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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第一章 精霊テンペスト編
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第十一話 ラストフライト

 ブスブスと雷の直撃を受けた鎧が溶け落ちながら煙を吹き上げている。

 どうやらコリーは雷魔法の使い手らしい。


「まあ、これは本来大群というか集団に向けて放ったほうが効率いいんだがな。本当なら打たれたやつを中心にして近くにいる奴に伝播していくから見てて面白いと思うぞ」

「雷を再現出来るのですね。これは……希望が更に持てます」

「あ、もしかして強くなるヒント与えちまったか?……まあいいか。これも今のところは秘密ってことで。実力つけたら教えてやるよ」

「二人共あれだけ新人来たらどう揉んでやろうかとか言ってた割に……。随分と丸くなったね」

「うっせ!」

「こんな女の子来るなんて思ってませんでしたからね!」


 可愛い妹のためだ、扱えるようになった時に教えてやりたいと思ったのだ。

 ロジャーの言うとおり、最初はどうしてやろうかと随分と黒いことを考えていた2人だったが、可愛らしいテンペストが来た時からその黒い思いは綺麗サッパリ消え去ったのだ。

 むしろ今の2人を支配しているのはこの子の力になってあげたいという保護欲だった。


「揉むほどのものはありませんが……」

「ばっ……そうじゃねぇって!そういう意味じゃ……!」

「コリー、顔が赤いぞ。意外とうぶなんだね?」


 ずれた答えを返すテンペストにコリーをからかうロジャー。

 とりあえずそれぞれの実力などを見せ合い、新しい魔法の使い方を知った。

 これからまた修業の日々が始まるのだ。


 その前に、テンペストは部屋に帰る前に魔法錠の掛け方、解除の仕方をみっちりとロジャーに仕込まれるのだった。

 ちなみに温水を作るのはあっという間に覚えた。


 しかし浄化の魔法に関しては、元の世界には無いものだったのでなかなか理解出来ずこの日は習得するに至らなかった。

 また明日になったらこれの練習をすることになる。


 □□□□□□


 部屋に帰ったテンペストは、教えてもらったばかりの魔法錠を早速扉に対して掛けた。

 魔法錠は術者の考え方によって色々なタイプが有る。

 これは普通の鍵の種類にもいろいろとあるように、正しい道筋で魔力を通さないと開けないものや、ダミーの沢山あるだけのものなど様々だ。


 そして、テンペストが選択したのは……。

 コンピューターを守るための暗号キーだ。入力する文字列は256文字。英数字で刻まれたそれをこちら側の人に解けと言うのは無理だろう。

 というか、暗号の種類とパスワードが全て合致しなければどの道開くことは出来ない。


 ロジャーに教えてもらった魔法錠の中でも一番簡単とされる文字合わせのタイプだったが、元AIのテンペストにかかれば異常な難易度に跳ね上がるのだった。


 それを知らないニールとコリーは、少しの下心と共に解除に向かう。

 魔法錠をすでに使えるようになったとはいえ、まだロジャーが教えたのは簡単な文字合わせのみだという。それであれば楽勝である。通常ならば。

 そして突然開けられた扉の向こうでは、もしかしたらテンペストが無防備な姿を晒しているかもしれない。しかしそれは鍵の掛け方が未熟だったから仕方のないこと。

 コリーもニールに解錠されてトイレに入っている所を開け放たれたことがある。

 さくっと解錠して扉を開いていたずらしてやろうという、軽い気分で扉に手をかけ……。


「ん?……あれ?なんだこれ?」

「どうしたニール」

「いや……なんだこれ……」


 違和感を感じた。確かに文字合わせのパターンである。

 しかしその文字合わせに必要な文字列が全くわからない。どの文字を当てはめても合致しそうなものがないのだ。しかも更にもう一つ仕掛けがしてあるようだというところまでは分かった。

 でもそれが何であるかもわからない。


「文字合わせなのは確かだよ。でも、何を入れても合わないんだ」

「いや、だって今日教わったばかりだろ?そんな複雑なものじゃないはずだ。ちょっと貸してくれ。…………ほら、やっぱり簡単……簡単……あれ?本当だ、合わねぇ……」

「あ、もしかしてひねったかな?入れなきゃならないように見せかけて実は何も入れないのが正解とか」

「おお、その可能性があったか。とりあえず試してみるか。よーし……解じょアガガガガガガガガッ!?」


 突然コリーが毛を逆立てて何かの攻撃を食らったようだ。

 自分で試さなくてよかったと心から安堵するニールだった。


「だ、大丈夫!?」

「う、腕が痺れてる……これ、この感触……俺の雷に似てるぜおい……やべぇ……テンペストのやつマジで天才か!?」

「いや、でもここで引いたら先輩として立場が……」

「そ、そうだな。よし、とりあえず間違ったのをやると反撃を食らうようになってるようだ。気をつけろよ」


 今度はニールが試してみる。

 がやはり先ほどと同じように合いそうな文字がない。これはもしかして暗号?と思い至ったニールは必死に解読しようと頑張ってみる。

 そしてそこで脅威の事実に突き当たった。


「ねえ、コリー……この魔法錠、入力しなきゃならない文字数めっちゃくちゃ多いよ……」

「何文字だ?10か?20か?」

「ざっと見ても100超えてる」

「ウッソだろおい!覚えられるのか!?」

「も、もしかしたら何かの本の一文をそのまま入れてるのかも……!」


 しかし残念。アルファベットで見ても、大文字と小文字、そして記号と数字が入り乱れたそれは

完全に乱数表示されたものを入れている。

 一字一句間違えずにいられるテンペストだからこそ可能な鍵だ。

 もちろん、そのまま入れただけでは解除できないが。


「くそ……難しすぎるよこれ!とりあえず文字数的にあってそうな文章入れて……ギャァァァァアァ!!」

「ニール!!」

「こ、これ、すごくきっついんだけど!!」


 腕がまるごとしびれて動かせないのだ。

 コリーはまだ自分が扱う分耐性があるからまだよかったが、ニールにそれはない。

 単純にボルト数だけあげた弱電流だから軽いスタンガンを食らった感じになっているのだ。

 殺すつもりなら、電流を増やすだけでいい。


 流石にどうにも出来ないと判断した2人はしばし呆然と扉をみていた。

 まさか新入りの鍵を開けられないなどと誰が思っただろうか。

 そしてロジャーはその様子を見て頭を捻っていた。


「何をしているんだあの2人は。まだ簡単な魔法錠しか教えていないというのにもう諦めたのか?」


 少し発破をかけようと近づいていくと、それに気づいた2人が生気のない目でこちらを見て言う。

 破れなかったと。中身は単純な文字合わせなのに恐ろしく難しいと。

 しかも間違えると反撃までされるらしい。これは教えていない。


「そんなにか?どれ……む……これは……素晴らしいな!」

「感心してる場合ですか師匠!」

「いや、簡単なものを教えただけでここまで作り変えるのかと感心していたんだよ。なるほど、確かにこれは難しい。しかし単純だからこそ抜け道もある」


 ガチャリと音がして扉が開く。

 そして……。


「ロジャー、鍵ごと破壊するのは卑怯では……?」

「ははは!すまんな。しかしあんなに見事なものは久し振りだ。明日はもっと複雑なものを教えてやろう」

「う、お……」

「わ、わぁぁ!テンペスト!隠せって!」


 丁度風呂で体を洗い、出てきた所でロジャーに解錠されたようだ。

 しかし正規の手順を踏まずに解除されたのを、施錠者であるテンペストは感じていた。まるで南京錠が焼き切られたかのように無理やりな手段によって解除されてしまったのだ。

 これでは意味が無いではないか。


 惜しげも無く3人の前に裸体をさらけ出し、その美しさに見とれてしまったコリーと、まさか本当にそれが見れると思っていなかったニールが慌てて顔を背けている。


「ああ、失礼しました。先ほど丁度風呂から上がったばかりだったので」

「いやまぁこっちもごめん。あまりにもユニークな手段だったからつい熱くなっちゃった。これの対策とかも教えてあげよう。じゃぁほら、二人共鼻血出してないで戻った戻った」

「お、おう……」

「裸……女の子の裸……」

「むう……女日照りすぎておかしくなっているのか?少しはなんとかしてやらなければならんか……」


 ずっと女性とは無縁な生活を続けてきた彼らにとって、子供とはいえテンペストは女の子であることをまざまざと見せつけられたのだ。少々刺激が強すぎたようである。

 まあ、後でなんとかしてやろうと決めて今は部屋に押しこむように帰す。


 それにしても……あの難しさは異常だ。

 自分でも真面目に解いたらどれほどの時間がかかっただろうか。

 あれでは2人が解けなかったのも無理は無い。なぜかは知らないが暗号化までされていたようだから。


「これは面白くなってきたなぁ。あんな高度な暗号なんて見たことがない。流石は異世界からの来訪者というわけだ!教えれば教えるだけ強くなれるお手本のような生徒が来たのは嬉しいね」


 教えてもあれだけすぐに吸収して応用までやれるという人材はなかなか居ない。

 精霊であるということを考えても異常なほどだ。それであれば遠慮なしにどんどん教えてやればいい。

 幸い本はあの部屋に揃っているし、勝手に色々と勉強するだろう。


 そしてその夜。

 コリーの部屋の立体型迷路魔法錠が突破され、テンペストによって書き換えられていた。


 □□□□□□


 大魔導師ロジャー邸の朝は早い。

 朝食の前に身体を清めて集中し、魔力の流れを各自確認することから始める。

 それぞれが問題なしと判断したら一通りの課題を終わらせてから朝食を食べに行く。

 はずだった。


「あっれ!?解除できねぇ!?」


 今日は1人、朝食に間に合わない人が出るようだ。

 食堂に集まったロジャーとニールはコリーがいつまでたっても来ないことを不思議がっていたが、1人必死な顔をしてマナの実を食べて口を抑えているテンペストを見て、何となく理由を察するのであった。


「……テンペスト、コリーの部屋に何かしたのか?」

「鍵を解除できたから少し書き換えてきました。難しくはしていないからそのうち解けるはず」

「あの迷路解いたのか……」


 どんなに難しかろうが迷路とは必ずスタートとゴールがあり、そこだけは確実に繋がっているのだ。

 それを経路検索すれば終了する。

 水を流し込んでいくようにかなり強引に進めていき、最終的に最後まで行った経路をたどり解除してしまったのだ。

 ちなみにニールは何度もトライしていたが途中で訳がわからなくなってぶん投げた。

 次は自分の番か?と気づいて食べながら必死でどういう鍵にしようかと考えている所だ。


「仕掛けることも解くことも出来るようになったんだね。流石はテンペスト。今までで一番成長が早いようだよ。今日は……そうだね、昨日できなかった浄化魔法を扱えるようになったら、また魔法錠の作り方を教えてあげよう」

「ありがとうございますロジャー。でもあの解除方法は酷いです」

「ごめんね。今まで見たこと無いくらいの難易度だったからね。まあちょっとタイミングも悪かったけど」

「それに関しては気にしておりませんが……。なぜそんなに皆気にするのでしょう?」


 その答えにこれはテンペストの部屋をちょっと別な場所に移して、完全に男二人と離した方が良いかもしれないと思い始めた。


「まあ……そうだね、その辺の事も教えてあげるよ。理解はしなくてもいいけど、そういう物なのだっていうことをとりあえず覚えてくれればいい」

「わかりました」


 □□□□□□


「なるほど、雄の性欲を無駄に刺激しないようにという配慮ということですか」

「まあそんなところだよ。あの時は正直僕が悪かったけどね」

「いえ、本当に気にしていないので。なるほど、それでアディがあんなにうるさく言っていたのですね。次から気をつけましょう」


 まああの鍵をまともに突破できる人はそうそう居ない。

 同じようなことが次起きるとすれば、またロジャーが無理矢理解除する時くらいなものだろう。

 逆に言えば今のところそれが出来るのはロジャー1人だけだ。

 そしてテンペストはその対策を構築していく。すでに魔法錠でも上級編の方へと突入しているレベルの話だ。


 そしてついにテンペストは浄化魔法をマスターする。

 浄化という言葉の定義が不明確すぎたせいでかなり難儀したものの、要は汚物を分解すればいいことに気がついたのだ。

 尿は不純物を全て取り除き純粋な水へと変え、汚物は無害化して有機物を分解していく。

 アンデッドに対しての効果というのが未だに分からないが、とりあえずは同じことが出来ることを確認できただけでいいだろう。


「うん、汚れは消えてるね。これでトイレも綺麗に使えるようになったというわけだ!感心感心。ああ、そうだ。ハーヴィン侯爵から伝言だよ。『ワイバーンは封印を解除した』だそうだ。クロノスワードで封印していたのかな」

「はい。部品などの劣化が心配だったので。でもこれでやっとこちらに持ってくることが出来ます。最も、ここに来たら調査のために分解することになるでしょう。武装に関しては慎重な取り扱いをお願いします。私の核となる部分も」


 ニューロコンピューターである元の身体の中枢。そこを傷つけられるとどうなるかわからない。

 最悪機体に戻れなくなることも考えられる。


「もちろんだよ。君の本来の身体を見れるんだね、楽しみだよ!すでに職人たちには声がかかっているんだ、それを見られると知ったら大歓喜だろうねぇ」

「どうせあの機体では最後になるでしょう、実際にどのように飛ぶかを見てもらったほうがいいでしょうか?」

「いいね。武装の威力……そのガトリングとか言う奴も。速さは正確にわかるんだよね?」

「わかります。実際に制限をかけなければもっと早く飛ぶことも可能なのですが、断熱圧縮と呼ばれる現象により機体の一部が破損する危険性が高まるためあえて速度を抑えています」

「熱かぁ……まぁ熱に強い金属なら幾つかあるよ。その辺は職人の人達に聞いてみると良いかな?後は学者も数人来るから色々と注文をつけるなら彼らに。最適な物を選んでくれると思うよ」

「感謝します」


 そして……諸々の準備を終え、ワイバーンを向かい入れる準備が出来る。

 下ろす場所は王城近くにある研究施設。広い敷地を持ち、新しい武器の試験なども行っているだけあって周りには高く頑丈な壁が聳えている。


 そこに下ろす前にまず、その性能を簡単に見せるため、王都の外でデモ飛行をすることになった。

 またそのガトリング砲の威力を知るために重装兵の鎧を置いた。

 小さいがテンペストなら撃ち抜けるだろう。


 その頃、ハーヴィン領のサイモンの屋敷ではすでにワイバーンが庭に移動させられ、テンペストが乗り移った。

 また独特の甲高い唸り声がどんどん大きくなり、ゆっくりとワイバーンが空へと上がる。

 王都の方角を見定めると水平飛行へと移行し、爆音を轟かせながらあっという間に見えなくなっていく。

 ワイバーンを守っていた兵士達はこれで一息つけると安心し、ここ暫く倉庫の主となっていたワイバーンの居なくなった倉庫内を片付け始めたのだった。


 □□□□□□


「到着まで後五分です」

「ずいぶん早いねぇ!というかテンペスト、君はここにいても良いの?」

「現在はオートパイロットにしてあります。特に問題ありません」


 王都の城壁の外、巨大カルデラの縁に近い場所で王様を始め関係者が全員出揃っていた。

 外の様子がわからないように王都の城壁を包むように結界が張られ、音を遮断しているという。どのみち王都の中に着陸するときにはバレるのだが、それまでは無用な不安を与えたくないということだった。


 デモの内容としては、一旦最高速で上空をパスし、その後低空でアクロバットを披露。

 燃料の問題でそこまで出来ないので最後は空中に静止した状態で鎧を撃破し、所定の場所に着陸する予定だ。


「あれか?来たぞ!」

「すごい音だ……」


 またワイバーンへと戻ったテンペストの身体をロジャーが支え、その凶悪な唸りを上げて真上を通過するその姿を見上げる。


「……予想以上だよ、テンペスト……あれは……あれを人が作ったっていうのかい?」


 飛竜よりも早い。話には聞いていたが実際に見ると実感する。遅れて音が響きまたゆっくりと向きを変えてこちらへと向かってくる。

 今度は低空だ。


 地面すれすれのところを高速飛行しながら急上昇してアクロバット飛行をしていく。そんな機動の数々を見せているわけだが、何が凄いのかは地上にいる全員が良く分かっていない。

 ただ、自分達が作り始めればあれがいかに高度な飛行であったかを思い知ることになる。


 そして最後に空中で急制動を掛けてそのままゆっくりと下へと垂直に降りて行き、目標である鎧に向かって一秒ほどの掃射を行った。

 そのままワイバーンは指定された場所へと飛んで行く。

 それを見送った皆は即座に鎧の元へと駆け寄った。


「……これは……」

「粉々ですな。唸りが聞こえたと思ったらここで土煙が上がっていたようだが」

「何が出ているのかも見えませんでした。それに当たった時に破裂しているのでしょうか?」

「地面に突き刺さった後もまだ燃えているようだな」


 学者たちはその様子を素早くスケッチして情報を書き入れていく。

 とりあえず今の段階で彼らが分かったことは、想像を超えて早く飛び、意外と小回りは効くこと。

 そして翼竜のように垂直にも動くことが出来ること。見たこともない攻撃方法を持っていることだった。


「……所定の位置に降ろしてきました。すでに燃料もほぼ空です」

「ああ、お疲れ。さてそれでは一度戻ろうか」

「はい。……あ、王様」

「ああ、よい。そのままで良い。ワイバーンとやらしかと見せてもらったぞ。あれは凄まじいな……飛竜よりも早いというのは本当だった。あそこまで早い飛竜はまずおらん。そして最後のあれは聖女エイダからは一番弱い武装だと聞いておるが」

「はい、基本的にあれを使う場面はあまりありません。が、今回はそれ以外を使うと被害が大きくなりすぎるので」


 実際に目にしたあの威力を見て、それが一番弱いものだと言われれば唸るしか無い。

 搭載できるもので強力なものは、この王都を一瞬で消し去ることも可能だと言われ若干引いている。

 そのレベルに該当する魔法となれば集団で詠唱して何とか完成する大魔法と呼ばれるレベルのものだ。

 ここまで来ると事前に潰されて失敗することのほうが多い。

 それを一発放てば確実に出来ると言われると背筋が寒くなる気分だった。


 王都に戻り、ロジャーを始めとして様々な職種の職人たちが集まりワイバーンを観察している。

 すでに大まかなスペック等は教えてあり、今日は一日寸法取りなどで忙しくなるだろうということだった。

 部品点数から考えればそんなものでは済まないのは目に見えているが。


「テンペスト、あの速度を出すための装置はどれかな?」

「こことここのジェットエンジンと呼ばれるものです。もう一つ機体中心部に付いているもので垂直離着陸を可能にしています。急激に速度を上げたい時などはサブ的にそれも使ったりしますが」

「ふむ……動作原理などの説明を聞いても構わないかな」

「はい。少し長くなりますが」


 ロジャーに対してどのような仕組みで推進力を得ているかの説明をする。

 テンペストが語った事を一字一句逃すまいとロジャーは驚異的な速度でメモを取っていた。

 段々に職人たちもその話を聞きに集まっていき、ちょっとした講義のようになっていく。


「……のため、飛行時の風圧を利用した……風力発電の為の…………そうちを…………つか……」

「ああ、駄目だね。今日はもう疲れてしまったみたいだよ。さぁさぁ皆、作業に戻って!」

「全く、新しい発見ばかりですな!まさかこの歳になってこんな面白い物に携われるとは思いもしませんでしたわ!」

「これまでの常識が覆された部分もありますが、まだ未熟と思える場所もあります。こちらのほうが進んでいる部分もあるのでしょうね」


 魔力がない世界では魔力のある世界での常識が通用しない。向こうでは難しい操作でも、こちらでは魔法であっさり解決するものなんていくらでもあるのだ。


「なんにせよ、俺たちゃこれをさっきみたいに飛ばせりゃ良いんだろ?熱に強く、強靭で攻撃をはじくなんてのは流石にアダマンタイト位しか思いつかん。ワイバーンとやらも金属を薄く伸ばした物を外装にしているようだから真似してとりあえずやってみるとしよう。全部の外装引剥して交換してみればいいしな」

「じゃあ僕はこのエンジンとやらを担当しよう。後はそれぞれの武器や動くパーツなんかを制御しているとか言う核の部分を。……テンペストの大事な場所らしいからね」

「解析などは任せるがよい。見ただけで複雑な機構で空を飛んでいるのだと分かる。簡単に考えておったが存外苦労しそうじゃな」


 ロジャーはテンペストを抱きかかえ、屋敷へと連れて行く。

 まるで天使のようなその寝顔に顔をほころばせながら呟く。


「見ていてよ。君の身体は僕達がきっとまた飛べるようにする。いや、もっと素晴らしい物にしよう。そのためにはそんなに寝てはいられないよ、テンペスト」


 その日を最後にMAF-01ワイバーンはその役目を終える。

 自身の皮膚である外装が剥がされ、丁寧に中身が抜かれていく。

 そして……次に目覚めるときには新しい体を手に入れて蘇るのだ。


 機体番号などももう必要ない。それはテンペストの依代となる器、テンペスト自身となるのだ。


トチ狂ってコンテスト応募してみました。

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