第十二話 魔法って面白い
「さて私たちは情報集めをして行こうか。テンペストのことだからあそこから出てくるのも多分早いだろう」
「そうでしょうね……今頃は何をしているのかは知りませんが、昨日はワイバーンがこちらへ来たみたいですから色々と職人の人達に話をしていたのではないでしょうか」
「違いない。さて、それで昨日大聖堂ではどうだったかな?」
「特には……お告げはありません。ただ、宵闇の森が騒がしいという声が聞こえてきました。異変とは別にそこで何かが起きているかもしれません」
大聖堂でエイダは祈りを捧げ、精霊の声を聞く。
あちこちから集まるその声の一つ一つは膨大な量になるが、それの中から重要そうなものを聞き出すのだ。一朝一夕では出来ない芸当である。
そして、ミレスとハイランドの堺に広がる宵闇の森。
そこは木々が密集して生えているからという理由だけでは説明がつかないほどに暗い。
光石を持ち込んでも光が届かず、常に宵闇に支配されている森。
光を持ち込もうものなら四方から魔物が飛びついてくる危険地帯だ。
これのおかげでミレスの侵攻などはハイランドに対して行われたことはなかった。しかし、そこで何か異変が起きているということがこの精霊のささやきから聞き取れたのだ。
「あそこに兵を送り込みたくはないのだがなぁ……」
「近くで監視させるだけでも違うと思います。下手に中に入れない以上、宵闇の森から魔物がこちらへ溢れてくることだけは防がなければなりませんし」
「だな、そうしよう。流石に私の兵だけで事に当たるには人が足りなすぎる。精鋭クラスが軍隊にならんと辛い」
「魔法使いの方々の協力も必要です。それよりも……」
「テンペストだな。ワイバーンが出来上がってから本格的に動くか。とにかく今は情報収集だ。出来ればミレスの武器を鹵獲したものが欲しい」
宵闇の森では光を下手に使えない以上、気配を察知できる者や一撃の威力が高い魔法使いが必要となる。剣士などが主なサイモンの軍には少し厳しい場所だった。
「あー……もうちょい領に人と金があれば良いのだがね。まあ、調査するにあたって必要な人材を送るとは言ってもらえているから良いが」
結局のところサイモンの領にはお金がない。1万人規模の領地があり、全員から税をとっているとはいえそれでも様々な物に消えていく。一応黒字ではあるもののあまり余裕が有るわけでもない。
王都の宿で暫く滞在した後、2人は一度ハーヴィン領へと戻る予定で居た。
その前にテンペストの為に幾つか追加で服などを購入したり、オーダーメイドの装備を作ってもらったりするつもりだ。
ある程度は領内で買っていたものの、王都のほうが流石に良い物を置いているから仕方ない。正装用のドレスなども買わなければならないし、それに合わせた靴など他にも色々なものがある。
他にも新ワイバーンを制作するにあたってある程度資金も必要になっているので、久し振りにハンターとして活動しながら自分の勘を取り戻すつもりでも居た。
「さて……とりあえずはハンターギルドへと行こうか。ヴァネッサ」
「ええ。いつでも」
「いつ見ても見事なものだな、どこからどう見てもエイダには見えない」
「その為に習得したものですから」
ふふっ、とエイダの時とは違った妖艶な笑みを浮かべてヴァネッサは武器を握る。
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「昨日は申し訳ありませんでした」
「あぁ、寝ちゃったこと?気にしなくていいよ。まだ体力が無いんだから仕方ないよね。それより、僕が作ったのをちょっと見て欲しいな」
そう言って、小さな筒状の物を見せた。
手のひらから少しはみ出る程度の大きさで中は空洞。例えるとすればトイレットペーパーの芯のようなものだが、素材は硬い金属とカーボンファイバーを混ぜたような物だ。
表面には紋章がびっちりと掘られており、内側にも幾何学模様のようなものが描かれていた。
「これは?」
「昨日、テンペストが僕に教えてくれたエンジンの仕組みを魔道具で再現したものだよ」
そう言って外に出て、筒を持ち魔力を通じる。
すると勢い良く片方から炎が吹き出し、段々に安定していった。そしてどんどん流す魔力を上げていくと、出力も上がっていく。独特のタービン音が無いものの、それは確かにジェットエンジンのような動きをしていると思われた。
「一体どうやって……ただの筒では出来ないはずなのに……」
「それが魔法だよ!魔法具が自分の魔力を高めたりする魔法使いの道具であれば、この魔道具と言うのは魔力を通じるだけで設定された動きをさせることが出来る道具なんだ。設定通りの動きしかできないから、複雑な事をやらせようとするととてもめんどくさい紋章を書いて術式を埋め込まなければならない。これはそのテストをするために作ったんだけどね」
「ロジャーはその魔道具というものも作れるのですね」
一応、見た目も中身もただの筒ではあるが、基本的なジェットエンジンの仕組みは踏襲していた。
吸気した空気を内部で圧縮し、その圧縮した空気と燃料を混ぜて点火して排気。燃料になったのはこの世界のものなので効率はあまり良くはない。
大型化しても推力は足りないだろう。
「そうだね。そしてここからが本題なんだけど……もう一つ用意したんだ」
「同じ様ですが……いえ、紋章が違いますか」
「そう。テンペストの言っていた方法はやっぱり難しいんだよね。そっちの方では凄く効率のいい燃焼剤が使われているみたいだけど……用意できるのはちょっと質が悪いみたい。だから完全にこっち仕様にしたんだ」
その筒をテンペストに渡し、魔力を流すように言う。
少し前に手を突き出して、ゆっくりと筒に魔力を通していくと空気が筒の中を通って行く音が聞こえ、魔力を多く流すとどんどん流速が上がっていく。そしてついには推力を感じるまでになる。
「これは……空気の流れだけで推力を生み出している?」
「ご名答。いちいち燃焼させる必要がないんじゃないかな?って思ったんだ。あまり上げ過ぎると筒が共鳴してはじけ飛ぶけど。ちゃんとしたのを作るために形もある程度計算しなきゃ無いね。ただ……それでも最初にやった時の方法に比べて格段に魔力の消費が抑えられるんだ。あと……」
その次に言われた言葉はテンペストにとって一つの目標となる。
それは、魔晶石と呼ばれるものの存在だった。これは強力な魔力を保有する魔物を倒した時に、その魔力が行き場を失って一塊になった時に出来る結晶体だ。
大抵の場合はその魔物の心臓部分に生成されるもので、魔晶石を媒介にして魔道具を作ると、その魔物の使う魔法を再現することが出来る。
つまり……空を飛ぶ魔物を狩り、魔晶石を手に入れることが出来れば自由に空を飛ぶことも可能になるということだった。
当然扱うには魔力が必要ではあるが、魔晶石自体にマナを貯めこむ性質があるため外付けの電池のような役割も同時に果たす。
しかし、相当に強力な魔物でなければ魔晶石は生成されることはなく、あの火竜ですらなかったそうだ。
しかし小さな欠片のようなものはあり、これは魔石と呼ばれ、威力などは格段に落ちるものの同じようにその魔物が使う魔法を再現出来る。
そこまで高く売られていない事から見ても性能という面ではお察しという所だ。
それでも、特定の魔法に反応して増幅するものもあり、こういったものは高値がつく。
当然魔晶石となれば巨額の金が動く事もよくある。
ちなみに……魔晶石は必ずしも魔物からのみ取れるわけではない。
それはマナが実体化したようなものなため、稀にマナの濃い場所で生成されることもある。
たまに出回っている物の内数割はそうした自然析出の魔晶石だという。
それでもかなり珍しい物には違いがない。
「どう?欲しくない?」
「つまり……竜を狩れということですか?」
「物分りが良いね!そういう事だよ。飛竜でももっとも早く飛べる天竜というのが居てね。……もちろん君のワイバーンほどではないだろうけど、その魔晶石が使えれば空を飛ぶという点においてはある程度は殆ど魔力の消費を気にせずに飛ぶ事ができる。当然竜のようにその場から飛び立つことだってね。速度を上げたい時だけあの魔導エンジンを使う……どうかな?」
「しかし……この身体では飛竜を狩るのは無理でしょう」
「だからこそここにいるんじゃないか!強くなるんだ。あのストーンバレットだってもっと威力が上がれば竜の身体も粉砕できるかもしれない。色々な魔法を覚えれば君は僕達の知らない魔法を組み上げるかもしれない。そうなったら……いけるかもしれないよ?」
更に、と続けて興味深い話も聞かせてくれた。
この世界のどこかに空に浮かぶ島があるらしい。そこにはまた違う効果の魔晶石があるのではないかとも言われている。
巨大な島をも空に浮かべるだけの力を持つ魔晶石があるとすれば、そこは魔物の巣窟となっている可能性もあるが今のところたどり着いたものは居ない。
たどり着こうにも鳥人ですらそこまで行くだけの体力はないし、空を飛ぼうとすれば翼竜や飛竜、それ以外の空を飛ぶ魔物に発見されて襲われてしまう。それでも、見たという話が絶えないのは晴れた日に空のかなり高い所に何かが浮いているのが目撃されることがあるからのようだ。
ゴーストと呼ばれる存在が居るようなこの世界で、見間違いだと一笑に付すことも出来ない情報である。
そしてそれを可能にするかもしれないのは……テンペストのワイバーンのみだ。
「もし、そこに大量に魔晶石があったりすれば……もしくはテンペストが飛竜を沢山狩れば僕達も空に上がれる日は近いかもね。とりあえずは魔力消費が大きくても実験的に組み上げてみるつもりだけど、最終的にはそういった物を使って長時間飛べるようにしてあげたいんだ。それに、ドワーフのおじいちゃん居たでしょ?あの人なんかもう外装を作り出してるよ。あれに変えれば多分温度のせいで溶けるなんてことも無いかもしれないね」
「そんなことが……いえ、ではその日のために強くなりたいです。異変もいつかは起きるのでしょうしそれまでには何とか……」
「任せて。きっと君をこの国一番の魔法使いに育ててみせるよ!」
どう過ごしていても、異変がいつかは起きる可能性がある。
それであればそれに立ち向かえるだけの力を持っておきたい。今では再現できない事も魔力をもっと扱えるようになれば再現できるかもしれない。
そのためにはこの貧弱な身体をなんとかしなければならないし、なんとかするためには魔力の保有量を上げ、魔力の使い方を最適化して身体を強化する必要がある。
魔法を使えば使うだけ、その魔法に適した魔力の使い方を覚えていき、その結果必要な魔力は減っていっても威力や速度が上がるという話だから、毎日のように使い続ければいいだろう。
一通りの訓練を終えてから部屋に戻ったテンペストは、一度初心に戻り服を脱いで部屋の真ん中に立ち、目を閉じて意識を集中した。
皮膚に感じるマナの気配……それを感じ取ると体中に巡らせた魔力へ意識を移す。
体の表面を通してマナが吸収されて魔力として蓄えられていくのを感じる。……じれったい。
今日の訓練ですでに残りは3割ほどまで落ち込んでいるのだ。何とか早く回復したい。夕飯になればあのまずいマナの実を使って回復はするけれど、それでも全快まではいかないのだから。
「マナを取り込んで魔力にするなら……強制的にとり込んだり出来ないでしょうか」
燃料の補充だってポンプで一気に流しこむわけだから、それと同じように急速回復だって出来てもいいだろう。
もしくはマナをそのまま魔法の燃料に変えられれば楽でいい。
自分の魔力を消費せずに魔法を行使できるのであれば、何も自分の魔力の消費を気にせずにどんどん撃てるはずなのだから。
イメージ。明確なイメージが必要だと言っていた。
それであれば自分の中にたまった魔力を何とイメージすればいいだろう?
電気。電池だ。電池は使えばその中に溜め込んだ電気を使い、少なくなったら充電して回復する。
充電の方法だって様々で、通常の何倍も早く充電を終わらせる急速充電もある。
更には外部電源に接続して充電しながら使うものだってある。
丁度いい。
自分を一つの充電池だと思い、周りのマナを外部電源、体内の魔力を保有電力として考える。
『自己強化、筋力10%アップ、パッシブからアクティブへ』
最初に教えられた自己強化の魔法。それをいちいち詠唱して発動せずに常に発動状態にする。自分で切らないかぎりは常に自己強化がかかった状態となり、魔力を消費し続ける。
電池に溜まった電気が減っていく。化学反応が進んで溜めた電荷を放出していく。
しかしそこに常に外部の電源からエネルギーを送り込むと……。
ゆっくりと減り方が遅くなり、釣り合った。
「……出来た……?」
暫くそのままにしていても特に減っていく様子はない。
一度充電を止めて今度は詠唱で起動する。
『フォースドチャージ、アクティブ』
成功だ。とりあえずこれで自己強化を常に続けたままで生活が出来るだろう。自分の肉体がそれに対応できるようになるまでこのまま普段通りに過ごせばいい。
流石にまだ自己強化の消費分以上の魔力を貯めていくことは出来ないようだが、今はそれでいい。
寝ていなくてもある程度魔力を回復できるのだから、最悪の場合は自己強化をまたパッシブに戻しておけば回復は早くなるのだ。
段々に出来ることが増えていくのが楽しい。
確実に成長しているのが分かるのが楽しい。
これなら、早い内にサイモン達の手伝いを出来るかもしれない。
早くロジャーに色々教えてもらいたい。
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「……テンペスト、なんかまた新しいことやってるね?」
「試しにですが」
「普通それやるのはもっと上の段階なんだけどね。まだまだ未熟だけどよく出来ている。これからも続けて頑張ってみて」
「ありがとうございます」
「でもマナの実は食べてね。魔力の容量を増やすには一番手っ取り早いから」
「……はい」
食堂へ集まると流石にロジャーにはすぐにバレたようだ。
自分で編み出したものだからどうかと思ったら先駆者は居たらしい。ちょっと残念な気分になったテンペストに、更にロジャーからの追い打ちがかかる。
ひたすら味覚を遮断しては飲み込むという作業を続け、飲み物で押し込んでからやっとで夕食にありつけたのだった。
食事が終わって暫し兄弟子2人と団欒する。
ハーヴィン侯爵に拾われる前は全く記憶が無いことにして押し通した。ちょっと怪しんでは居たが問題ない。どうせその内に真実を話すときは来るだろう。
「それにしても、テンペストの魔法は独特だね。ワードも今まで聞いたことがない」
「そうでしょうか?ニールのワードもかなり短く簡潔ですが……」
「私のはずっと使い続けてイメージが出来るようになったものを削って今の短さになったんです。最初からあれくらい短く詠唱できるということは、何かそれに近い物を知っているとかですかね?」
意外とニールが鋭い。
可愛い顔をして探りを入れてくるのだが実際は結構歳を取っているのだ。見た目に騙されてはいけない。
「それに俺の鍵をどうやって変えたんだ……なんか迷路が複雑化していて解くのにかなり手間取ったぞ!」
「一旦解錠してから同じものを少しアレンジして掛けただけです。特に難易度は変わっていないはずですし、実際解けたじゃないですか」
かなり渾身の出来の鍵だったらしく、あっさり解除された挙句にいじられたのがかなりショックだったらしい。しかし相手が悪かった。これが普通の人間ならばなかなか解けないものだっただろう。
「あれ、って言うことは迷路系の魔法錠はもう作れるってこと?なんて速さだよ……」
「今日はニールの鍵に挑戦します」
「くっ……絶対破られないようにしてやる!」
「楽しみにしていますね」
談笑しながら簡単な魔法をまた使っていく。
イグニッションは使い勝手がいいが、ニールの魔法を見た後だと見劣りしてしまう。
ただの火を作り出すだけでは駄目だろう。
「ニール、もしかして光を放つだけの魔法とかはありますか?」
「ん?ああ、ありますね。生活魔法に分類されますが、暗い所で明かりがほしい時に使ったりとか……結構使い勝手がいいので洞窟の探索にもよく使われますね」
「ちなみにどのようなものですか?」
「見てて」
『我が眼前に光を』
詠唱が完了すると同時に、オーブのような光体が出現する。
淡く光るそれはふよふよとニールの目の前を漂っており、ニールが顔を動かすとそれに追従して動いていた。
「便利そうですね。でも自分の目の前だと暗いところでは逆に回りが見えなくなって危険では?」
「まぁね。それに今はかなり光量落としてるから良いけど、もっと眩しいくらいにすることも出来るよ。で、今は眼前にっていう指定をしたからここにあるけど……普通は頭上とかを指定してあまり近くで光が目に入らないようにするのが普通だね」
「光の向きを変えることは出来るのですか?」
「光の向き?ちょっと言ってる意味がわからないけど……」
光は全方位に照らされるものだと思っているらしく、自分に向かう光をなくして前方にのみ光を集中させるという使い方は考えられていないようだ。
そういえば、ここに来てまだ懐中電灯のように正面に光を向けるタイプのものを見ていない。
馬車にあったものも全方位を照らしていたのを思い出す。
向こうの世界では光に指向性を持たせるということをしていたのだ。反射板などを取り付けたりなどして光を前方に集中させる仕組みを作り、最終的にはレーザーを生み出した。
完全に同じ向きに揃った光は拡散すること無く直進する。エネルギーを上げていけばそこに集まる光は増えて熱に変わる。ワイバーンに搭載されているレーザー兵器は赤外線を照射して相手の装甲を溶かす事に使われ、その射程はともかく当たるまでの速さはそれこそ光速だ。
「なるほど……ではレーザーはまだ知られていない……?」
「なんかよくわからないけど、そろそろ部屋に戻らないと。明日は外に出るって言ってたよ」
「外?」
「そう。王都の外。師匠が決めた場所に行って魔物を狩るんだ。テンペストは採集かな?」
「そうだな、まだテンペストは狩りは早すぎるだろ。魔法は強力だが殆どが1回使ったら次に繋がらんからな」
その通りなので言い返せない。
あまりにも魔力保有量が少ないため、ストーンバレットなら2~3秒位で底をつくし、イグニッションも最大火力を5回ほどやればもう無理だ。
どのみち植物に関しての知識なども必要にはなるので覚えておいて損はない。
「むう……仕方がありません。では明日のために早めに寝るとします」
ニールとコリーはまだ起きて少しやることをやってから部屋に戻るということだったので、先に戻ってニールの部屋の前に来た。
当然、鍵破りのためだ。
「流石にニールですね、コリーと違って知能が試されますか」
知恵の輪のようなパズル系の魔法錠だ。正しい順番で解除していかないと元に戻されるようになっている。しかしそれでも一分ほどで解錠され、代わりに同じタイプの鍵にすり替えられた。
「……流石に色々教えてくれましたから、簡単なものにしておいてあげましょう」
一瞬で解けるものではあるが、一度嵌ってしまうとなかなか解に辿りつけない。そんなものにしておいた。
コリーであれば早い段階で気づいてくれるはずだ。
ちょっと見方を変えるだけで子供でも解けてしまう。
そして自分はまた暗号キーを使い、不正対策を施した。
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湯船に浸かりながら意識を集中して、水を動かして遊ぶ。
にょろにょろと上に登っていく水の触手のようなもの。それを出来るだけ複雑な形へと少しずつ変化させていく。
先っぽが2つに分かれ、3つに分かれ……5つになる所で限界が来た。
「ふう……魔力の扱いとは意外と難しいのですね……」
計算で出すよりもどちらかと言うと感覚的に扱う物である。
そういったふわっとした認識のものを扱うのは元AIであるテンペストは難しい。
理想であるイメージはそこに有るかのように思い浮かべることはできるが、実行しようとするとある程度のところで失敗してしまう。
イメージと実力が釣り合っていない結果だった。
どんなに正確にイメージしても、それを再現するための自分が未熟であれば成功しない。
計算であれば解くだけだから簡単なのに……と思わないでもないが。
風呂から上がり、教えてもらった髪の手入れをしている時、ニールの「やられたぁぁぁ」という悲鳴を聞いた。
まあ、すぐに解錠して入るだろうと思い、髪を乾かし布団へと入る。
ぽかぽかと温まった身体は気持ちよく、目をつぶってすぐに意識は暗闇へと消えていった。
そろそろ詠唱とか登場人物まとめておかないと俺が死ぬかもしれない。
後で別な小説としてそっちの方に色々まとめておこうと思います。