第百二十七話 決闘と勝利
800ポイント超えた……!
「では、決闘の見届人を担当させて頂く。この決闘の結果は公式の記録として残される。このことに異論のあるものは?」
「ありません」
「ない」
決闘の場所はテンペストの屋敷の中庭。双方が確認して自分たちが不利になるような仕掛けがないことも同意済みだ。
お互いの武器を交換して不正がないかも調べてある。
後であれのせいで負けたのだ、と必ず負け惜しみを言う者が居るために公式記録になるものは必ず確認をさせてこれで良いと双方が確認した時点でフェアと見做す。
「決闘人はニール、そしてローレンス・ワイアット・ウィートリー。間違いないな?」
「はい」
「無論だ」
本人確認が行われ、それぞれの勝利した場合の権利を確認する。
ニール側は「ニールが勝利した場合、二度とテンペストに関わらないこと(テンペストに対する手紙や直接会う、代理人を立てる、テンペストと付き合っている等と関係をほのめかす文言の禁止)。ニールに対する誹謗中傷の禁止。領地への立ち入りの禁止。勝負内容を自分勝手に改変しないこと。迷惑料として72万ラピスの支払い。負けたことに対する文句の一切を禁止すること」が盛り込まれ、1つでも守られなかった場合には伯爵家に対する迷惑行為として告発するとともに、決闘内容の公開が課され、迷惑料は倍額になる。
ローレンス側は「ローレンスが勝利した場合、ニールとテンペストとの婚約を解消する。テンペストはローレンスの妻とする。ニールが今後一切テンペストと関係を持つ事を禁止すること」となった。
ニール側が細かく定めているのは当然ながらローレンスが人の話を聞かないためで、それをよく分からせるための文章だ。
「それぞれの勝利の権利は先の通り。試合内容は武器、魔法の規制なし。助っ人の介入禁止、代理人の禁止。攻撃不可部位無し。勝利条件は相手の死亡もしくは降参。戦闘が継続不可能とこちらで判断した場合にも負けとなる。これで宜しいか?」
「大丈夫です」
「早くするのだ!良いと言っているだろう!」
「ワイアット様、これらの条件などは非常に重要なことです。後で取り返しの付かないことにならないよう今一度確認を」
「要らぬ。ぼくは負けない……そう、愛しき君の為、ぼくはこの悪党を倒す!」
「……では、両者合意と見做す。現時点をもって条件の変更等は認められない。両者!今ここに決闘内容を認め、これに同意し、正々堂々と決闘を行うことを望む!」
もう待ったは効かない。
すでに条件等は全て記録として書かれ、消えることはなくなった。
そして……。
「両者前へ。始め!」
構えて待っていた両者が走り出す。
ローレンスが、後ろ向きに。
「えっ」
「ははははは!!お前の弱点はその武器のリーチだ。そしてぼくは……『灼熱の炎よ、炎の玉となってぼくの前に立ち塞がる怨敵を焼き付く……』ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
魔法を使えるんだ!とばかりに一気に逃げて距離を取ったかと思えば長々と詠唱を始めたため、ニールによって無詠唱の火魔法が叩き込まれたのだ。
距離を取れば当然ながら魔術師の距離だが、それでニールに喧嘩を売るには流石に遅すぎた。
「貴様、卑怯な!」
「そっちもやってたでしょ!馬鹿なの!?」
「ならば……『巡れ風よ、旋風吹き荒れ渦ま……』ぐあぁっ!?先程から貴様何なのだ!おい!何か使っているぞ!!」
「試合内容に制限はありません。背後からの攻撃、急所への攻撃を含め全て規制はしていないため問題ありません」
「なんだと!」
「説明聞いてないの?馬鹿なの?!」
先程からニールは最初に距離を詰めようとした後は全く動いていない。
ものすごく弱い妨害程度の魔法で攻撃しているだけだ。
当然その程度なら今のニールならば言葉はいらない。何のアクションもせずに突然放たれる魔法をみて、何か卑怯な手を使っていると考えたローレンスが文句を言うが、すでに説明にあった通り助っ人や代理人以外で規制されていることなど1つもない。
何か隠した武器で攻撃しようとも文句を言う権利など最初から無いのだ。
「ぬうぅ……やはり貴様は生かして置けない……ここで死ね!」
ローレンスが雄叫びを上げて突っ込んでくる。
これがコリーであれば瞬時に目の前まで詰められ、慌ててニールが防御をする場面だろうがそうはならなかった。
なるほど練習をしていないというのも頷ける程に……どたどたと走り方を忘れたのかと思うような格好で向かってきているのだ。
目の前まで来て大きく剣を振りかぶり、そのまま袈裟斬りにしようと振り下ろすものの、腕力も無く腰も入っていない剣などは流石にニールでもさばける様になっていた。
この時は流石にコリーの厳しい特訓に感謝するニールだったが、同時に色々と気負っていた自分にたいして後悔している。
話には聞いていた。だからと言って、基本的に魔術師としてほとんど動かずに魔法を撃ちまくることを念頭に置いた動きをしていたニールが、少しとは言え剣を習ったものに勝てるだろうかという不安があったのだ。
それなのに……。
大口叩いた割には魔法、剣術どちらもド素人以下。
多分ハンターに初めて登録した下っ端の子供にも負けるだろう。
40のいい大人が。
まともに剣も振れず、すでに数分と経っていないこの状況で息が上がっている。
「避けるな!」
「もう良いよ!今度は僕の番だっ!」
「ぐっ……!蹴りだと!?ふざ……」
もう限界だった。バカにされてると本気で思った。
蹴りを入れて体制を崩す。それに対してもまた文句が飛んできた。
「ふざけないでよ!さっきから卑怯だとか汚いだとか!対戦相手は木偶人形じゃない!反撃もすれば避けもするよっ!!」
テンペスト並とまでは行かないまでも、何度も何度もコリーに付き合わされていたおかげで踏み込みのタイミングも体重移動も完璧だ。
元々ローレンスが文句を言ってもたついていたために、ほとんど離れてなかった距離が更に縮まりニールのナイフが太ももに突き立てられる。
激痛で叫び声を上げるローレンスを無視してナイフを引き抜き、利き手の腱を切り裂く。
「ぎゃぁぁぁ!?痛い!!痛いぃぃぃ!!」
「当たり前でしょ。切られたら痛いんだよ。遊びじゃないんだ……真剣勝負なんだよ!!決闘を何だと思ってるの?」
「ぼくの足が!腕が!!」
「武器を人に向けるってことは、そうやって切られる覚悟があるからだよね?無かったの?」
今のニールの中に湧いている感情は怒りだ。
どこまでテンペストや自分のことを馬鹿にしていたのか。
ニールの手の中に目には見えないが高温の固まりが発生する。
それをローレンスの胸に叩きつけながら、その中に封じ込められた物を開放すれば大きな衝撃をもってローレンスを壁まで吹き飛ばした。
「かっ……い、が……」
「衝撃波っていうんだって。圧縮された空気の波……それをあなたに向けて放出しただけ。死ぬようなものじゃないけど今ので声、出なくなったよね?」
ここで降参させるつもりはなかった。
ニールの両手に炎が宿る。
「……は、ぁ……」
「本当の炎を見せてあげる『焦熱の星よ!』」
「~~!!!あぁっ!!が、っ~~~~!」
両手両足に突然炎がまとわりつき、あまりの激痛にローレンスがもがき苦しむ。
呼吸もままならない中で肺の中の空気を吐き尽くして、ついには気を失ったようだ。
突然動かなくなったローレンスを見て、ニールも炎を消す。
「勝者、ニール。只今をもってニールに勝者の権利が発生する」
「……どうも」
「お疲れ様、ニール」
「なんか、すっごく釈然としない……」
ただ単に弱者を嬲っただけとしか思えなかった。
それでも怒りのあまり殺すまでは行かなかったものの、再起不能なまでに傷つけたのは事実だ。
四肢は焼け焦げ炭化している。回復させようとしてもここまで損傷が激しいと無理だろう。
しかし勝利は勝利だ。
決闘を見届けてもらって、これが公式の記録として保管される。
今は彼がローレンスのことをある程度回復させて起こしていたが、意識が戻った途端に絶叫して話にならない。
「痛い……痛い痛い痛い!!…………痛みが消えた……?」
「今、一時的に痛みを和らげている。動かなければ痛みはない。寝たままでいい、結果を教える。……この決闘、ワイアット様の負けです。ニール様の魔法により戦闘不能と判断し中断しました」
「何だと!?ぼくが負け……?……嘘だ……まだ、まだ戦える!!」
「その手足ではもう……。歩くことさえままならないかと」
「なっ……、あ、あぁ……手が……足が……なん、なんだこれぇ……。動かない!感覚がないぃぃ!!ぼくの手足!何で!何でこんなっ!!」
今頃になって自分のほぼ骨同然となったそれを見てパニックになっていた。
焦げた肉が骨にまとわりついているだけの状態で、筋肉など残ってすら居ない。
ローレンスは今まで怪我をすることすら殆どなかった。
剣の練習から逃げていたのも怪我をしたくないからだ。そのくせ何故か自分の力には絶対の自信を持っている。
負ければ全てを人のせいにして、自分はあれがなければ勝っていたのだと納得していた。
しかし……今自分の目の前にあるのは取り返しの付かないことになった手足。
無ければどれだけの不便が待ち受けているのかなど、想像に難くない。
「嘘だ……こんな、ぼくの手が……嘘だ……」
「現実です。先程ニール様の勝利が確定し、勝利の権利がニール様に渡りました。こちらが誓約書です、今この時点からローレンス様はここに書かれていることを遵守する必要があります」
「は?」
「決闘前に申し上げた通り、勝者のみが権利を発動させることが出来ます」
「テンペストは……」
「当然、ニール様の婚約者のままです。ワイアット様の権利は消えました。……カストラ伯爵への関わりを禁止。ニール様への暴言の禁止。領地への立ち入りの禁止。勝負内容の改変の禁止。迷惑料として72万ラピスの支払い。負けたことに対する文句の一切の禁止。これらが今からワイアット様が守らねばならない事です」
「そ、んな……」
今更内容を知ったとばかりに愕然とした表情を見せるが……。そんな彼に対して流石の見届人も冷ややかな目を送っている。
きちんと聞けと警告したにも関わらずにこれだ。
自分が勝つことしか考えていなかったのだろう。
当然、今までのように振る舞おうとする。
「こ、こんな決闘無効……」
「そこまでです!……それ以上は言ってはなりません。負けたことに対する文句の一切を禁止するという文に抵触します。なお、先程お渡しした誓約書の中に書かれたことを1つでも破れば、この決闘の内容を事細かに記録した物が誰でも閲覧できるように公開され、伯爵家への迷惑行為を行ったとして告発されます。……正直な所、お話を聞く限りでは確実に刑が確定するでしょう」
「なんだと……ぼくがいつ迷惑をかけたというのだ!?あいつのほうが酷いだろう!!ぼくの手足をこんな……!!」
自分は絶対に悪くない。悪いのは周りだ。そうやって喚いていれば今までは面倒くさくなって放置されていただろう。
しかし今回はきっちりとその逃げ道も塞がれている。
「婚約者が決まっている方に対し、その婚約者であるニール様への根拠のない誹謗中傷。確認を取りましたが、お二人は共に同じ師の元で修行し、この地をカストラ伯爵様が治めることとなった時に共に歩むことを決めたそうです。そこに強制はなく、相思相愛であったと。つまり、ワイアット様がおっしゃるような事実は一切なく、妄言であるという事です。更に、女性に対して卑猥な文章を送りつけ、何度もやめるようにと警告をされていたにも関わらずにしつこく送りつけていた事。どちらも迷惑行為以外のなにものでもありません」
「何を言っているんだ!テンペストは!彼女はぼくのことが好きなんだ!あいつが無理やり手篭めにして彼女を侍らせているんだ!わからないのか!?」
「分かりません。もしそうだとしてあなたはその証拠を出すことが出来るのですか?」
往生際の悪い事で、未だに自分にテンペストは惚れているのだという主張は崩さない。
ある意味すごいが……。
「なんかもう、ここまで行動先読みされてるって凄いよね……」
「手紙を送られている最中に、当然ながら相手のことは調べてあります。これは他の方も同じですが……彼は特にひどい部類でした。しかしパターンが分かりやすいのでこうして簡単に引っかかります」
先程見届人から警告を受けたにも関わらず、ニールへの批判を行った。
「カストラ伯爵様、どうなさいますか?」
「まず……。何度も言っているように私は自分の意志でニールと婚約を結びました。それを今も後悔はしておりません。私を気遣い、優しく接してくれる彼を私は愛しています。あなたはその真逆です。断っても、警告をしても手紙を止めず私に迷惑をかけた上、突然屋敷にまで押し入って居座り、口頭で警告しても尚も自分勝手な考えを押し付ける……。私に対する気遣いは何処にあるのでしょう?迷惑であると言っているのです」
「で、でも……ぼくは……」
すがるような目でテンペストを見ているが、そんなローレンスを見るテンペストの目は冷徹だ。
金色の瞳が獰猛な肉食獣のそれに見えてくる。
「はっきりと言います。私はあなた……ローレンス・ワイアットの事を好きになることは永遠にありません。嫌いです。二度と私の前に現れないで下さい。そして……ニールの勝者の権利を破ったことで追加制裁を発動します。私、テンペスト・ドレイクはローレンス・ワイアットからの嫌がらせを受け迷惑を被りました。また制止にも関わらずに屋敷へ立ち入り、挙句に居座るという暴挙に関しても侵入罪で追加告発します」
「確認しました。誓約書を渡された後の暴言は私も確認しております。更に迷惑料を倍額払うこととなっているので144万ラピスの支払い、決闘結果の開示を行うことになります」
「はい、それで構いません。彼はそのまま引き取っていっていただきます。金銭に関しては息子であるローレンスが何も出来ないので親であるウィートリー子爵へ請求して下さい。尚、決闘で負った怪我に関しては関知しません」
「では、後ほど書類を届けます。彼は他の場所でも色々と問題を起こしていた男です。この機会に被害にあった方々からも声が聞けるでしょう」
ずっと屋敷に横付けしてあった邪魔な馬車にローレンスが放り込まれる。
御者は戻ってきた主人の変わり果てた姿に驚きながらも、見届人である警備兵の指示に従って移動を始めた。
「もう、こんなの無いよね?」
「その為の決闘内容の公開です。暫くの間はギルド入り口や警備兵の詰め所などに大々的に看板が立つでしょう」
ニールは見事に受けた決闘で勝利を収め、その結果が両手両足を焼かれて焼失したことによる見届人判断による試合中止であることから、下手な自信家が喧嘩を売ってくるということは少なくなるだろう。
そして同じく断っても断ってもしつこく手紙を寄越す者に関しても、告発内容を見てビクビクすることになるに違いない。
もちろん、内容は天と地の差があるわけだが。
大多数の求婚者が寄越す手紙は、何かの恋物語だろうか?と思えるような比喩的表現が飛び交う長文だ。
対してローレンスのものは汚い字で書きなぐった卑猥な手紙。どちらが良いかなど聞かなくても分かるというものだ。
それでも問題行為となることを自覚させればある程度手紙は減るはずなのだ。
正直な所何度も同じ文言を返すのも面倒になってきている。
「……それに、ニールが彼を両手両足を焼いたということは、義肢でも使わない限りは彼が手紙を書くことも家に行くことも出来ないことを示します。つまり、私以外の被害者の方々からニールは感謝されることになるでしょう」
「そうかなぁ……?流石にそれはないでしょ」
「彼女たちからすれば自分達にとっても他人事でないものを、ニールがその流れから断ち切ってくれた事になります。恋物語などを好むという年頃の女性は、そういった男性に対して好意を向けることが多いといいます」
「いやいやいや、それは物語だからね?そういうことはないと思うよ?本当に」
「そうでしょうか?」
そもそも牢屋にぶち込んだのはテンペストだし、ニールとしては言いようのないもやもやが残った決闘だった。
どちらかといえばテンペストのほうが感謝されてしかるべきだろう、とニールは考えているわけだが。
とりあえず無駄に疲れたので一度寝ることにした。
□□□□□□
3日後。
「嘘でしょ……」
屋敷でテンペストの仕事を手伝っていたニールだったが、ニーナから届けられた手紙の宛先がテンペストではなく自分になっていることに気がつく。
中身は……。はたしてテンペストの言った通りとなっており、感謝の言葉が書き綴られていた。
決闘の翌日にはローレンスは牢屋に放り込まれて事情を聞かれていた。
それと同時に決闘内容の公式記録が公開され、どのような内容でどうなったのかなどが事細かに掲示されたことで、彼に嫌がらせを受けていた独身女性、既婚女性などから「あの男を罪人として裁きを下してくれたことに感謝します」といった内容の手紙がテンペストとニールに届いているのだ。
特にニールに関しては「今までやられてきたことへの報復が叶って嬉しい」だの「一生苦しんでくれるようにしてくれて清々した」だのという物が多い中、「愛する人を想うあなたの素晴らしさに惚れました」とか「倒してくれたお礼に私の純潔を捧げたい」だのというものまであったりする。
「どれだけの人に恨み買ってたのさ……。平民の人からも来てるよ?」
「見たところ子爵よりも下の立場の者へしていたようですね。これだけ出しておきながら誰にも相手にされていないというのも面白い話です」
子爵の息子という立場を活かして、下の者達を無理やり……の様なところがあったのだろう。見事に格上にはやっていないようだ。
今回テンペストは最初は男爵位だったため格下と見られていたわけだが、子爵に上がったことを理解していなかったローレンスが暴走した結果こうなったのだろう。
ちなみに屋敷や家に押しかけるというのは他のところでもたびたびやらかしており、特に好みの女性のところでやるらしい。迷惑な話だ。
ほぼ全員が今までずっと手紙に悩まされてきたということで、ある意味でそれだけの女性を把握する能力というものに関しては物凄い執念を感じる。
「しかも種族問わず若い子ばかり。リヴェリは関係ないみたいだけど……人族はホント下は5歳位の子に対してもやってたみたいだよ。これ、その親からの感謝の手紙だ……うわぁ……」
内容はテンペストに送られたものと似ている。
そして必ず最終的には卑猥な文章を送りつけているのだ。
何故そんな文章を出して受け入れられると思えるのか。何故あなたで抜きました報告を見て喜ぶやつが居ると思うのか。
そして……。
「これは……ウィートリー子爵からの減額嘆願書ですね。息子は悪い子ではないだのということが長々と書かれ、更に他の場所からも迷惑料として罰金の支払いが殺到して首が回らなくなるという話ですが……」
「知らないよそんなこと」
「今までも金で解決してきたところがあると聞いていますので、本当に無いのでしょうね。減額はしませんが。金策できないわけではないでしょう」
まさかの親からの手紙だった。
流石に字も綺麗で見やすいし、内容としてもきちんとしたものだが同情してやるつもりはない。
結局、物凄い人数の女性たちから厳罰を望む声が寄せられ、テンペストの告発に乗っかった被害者たちが次々に証言を重ねたことによって、どれだけ自分の妄想を語った所で相手にされることはなく……刑は確定していくのだった。
強姦などをしていたわけではないので、そこまで重いものではないが……四肢の切断というすでにかなり重い罰を受けたも同然であり、労働を課すなども出来ないため実家での軟禁刑となった。
領内ではなく、自宅から外へは出ることは出来ず移動も禁じられ、外との連絡も全て断つ。
代筆による手紙すらも書くことを許されず、後は死ぬまで家の中で動くことも出来ず疎まれながら過ごしていくことになるだろう。
「……ま、まあ……助かった人が大勢居たってことでいいのかな?」
「そうですね。訴えたくてもできなかった人達が多かったようですから」
大体相手の子の年齢的にも親が相手をしてあしらっていたようだが、直接会ったりしてしまった場合などに相当トラウマを植え付けられている子も多かったようで、ニールにお礼を言っているのはそういった子たちが多いようだった。
特に今丁度成人前後と言った辺りの子からはニールに対してのラブレターとなっているものが多い。
彼女たちからすればニールはヒーローなのだ。
「ニールは私だけではなく、彼女たちのことも守ったということですね。誇っていいと思いますよ」
「うん。……そだね。ありがとうテンペスト」
「こちらこそ、守ってくれてありがとう。ニール」
表情をあまり変えることのないテンペストがニッコリと笑顔を作る。
そんなテンペストがたまらなくかわいくて、とても愛おしく思えて……思わず抱きしめて唇を重ねる。
ゆっくりとお互いの唇を確かめ合う時間がとても長く感じた。
顔を離して向き合った時、少し潤んだ瞳で頬に紅が差したテンペストがそこに居た。
自然とやってしまったその行為に顔が熱くなるのを感じたニールだったが、またクスリと笑い、目を閉じたテンペストを前にして恥ずかしさなどは吹っ飛んだ。
そのまま顔を近づけて今度は先程よりも長く、強く抱きしめながら口づけを交わすのだった。
変態を無事撃破。
そのまま殺してしまわないようにという、微妙に中途半端な気遣いのせいでむしろ死ぬほど辛い目に合う事になったローレンス。
ハイランド中にその悪評が広がったため義肢職人も相手をしてくれないでしょう。
そしてテンペストがキスの味を占めますw