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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第五章 英雄ディノス編
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第百二十六話 言葉の通じない相手

 帰還から7日ほど経った。

 正式に爵位をもらい、サイラスは希望していた海岸の土地を得た。

 移動は小型の飛空艇を作ってレビテーションで安全に行き来するそうだ。


 向こうについたら早速ドックを建設し、港街を作ろうと言っていた。

 ドワーフ達を連れて行き今はそちらで指示を出しつつ、研究所と学園にも顔を出しつつ教育をしている。

 戻ってきてみれば教師陣の不甲斐なさもあり、魔法に関してはサイラスの教えたいことが取り入れられていなかったり、教師自身がまだ理解していなかったりと酷い状況だったのだ。

 報告と違うこと等も含めたっぷりと説教をしたようで、今は大分良くなっているらしい。


 サイモンは王都のパーティーの後、またテンペストの屋敷に泊まったが、その時に例の開拓地を見た。

 山は一段低くなったようになり、かなり広い土地が出来上がっていた。

 すでに幾つか家は出来ており、そちらに住み始めているものもいる。

 山肌にビルを埋め込んだような建物も完成し、そこでも色々と商人がスペースを買って商売を始めていた。


 各種ギルドも一箇所に纏められ、利便性はどんどん増しており人口も増えてきたところだ。

 これからはサイラスの土地から海の資源も来るはずだし、もっと活気が増えるだろう。


 コリーの領地というか、区画も引っ越しをして広くなった。新しく切り拓いた山の土地だ。

 頂上だけでなく、その下の外周も綺麗に切り取られて3段重ねのケーキの様な状態になっている。

 その2層目の中心、山の中を整備した所に歓楽街を設けたのだ。

 つまり向こうに見える山の土地は全てコリーの治める場所となる。

 下に行くにつれて土地が広くなっていくため、開発すればするほどに領地が増えていくのが面白い。


 そして今、テンペストとニールは王都を経由して大神殿に来ていた。

 大神殿は少し離れた場所にあり、テンペストが行くのは今回が初めてとなる。

 行こうと思えば行けたのだが、今まであまり行きたいと思ったことがないのだ。

 原因はだいたい彼にある。


「おお……おお!精霊テンペスト様!ようこそおいでなさいました!」

「……お元気そうで何よりです、ノーマン殿」

「お噂はかねがね、まずは試練達成と子爵就任おめでとうございます」

「試練……ですか?」

「これはこれは試練とは精霊が人に対して課す物でした!精霊であるテンペスト様が試練などと……お許し下さい……。しかし先の大航海、テンペスト様のお力があればこそ達成できたものと信じております!」


 何処か恍惚とした表情で語りだすノーマンにニールは引いている。

 そして、テンペストがここに来たがらなかった理由が少しわかったのだった。

 他にも色々何か言っていたし、突然祈りだしてはやはりあなたは聖霊様です、どうかお導きを!などと言って表情をあまり変えないテンペストですら少し嫌そうな顔をしていた位だ。


「……ま、僕の前ではすっごい表情あるけどね」

「何か言いましたか?ニール」

「いや何も。それより早くエイダ様に会いに行かなくていいの?」

「ええ、ノーマン殿、そろそろ祈りは止めていただけますか?平和や安寧を願われても私は困ります」

「あ、あぁ失礼しました。奥へどうぞ、案内いたします!」


 正直、案内はもう別な人にやってほしいな……などと思ってしまった。

 大神殿は大きく中央に巨大な祭壇があり、そこはもう何人もの人が集まっても大丈夫なくらいに広い。

 今も人が何人も出入りしているくらいだ。


 ただしテンペストには祈りの声は届かない。何故かノーマンのだけが分かる。

 この事実に少々落ち込んでいるとエイダの部屋へと着いた。


「神子様、テンペスト様がおみ……」

「テンペスト!会いたかった!」


 テンペストという単語が聞こえた瞬間、中からダッシュでドアへと向かう音が聞こえ……勢い良く開けられたドアからテンペストに抱きついていくエイダ。

 少し面食らったものの、瞬時に身体を強化して耐える。


「私も会いたかったです。中に入っても?」

「もちろん!ニールも、中にはいって」


 ノーマンは追い返され、テンペストとニールは部屋へと招かれる。

 以前言っていたように部屋の大半は祭壇だった。

 とても大きく、中央に泉を模した池がある。そこで身を清めながら祈りを捧げ、精霊の声を聞くそうだ。


「久しぶりね、あれから毎日聞いているけど……役に立ちそうなものがなかなか聞けなくて。でも、大精霊じゃないんだけど最近ちょっと他の精霊が変なの」

「変、とは?」

「大地が裂けるとか、国が消えるとかそういう物騒な言葉がたまに……。ただ大精霊の言葉じゃないから分からなくて」

「国が消える方なら、ホーマ帝国と戦ってるどっかの国辺りが怪しいけどね」

「ホーマ帝国のある大陸には大きな深い裂け目が走っていますし、その可能性は高いですが……ここではない保証もないですね」


 他にも、怖い、悲しい、怒るなどの負の感情が増えているという。

 間違いなくあの戦争の影響があるだろう。

 向こうで起きた出来事などを出来るだけ詳しくエイダに話をしていく。


「……なるほど……確かにそれなら精霊たちの声が理解できます。本当に無事で良かった」

「最後のあの触手のやつはびっくりしたよね……流石に沈むかと思ったもん」

「まさかあそこで遭遇するとは思っていませんでした。ずっと近くで大きな獲物が通るのを海底で待っているタイプでしょう」

「でもやっぱりテンピーは強いわね!流石よ。私も頑張ってお告げ聞いてみるわね」

「お願いします。こうなってしまってはエイダのお告げが重要になります」


 なにせ積極的に敵に回すわけには行かない。

 事情を言ってもそれをやってしまってはただの大罪人だ。


 どうせ破壊者として立ち塞がるというのであれば近いうちに帝国を裏切るだろう。

 そうして帝国の敵となった時に初めて司祭を倒すことが出来る。

 ただしその時にはすでにカウントダウンが始まっていると思ったほうがいいのかもしれない。


「まあ……敵対するってことは準備が出来たってことになるんだもんね」

「そういうことです。なので船で悠長になどはしません。その時には何の制限も課さず空で行きます」

「私も何かお役に立てれば良いのですが」


 戦闘能力が皆無などということはないが、あのメンバーの中ではやはり劣る部類になる。

 さらに言えば立場もあるので国から出ることは難しい以上、一緒に行動することがなかなか出来ないのが心苦しい。


 エイダとしても自分が協力できることが大精霊の言葉を待つだけというのが歯がゆいのだ。

 協力したくても出来ないもどかしさ。


「しかし、戦争が起きたことで何かが進んだかもしれません。」

「何かって?」

「兵力の拡大、兵器の生産。相手を確実に倒すためにそれらを強化するのではないかと。であればディノス……元モンク司祭が一番活躍できてお金を自由に使えるようになる可能性が」

「敵国を攻めるついでに自分用の物を作るってこと?」


 攻めるとなればそれなりに準備は必要だ。

 まず奪われた土地を奪還してから、そこを前線として兵を送り込み一気に攻め入るだろう。

 その時には準備のために資金はある程度優先的に回されることになるわけで……。

 資金と資材を使って何かを作る可能性は非常に高い。


 サイラスの知識も定着してきているようなので、理解が進めば危険度が増す。

 一定ラインまで達した時……その時が実行へ移行する時だろう。


 その前兆が大精霊の予言によって与えられた時にすぐにハイランドを発ち、マークした人物を探す。


「方向性はこれでいいとして、いつお告げが来るかだよねぇ」

「そればかりは私にはなんとも出来ないのよね。任意で喋ってくれるなら良いんだけど、一方的だから……」

「基本的に私たちはハイランドに居ますから、連絡を取ってもらえればいいです」


 エイダはまだ仕事が詰まっているので、後で食事をすることを約束して大神殿を後にした。

 ノーマンに見つからないように。


 □□□□□□


「マスター、お久しぶりです」

「おお、お帰り。君達が帰ってきたと知って、ここに来るだろうと取り寄せておいた肉がある。食べていくかね?」

「ええ、お願いします」

「では少し待っていてくれるかな?今日はサービスだ、たっぷりと食べていってくれ」


 カストラへ戻り、煌へ行くと個室へ案内される。

 流石に領主として普通の席に座らせるのはどうかとマスターが悩んだ結果、増築したものだ。

 2階に設けられたその部屋はテンペスト専用だ。1階はいつも満員という状態の中で悠々とここでゆっくりと食事を楽しんでもらうためにと、誰からも隔離された空間を作ってくれたおかげで、いつでも誰にも邪魔されること無くマスターの食事を楽しめるのだ。


 ちなみに最近は忙しくなりすぎてしまったために、人を雇って注文と給仕、皿洗いなどをさせていた。

 最初こそ1人でやると言っていたものの、結局店が回らなくなる程に人が来るようになり……仕方なく雇ったのだが、そっちのほうが料理に専念できることに気がついてからは気が楽になったそうだ。


 今は若い料理人の卵に自分の技術を教えようとしているらしい。


 料理を作っているところが近くで見れなくなってしまったのは残念だが、静かに食事をできることもあってテンペストはこの部屋を気に入っていた。

 入ればお腹がすくような美味しそうな匂いが染み付いた小さな部屋。

 調度品などは少なく、高価なものを使っているわけでもない。でもそんな気楽な場所だからこそ良い。


 ニールを話をしながら待っている時間も。

 すでに用意された所に呼ばれて食べるのは楽でいいが、こうして自分で好きなものを注文して食べると言うのは違うのだ。


「お待たせしました。今日はたっぷりと食べていただけますよ、おかわりが欲しければ何度でもどうぞ」

「美味しそうです!」

「骨付き……!」


 二人の前に出てきたのは骨付き肉。

 翼竜のスペアリブだ。前にリクエストした時に丁度品物を切らしていたために食べられなかったものだが、値段は高くない。

 しかしカリカリに焼き上げられ、表面で脂が跳ねる音にたっぷりと塗られたタレの匂いがたまらなく食欲を刺激する。

 パンと共に出されたそれを、ナイフとフォークも使わずに齧り付いた。


「あっふっ!」

「熱いですが、とても美味しいです!絶賛されている理由がわかります」


 幸せそうな顔をしてがっつくテンペストの姿にマスターのヴァルトルは目を細める。

 こういう客の姿を見るのが彼の今の喜びだ。

 礼儀とかそういった物を抜きにして、食べることを全力で楽しんでいる姿は料理人冥利に尽きるというものだろう。


 仕入れてきたと言っていたが、実際の所ヴァルトルが自分で獲ってきた物だ。

 テンペスト達が帰ってくるという知らせが届いて、到着の日時を予想して雌の翼竜を1匹狩ってきた。

 今日はその肉のフルコースとなる。

 到底2人だけでは食いきれないほどの量ではあるが、余ったら客に提供する事が出来るので問題ない。


 食べ終わった辺りで今度は別の部位の肉を出す。

 小さめにしてあるので食べやすい。


 しばらくジュースなどと一緒に食べ続けてやはり限界が来た。


「これ以上無いくらい食べまくった気がする……」

「やはりここの味が一番です。ありがとうございます」

「いえいえ。いつも美味しそうに食べていただけますので、お礼を言いたいのはこちらの方ですよ」


 腹が膨れてもう入らない程に詰め込んだ2人だが、味を思い出してはもう入らないことが残念でならない。かと言って吐き出して新しく詰めるなどという事はしない。

 一部の者がそういったことをしているようだが、そこまでしたいとは思えないのだ。


 余ったものを幾つか使用人達用にもらっていき、店を後にする。


 □□□□□□


 テンペストの屋敷に帰ると、見覚えのない豪華な馬車が止めてあった。


「あれ?誰かお客さん来る予定だった?」

「いえ。……ただ、少し面倒な客のようです」


 馬車の側面に描かれた紋章にテンペストは見覚えがあった。

 よく送られてくる手紙に押される物と同じなのだ。

 そしてその内容はとても面倒くさいもので……。きっぱりと断っているはずなのに話が通じない、そういったタイプの人間だった。


「ローレンス。ウィートリー子爵の息子で毎日のように求婚の手紙を出し続けた方です。……人族で大分いい年なのですが」

「え……もしかして僕のせいで……」

「ニールのせいではありません。あの方個人の問題です。それにあなたのことは私が守ります」

「ぼ、僕だってテンペストの事守るよ!……一緒に行く?」


 冷や汗をかいて、握りしめた拳が若干震えている時点で守れるかどうか怪しく見えるが、その気持がとても嬉しい。

 ニールも一目惚れからの告白だったが、テンペストはそれまでのニールの行動を見続けてきている。

 1番最初の頃こそ微妙ではあったが、自分のプライドをへし折られてきちんと自分を見つめ直し、弱い所を半ば強制的ではあったものの克服して、テンペストに認められる人になろうと努力していたのを知っている。


 だからこそテンペストもニールの告白を受けた。

 当然その後のニールはテンペストに振り回されながらも、きっちりと支えてくれるパートナーとなっている。


 しかしこの男は……。

 40歳独身、独りよがりで話が通じない。手紙だけでもそれがよく分かるし、そもそも字が汚すぎて読みたくない位だ。

 これからその実物と会わなければならないのかと思うと気が重い。


 そして玄関に入れば、使用人が困惑した様子でテンペストのことを待っていた。

 アポ無しで来て、居ないなら帰ってくるまで待っていると言って出ていかないそうだ。すでに3時間ほど待っているそうでイライラしていて手がつけられないという。


 応接室へ入ると、そこにはおかっぱ頭で痩せ型の神経質そうな男が座っていた。


「お、お前……!!ぼくという相手が居ながら婚約だと!?どういう事だ!」

「ローレンス様で宜しいですね?私とあなたとは今初めてお会いしたはずですが?お手紙の話であれば全てお断りしているはずです」

「初めて?何を言っているんだ!ぼくと君は出会っているじゃないか、ぼくは君のことを見ていたんだぞ!人だかりが多くて近づけなかったけど……」

「それ会ってるって言わないじゃないか!」


 一方的に言われても困る。

 手紙はすでに何度も断り、その後に送られてきたものは返事すら出していない。

 しかも遠くから見ただけでテンペストも覚えていると思えるという、良く分からない思考を披露してニールが突っ込んでいた。

 そこで初めてニールに気がついたらしいローレンスは、邪魔者を見るかのようにニールを睨みつけていた。


「……誰だね君は?」

「彼がニール、私の婚約者です。何度言われても私はあなたと結婚する意志はありません。お引き取りを」

「こいつが……こいつがぼくのテンペストを?お前みたいなやつに彼女を幸せにできるか!」

「少なくともテンペストに嫌われてるあなたよりは良いと思う」

「ぼくは嫌われてなど居ない!」

「いえ、嫌いですが。毎度毎度無礼な内容の手紙を寄越しておいて嫌われないとでも思っているのですか?」

「ああ!君は優しいから……こいつに言わされてるんだな!?」


 話が通じない。

 いちいち芝居がかった身振りで話すローレンスをみて余計に嫌いな方にメーターが振り切れているのだが、どれだけポジティブな考え方をすればそんな思考になるのだろうか。

 テンペストが言っていたように、手紙の内容はひどいものだった。

 ひたすら上から目線で、ぼくが居なければ君は生きていけないだの、エスカレートしてきた後半の方では夜の性生活に関してまで事細かに生々しい描写が書き綴られていたほどだ。

 これで好きになる女性が居るのだろうか。


 というか、実際若い女性が居る所にこういった手紙を出しまくるため物凄く嫌われている。


「君に相応しいのはぼくだ、目を覚ますんだ。そんなチビに何が出来るというのだ?私は金もあるぞ、地位だって……これからはぼくが君のことを守ってあげる。そして一緒に激しい夜を過ごそう!」

「……うえぇ……気持ち悪いよこの人……」

「同感です。ローレンス様、私の婚約者はニールただ1人であり、私の夫として相応しいと思った相手です。彼を侮辱することは許しません。お金なら彼も十分にありますし、地位も今回すでに手に入れています。あなたは子爵の息子というだけでまだ子爵ではありませんが?」

「確かに今は違うがゆくゆくは家を継ぐ故問題なし!君には僕が必要なはずだ」


 彼の妄想は揺るがない。テンペストが自分を必要としていると信じて疑わない。

 しかし彼の家ではすでに後継者は決まっており、それはローレンスではない。そもそも三男なのにどうして継げると思うのか。


「ローレンス。私にあなたは必要ありません」

「……テンペストは僕が守る。あなたは必要ないって言ってるじゃないか。これだけ嫌いだの必要ないだの言われているのに何故諦められないの?」

「黙れ黙れ!お前が言わせているのだろう!そうやって脅して手篭めにしたのか!ああ、なんてかわいそうな……でも大丈夫、ぼくなら彼に穢された身体でも構わないよ。君を助けだしたらすぐにぼくの色で染めてあげよう!」

「これが最後通告です。ニールは素晴らしい人です、私のことを大切にしてくれており、その時が来るまでニールは我慢してくれています。ニールを侮辱することは許しません。聞き入れられない場合それなりの対応をさせていただきます。私はあなたと結婚する事も関係をもつつもりもありません。直ちにこの領地から出ていきなさい」


 先程までよりも強い口調でテンペストが言い放つ。

 それに対して目を見開き信じられないといった顔をするローレンス。ようやく現実が分かったかとテンペストとニールが安堵したのだが……そこまで甘くはなかった。


「……分かりました。君の気持は目を見ればわかります。大丈夫、ぼくが救い出してあげるよ」

「はぁっ?」

「ニールと言ったか。どのような卑劣な手を使って彼女を従わせているかは知らないが、今すぐに解放したまえ!お前と居ると彼女が不幸になる……健気にも従うことでぼくの事を気遣う彼女の声無き叫びが聞こえないか!」

「聞こえないよ!」

「ほら見ろ、お前が彼女のことをなんとも思っていない証拠だ。そのような下賤な輩は今ここで排除する!決闘だ!!」

「ほんとこの人面倒くさい!!」


 べしっと手袋を投げつけ外に出ろと騒ぐ中年。

 これをテンペストのところだけでなく、他の独身女性のところでもやらかしているのだ。現在進行形で。全ての女性から愛されて、でも結婚できないのは世の中の女性たちがシャイで自分の気持を表現できないから……らしい。


 自分勝手で人の気持ちを考えることが出来ない。

 全てが自分の妄想内で完結しており、そのストーリー設定に沿わない言葉は全て拒否する。


「……とりあえず屋敷からは出てってくれたけど。あんなにめんどくさい人なんだ……」

「後で手紙を見せます。頭が痛くなりますよ」

「うわぁ……。で、決闘らしいけど……どうするの?」

「何でもありで勝利条件は相手の死亡もしくは降参。敗者は勝者の言う条件をすべて受け入れること。……大丈夫です、彼の持つ魔法はニールの魔法に遠く及びません。剣の腕も師が悪いと言って逃げ続けているので素人と大して変わらないはずです」

「よくそれで決闘とか言えるね!?」


 本当にその通りで、何で勝てると思っているのかが理解できない。理解できないが……そもそも理解するものでもないのかもしれない。


 決闘の見届人を公的な人間に頼み、庭に出る。


「遅いぞ!今頃になって怖気づいたか!!」

「違う!見届人に連絡取っただけだってば。見届人は中立の立場である衛兵に頼んだから」

「なるほど、では負けても文句は言えないということだな!やめるなら今のうちだぞ?」


 ドヤ顔で宣言された。

 それはそっちも同じなんだけど……と頭が痛くなるのをこらえながら見届人を待つ。

 彼が来たら正式に勝利条件を確定させる。

 後はニールが勝てば、全ての条件を飲ませた上で追放できるのだ。


「頑張ってくださいね、ニール」

「うん、絶対あんなヤツにテンペストを渡さないから。テンペストは僕のものだ」

「ええ。その通りです。私は彼のものになるつもりはありません。ですからニール、必ず勝利を」


 ニールに持っている大ぶりのナイフを渡す。

 いつもテンペストが使っている物だ。

 ずっしりと重たいそれは、強化はされているものの特別な効果は全く無い。刃毀れしないミスリル製に更にテンペストが強化しているので使い勝手はいい。

 そして、だからこそリーチの長い剣を使ったローレンスが武器を理由に文句をいうことも出来ない。


 思った以上に責任重大で、背負ったものが大きいため尻込みしそうになったが……ここは意地でも勝たなければならない。

 気合を入れ直して、ロングソードを振り回して挑発しているローレンスを睨みつけた。



面倒なのが来た

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