第十話 魔法を使うために
王様を含め主要な人物には重要な事を全て話した。
彼らのみであれば恐らく問題無いだろう。
人工的に造られたという事に関してはやはり口外禁止となったが、その代わりここにいる間は保護してくれることになっているので問題ない。元よりあんな危険な情報、あの場以外では言いたくはない。
とまぁそれらしいことを言い訳しているが、結局のところ重たい責任を1人で抱えるよりは上にぶん投げたほうが楽だと考え直しただけだった。
「テンピーも大魔導師様の所へ行ったし、ちょっとだけ肩の荷が下りた感じだな」
「そうですね。でも……精霊らしくない精霊というのも面白いものです。テンピーは可愛いですし、正直妹のように思っています」
「確かに。しかし、精霊らしくないか……あれは私から見ても人間としか思えない振る舞いをしているが、人工知能というものはやはり人間を元にして作られているそうだからなのかね?」
「人工的に人間を作り出す、というのであればホムンクルスが研究をされておりますが……。考え方としてはゴーレムに人の魂を埋め込むのと同じような感じに思えます」
考え方としては一番近いだろう。
そのゴーレムに埋め込む魂を無から作り出したものであるという所が違うくらいだ。
そして、この世界にはすでに近い存在もいる。
「まるでリビングアーマーだな。死人の魂が入っている以外は似ている。そう考えると……向こうの世界ではリビングアーマーみたいなのが強力な武器を持ち空を飛ぶような世界か?……恐ろしすぎるだろう」
「でも、復讐心や生者に対する憎悪で動くリビングアーマーと違って、明確な意志を持っています。彼女はきっと危害を加える存在以外には敵に回らないのではないでしょうか。彼女を見ていると……時々とても冷徹に行動しますけれど、それは兵器として生み出されたことからでしょう。つまり一緒にいる私達次第では彼女は恐怖の存在にすらなり得る。そういうことはさせたくありません」
それはサイモンも同じ気持だ。
ここ2ヶ月ほど一緒に暮らしてきて、戦闘知識以外は無垢な存在であることはよく分かっている。
子供と同じで嬉しい時には笑うし、痛い時には泣く。未だにお漏らしもしているし、美味しいものが目の前に有ると我慢できないし、疲れると糸が切れたマリオネットのごとく突然眠る。
そんな子を道具として扱えるわけがない。
1人の人間としてテンペストの意志を尊重したい。
「……とりあえずはミレスの監視かねぇ……あの森を抜けるのが面倒だが……」
「宵闇の森ですね。あそこには未だにあの厄災によってあふれた魔物が闊歩しています。実際に戦っている他の国の情報を頼ってみるのが良いのではないでしょうか」
「そうだな。そっちの方が早いか。新兵器だー!って言いながらも案外微妙なものばかり作り出しているらしくてまともにやりあった時にはなんとか押し返せるらしいからな。ただ……その兵器に関しての統計をとっているのかもしれない、という話もある」
「小競り合いは実験ですか?」
「死者が少ない。魔物を押し返した割に威力が貧弱すぎる。……というのが理由みたいだがね。かと言って話を聞く国でもない上にこっちから人も入れない。密偵を放っても人口が少ないから溶け込めない……死人も殆ど居ないし遠距離での撃ち合いになることが多くて鹵獲も出来ていない」
殆ど実態がわからない国なのだ。
全体が宵闇の森近くの小さな国に引きこもり、とてつもなく高い、頑丈な城壁をもつ。
国内には湧き水があり、食料なども困っていないという。
鳥人が空から監視してみたところ、確かに大規模な畑などは確認できたそうだ。しかし……輸出も輸入もなしにどうやって武器を作り出しているのかが分からない。
どの道、危険度が低いと言っても何をしでかすかわからない以上監視は続けていくほかない。
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「やあ!ようこそ僕の屋敷へ!歓迎するよテンペスト」
「今日からよろしくお願いします、ロジャー」
数々の優秀な魔法使いを育ててきた大魔導師ロジャー。
しかしその見た目のせいで誤解されることもあり、子供に教わるなんて!と帰っていくものも居たりする。もちろん、そういう人は謝ってきても二度と取らないし、逆に信じて付いて来た人はもれなく優秀な魔法使いへと成長する。
そのロジャーの元へテンペストは弟子入りしにやってきた。
現在の弟子は2人。
ロジャーに弟子入り出来るものは特別な才能や力を持ち推薦されてきたものか、内に秘めた力をロジャーが見出したりした時くらいにしか受け付けないため少ない。
それに大勢に教えるのではなく、一対一でしっかりと教えていくスタイルなため多すぎると色々と問題があった。
「彼らは今僕の所で修行中の2人だよ。ここにいる間は身分は無く、皆等しく僕の教え子だ」
「私はニールって言います。リヴェリ族でロジャー様に見出されてここに来て1年になるよ」
「俺はコリー。見ての通り獣人だ、よろしく頼む」
「テンペスト、人族です。お二人共よろしくお願いします」
ニール。リヴェリの青年。……と言っても見た目はどう見ても少女?だ。
そして青年と言ってもすでに90を超えている。ロジャーが旅をしている途中で見つけた人材だ。
オレンジの短髪、茶の目であるロジャーと違って、薄紫色の首まであるボブカットで青い目をした少女のように見える少年である。声も高くてやっぱり女の子にしか見えない。
コリーは犬型の獣人だ。狼型とは違って性格は穏やかだが鼻が利き、足が早くて力も強いのは同じだ。
ゴールデンレトリバーのようなふさふさした茶色い毛並みをしており、人と獣の中間……よりは獣よりといった所。耳は髪の毛とほぼ一体化して見える。
このメンバーの中では唯一大人並みに背が高いが、一応まだ青年である。
獣人は成長が早く子供の時期が短いのだ。貴族の出であり、ここに来たのも推薦から。
「人族ってことは、もしかしてまだ子供なの?」
「はい、私は今10歳です。恐らくみなさんの中で一番年下となります」
「まあ、ここに来るってことは優秀なんだろ?」
「彼女は優秀みたいだけど、まだ自分の力を引き出せていないようだね。まだ魔力が安定していないようだから仕方ないと思うけど、それでも初歩の魔法で最大限の威力を出せるそうだよ。その辺は部屋を案内して食事をとったら実力を見せてもらおう」
「分かりました」
割り当てられた部屋はとても弟子の為の部屋とは思えなかった。
広い室内には本棚があり、そこには数々の本が詰まっている。そのどれもが高級品であり製紙技術が安定していないなかでこれほどの本を所有しているものは少ない。
が、それはこれまで弟子として取っていた者達が後輩のために書き記した教本でもある。
さらに、部屋の中にまた小さな区切りがあり、そこの扉を開ければトイレと風呂が現れた。
「これも日々の練習のうちの一つでね、全て自力で使わなければならないんだ。光石は自分で魔力を込め、風呂の水は自分で貯め、トイレは自分で浄化する。出来なければずっとトイレは汚いままだし風呂には入れない。夜になれば暗くなって書物は読めない」
扉に鍵をかけるのも解除するのも全て魔力を使って行う。
ちなみに、鍵は他の人に解錠される。未熟だと部屋に帰ってきた時には戸が開け放たれているという事だ。これも、より複雑な鍵を作り出すという練習になっているし、逆に鍵を開けるという練習にもなる。
魔法錠と呼ばれるそれは、通常の鍵のように物で開けるものではないため、隠し扉などに使われたりしている。この技能自体は簡単なようでとても奥深く、その難しさは魔法使いの知能を表す。
「魔法錠、ですか……どうやって使うのかをまだ知らないのですが」
「僕が教えるよ。そしたら自分で鍵をかけておくと良い。出来るようになったらコリーとニールが解く。もちろんコリーとニールの部屋の鍵もテンペストが解いて構わない……けど流石に難易度が高いかもしれないけどね。暫くは僕が作った練習用の魔法錠で練習だよ。まあ君は精霊であるとはいえ、魔法の初心者ということだから部屋で使わなければならない技能は今日の内に全部教えるよ。後は出来るまで頑張って練習だね」
「助かります」
差し当たっては、持っているものに魔力を通じる練習。増魔の杖のように持っているだけでそれを自動で行ってくれる物もあるが、ただの樹の枝などにも自分の魔力を通じることでそれ自体を強化したり、魔法を付与することが出来る様になる。エンチャントだ。
土木工事などには必ずそれを行い、しっかりと地盤を固めたりするのによく使われるし、戦闘職の者でも剣にエンチャントをしたり矢にエンチャントをすることで特定の効果を追加する。
鍛冶師の中でもこれを得意とする者の武器などは、一見ただの鉄の剣であっても性能で言えばその3つ上のランクの武器と同じという物もある。
かなり有用な魔法だが、少し特殊なので完全に扱えるものは限られている。
重量軽減もエンチャントの一つだ。
とりあえず普通の人でも魔力を流すことくらいは大体出来るし、これが出来ないと光石に魔力を補充できない。
次に浄化魔法。
生活魔法の中でも恐らく最も使用頻度が高い。不浄を浄化するもので、強力なものであればアンデットに対する有効な攻撃魔法にもなる。
排泄した時などに大便であれば砂に変え、小便であれば水に変える。少々風呂などに入らなくてもこれを使うことである程度は清潔を保つことが出来るため、旅の必須魔法とまで言われている。
とは言えあまりにも汚い場合には限度がある。というのも、あまりにも強い浄化魔法を掛けたり、何度も自分に対して使ったりした場合今度は病気になりやすくなったりという副作用もあるのだ。
だから結局のところ思いっきり汚れた場合には水で身体を流すのは必須だった。
物であれば特に気にする必要はないが、今度は範囲が広くなればなるほど莫大な魔力を必要とする事になり家一軒をまるごと浄化となれば相当な力を持った者しか無理だ。
風呂の水に関しては水球が出来れば貯められる。後はそれを上手くどうにかして沸かさなければならないが、その訓練だ。2つ以上の魔法を同時に操る複合魔法、それの初歩を毎日行うことで身体に覚えさせていく。
説明が終わった後に案内されたのは食堂だ。
すでに食事が用意されており、その皿の上に乗っているものは珍しい物ばかり。
「これからは食事はここで皆一緒にとる事になるよ。マナを大量に含んだ食事で、魔力の回復が早まり、これを食べ続けることによって少しずつ体内の保有魔力量の上限が上がっていく」
「……味はあまり期待するなよ、テンペスト……」
説明するロジャーの後にコリーが渋い顔をして呟く。
それを聞いてロジャーは苦笑いしていた。どうやらあまり美味しいものではないらしい。
「私も慣れるのには苦労しましたよー……酸っぱいかと思えば渋い後味が残って飲み込んだ後も独特のエグみが舌に残るんだ。まあ今でも慣れてませんけど!これだけは食事の前にさっさと食べてなかったコトにしたほうが良いですよ」
「全くだ……俺も暫くは吐いたぞこれ」
「慣れればそこまで酷くはないんだけどなぁ」
「師匠が特別なんじゃないですかねぇソレは」
見た目はグレープフルーツ大の紫色した果物。
皮を剥いてその中身を食べるということだったが、まずその皮が2センチほどもあって剥きづらい。
何とか剥き切って恐る恐る食べてみると……。
「!!!???」
怒涛の勢いで酸味と渋味が襲ってくる。僅かに甘みがあるがむしろ今のこの状態での甘みは不味さにしかならなかった。舌がビリビリとしびれるような感覚になり、飲み込もうとしても本能的に胃がそれを受け付けようとしない。
「が、頑張れテンペスト!それ喰わないとまともに飯が食えんぞ!」
「タイミングを見て飲み込むんです!」
ぼろぼろと涙が溢れてくる。
吐き出したいけど必死で我慢しながらなんとか一気に飲み下すことに成功した。
そして一言、何かを喋ろうとした瞬間、決壊する。
「まぶっ……おぉ……おえぇぇぇっ……」
床に盛大に胃の中のものぶちまける。
涙と鼻水とよだれが止まらない。なんでこんな目に合わなければならないのか、という考えが頭によぎるものの、兄弟子2人はまずそうな顔をしながらもなんとか食べきっている。
しかし……5分の4を残してもう身体が受け付けなくなっていた。
「げほっ、げほっ!」
「……気にするな、ほら、俺も最初はそうだったよ……って言うか何日か本気で飯が食えなくなった位だ。獣人にはこれは辛すぎるからな」
「そういう意味ではまだコリーより私はマシだったんでしょうけど、それでも完食出来たのは10日後くらいでした……初日ですから仕方ないです、気を落とさないで、ね?」
「慣れればこの酸味が癖になるぞ?」
涼しい顔をしてもしゃもしゃとそれを食べるロジャーと目線で抗議している2人。何とか立ち直ったものの、未だにあふれる涙と鼻水でひどい顔をしていた。
床はすでにロジャーが片付けてすっかり綺麗になっている。
「うう……こんなに体が受け付けない食べ物は初めてです……ぐすっ」
「泣くなよ……」
テンペストが弟子入りした初日、すでに食事の段階で心が折れかけたテンペストだった。
しかし何とか意図的に味覚を押さえて全てを飲み下し、それでも身体が拒否して吐き出そうとするのを我慢して落ち着いてから漸く普通の食事にありつけるようになった。
初日であれを完食し、何とか食事を取れたのは長い歴史の中でも数名しか居ない。
そしてその数名は全てが大魔導師足りえる高名な魔法使いへと成長したのだ。ロジャーの中でテンペストの評価が一段階上がり、兄弟子2人も幼い女の子が泣きながらもあれを完食してみせたことに驚いた。
「どうかな?ここの食事は」
「食事『は』美味しかったです」
「ははは!まあ慣れるさ。嫌でもアレを食べてもらうよ、君みたいに小さい時から食べればオトナになる頃には相当な魔力を持てるようになるハズだよ。皆でここで少し休むと良い。時間になったら使える魔法を見せてもらおう」
食事をするだけでぐったりとしているテンペストを、兄弟子のコリーとニールが慰める。
むしろ今回初日でアレを完食したということを褒めていた。
しかしその称賛の声はテンペストには届かない。死ぬほど不味すぎて褒められても嬉しいとは思えなかったのだ。
そしてそんなか弱い少女の表情を見せたテンペストに、兄弟子2人は胸を射抜かれる。「この子は俺達が守ってやらなきゃ」という謎の使命感が湧いてくる。
最初、ここに新しい弟子がやってくると聞いた時には、どんな奴が来るのかと楽しみにしていた。
どちらかと言えばどうやって洗礼を浴びせてやろうかという意味で。
しかし来たのは金髪金眼のやたら可愛らしい少女。その時点で2人は毒気を抜かれ、貴族という話だった割に高飛車なところがなく親しみやすいテンペストに好意を抱いていた。
そんな時にあのマナの実と呼んでいる糞不味い果物を食べて、涙を見せたテンペストは競うべきライバルではなく、2人にとって庇護するべき可愛い妹へと変化した。
「まあ、一緒に頑張っていこうよテンペスト。魔法の腕は確かに上がるし、ロジャーは良い教師だよ。私達もわからない所があったら色々教えてあげるから」
「そうだな。協力しよう。コツなんかも俺も結構苦労して覚えたものもあるから教えられると思う」
「ありがとう。……コリーの毛、ふわふわです……」
「ぬぉっ……お、おう、ありがとう」
触り心地が良かったのかコリーの綺麗な毛並みの中でも一番もふもふしている胸毛に顔を埋めているテンペスト。
そんなテンペストにどうしたら良いのか分からなくて腕が泳いでいるコリー。
自分もちょっとやりたいなーと思っていただけにちょっとうらやましく思っているニール。
どうやら獣人の柔らかく暖かい体毛が気に入ったようだ。
「……何やってるのさ……。ほら、始めるよ」
至福の時間はすぐに終了した。
□□□□□□
「うん、基本は出来ているみたいだね。じゃあ……君のオリジナルってのを見せてよ」
「はい」
基本の4つの魔法はクリア。安定していてブレがないから特に問題なしとなった。
そして次はイグニッションとストーンバレットのお披露目だ。
攻撃として放つので鋼鉄の鎧を着た人形が的になる。
『イグニッション』
その言葉が紡がれると同時に、人形の足元から勢い良く青白い炎が上がり、鋼鉄の鎧が赤くなっていく。それを見たロジャーがおおっ!という顔をして次には楽しそうな顔をしていた。
「素晴らしいよ!もうすでに火の扱いを知っているようだね。引っ込めていいよ」
「魔力次第では中の酸素を奪い窒息させることも出来ます」
「うんうん、博識だね。これなら教えるのが楽でいいよ!じゃあ次は真っ赤に燃えたアレに君の礫弾を」
「全力の方が良いですか?」
「そうだね」
自身のワイバーンが持つ25mmガトリング砲。その上をゆく最強のガトリング砲として名高い30mmガトリング砲アヴェンジャー。
大きく重すぎたためにワイバーンには積まれることのなかったそれをイメージしていく。
機構は同じなので簡単だ。
『30mmストーンバレット、フルオート』
本物と違って発砲音はしない。しかし音速を超えて発射される強固に固められた石の弾丸は音速を超えて空気を切り裂き鎧へと到達する。
耳が痛くなるような音が一瞬響いた後、テンペストの脇の土は大きく抉れ、的になった鎧は粉々に砕け散り広範囲に散らばっていた。
その光景にロジャーも兄弟子達も何も言えずに立ち尽くす。
これが礫弾の威力か?と。
「魔力消費が大きいため、杖無しだとまだこれくらいしか撃てません」
「いやぁ……十分じゃないかなぁ。それ人だったら恐ろしいことになってるよ?」
「本当なら貫いた後、更に爆発したり燃え上がったり出来るのですが……ただの石では目標に当たった瞬間に砕け散ってしまうので威力が落ちてしまって……」
「そ、そうなの?いやー……礫弾って言うから大きめの強力なものを撃ちだすのかと思っていたけどね。今まで見たことがないよあの速度!全く見えなかったし雷みたいな音がしてたしね!」
「音が伝わる速度を超えていますから」
あの一瞬で持っている魔力の半分以上が消えた。時間にして0.5秒程度だろう。たった30発ほどしか撃っていないのにごっそりと持って行かれてしまう。
重さのせいだろうか?
「なあ、ニール。あれ、防げるか?」
「んー……とりあえず、アダマンタイトとかそういうのなら弾けるかもしれないけど、衝撃だけでバラバラになりそうな気がするね。あんな威力のなんて私の壁でも耐え切れる自信がありません」
「やるならアダマンタイトの盾をしっかり固定して逃げるしかなさそうだよなぁ。しかも本当なら貫いた後爆発するらしいぞ?」
「エグいですねぇ……」
ニールの得意なものは土魔法と火魔法。鉱物も操れるニールは強固な壁を一瞬でその場に出現させることが出来る。それでも削りきられそうな気がするほどの物だった。
厚くすればなんとかなるかもしれないだろうけど、本来の力とやらはもっとひどいらしい。
アレと相対するのは絶対ゴメンだ!と思っている。
そもそもが対戦車用の武装の為、人に向けるものですら無いのだが。もし当たれば赤い霧と化すだろう。
しかし2人はこれでテンペストがここに来た理由を知る。
なるほど確かに未熟ではあるものの、高威力の魔法をたったあれだけのワードで放てるのであれば、ここで学んだらもっと上に行ける。
そして自分ももっとイメージを確固たるものにして行こうと心に決めるのだった。
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「とりあえず……テンペストの力は分かった。あのストーンバレットってやつ、小さいのにかなり重くしているみたいだね。そのせいで更に硬くて威力も上がっているみたいだ」
「はい。威力は物体が飛ぶ速さと重さによって上がります。単純に大きい物を飛ばせばそれだけで被害が大きくなるのはそのためです。しかし、逆に射出速度を上げて小さくとも重いものを撃ち出せば、避けることも難しくなるでしょう」
「これは……テンペストがもっと色々なものを扱えるようになった時が楽しみだね!アダマンタイトやオリハルコンみたいなのを、あんな感じで撃ちだされたら止められるものは無いかもしれないよ!」
コリーとニールはそれを想像してうわぁという表情をしている。
一番硬いと言われているアダマンタイト。それをあんな感じで使われたら防げまい。
オリハルコンは高価だが魔力への親和性が高く、エンチャントしやすいという利点を持つ。
もしエンチャントしたオリハルコンなんかが飛んできたら……もう防げる気がしない。
どちらも小さくとも重く、テンペストが得意とする使い方にはぴったりな素材だった。
「ニールとコリーの力も見てみたいです」
「マジかー」
「それはそうだろうね。じゃあニールから」
正直あれを見た後にやるのはやりにくい。とは言え自分もここで修行しているのだ。今の自分の全力をロジャーに見てもらうつもりでやることにした。
新しく設置された鎧に向かって手をかざす。
『我が敵を穿て炎の槍よ』
流石にここにいるだけあって詠唱は短い。
ニールの周りに5つの炎で出来た槍がいつの間にか浮かんでいた。それが外側に膨らむようなコースを通って鎧へと突き刺さる。
鎧は刺さった場所が溶けて赤い雫を垂らしており、赤く燃えているだけの炎がどれだけの熱量を持っているかを物語っていた。
『その力は太陽の如く。焦熱の星よ眼前に立ちはだかる敵を灰燼と化せ』
次に唱えられたのは少し長めの詠唱。
唱え終わると先ほどの鎧が白熱する光体に包まれて、その光が消えた時にはそこには何も残っていなかった。
「中心温度は数万度にも達していました。それなのにこちらへの熱放射は確認できません。どうやっているのですか?」
「分かるのですか!?うう……これ使えるようになるまでに凄く頑張ったんですけどねぇ。とりあえずまだ秘密ということで。ベースは火魔法ですけど色々工夫しているんですよ」
「温度まで分かるのかぁ。これは底知れないね!じゃあ次はコリーだ」
「この空気の中でやれってか?」
また改めて設置された鎧。それに向かって深呼吸をして唱える。
『雷鳴轟かせ走れ神速の雷よ。驟雨の如く敵を打て』
青白い光球が鎧の上に現れて、そこから鎧に向かって極太の雷が落ちる。
何本もの雷が激しく打ち付け鎧は溶け落ちた。
雷。それを再現出来るということは、電気をも魔力で補うことが出来るかもしれないということ。
それであれば電気を使ったモーターなども作れる。
今までどうしてそれに思い至らなかったのかと思ったが、これで道が開けたのだ。
それだけでもここに来た意味はあった。
詠唱考えるのとてつもなくめんどくさい件