはまず詠唱を使いながら自分のイメージを具体的に乗せて再現させる練習などを行ったりしているでしょう。ここから10日ほどで初心者として実践的な力を身につける事が目標です。あなたはマナを感じることが出来ない分、彼らより遅れるわけです」

「なら、その10日ってのはちょっとした試験の日ってことか?」

「ええ。最初の試験など簡単なものです。絶対に突破してもらいますよ」


 俄然やる気が出てくる。

 主人公ってのはそういう時に何かやらかすものだ。人が驚くような何かを。


「よし、じゃあマナを感じるにはどうすりゃいいんだ?」

「……まずは、移動しましょう」


 そう言って教室を出て学院を離れ……。専用の魔導車で来たのは学園所有の小さめの森だ。

 中央に山小屋がある。

 その山小屋でマナを感じるための合宿が行われる……はずだったのだが、今は俺一人だけだ。

 山小屋と言っても合宿ができる程度なのでかなり広い。

 正直先生と2人というのは寂しいものがある。


「なんか……ブートキャンプ思い出すな、これ」


 広いスペースにベッドが並び、プライベートのプの字も見えてこない光景。

 ただし床は踏むと少し沈み込む程度に柔らかく、壁もつるつるとした食感でやはり柔らかめになっている。

 ベッドなども角ばった場所が無い造りになっていて、とにかく全体的に曲線が多い。


「では早速始めましょう、向こうはもう練習を行っています。既に使えるものはそのレベルに合わせた指導を行っているはずです。追いつくためにもまずは2日程度でマナの存在を感じてほしいですね」

「魔力は俺も持ってるんだろ?なら、さっさと開通させてやろうじゃないか。何をすれば良いんだ?」

「服を脱いで下さい」

「……は?」


 今なんつった?

 服を脱げ?何で?


「マナの流れを掴むまで、裸で過ごしてもらいます。ああ、下は下着だけなら良いですよ。本来は本当に何も付けないほうが良いのですが、こうして集団生活する時に恥ずかしいという声が多かったので許可されるようになりました。……本当ならその辺がやたらと感じやすいので分かりやすかったりしますがね」

「穿かせてくれマジで。自信が無いわけじゃねぇが何が悲しくて男の前で脱がなきゃならねぇんだよ……」


 とりあえず、パンツだけは許してくれるようなので安心した。

 が、この世界のパンツは股割れだ。前から尻にかけてバックリ割れているのだ。一応立ってる時には布が重なるので見えないが、あぐらをかこうものなら丸見えになる。

 気をつけたほうが良いかもしれない。

 ……あいつ、男色とかじゃ無いよな?


「脱いだらこの薬を全身に塗って下さい。皮膚の感覚を鈍らせるもので、針を刺されても痛みを感じない程度には何もわからなくなります」

「何でそんな麻酔なんぞ……」

「それをつけた状態で感じる微かな風、空気の流れ……それが今の状態で感じるマナの感じ方に似てるのですよ。1日、それで過ごして下さい。出来るだけ肌を出して、全ての感覚を頼りに風を感じるのです」


 なるほど、ずっと裸でいる上にこの薬のせいで感覚がなくなっているから、なるべく怪我をしないようにと言うことか。

 ……というか、俺にこれ効くのか?そもそも俺の体神経とかあるのか?ただ、確かに今の時点で普通に風を感じれるのだからやはり分かるように出来ているんだろう。


「あ、下着の中もきっちりお願いしますね。頭は頭皮にもしっかりと」

「お、おお……感覚が消えていく……。っつか指の感覚無くて塗りにくいぞ!」

「本来なら人にやってもらいますからね、これ。ただ、あまり触られるの嫌でしょう?元の感覚が残っているところにきっちりと擦り込んで下さいね」


 塗り残したところだけが物凄い刺激を受けているように感じる。

 その感覚を頼りに薬を刷り込み、ついに全身どこも何も感じなくなった。

 足をついたのかも分からず、ベッドの縁を掴んだ手の感覚もない。これはかなり怖いかった。


「ゆっくりと転ばないように気をつけながらテラスへ……。この薬の効果は大体1日です、今回で分からなければもう一度となりますので。では……ここに座って風を感じて下さい。そよ風よりも少し強めの風が通り抜けているはずです」

「座った感覚もなければ風の感覚も無いぞ……感覚がないってのはこんなに怖いのか」

「寝る時は面白いですよ。ふわふわと空中に浮いている気になりますからね。ただ寝返りで骨を折る人もいるので気をつけて。体の中の痛みは消えてないのでものすごく痛いですよ」

「マジかよ!」


 怖すぎる。たまに無痛症とか言う痛みを感じないやつが居るらしいが、そいつはこういう恐怖を味わっているのだろうか。

 触覚があるだけ向こうのほうがマシかもしれないが。

 温度も痛みも何かに触れているという感覚も何もない。肩を貸してもらってやっと歩ける程だ。


 椅子に腰掛けて深呼吸をする。

 風を感じる……。風、吹いてくる方向を当てれば良い。

 目をつぶって全身の神経を総動員して……分からん。太陽の暖かさも風の感覚も全く分からん。


 アレをモロ出しにしてると男は分かりやすいとか言われたが、残念ながら作り物のハリボテだ。見た目だけだからそもそも機能すらしていない。

 希望通りのものが付いてるもんで見られても恥ずかしくはないが。


 それにしても本当に何の感覚もない。

 これで本当に風を感じられるのか……?


 結局、昼のうちには分からず夕食となった。

 この夕食もまた意外と難しかった。食えないが目の前に教師が居座っているのだ。一応、喉の奥の方まで作り込まれているためある程度の容量はある。

 目の前にある食事は量はあまり多くはない為、なんとかなるだろう。

 声帯を使って声を出しているわけでもないから、喉奥に物が詰まってても平気だ。


「なんだ、あまり食べないんですか?」

「感覚がないと力を調節できなくて妙に疲れるんだよ……それに、あまり腹ふくらませるよりは感覚が研ぎ澄まされるかなとか思ってな」

「なるほど。そこまでやれるならすぐに結果が出るでしょう。ならばもう一つヒントを……眠る時はチャンスです。自分の体に当っている布の感触を感じるのです。風よりも遥かに強い刺激ですがそれを感じられれば風も目前でしょう。私なりのやり方ですが特別に教えちゃいます」

「時間が勿体無い、寝ずにやるつもりで頑張ってみるよ」


 しかし良いことを聞いた。

 確かに風をいきなり感じろなんてのはなかなか難しい。

 であればそれよりも刺激を受けやすいものを感じる練習からやれば良いのは確かだろう。

 針を指してもというか、ざっくりナイフで切っても痛みを感じないレベルで感覚がない状態だから難しそうだが。


 どうせ寝なきゃ寝ないで過ごせる。


 食ったものをトイレに行って全部捨ててからベッドに横になる。……食事、正直すげぇ勿体無いが仕方ない。トイレに行ったという事実もついでに獲得だ。

 で、ベッドに横になった瞬間妙な浮遊感がある。

 横になっているから重力はなんとなく感じるが、ベッドに乗っている感覚がないから分からない。

 空中浮遊をしているようなそんな感覚で、かなり面白い。


 もぞもぞとベッドの上で芋虫のごとく動きまくっているおっさんは、傍から見れば奇妙にも思えるだろうが本人は必死だ。


「な、んかもうちょっとで分かりそうな気がするんだが……ん?これか?畜生全然分かんねぇ!!」


 まだ時間がかかりそうだ。

ニール「くそう……結婚さえ出来れば……っ!全て解決するのに!」

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