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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第四章 カウース大陸編
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第百十一話 遭遇

 更に奥へと進み、また壁が出てきた。

 この壁は更に装飾が施されて、ものすごく手の込んだ造りになっている。

 守りのためでも有るのだろうが、同時に自分の権力を示す物だ。

 磨き上げられたピカピカの門番がその入口となる門を守っている。


「……ここが皇帝の城……」

「相当お金がかかっていますね。魔力的な流れも若干ながら感じます。結界のようなものも張られているようです」

「え、ギアズ大丈夫?」

「……多分……ですが」


 中へ入るとそこは広大な庭だった。

 綺麗に手入れされた庭園。季節の花が咲き、水路を流れていたのと同じような綺麗な水が噴水となって吹き出している。

 人を迎え入れる時にこれがまず目に飛び込んでくるとなれば……相当なインパクトをもたらすことだろう。


 上空を旋回していた飛竜達も、専用の着陸場所があるのかそこへ降り立つ。


 ゲストハウス……と言っても屋敷というよりもホテルのような物だったが、そこへと案内された一行は所定の場所へと案内され馬車、それと魔導車を置いた。

 ゲストハウスの前にずらりと並んだ使用人たちは、先頭の大臣達の荷物を受け取り、部屋へと案内していく。

 こちらから連れてきた使用人たちも同じ階の専用の部屋で生活することになるようだ。


 またもサイモンたちとは離れてしまった。

 ギアズは特別にサイラス、コリーと同じ部屋だ。

 テンペストとニールはいつも通り。


 この人数で一気に謁見できるわけではない為、代表となる大臣達がまず謁見する。

 その後大きなホールで全員集まった状態で夜食が振る舞われる……と言うことだった。

 大臣達が話をしている間は結局のところテンペスト達は暇なだけだ。

 限られた部分だけとなるが、一応庭を散策してもいいということになっているのでそうすることにした。


 □□□□□□


「あ、ギアズ大丈夫だったんだ?」

『何がだ?結界は無かったぞ』

「では侵入者の警戒用だったのでしょう。無事で何よりです」

『そういえばそうだったな、そういうこともあるか……時々忘れそうになる』

「コリー達は?」

『ハーヴィン候と共に話し合いのようだ。周りを見ておく事に決めて儂は出てきたがな……どうせ隠密がもうやっておるのだろう』


 一応、敵地のど真ん中で堂々とやっているのと同じようなものなので、そこまで目立ったことはすることは無いと思うが。


 少し離れた所に護衛達の泊まる屋敷も見えている。

 屋敷というよりは練兵場の様な気がしないでもない。まあ、体を動かせるところがあるに越したことはないだろう。

 兵士には兵士なりの交流の仕方も有るはずだ。


 きれいな庭園のベンチでゆったりとした時間を過ごしていた所、何やら使用人に呼ばれてしまったのでついていく。

 使用人は通常と同じような服装のようだが、やはり白が基調となっておりこちらの文化からすると少し物珍しい感じがする。

 ただ、暑いくらいの気温なのでその涼しげな色使いは暑苦しさがない。


「お、テンペストも呼ばれたか。ってことはやっぱり……アレか」

「皆も来ていたのですね。……心当たりといえばあの無礼者くらいしか思い浮かびませんが」

「ついに肩書ですら呼んでもらえなくなった……」


 顔を見合わせて苦笑する。

 ここにいるのは結局のところ、あの場面に居た者達のみだ。


「失礼。突然のことで驚かれたかと思う、私は竜騎士隊を率いているヴィクトルという。ヴィクトル・フェリシアン・オドラン侯爵だ」


 簡単に言えば、事実関係を知りたいと言うことだった。

 向こう側の兵士たちにも既に聞き取りを終えていて、部隊長との齟齬が幾つかあるためこちらの話も聞きに来たようだ。


 別に隠すことでもないので全て正直に話をしておく。


「ふむ……間違いないかね?」

「無い。彼は我々に……特にカストラ男爵に対して終始無礼な態度を取っていた。彼女が怒らなければ私が同じことをしていただろう」


 言われたことの一部をサイモンが再現すると、ヴィクトルの眉間に皺が寄っていく。

 どう考えても上の者に取る態度ではないのは明白だ。

 それはたとえ相手が子供であったとしても、敬意を払うのは常である貴族としてのふるまいからは大きく外れている。


「……。その言葉が本当であれば……あの者は賓客に対してなんという事を……。然るべき処分を下すことを約束しよう。それと、狩りに関してだが」

「禁止かね?」

「いや、そうではない。が……危険な魔物が多くいるのは確かなのだ。グランドラパルーも確かに食肉としては使うが、それなりの危険は伴う。それを一撃で首を落とすという事が出来る者がいるのならば大抵のことは問題ないだろう。ああ、魔法に関しても街など人が集まる場所以外でなら構わない。そこを心配していたと聞いている」

「助かるよ。こちらも国では暇な時に魔物を狩っては安全確保に努めていたものでね。それこそ飛竜を相手にしたこともある」

「ほう、飛竜を……」


 しばらくサイモンとヴィクトルは話を続けていたが、まあ、和やかに終わったようだ。

 魔法に関しての認識は今まで通りでよく、とにかく街なかでは使わないのが原則だという。

 武器や防具の扱いに関しては、今回はこの城で預かることになる。

 服は着替える必要はないが、灰色の信徒とはなるべく言葉をかわさないように……と言うことだった。


「それは何故?」

「こちらの宗教の教えだ。信徒は神に仕える身となる前に仮の主に仕える。その間灰色の服を着て修行が終わるまでは仮の主が許可した者としか会話が出来ないのだ。破れば神罰が下る」

「内容は物騒だが、分かった。話しかけなければ良いんだな?」

「それが彼らの修行の一部だ。分かってやってくれ……ああ、そうそう。ここでは神を否定する言葉等は言わない方がいい、ということも伝えておかねばな。そちらの国ではどうか知らないが、前にそれでかなり揉めたことがあったのだ。こちらからも後ほど周知を行うが、帝国ではアーレス様こそが我等を導く神であり、我等とともに有る物なのだ」

「忠告感謝する」


 色々話を聞けたところで解放された。

 ちなみに狩った魔物は好きにしていいという。

 どのみち魔物が多くて道の整備が進まないのだから、他から来たとは言えそいつらを狩ってくれるならそれはそれで大歓迎だとか。

 ただ、いくらかは売るなどして還元してほしいとも。


 サイモンはまた他に呼ばれているらしく行ってしまったので、いつものメンバーが残ることになった。


「案の定だったな」

『自業自得だ。もう出世はないな』


 どのような処分が下るかは知らないが、基本的に軽いものではないだろう。

 護衛を務めるように命令されておきながら、護衛対象である賓客に暴言を吐いていたのだから当然だ。


 それにしても、中途半端な時間に終わってしまったため行き場所を失ってしまった。


「命があるのかも怪しいですけどね。さて、ここから庭に行くにもそろそろ夕食の時間でしょう、部屋に戻りますか」

「だな、着替えもしておかなきゃならんしな……」


 夜に向けて準備が必要だ。

 皇帝主催の歓迎会なのだ、こちらもそれなりの格好をしていかなければならない。


「やはりこちらの正装にしたほうが良いのでしょうか?」

「……いや……俺達のでいいと思いますよ。あれはちょっと……」

「ニールの前で着てやりな。喜ぶぞ」

「そうですね、そうしましょう」

「コリー……」


 流石にニールもこういうからかいにはなれてきた気がする。

 まあ、あの装束を着てくれるのなら本人的にはものすごく嬉しいのは確かなのだが。


 □□□□□□


 豪華な場所、豪華な食事、そして始まる社交の場。

 まあ、要するにいつも通りというわけだ。

 今のところテンペストを狙っているものが居ない、という意味では前回の物よりは良いだろう。


 テンペスト達は離れた場所にいることもあり、人があまり来ることもなく大分楽な場所にいる。

 サイモンはそれなりに上のところにいるのでかなり大変そうだ。

 とは言えテンペストやコリーも男爵位であることから、全く人が来ないというわけではない。


 だが、通訳を通さずに話ができると知れた途端に人が増えてしまったのだった。

 大誤算である。


「私は食事を楽しみたいのですが……」

「まあ仕方ないよ……。でもまあ、ハーヴィン候よりマシだからね。みてあの行列」

「確かに。それにしてもニールはそんなにお酒を飲んでも平気なのですか?」

「ん?僕は結構お酒強い方だからね。これくらいなら……」


 ニールはテンペストに注がれている酒も代わりに飲んでいる。

 酒自体は強めのニールなので平気だが、間違ってテンペストが飲んでしまうと以前のように僅かであっても泥酔して眠ってしまうので気をつけなければならないのだ。


 それでもいつもよりもハイペースで飲んでいる事もあって、若干怪しくなっている。

 立食なので人の入れ替わりも激しく、中には例の部隊長を負かしたことを聞きつけている者まで居た。

 ちなみに皇帝への挨拶はまだまだ掛かりそうだ。

 それを盾にして逃げることも出来ない。


 延々と続く挨拶と話をこなしながら、合間を縫って腹に料理を収めていく。

 結局テンペストがジュースだと言われて差し出された、甘い酒を飲んでしまってニールとテンペストは部屋へと戻ることとなった。


「……ほら、テンペスト、頑張って」

「う……世界が、回っています……こんな所で歩けるわけが……」

「ああもう……なんであんな酒なんて飲ませたんだあのオヤジ!」


 大丈夫ジュースだからと言われて飲んだものが酒なのだから本当に困る。

 敵というわけでは無かったとは思うが、本人も酔っていたようだったしもうよく分かってなかったんじゃないだろうかと思ったりする。


「ニール、何処にいるのですか?」

「横にいるよ!?ああこれかなり重症じゃないか!」


 いきなり変な所へ歩き出そうとするテンペストを抑えていると、夜風に当たりに来たのか横から出てきた男にぶつかった。


「お、っと失礼」

「あ、いやこちらこそ失礼しました」

「ん?……君達は海の向こうから来たという……」

「ああ、ええ、そうです。……あれ?何処かで会いましたっけ?見覚えが……」


 何処で見たかは忘れたが、つい最近どっかで見たことのある顔だった。

 ガッチリとした体格で栗色の髪の毛をなでつけた優しげな男。


「私か?私はディノス。ディノス・ハーヴェイ、最近は私の姿絵がそこら中にあるらしいからね。それで見覚えがあるのではないかな?」

「姿絵……ああ!少し前に英雄になったって言う……」


 そこでミレスの脱走した司祭を思い出したが、確かに絵の通りの人物だし何よりも雰囲気が全く違う。

 直接会ったことがないから分からないが、とても高圧的なやつだと聞いていたのだが……目の前にいるこの英雄を名乗る男は顔と性格が一致しているレベルだ。


 とても自然な貴族風の挨拶の仕方も、本当に演じているようには見えない。


 だからと言ってこちらの事はあまり知られたくはない。

 さっさと切り上げて逃げることを即座に選択する。


「過大評価だよ。たまたま上手く行っただけさ……。そちらのお嬢さんは?」

「ああ……ちょっと間違ってお酒飲んじゃって。具合悪くしたんで部屋に連れて行くところです」

「おお、そうか。それは引き止めてしまって悪かった。ようこそホーマ帝国へ、歓迎しよう」

「ありがとうございます。こちらこそ噂の英雄に会うことが出来て良かった。では、失礼します」


 既に眠り掛けてるテンペストを起こしつつ、肩に腕を回してゆっくりと進む。

 離れていく気配を感じてやっとで安心できた。


 動揺を気取られていなかったか?

 何か情報を漏らしてしまっていなかったか?

 もし本当に別人であったとしても用心に越したことはない。


 曲がり角を曲がったところでテンペストをお姫様抱っこして割り当てられた部屋まで急いだ。


 □□□□□□


『サイラス博士、今大丈夫?』

『ああ、今ようやく飯にありつけたところだよ。テンペストは大丈夫かな?』

『僕も今部屋についた所。メイとニーナにテンペストの介抱を任せてる。ねえ、今そっちに英雄が行ってない?さっきそのホールから出る時にちょっとぶつかって話をしたんだ。……話に聞いていた姿と態度何かとは全く別物……。本当に英雄って言われたら分からないくらいだったよ。本当にあれがミレスの司祭なの!?』


 ニールの声が段々早くなっていく。

 明らかに焦っている感じだ。

 しかし内容を聞けば仕方のないことだと分かる。英雄に会った……それは倒すべき敵と遭遇したということ。

 ただし、伝えられた外見はあの太った男とは似ても似つかないものだったが。


 ニールからその報告が来た時、入り口のところで少しざわめきが起きる。

 そちらを見やればついさっきニールが報告してきたものと合致する人物が信徒を伴って入ってきた。


『会ったのか!?ちょっと待って……ニール、栗毛の短髪をオールバックにして、顎髭を整えた30歳前後の男。身長は180cmかそれ以上、筋肉質で白に赤いラインの入った服装……。当たってるかな?』

『それだよ!一応、僕も気がついたからあまり言葉を交わさずに来たからバレてないと思うけど……』

『よくやった。それで良いんだ。向こうは恐らく私の顔を覚えているはずだ……かち合うのはあまり良くないな。ありがとうニール。君はテンペストと休んでいてくれ』


 英雄の方へと目を向けると、皇帝のそばへと歩いていくところだった。

 そして皇帝も立ち上がって彼を迎える。

 今日、皆が来るということで駆けつけてきてくれた、国を救った英雄であると紹介され……確かにディノス・ハーヴェイであると自己紹介している。


 ラウリも横でその姿を見て息を呑んでいた。


「博士……あれが……本当にあれがモンク司祭ですか?」

「予言によればそうだけど……私にも判断できない。何もかもが違いすぎる。髪の色も目の色も背の高さも……何もかもが、モンクからかけ離れすぎている……あいつは何なんだ……?」

「実は影武者であるとか……」

「今のところはそれが一番可能性が強いか……。しかし本人であることも考慮しなければならないだろうね」


 コリー、サイモン、ギアズも何かをスピーチしている彼の姿を注意深く観察している。

 予想以上の変貌ぶりに流石に本人ではないのではないかと、サイラスは思った。

 しかし……前にサイモンが喋っていた事も気にかかる。

 テンペストは自分たちの目の前でその身体を作り変えていた……。同じことが人工的に出来るのならば、もしかしたら。


 だから本人ではないとは断言せず、かと言って後ろで操っている可能性も捨てない。


「なあ、ギアズ。分かるか?」

『いや、儂は元のあやつを知らんのでな……比較する対象が無いとなんとも言えぬ。生きているやつは対象ではないのだ』


 死んで魂だけの無防備な状態であれば、恐らくは判断できただろう。

 だがその時には既に目的を達成しているということになるが。


 結局その場では判断がつかず、騒ぎを起こすわけにもいかない為どのみち放っておくしか無かった。


 スピーチが終わったディノスへ帝国の者達以外にもコーブルクやハイランド、ルーベルの貴族たちも挨拶へ向かっている。

 形式の上だけでもとも思ったが、向こうがどういう行動に出るかも分からないこの状況では下手に姿を晒すのも危険と思えた。


「畜生、あいつを殺せば全て解決するってのに」


 そう呟きながら睨みつけていたコリーとディノスの目があった。

 にっこりと人のいい笑みを浮かべたディノスだったが、コリーに向けたものだったかどうかは分からない。

 しかし、コリーには自分たちに対する嘲りの様に思えたのだった。


 □□□□□□


「ありがとうございます。こちらこそ噂の英雄に会うことが出来て良かった。では、失礼します」


 ディノスはどう見ても子供にしか見えないリヴェリの2人を見送る。

 人族はやがて成長するが、彼らはずっとあのままだ。キールで味わってしまってからはそっちの方が好みになってきている。


「女の方、あまり見えなかったが美しい顔をしていたな。惜しい、帝国の者なら信徒として迎えたものを……」


 綺麗な金の髪。整った顔。

 酒に弱いというのもいい。

 その白い肌を穢したい……。


「いかんな。今日は英雄として過ごさねばならん。……なんだキール?お前の相手なら部屋に戻ったらたっぷりとしてやるさ」


 自分と同じ被害者が出ることへの危機感と、もしかしたら自分は少し楽になるのではないかという期待を持ったキールをみて何を思ったのか。

 ディノスの言葉を聞いてまた絶望へと落とされたキールだった。


 最近ではそういう表情を見て楽しんでいるきらいがある。

 次はこうしてやろう、楽しみにしておけと言えばそれを想像して泣きそうな顔をするキールが愛しい。

 決して懐かず、むしろ嫌われているが故にその反応を楽しむのだ。

 キールの不幸は、嫌えば嫌うほど相手を喜ばせる結果になるのが分かっていないことだった。

 恐らくディノスは従順すぎれば興味を失うのだろうが……。


 賑やかな声が段々近づいてくる。

 出入り口の扉が開かれると、沢山の人達がそこへ集まっている。

 ミレスに居た時には味わえなかったこの優越感。

 自分が話題の中心にいるという心地よさ。


 案内されるがままに中へ中へと入っていくと、ひときわ豪華な椅子に座る若き皇帝が見える。

 彼の横まで行き、丁寧に挨拶を交わすと英雄として紹介される。


 心地よい。

 あの暗くてジメジメした場所ではついにこういった機会は訪れなかった。

 しかし今はどうだ。

 自分を英雄と呼び、皆がこうして会うのを喜んでくれる。


 もちろんその為にも宮廷作法を身に着け、言葉遣いから何から全てを変えていった。

 英雄としての仮面を付けて演じるのではなく、英雄になりきるのだ。

 事実、自分が成し遂げたことで英雄と言われているのだから、自分自身が英雄であることは間違いない。

 だからこそ、それにふさわしい作法を身に着けてゆく。


 顔を変え、体格も性格も変わった気がする。

 この顔で甘い言葉を囁やけば、帝国の女は皆情婦となる。

 酒を飲みながら一晩を共に過ごすことなどはもはや日常だ。


 以前の自分からは想像がつかない。

 声をかければ顔をしかめられ、娼婦はやればそれでさっさと帰る。

 奴隷として使っていたやつだけが唯一の慰めだった。人が嫌いだった。だからこそ司祭という立場でありながら拷問をするのが大好きだった。


 自分を嫌っていたもの達を徹底的に痛めつけ、その苦痛に歪んだ顔を見るのが好きだった。

 あれだけ暴言を吐いたりしてきた者達が、涙を流して懇願するのがたまらなく面白かった。


 それがどうだ?

 今では真逆だ。最初からこうだったらどれだけ人生が変わっていたことだろうか。

 何かをすれば賞賛され、こうして国のトップである皇帝の横に並び立つことが出来る。

 だが……それはこの顔だからではないか?

 元の姿でも同じく賞賛されただろうか?

 ……いや、無い。


 本当の姿を知ったらどう思うだろうか……。

 この賞賛の場へはどんな功績を立てても立てないのでは?いや、実際そうだろう。

 そう考えを巡らせた瞬間、賛美の声が罵声に変わった気がした。

 ああ、そうだ。これが俺に向けられる声だ。


 この中には元の自分を知るものたちがいる。

 ミレスを滅ぼした忌々しい者達が……。

 その者達の声だ、この罵声は。良いだろう、俺はこの国で成功し、やがては国を獲る。

 忘れるところだった。全てを恨み全てを無かった事にしたい。それが俺の望みだったはずだ。

 なるほど、それであれば……。


 周りを見渡す。今はニコニコと愛想よくしているが、きっと中身は違うだろう。俺を蔑んできたもの達と同じのはずだ。

 であればいつか、準備が整ったらその顔を絶望に染め上げよう。

 俺は……絶望に打ちひしがれ、無様に泣きわめく顔が好きだったのだな。


 そこに、自分を見透かしたような目線を感じた。

「お前の全てを知っているぞ」と。誰かは分からなかったが……心からの笑顔を返す。

「やれるものならやってみろ。必ずミレスをそうしたように、お前たちも滅ぼしてやろう」


ディノス「金髪ロリ可愛いprprしたい」

テンペスト「?? ……なにか、寒気が……」

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