第百二十話 楽園へ
洋上に浮かぶリヴァイアサンの後部甲板にマギア・ワイバーンが着陸する。
時間すでに夕方となり、沈みゆく夕日が赤く海を照らす。
「はー……はー……疲れた……めちゃくちゃ疲れた……」
「おかえりコリー。テンペストもおかえり」
「戻りました、ニール」
ニールの腕に抱かれた身体に戻ってきたテンペストが、下から見上げる形でニールに返事を返すと、一旦ぎゅっと軽く力を入れて抱きしめられた後下ろされる。
横では大の字になってへばっているコリーがいた。
10時間を超える飛行をしていたのだ、疲れても当然といえる。
本来普通の強化もしていない人族であれば、ここまで長時間の音速飛行は難しいだろう。
しかし、おかげでホーマ帝国全土の大まかな地図は出来上がった。
やはり広大な面積を持て余しているようで、まとまった街はかなり離れた場所に点在する程度だ。
薄っすらと見える道の脇に小さな町が作られていたりはするが、農村などは無く、農業都市とでも言うのだろうか……壁に囲まれた巨大な農場が広がっているところはあった。
やはり魔物のせいであまり大規模に農業をすることも出来ないのだろう。それに対応するためになんとかした結果がそういう形態なのだ。
基本的には肥沃で恵まれた土地を持つホーマ帝国は、開発さえ出来ればその土地を使って大々的に農業なども出来るだろう。
武器を持つことに対する恐れから規制に走っている彼らは、しばらくはそういった事はできそうにないが。
規制のせいで慢性的な人員不足に陥っているのは、実際に行ってみても分かる。
だからこそ魔晶石のようなものがあそこまで高額で取引されるのだ。
「コリー様……風邪ひきますよ。一緒にお部屋に行きましょう」
「あー、ウルか……そうするかね。流石にもう疲れたぞ俺。汗流して飯食って寝たい」
「コリーがそこまで言うのも珍しいよね……」
「あー?だってお前……あれ操縦しているだけですんげぇ疲れるんだぞ?肉体的にも精神的にも!」
大半をテンペストが処理しているとはいえ、視覚化される計器類を見て、外の状況を見て、両手両足を使って操縦して……というのを超音速でずっと行うのは辛いのだ。
レビテーションの速度があまり出ない以上、自分で制御しながら飛んだほうが早いのは確かだし、テンペストは偵察のためのデータ収集なども行っているため、完全に操縦はコリー任せだ。
上下左右テンペストが気になる所へとその度に旋回し、ロールし……まぁとにかく大変なのだ。
休憩を入れたとは言え、身体は汗で服がベタベタと張り付くわ重いわ冷えてきたら寒いわで色んな意味で風呂に入りたかった。
頭もフル回転させているので正直頭痛までしてきそうな勢いで……。
「明日はゆっくり休ましてもらうからな」
「特にしなければならないこともほぼありませんし、問題ないかと」
「まあ……領地に関しては殆どテンペストとサイラス博士だしね。……ってあれ?コリーって一応歓楽街担当してなかった?」
「代役を立てて置いてきているそうです。最初は赤字経営でしたが、利益は出て今は黒字化しているので問題ないでしょう」
設備投資にお金がかかりすぎて若干マイナスになった。
しかし運営が始まれば早速回復していき、ある程度のところで一度とまり……そこから徐々に伸びていっている。
やはり立地が悪いため外からの客がなかなか来ないのが原因だろう。
それでも黒字にはなっているのでなんとかなっている。
そもそもそこまで大きな歓楽街ではないのだ。
とりあえず、詳細な報告はテンペストがすることとして、コリーのことは休ませることにした。
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「あれ?それじゃ戦争はもう終わったってこと?」
「戦争ってのはそんな簡単な物ではない。今回は侵略を受けたホーマ帝国が相手国の侵略を確認した事をもって宣戦布告と見なして対応したはずだ。でなければ私達が外に出されることはない……というかよく脱出させてくれたものだと思うよ」
「そうなんですか?」
「普通なら機密漏洩などを考えれば、私達を外に出す選択肢は無いはずだ。下手をすればタイミングが良すぎることもあって私達が疑われた可能性だってある」
最初は魔物による侵攻ということもあったから余計に脱出させたのだが、最初からエフェオデルがせめて来ていたのが明らかだった場合、やはりこうして出ることは叶わなかった可能性がある。
「テンペストが見てきた破壊された街がホーマ帝国のものであれば、まずはそこの解放を行い街を取り戻すだろう。そこから逆に相手国へと攻め入っていくかどうかは彼ら次第だが……取り戻したからお終いということにはなるまい。どちらかが倒れるまで続く可能性がある」
「各国の代表による話し合いということは無いので?」
「それは相手次第だな、サイラス。元々友好的で何かの手違いで争いが起きたときならそれも出来るだろう。だが一方的に攻めてきて話し合いをしよう、と言っても納得出来るものではない。まずは一定の被害が出て相手が交渉しようじゃないかと持ちかけてきたら……有り得るというレベルだ」
ある程度話し合いで戦争を回避することはこの世界でもある事はあるが、攻められたらまず報復をしてからが基本だ。攻められて話し合いに持ち込もうとするのは弱い国家のみで、あそこまで大きな国が簡単に屈してしまっては示しがつかない。
それでなんとかなったとしても、もう帝国と取引するところは無くなる可能性もある。もしくは足元を見られるか。
「まあ、どのみち戻ることも出来ないさ。それに戻ったら戻ったで説明が面倒だぞ?」
「確かに……」
「とりあえず、観察していてわかったことはそれくらいです。毒らしきものを使った事はわかりましたが何かは特定できていません」
「十分過ぎる。それに帝国は今回の処理には少数で当たっている。今頃帝国は戦争の準備で大忙しだろう。陥落した街の奪還のために人員と物資が必要になるからな」
「何にせよ……テンペストが持ち帰った地形データがあれば、正確にその地点へと移動することが出来ますよ。それだけでも十分以上の価値がある」
次はサイラスの作る船で来るのだから、自由に好きな所へと行けるようになる。
特に大陸の半分となっている分断された土地などであれば、それぞれで独自の文化があるかもしれない。
どうせ暫くの間はホーマ帝国へは行けないのだから、少し別なところを回ってみて新しい知識などを仕入れてくるのもいいだろう。
もしくは新しい場所を見つけるというのも良い。
今回の航海で出ていった方向とは真逆に向かってみたりするのだ。逆側の航路も見つかる可能性もあるし、何よりも他に何かがあればそれでもハイランドにとっては発見だ。
『ふーむ……この地図によると大陸の半分はこんな状況になっているのか。以前は一続きの大陸だったのだがな』
「ギアズ、この右半分の大きな島になってる所どうなってたか覚えてる?」
『儂もそこまで詳しいわけではないが、以前は小さな国が固まって居たはずだ。今とは違いすぎてもう分からんが……そこからくっついたり消えたりしてまだ人は残っておるだろうな』
「しかし……あまりここを離れているわけにも行かないでしょう、なんとか転移装置を作りたいところですねぇ。膨大な魔力に関しては魔力循環によってある程度は解決したものの、使用量が多すぎるのが問題です。少人数を飛ばすだけならさほど魔力を食わなかったわけですから、そこに改良の余地がありそうな気はしますが」
長距離を動くためにはそれなりの時間が必要となる。
いちいち往復していたのでは面倒過ぎるし、ロスが大きい。であれば転移によってその場所に飛べるようにすれば……というのがサイラスの考えていることだ。
だが空間系の魔法の中でも最上位となっている転移に関しては、あまり情報がない。
その為ある程度手探りでやっていくしか無いわけだが、そのヒントはあの浮遊都市にあった。
『長距離移動をするなら、儂が入ることが出来なかった所にその為の装置があったはずだが……どうだったか……壊れておるかもしれんな』
「転移装置、ということですか?」
『儂は一回も使ったことはないから分からん。その部屋は一部のものしか入れん様になっていたそうだからな。儂も手を入れる事が出来ないんで詳しくは知らん』
最重要区画であるその場所は、ギアズが居たところよりも更に深い位置にあり、緊急脱出用の区画だったということだ。
秘密裏に作られギアズも知らないうちに完成していた。
一応、あるはずのない部屋に向かう人が居たことと、その人が上の地位の人であること、そして行ったら何故か今度は入り口から戻ってくるということからの推測でしか無い。
ただ、そこには人を好きな所へと送るための何かがあるとはささやかれていた。
「結局不確定じゃないか……」
『仕方あるまい。しかし……見つける価値はあるだろう。……崩落して居らんかったらな』
「戻れば分かります。私やニールの収納に関しては非生物限定ですが働きとしては固定した場所への転送です。それを人に対応させたのが転移と考えれば、収納改良すれば転移を作り出せるものと考えられます」
「ふむ。確かにそうだな。何にせよ戻ってからか……帰ったらエイダ様にもお会いし無くてはならないだろうな」
「アディですか、私も早く会いたいです」
思えばエイダと会う機会はなかなかない。
久しぶりに会えることが分かり、少しうれしくなるテンペストだったが、そういえばとあることに気がつく。
「……そう言えば、アディも姿を変えられたはずですが」
「なに!?」
もう一人、よく知っている人物が自分の姿を変えていた。
エイダはテンペストとあって間もないころ、街に出るために姿を変えている。
作り変えることと似ているため、まずバレることはないと言っていたはずだ。
しかしそれを知っているのは協会関係者のごく一部と、王室の一部という限られたものだけだったはずだ。
そこまで思い出して、これは秘密であったことに気がつく。
「すみません。今のは聞かなかったことにして下さい」
「もう遅い。ちなみにどのようにしてだ?」
「マナを粘土のように整形して自分の肉体と一体化させるという物だそうです。恐らくは自分の身長の変更など、自分よりも小さくなることは不可能でしょう。すみませんがこの情報は機密ということでお願いします。失念していたとは言え少々思慮に欠けるものでした」
「いや、どのみちその魔法を使ったところでモンクの姿が変わったことの説明は付かない。だよな?サイラス」
「ええ。身長は高くなり、醜く突き出た腹は腹筋に変わっています。どう考えても骨格からいじった結果であり、上に付け足してごまかしたというレベルではありませんね」
贅肉を引っ込めることが出来ない以上、物凄い努力をして肉体改造しなければならないし、身長はそもそも変えられないというのであればその魔法は候補から外れるだろう。
増えた情報といえば、エイダの秘密をここにいる全員が共有したことくらいだ。
「……ま、ここでぐだぐだ言っていても仕方ないか。帰るまではゆっくりしようじゃないか。例の島には寄ってくれるらしいしな」
「あそこに2日3日は居たいなぁ。楽しかったし」
長旅の疲れを癒やすために上陸した島だが、全員があそこを気に入っていた。
特に危険もなく安全で観光するには最高の土地だ。
ニールとしてはテンペストの水着姿が見れるだけでも価値があった。
何よりもやはり揺れない地面というものがとても恋しくなるのだ。
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「護衛船が帰ってきました。船長から司令に話したい事が有ると」
「通せ」
ホーマ帝国、メールの街の港に駐屯している帝国海軍を任されている司令官に、リヴァイアサンの護衛として就かせた2隻が帰ってきた。
満身創痍と言った様子のその姿に港は一時騒然とし、あの船が裏切ったのかと騒ぎ出すものまでいた。
しかし乗組員からそれは違うという話を聞いてある程度沈静化に向かっている。
「失礼します、ミラージュ、バルミィ両艦共に任務を完遂し帰還しました」
「ご苦労。話とは何だ?下の騒ぎは何なのだ」
「は、報告します。我々は当初の予定通り使節団の船、リヴァイアサンを護衛、誘導しておりました」
そこまでは通常の手順だ。
ここから領海から出るまでを担当していたので、そこまで行けば誘導を終えて帰還するだけとなるはずだった。
しかし、突然サイレンを鳴らされリヴァイアサンの船員が見ている方向を確認した直後、サメのような魔物であるラグスルカンに襲われる。
「もちろん、魔物による攻撃は想定済みでしたので、すぐに対処できましたが……我々が全く気づけなかった接近をあのリヴァイアサンという船では捉えていたようです。更に、その後エフェオデルの上陸船と戦艦が現れ、翼竜と狂い鳥を放ち攻撃してきたのですが……」
「やはり魔物を放ったのはエフェオデルで間違いなかったか。それで?」
「リヴァイアサンの武装と思われますが、はるか遠くにいるその小さな的を次々と撃ち落として行き『これより当艦は敵艦掃討に入る。ホーマ帝国による護衛に感謝する 』という声を残し、突如エフェオデル海軍の方へ向かって急加速を始めたのです。加速は凄まじく、我々の船ではとても追いつけませんでした」
「なんだと……?あの船は我々の持っている船の中でも早い方だぞ?」
レベルが違いすぎた。
あの大きな船体を一気に加速させるだけのパワーを持った船など、そもそもホーマ帝国には存在しない。まさに規格外の船だった。
更に慌てて追いかけた彼らをどんどん引き離し、背に乗せたゴーレムらしき物が攻撃する度にあっさりとエフェオデル軍艦が炎上して次々と沈んでいく。
「恐ろしい船です。彼らにはそれだけの戦力があったということですが、我々には全く見抜けなかったということになります。幸い彼らが敵ではなかったので問題ありませんでしたが……もし、対応を間違って彼らが敵に回っていたらと考えると……」
「護衛すらも要らなかったか。なるほどたった1隻だけでここまで来るなど、おかしいとは思っていたが……。それで、エフェオデルの連中はどうなった?」
「我々も攻撃に加わりましたが、いかんせん数が多かったため無傷とは行きませんでした。リヴァイアサンの方はどのような魔法を使っているのか、攻撃すればたちまち船は炎上し、大砲を撃てば数隻が纏めて大穴を開けられて次々と沈んでいくのです」
「……正直、俄には信じられない話だが……お前が嘘を言う正確ではないことは知っている。それだけの数の敵に囲まれて生還したということは……」
「エフェオデル艦隊は魔物も含めて、言葉通りに全滅しました。全てあの海に沈んだのです」
その殆どはリヴァイアサンによるもので、自分達が沈めたのは上陸船何隻か程度である、という報告を聞いて司令は目頭を揉む。
つまり、リヴァイアサンはたった1隻で自分達が手こずるような相手と一戦交えて置きながら、大した損害もなく敵艦隊を殲滅してゆうゆうと帰っていったというのだ。
自分の目で見たにも関わらず、本当に信じられない光景だったと言っているミラージュの船長も嘘を言っているわけではない。
「……上陸船と言ったな。どんなだった?」
「沈んでいくその船には大量の魔物が詰め込まれていました。何隻かは兵士達が乗っていたようですが……これまでのやり方から考えれば、上陸と同時に魔物を解き放って自分達はその後楽に上陸するつもりだったのだろう、と思います」
「分かった。……彼らには感謝しなければならないな。敵には回したくないものだ……。ご苦労だった、下がって今日は休め」
今回はあの船に助けられた形となる。
自分達が攻撃を受けたから反撃したのだろうが、それにしたって普通であれば聞いている数の艦隊に向かって突っ込んでいくのは自殺行為だ。
幾ら上陸船が多く戦力的には同数の戦艦よりは脅威度が低いとは言え、だ。
そしてエフェオデルの方は本格的に魔物を侵攻に使ってくるつもりのようだ。
当然だろう、自分達の人員を減らさずに敵をあっという間に倒してくれる上にいつでも補充可能なのだから。
とりあえず、彼らを失わずに済んだことを喜ぶべきだろう。
それにもしも遭遇した艦隊がメールの街まで来ていた場合には……残存勢力での迎撃は不可能だ。
1隻の上陸船でも通してしまえばそのまま魔物達が溢れ、小さなメールの街はあっという間に壊滅してしまうだろう。
その後エフェオデル軍はここを蹂躙した後に帝都へ向かって進軍して、被害は今の比ではないほどのものになっていたはずだ。特に戦えない民間人や貴族達がその被害者となる。
兵士が死ぬのはある意味で分かっていることだが、民間人となると補充が効かないのだ。自分達の食べる農作物を育てたり、食肉を育てたりという仕事は特に貴族がしていることはない。
彼らが居なくなれば自分達の食い物も無くなるということだ。
だからこそ民を守る。
最悪な事にならずに済んでホッとしたが、これを報告しなければならない事を思うと胃が痛くなりそうだ。
見ていなければ絶対に信じられないような報告を、何と言って信じてもらったらいいものか。
とりあえず、交戦した海域へと調査隊を向かわせてその報告を待って総司令に情報を上げる事にした。
証拠を固めて置かなければ何に突っ込まれるか分からないのだ。
「……エフェオデルも気になるが……リヴァイアサン、得体の知れない船だ……。いくらなんでも数隻を貫通する主砲など聞いたことがない」
水をかけても消えない炎というものも気になる。
船長が出ていった後の部屋の中で一人、大きな溜息をつくのだった。
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「これでいいでしょう」
「ほお……緻密な地図だ……ここまでのものは見たことがない」
まるで空から本当に見てきたかのようだ……という言葉をリヴァイアサンのベック船長は飲み込んだ。
実際に空から見てきたのだから当然のことだ。
時々忘れそうになるが、今自分の前にいるまだ幼い彼女は男爵であり、鉄の竜騎士の名を持つ人物だ。
その名前の示す通り、金属でできた翼竜……マギア・ワイバーンを操る。
操ると言いながらも、彼女は乗ることがないのだが、同じく鉄の竜騎士であるコリーは「アイツ無しでまともに飛ばせる気がしねぇ」という言葉を残している。
流石に色々と秘密の部分でもあるのだろうから聞かずにいるが、正直な所気になっていた。
しかしこうしてスラスラと航海図と自動航行システムへカウス大陸の全景を書き込んでいるのを見れば疑いの余地はなかった。
まるで今も同じものを見ているかのように、山、川、街等が書き加えられてゆく。
「また入港することがあればやはりポートキャスの港からが良いでしょう。この船を見たことがあるわけですから少しは対応が分かっているはずです」
「承知した」
今回の簡易メンテナンスを終えて新しく目的地を入力する。
当然以前にも立ち寄ったあの島だ。
船員からもリクエストが多く、今回はあまりゆっくりできなかったという声もあったので3日ほど停泊するつもりでいる。
上空からの情報で、あの島の形は歪な円形で一部が切れた形になっており、そこから内側へと入っていくことが可能なようだった。
深さも特に障害になるものはないとのことだったので、波の影響が少ない内側へと入りキャンプを張る。
船は最小限の人数を残して船員も交代で休ませるつもりだ。
今回はホーマ帝国で買い込んだ食料などもあるので、船の料理人に外で作らせるのも良いかもしれない。
『こちらも終わったぞ』
「正確な座標を入力し終わりました。これからはこのマーカーを置くだけで航路が自動で生成されます。以前通った安全な航路を元にして作り出しているので、何度も使ううちに最適化されるでしょう」
『まあ、それ自体がなくとも目的地が設定されていればそこまでは案内してくれるがな。ただしこいつは浅瀬などの情報は入っていない。その為の措置だ』
「通っていったことがある場所は引っかかることはないということだな。なるほどよく出来ている……」
何よりも航海を楽にしたのがこの自動航行装置だ。
操舵に直接干渉し、この船を勝手に指定した位置まで運んでくれる機能が追加された。
今までであれば星を見てコンパスを見て方角と距離を割り出し現在地を確認しながら進行方向を決めるというやり方をしてきたのだ。
それをしなくても済むだけでどれだけ楽なことか。
おかげで驚くほど少人数でこの船を動かしている。
1000人単位で必要だった人員は減り、その分料理人などの宿泊施設や娯楽施設の担当者を入れている。それでも100名程度で余裕で回せるのだ。
そして海戦での攻撃能力……。
今回は特殊な弾頭を詰めたと言っていたが、確かにあれは凄まじかった。
残念ながら弾薬は全て回収されてしまったが、同じような物があれば大体の海軍に勝てるのではないだろうか。
逆に、彼ら……ハイランドの軍が初の軍艦を作ることになるかもしれないが、その船はこのリヴァイアサンの上を行く物だろう。
手の内を知り尽くしたものが作る新たな船。
敵対はしたくないものだと思いつつも、どんなものを作ってくれるのか楽しみで仕方がない。
見たことのないものが出て来るに決まっているのだから。
作業が終わって2人が出ていき、号令を飛ばす。
「さあ、例の島へ行くぞ。向こうについたら当番以外は一緒に降りて休め。両舷中速、魔物に警戒しつつ進む」
号令を復唱し船が動き出す。
今までの船では味わえなかった力強い加速が身体に感じられ、リヴァイアサンは帰路につく。
司令「上になんて報告すりゃいいんだ……」