第百九話 暴亀竜タラスク
夜になり、雨が止んだ。
あまり長引くようなものでなくてよかったが、それにしても雨が降るとなるとやたらと狂ったように降るのは何故なのか。
まだ地面はぬかるんでおり、水も引けていない。
それでも降り続けていた時に比べれば大分落ち着いてきた感じに見えた。
今テンペスト達はオルトロスの内部で食事をしている。
窓に映し出されるのはフリアーシステムによって補正された暗闇の世界だ。
テンペストの魔力枯渇によって一時的に索敵を切っているが、後少しすれば完全回復できるところまで来ていた。
「サイラスに教えてもらったリジェネレーションがかなり役立っています。急速に魔力が回復していくのが感じられます」
「それは良かった。倒れることもなかったし」
「テンペスト様、おかわりはいかがですか?」
「お願いします、メイ」
持ち込みの食料だが、魔力たっぷりの飛竜肉を食べている。
それを柔らかいステーキにして居るわけだが、テンペストが腹に収めたのはこれで既に3枚目だ。
だが、とても幸せそうに食べているのを見ては止めるのもなんだかかわいそうになってきてしまう。
「ふう……。魔力の消費のせいでしょうか、今日はとてもお腹が空きました」
「ストーンバレット意外と消費大きいからね。トドメにあのブラストだもん、まあおかげで凄く楽になったけど」
「こちら側の被害状況はどうでしたか?聞きまわっていたのでしょう?」
テンペストが休んでいる間に、氷の刃や爆風で飛んできた破片などで怪我をしたものが居るかどうか、ニールは国ごとに聞きまわっていた。
幸い、あの戦闘での負傷者は既に自分たちで用意していた治療術師よって回復しており、死者は出ていない。
帝国兵士の方はかなり痛手を食らっていた者も居たようだが、なんとか戦線復帰までは出来るようになっているようだ。
どのみち一緒についていかないと危険なのだが。
次の日の予定の情報が帝国兵士の方から回ってきたが、明日は予定通りに宿場町で一泊するという。
そこまでは半日もかからないので楽な行程だ。
近くに居た魔物は殆ど先程の戦闘で消えているため、あまり気にしなくても良さそうだ。
翌日、天気も回復し予定通りに出発。
そのまますぐに宿場町へと到着した。時間は掛かるが戦闘での負傷者や、魔法を使ったものの回復のためにも休息は必要だ。
これと言ってすることもないため宿で汚れた服などをメイ達に洗濯してもらい、食料などを買い込んでいく。
意外と近い範囲に宿場町があるせいだろう、あまり日持ちしないものでも普通に売っていた。
「……ニール、少し町を離れて狩りをしますか?素材などが目当てですが」
「良いね。コリー達にも声かけてくるよ」
ここまでかなりの魔物を屠ったのだが、殆どその素材と魔晶石は回収できていない。
回収したものも既に研究所へと送っているので手持ちもない。今は向こうで研究されているだろう。
また魔物の素材なども色々と気になるのだ。
昆虫と爬虫類が混ざったようなこの国の魔物は見た目はグロテスクだが、独特の進化をしているという点ではこちらも研究対象として気になってくる。
何よりもあれら以外にも何か居ないのか?という事も知りたい。
コリー達が来る前に、宿の近くの店などでこの付近に出る魔物の話を聞いてみたりしたところ……食肉として使える魔物や植物系の魔物がいくつか居ることを知る。
さらにスワーム達がこの町を襲わない理由として、その植物の魔物があるという情報も得た。
スワームは数が多い。その為食料となる肉……つまり獲物をその数に見合う分だけ食べ続けなければならない。
しかし彼らには天敵とも呼べる存在がおり、それが植物系の魔物であるアンフェルドフルールだ。
地面に根付くとその周囲の土を無くしてそのスペースに自身を埋め込んでいく。中心に巨大な花がありそれはスワームの好む臭いを出している。
この香りでスワームが引き寄せられていくと……周辺が落とし穴と化したそこに落ちてゆくのだが一瞬で消化されては栄養にされていく。
それがいくつも咲いている場所はスワームがそちらに惹き付けられるため、町を形成していても問題ないのだそうだ。
だから見つけてもアンフェルドフルールには近寄るな、と言われている。
自分たちを守る盾でもあり、不用意に近づけばその強力な消化液によって跡形もなく消えていく。
危険になるだけなので手を出す意味もないのだ。
「じゃぁそのアンフェルドフルールは一体だけサンプルにして、後はほっとこうか。ハイランドで根付くわけでもないかもしれないし……」
「最悪魔晶石があればいいです。ここの町から周囲1キロ圏内にはその魔物が居るためスワームはそれ以上内側には入ってこないようですね」
「魔物との面白い共存関係だな。まあその花だかの圏内から抜け出せば魔物が居るわけだな?」
「そうなります。グランドラパルーとかいう、大きな耳が長くて狼のような風体の魔物が居ると聞いています。オークの様な魔物も居るそうですよ」
「後は適当にわんさかいるスワーム共のサンプルも欲しいな」
どうせ昼を食べたばかりだ。その程度ならオルトロスですぐにつく。
さらに言えば煩い奴らが居ない為、自分の武器を使えるのだ。
サイラスはサーヴァントを扱えるということだ。
今回はサイモンとギアズもついてくるので、魔物は彼らに任せたい。
ではテンペストとコリーはといえば……当然空だ。
周りにだれもいないことを確認し、姿を消した状態でこの付近の地形などを記録していく。
オルトロスに乗って町を出る。
途中で護衛の帝国兵士に見つかって理由などを色々と聞かれたが、ちょっと魔物狩ってくると言ってそのまま振り切ってきた。
追いかけようにもこちらのオルトロスには敵わない。
「ああ、あれがアンフェルなんとかって花か」
「ちょっと、想像以上の大きさでびっくりだよ……。あの花サーヴァントよりでかいんじゃないの?」
「高さは確実に大きいですね。その下の葉の部分もかなり広範囲に広がっていますが……あれが落とし穴というわけですか。見た目では絶対分かりませんね」
実際に見たアンフェルドフルールは……その辺の木よりも大きいのではないかと思えるほどだった。
それがある程度の間隔を開けて咲いている。
茎は大木のごとく太く、その上に大輪の花を咲かせている。
臭いは確かにあまりいい臭いではないが、腐った肉の臭いなどを想像していた分少しマシな感じがした。
一箇所、隣り合って咲いているところを発見したので、片方を仕留めて魔石を得ることにした。
周りにだれもいないことを確認し、サーヴァントを取り出す。
周りの葉っぱを踏まないようにして中心の茎へとジャンプし、魔力が集まっている根元付近めがけて剣を振るった。
木の様な堅さはなかったようで、あっさりと横一文字に切られたその断面の直下に魔晶石を発見する。
「結構大きいね?」
「魔物を食べていた影響かもしれないな。あの集団で襲ってくる奴らを食べ尽くして成長していたんだ、恐らくそれの一部があの魔晶石へと蓄えられているのだろう」
『それに、あれは見た目以上に魔力を内包しておるようだぞ。それでも狩られないということはそれほどスワームが脅威ということなのだろうな』
ずるりと魔晶石を引き抜くと周りの葉っぱも枯れていき、隣にあった花がそれを吸収した。
慌ててサイラスが飛び退くと、2つの花を統合したかのような広い罠を持つようになったようだ。
「……仲間が死ぬとその場所を乗っ取るのか。貪欲だな……」
『とりあえず、第一目的は達しました。テンペスト、これをガレージへ』
「ええ。では一旦サーヴァントも戻してオルトロスで移動します。もう少し向こう側に魔物の反応がありますので。現地へついたら私とコリーは偵察へ出かけます」
10分ほど移動するとグランドラパルーらしき魔物を発見する。
勝手な想像とは言え、兎のような耳をした狼を想像していたのだが……色々と裏切られた。
確かに遠目ではそういう風に見えるのだが、兎の耳の様に長い何かを持った狼に似た恐竜の一種とでも言えば良いのか。
ともかくどう考えてももっと別な例え方があったんじゃないだろうかと思ってしまうものだった。
しかし味は良いということだから狩るのは決定だ。
ただしでかい。
1匹が地球で言う象のくらいはあるのだ。
「……ねえ、あれ本当にそうなの?想像と違いすぎてがっかりなんだけど!まさかこんな凶悪な顔してるとか聞いてないよ!」
「私も外見の特徴しか聞いていないのでなんとも……。とりあえずこれらと見つけたらスワームもお願いします。コリー、行きましょう」
「おう。久しぶりのマギア・ワイバーンだな!ポートキャスの上も飛んでみるか?」
「出来れば。ワイバーンなら問題なく短時間で往復できますので。偵察用ポッドを装着したので問題なく調査は可能です」
久しぶりにマギア・ワイバーンが青空のもとへと出現する。
テンペストはオルトロスの中で横になり、意識をワイバーンへと移す。
感覚が研ぎ澄まされ、人の体では感知できないところまで全てを見聞きするその感覚は、きっとテンペストしか味わえないだろう。
『魔導エンジン始動、ステルスモードへ移行します』
「便利だよなそれ……。外からは見えないんだろ?」
『その通りです。光学迷彩のように存在をごまかすと言うよりは、存在そのものが消えているように感じる……そのような物です。高速で飛んでも解除されませんが少しでも攻撃を加えると解除されてしまいます』
「……一応、火器管制はそっちでロックしといてくれ。上昇したら一気に高空まで上がってこの辺の地形を記録するぞ」
『了解しました』
浮遊で垂直上昇していき記録を開始する。
雲があるのでその下を飛ぶようにしながらゆっくりと旋回していく。
テンペストの眼には様々な魔物の姿が捉えられており、聞いていた魔物以外にもかなり種類と数が多いことがわかった。
傾向としてこちらの魔物は身体が大きく、全体的に爬虫類の特徴がある。
シールドボアを大型化したようなものまで居た。
しかも巨大なモーニングスターが尻尾の先についている凶悪さだ。
たまたま魔物同士での喧嘩でそれが襲われているところがあったので観察してみたが、頭のシールドで巧みに敵の攻撃を防ぎつつ、鞭のようにしなる尻尾で真横や真上と言った死角からモーニングスターが振るわれる。
囲まれると弱そうだが、1対1なら相当強力な魔物だろう。
今テンペスト達が泊まっている宿場町の周辺は全て草原で、アンフェルドフルールの生えている辺りを堺に低木などが生えてきている。
大きな川も流れており、宿がある所は少し不便な場所だ。もう少し川が近ければ色々と楽なのだろうが……恐らく水獣のせいでそうも行かないのだろう。
地下水が多いのか井戸は多いようだったのでそちらで賄えているのだろうか。
もう少し広く見ていけば、全体的に起伏が少なく内陸に向かって標高が上がっている。
ギアズが自然豊かな場所だった、と言っていた通り街の壁の境目の範囲外はとても豊かな自然に囲まれている。
「……広いな」
『国土自体が恐らく私達のカロス大陸とほぼ同じ程度はありそうです。3カ国全てを合わせてもこの国よりも小さいということになります』
「想像もつかねえ……。これ、貿易始めて大丈夫なのかね?」
『今まではあの海流の守りがありましたが、これからは期待できなくなるでしょう。そうなった時、帝国が攻めてこないとも限りません。ただし、遠く離れたあの大陸を乗っ取ったとしてそこまで意味があるとも思えません』
「まあ、遠いしな確かに。よし、町の周りは良いだろう。もうちょっと高度上げて一旦海岸沿いの方も見ていくぞ」
これだけの国力を持った国であっても、あの海流を突破するには至らなかった。
言い換えれば戦力差が大きな国であっても、攻めて来ることが出来なかったということ。
その先にあるカロス大陸を手に入れようとしても、行くことができなかったために侵攻を免れていた可能性があるのだ。
その守りが無くなった今、もしこの国の海軍が攻めてきたら?
恐らく、テンペスト達が居なかった頃であればあっという間に負けて植民地化していただろう。
ハイランドだけは残ったかもしれないが。
広すぎてワイバーンであっても相当な時間がかかる。
大陸全土は無理と判断し、よく使うことになるだろうポートキャスの周りからこの場所にかけてのデータを集めることにした。
正確な町の位置などが分かれば色々やりようはあるだろう。
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一方、残された側の方はといえば……。
手早くグランドラパルーを仕留めてはニールが回収していた。
少しだけ試食してみたら意外と美味かったのだった。食肉として狩られるのも無理はない。
既に4頭狩り終えたのでサンプルとしても十分だ。
「切り分けるだけでも大変だね、このサイズだと」
「町でやれる人に頼めば良いだろう。その分のお金をひいてもこれの買取価格は良いものになりそうだ。サイラス、こいつらはもう良いだろう。他にサンプルになりそうなやつは近くに居るか?」
「えー……ここから南東に大きめの反応が。グランドラパルーより大きいですねこれ」
『ふむ。ならばそれも狩ってしまおうではないか。ニール殿、まだ余裕は?』
「これくらいなら平気だよ。古い方に詰めてるけどまだまだ入るから大丈夫」
ならば、とオルトロスでその反応の近くまで行くと……。
オークをより凶悪にした感じの魔物が、その集落を襲っている巨大な魔物を攻撃しているところだった。
巨大な魔物は4本足で地竜とトラを混ぜたような顔つきと身体を持ち、背中には棘の生えた甲冑のようなものをくっつけた、そんな変わった魔物だった。
前足は人の手と同じように器用に使えるようで、オークを掴んでは口に放り込んでいる。
「竜……ではないみたいだが……」
「ねえ、これ逃げたほうが良いんじゃない?」
『いやぁ……無理じゃないかな?オークっぽいのがこっちに気付いた。多分……』
「気づかれたようだな」
『うーむ……見たことがあったな……何だったか……。あれは分かるぞ……』
オークは新たに現れた脅威にパニックになり、そのオークの様子に気づいた巨大な魔物はゆっくりとこちらを振り向き……威嚇の声を上げた。
ギアズが何やら知っていそうな感じだったが、そんなこと悠長に待っている暇など無い。
サイラスの操るサーヴァントが前に出て、巨大な魔物からオルトロスを守る。
『なんかやたら強そうですね……』
手に持っていたオークの胴体を握りつぶしサーヴァントと相対する。
高さは大体同じくらいだがサーヴァントのほうがどう見ても小さい。
完全に重量負けしているのだ。
ぐっと姿勢が低くなったと思ったら、その巨体に見合わない素早さで一気に距離を詰めてきた。
そのまま喰らえば思いっきり吹っ飛んでしまうのは明白。
思いっきり頬の辺りを殴りつけながら、腕に仕込んだ機銃を数発ぶっ放しその勢いのまま横に飛ぶ。
思わぬ反撃を食らった巨大な魔物は、大きくよろめき、機銃によってえぐられた頬肉の所へ手をやり出血を確認した。
妙に人間臭い動作をするものだと思ったのもつかの間、明らかに激怒した様子の巨大な魔物がゆっくりとこちらを振り向いている。
『あ、これはまずいですね……。ニール、そこから少し離れて!』
「ひいっ!?」
『タラスクだ!』
「何が!?」
半分パニックになりかけながらもオルトロスを急発進させて距離を取る。
同時にギアズが何か言っていたが余裕がない。
後ろを見ればサーヴァントが思いっきりふっ飛ばされているのが見えた。
「さ、サーヴァントが!?」
「ニール、落ち着け。あの魔物が見える所に止めてタレットを使えばいい。運転は私が代わろう」
「あ、ありがとう……うん、そうだね。サイラスがあれだけでやられるわけないし……」
タレットの操作をするために後部座席の機銃席につく。
スイッチを入れて機銃を解放し、ガンカメラとモニタを同期させる。
一連の動作をしている間に落ち着きを取り戻していくニール。
「……よし、準備できたよ。で、ギアズさっきなんか言ってたけど……」
『ああ。タラスクだ。あの魔物の名前だ、ようやく思い出せたわ』
「名前思い出したついでに弱点とかがあったら教えてもらいたいのだが?」
『ふむ。まあ見ての通り力が強く好戦的。意外と器用で知能も高い。基本的には見かけたら逃げろと言われる魔物の一種だな。これと言った弱点は特にないが、背中は硬質な鎧と同じで攻撃を殆ど受け付けん。狙うなら腹か頭だろう』
「……大して役に立たないアドバイスだった……」
結局生物の急所である頭部を狙う方向で行くことにした。
サイラスにも連絡を取って連携を図る。
『まあ、それは良いんですけどね!こいつ、力が半端じゃ無いんですよっ!距離を取ろうにも……仕方ない、ニール、私が頭を抑えているからかましてやってくれ!』
「だ、大丈夫なの!?」
『サーヴァントが壊れるだけなら良いでしょう、どうせ治りますからね。こいつが腹を狙い始めたらそっちのほうが危険なんですよ』
「分かった!……少しの間だけ、動きを止めててくれる?」
サイモンが狙いやすそうな位置へとオルトロスを動かしてくれる。
近すぎず、遠すぎず。サーヴァントとタラスクと言われる魔物が組み合っている真横の位置へ。
パンチを繰り出そうとするサーヴァントの手を、タラスクの腕が止める。
なんとか頭へと照準を定めたいサイラスだったが、予想以上にタラスクの力が強い。魔力筋が悲鳴を上げる音が聞こえてくる。
手首を捻ってパイルバンカーを打ち出すと、まるで太い注射器がタラスクの腕に刺されたかのように大穴をあける。
その勢いのまま機銃をまた打ち込みつつ、タラスクの頭部へと手を伸ばし……。
『取った!!』
喉を掴み上げて頭を上に掲げた。
それを合図にニールがすぐさま照準を合わせ直し、トリガーを握り込む。
一発目から狙いを違わずにタラスクの頭部へと着弾し、硬い角が吹き飛んだ。
次弾からは目の周りを大きくえぐり時には頭蓋を粉砕しながら、血しぶきと肉片を撒き散らしていく。
しかし頭蓋もやたら硬いらしく、かなりの弾が骨の外側で弾かれてあらぬ方向へと吹き飛んでいるようだ。
見た目の割にダメージが少ない。
が、まともに行動ができるほどの傷かと言われれば違う。
頭部が半壊しているというのに、まだ戦意は失っておらずサーヴァントの拘束を振りほどこうとめちゃくちゃに腕を振り回していた。
片腕は封じているが、もう片方は頭を抑えているためフリーの状況。
何度目かの死にものぐるいの攻撃がついにサーヴァントの腕に致命的な傷を負わせることに成功してしまった。
ガントレットに取り付けられたシールドが吹き飛び、肘から先の力が失われていく。
欠損はしていないものの腱をやられたのだろう。
頭部を支える力がなくなり、タラスクが自由になってしまった。
その頭がゆっくりとニール達の方を向いている。
その意図するところを感じ取ったサイモンが急発進させ、ニールは狂ったように弾をばらまく。
凄まじい咆哮とともに痛手を負わせたニールに怒りの矛先を変えて、姿勢を低くした……その時。
『敵前でよそ見とは随分と余裕ですね?腕はもう一本あることをお忘れですか?』
サーヴァントの残った左腕が下顎を抉るように打ち上げ、同時にパイルバンカーを発動する。
電磁加速によって一瞬で伸び切ったオリハルコンの杭は下顎から頭蓋を突き破り一本の角を増やす。
凄まじい量の血がサーヴァントの腕を伝い流れ落ちていき、ついにタラスクがその力を失った。
「サイラス博士?」
『大丈夫だ。サイラスは生きておるぞ。タラスクに打ち勝った者をこの目で見ることが出来るとは……長生きはして見るものだな』
『そこまで余裕ではなかったんですけどね。無事ですよニール。ただ、サーヴァントをもってしてもここまで苦戦することになるとは思いませんでしたね……強すぎる』
『そうだろうな。タラスクは厄災そのものと言われて居る魔物で、この大陸でも上位の魔物だからな』
「……そういうのは早く言ってほしかったね……。どのみち逃げれなかったから仕方ないけど……」
オークの亜種の様な魔物は先程の戦いに巻き込まれて死んでいたものを回収し、タラスクもそのまま回収する。
ニールの容量もタラスクのおかげでかなり埋まってしまった。
サイラスの連絡を受けたテンペストが戻ってくるのはそれから少したってのことだ。
その破壊の具合を見て眉根を寄せたテンペストだったが、それは壊されたことに対する怒りなどではない。
まだ、改良の余地があったのかと自戒する物だった。
「タラスク、ですか。オルトロスの装備でも間に合わないとなると、レールガンを使う必要がありそうですね。次からは遠距離で問答無用で打ち込みましょう」
「素材としては飛竜に匹敵するものがあるぞ。この背中の甲羅、何で出来てるかわからんが物凄い堅さだ。皮膚もナイフが刺さらんし……テンペスト、お前の鎧に少し加工してもらうと良いんじゃないか?」
「そうですね……。考えておきます。スワームはサンプルを取れませんでしたがこれだけ強力な魔物を確保できたのですから問題ありませんね。ニールの倉庫から私のガレージへと移しておきます」
戦果である魔物をガレージへと送る。
当然サイラスのサーヴァントも指示書と一緒に送っておいた。
後はオルトロスのガトリング砲に使う弾を補充し、通常弾から徹甲榴弾へと変更しておいた。
ちょっとした魔物ならはじけ飛ぶだろう。
グランドラパルーは2匹を残して残りはニールに渡して町で売ってみることにした。
この物語のタラスクのイメージとしては赤みがかった肌をしたジンオウガの背中にアルマジロみたいな硬質の鎧と鋭いトゲが生えてる感じだと思って下さいw
表現するにもなかなか難しいですね……。