第百五話 ポートキャス観光
あけましておめでとうございます。
まだまだしばらく続きますがお付き合いください!
食べ物、衣類、薬など色々と物が売ってあったので自分たちのところでは見られなかったものを色々と買ってみた。
全体的にハイランドを少し発展させた感じの文明レベルで、薬に関する知識なども少し有る。
民間療法的なものと言うよりは、きちんとした理由の有る筋の通ったものが多い印象だ。
食べ物に関しては揚げ物が一般的に流通しており、サイラスの従者として付いて来ているラウリが反応していたので恐らくサイラスが食わせたことが有るのだろう。
魚のフライや唐揚げと言った物もあり、海が近いのも有るのだろうが塩味が効いたものが多い。
特に紙などは高いことは高いが、流通はして居るため本が普通に売っていたのが皆にとっては衝撃が大きかった。
本といえば高額で普通の人達が買えると言うのはまず無いのだ。
また、街の人達とたまに話しをしたり警邏中の兵士に聞いたりして、なぜこの国で武器が禁止されているのかを知ることが出来た。
一般人が持てる刃物は厳しく取締されており、特定の職業で使うものなどは専用の免許がなければ持つことが許されない。
例えば漁師の銛などだ。一人一人が国によって管理され、その人が所有する道具はそれに紐付けられる。他の人が持っていれば当然罰を受けるということだ。
流石に包丁などの一般家庭などにある物は規制されないが、当然それらを理由なく持ち歩くことは禁じられている。
要するに、治安維持のためだそうだ。
魔物はどうしているのかと言えば、やはりハンターとして登録しているものたちが、それぞれの街でクランを形成しており、そのクラン単位で直接依頼を受けるなどしているそうだ。
ハンターとして働くことになると兵士の方からもオファーが来たり、もしくは国からの依頼を任されることも有る。
現在この街で活動しているクランは数百程度は居ると言われ、それぞれが数十人単位で活動している。
それ以外に完全に個人パーティのみで依頼を受ける便利屋的なものも居る。
ただし武器は基本持ち出し禁止、依頼を受けた時に許可を得て倉庫に預けている物を取りに行く……というやり方のようだ。
武器や防具は厳重に管理され、ハンター用の店でしか購入できず、当然許可証がなければ店にすら入れない徹底ぶりだ。
「基本的に宗教国家で、それなりに法整備がしっかりしている国……と言った印象ですね」
「それらがかなり国民の間で浸透している結果、治安の良い街ができるか。頭の良い統治者ということだ、下手に隙を見せるとすぐに足元をすくわれそうだ。大臣たちも気をつけたほうが良いだろうね」
統治状況を見ても今の皇帝もそれなりに上手くやっているのだろう。
大臣達も気をつけないといつの間にか不利な条件になっているかもしれない。
流石にそこまでバカが揃っているわけではないので問題ないだろうが。
「まーとりあえず、僕達からするとこの国は学ぶべきところが多いってことだよね。色々取り入れられそうなのは取り入れよう」
特に料理に関しては色々と取り入れてもいいだろう。
薬は開発中なのでそれに組み込めるものは組み込めばいい。
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帰ってきたら受付で言葉が通じずに四苦八苦している人達がいた。
言葉が通じないだけなので怒ることも出来ず、かと言ってサービスは受けたい……。
今ここに居ない通訳のコレットさんを恨んでも仕方ない。
今日もまた大臣達と接待に付き合っているのだから文句も言えない。
そんな時にテンペストが来て通訳を担当してくれた。
当然ながら皆驚き、いつ覚えたのか、元々知っていたのか、何か持っているんじゃないかなど色々と質問攻めにあってしまうのも仕方のないことだろう。
きっちりとどういう副作用があるか等を断った上で、それでも尚やりたいと思う人は来るようにと伝えて部屋へと戻った。
広間を一室開けてもらい、そこへ来てもらうことにしたのだが……。
「……意気地なしどもめ。全く」
「本人来ている所無いね」
そう。苦しむのが嫌だったのか、彼らが寄越してきたのは従者達だった。
それも一人ずつ。
これには自分が進んで受けたサイモンも苦笑いするしか無かった。
こっちの従者や使用人達などはサイモンの私兵の隊長、ラウリ、ウルなど主人以外でも恐る恐る受けてしばらく苦しみながらも、本人自ら望んで習得したというのに。
向こうの従者たちは相当嫌そうな顔をしており、自分から学ぼうという気は無いらしい。
一人、また一人と倒れて苦しんでいくのを見て、部屋から逃げようとするものも居たが……残念。魔法錠によって固く閉ざされた扉は開かない。
今から殺されるかのような声を出して最後の一人が終了すると部屋を後にした。
後に残ったのは死屍累々といった体でうめき声を上げ続ける者達だけとなった。
思いっきり吐いたりして酷いことになっているが気にしない。
誰か失禁もしているみたいだが自分で処理するだろう。
「相変わらずえげつない威力だなあれ」
「かなり負荷を減らしているはずですが。聞いて話す程度しかまともに出来ないはずです」
「読み書きは難しいってことか」
「辛そうだったので、負荷を半減させるために削りました。後は自分たちでなんとかしてもらいます」
話ができればまあそこまで困ることはないだろう。
ちなみに部屋に戻った後、サイモンの元へ感謝の言葉とともにいろいろな物が送られてきたという。
扱いに困るからさっさと持ってってくれと言われ、部屋を訪れると何処からか買ってきたのだろう高価そうな物が箱に入って置いてあった。
「テンペストの手柄なんだ、もらっていけ。というか邪魔だ……」
「ではハンガーに送っておきましょう」
「一応、換金する頭はあったか。ちょっと意外だったな」
『どちらかと言うと主人の方よりも、話せるようになった使用人のほうが喜んでいたがな。帰った後に離れていくやつも居るのではないか?』
「……そこまでは面倒見きれませんし、今までそういう扱いをしていたということでしょう。仕方のないことです」
「それともう一つだがな。隠密の方から色々仕入れられたぞ」
ここからは他に漏らしてはまずい内容だ。
真面目な顔になってサイモンがそういうと、ウル、ラウリを残して使用人達は下がらせられる。
行動を起こしていた者達は、当然ながら事前にテンペストによる教育を受けている。
更にこの街の服装を買ってきて与えてあるので、溶け込んでしまえば発見は容易ではないだろう。
早速、話を聞いてみると……少し困惑するような内容となっていた。
「まずはこれを見てくれ」
「んー……英雄、ディノス・ハーヴェイ?」
「英雄が現れたという神託と、この国には英雄が居るということは一致していた。だが……サイラス。こいつがそうか?」
描かれているのは豪華な衣装に身を包み、筋肉質でイケメンな男が剣を掲げて居るイラストだ。
しかしどこをどう見てもあのミレスの残党……サイラスが知識を叩きつけてしまった太った男とは似ても似つかない。
既に数ヶ月が過ぎていることから痩せたという線も考えられなくもないが……。
「いえ、モンク司祭は自分から体を鍛えるということはしないと思います。それに……俺はずっとそばに居たのですが、痩せてもこの顔にはなるとは思えません。髪の色も違うし……何より司祭の目の色は茶です。これは青に見えますが」
「同意見だね。整形をして顔の形を変えることが出来ても、目の色等はまず変わらないんだ。それに……これが本当に英雄を見て描いたものだというのならば、骨格からして全く別物になっているような気がするね」
「私も太った男だとしか聞いていないからよく分からなかったのだが……。違うか、やはり」
しかし神託は本当のことしか無い。
であれば英雄として現れたこの男こそが司祭でなければおかしいのだ。
だがこの絵を見る限りでは全くの別人でしか無い。
「私もおかしいとは思ったんだよ。しかしこれが英雄で確かにこのような顔をしていたという者達が多いようでね。何度か調べ直してもらったがやはりこの顔なのだそうだ」
「しかしアレが本当に本人だとしたら、どうして顔が……いや全てが異なっているのかという説明がつかないですよハーヴィン候」
「当然、それは分かる。だが……私は前例を知っていてね」
そう言ってテンペストを見やる。
「テンペストが?どういう事?」
「テンペストは、元々孤児となった子供に入った……と言うのは聞いているだろう?」
「ああ、その子と入れ替わる形でテンペストが身体を得たと」
「それであっている。だが……ここに居る者は見たことがない物を、私とエイダ様は見ているんだよ」
それはこの世界へと入ってきた時に、エイダと出会い、精霊として迎え入れられたその時のこと。
一人の少女の身体を得てテンペストは肉体を持った。
エイダとサイモンはその時に突然身体が光に包まれて、「生まれ変わる」テンペストの姿を見ているのだ。
「あの時、テンペストは髪の毛の長さは似ているが、肌の色も、目の色も、髪の毛の色も全てが別人となっているんだよ。私達の目の前で、身体が作り変えられていくその瞬間を目撃している。それが私達の技術では不可能であることは分かっているのだが……あれを見てしまった事で、これも「有り得る」のではないかと思うんだよ」
「つまり……司祭は本当に全身を作り変えている……と?今、本当にこの姿となっていると言うことですか」
「正直な所分からない。本当にそうなのかなんて、実際に見てみないとわからないね。ものすごく低い確率では有るだろうけど、もしもこの国にはそういった力を持った人がいて、身体を自由に作り変えられるとしたら?」
「……本人特定には静脈認証や虹彩認証、DNAを使った判別等はありますが……それすらも変えられていれば追跡は不可能です」
なにせ確証がない。
恐らくこいつが犯人だろう、と分かっていても、どんなに怪しくても今目の前にいるその人が本当にやったのかどうかという証拠がなければ罰することは出来ないだろう。
そんな人物は知らないと言われてしまえばそれまでなのだ。
現時点でモンク司祭と、このディノスという英雄を結びつけるものは何一つ無かった。
幸い、英雄という目立つ地位にいてくれるおかげでディノス自体を追跡することは可能だ。
しかしモンク司祭としてでは……無理だ。
「どの道、監視するしか無いということですか」
「それがな。この街でもそうだったようだが監視が厳しすぎて壁の中へと入るのは危険なんだそうだ。中央である帝都ならそれ以上ということになるだろうな」
「壁の中に居る限りは監視も無理……か」
「これは向こうが行動を起こすのを待つしか無いでしょうねぇ」
「え、なんで?ここまで逃げれるなら僕達に何かしなくてもいいんじゃない?」
積極的にこちらにちょっかいを出すワケがないんじゃないのか、というニールの主張は間違っていない。
だが神託にはもう一つ言われていることがある。
「破壊者として現れるとか、言われてたでしょう?だからきっと、この帝都か他の国が色々と被害を受けることになるんだと思いますよ」
「その時には手遅れになってなければ良いのですが。船では時間がかかりすぎますね」
「ならやっぱり大型のガンシップを用意しなくてはね」
「……それの作成は任せます、サイラス……」
魔力バカ食いの何かを作るのは間違いない。
船よりも早くつけるならばまあ良いだろう。攻撃力と防御力を両立させることもサイラスなら問題ないだろうし、ここはもう好きにやらせようと判断した。
『何やら面白そうなことを考えているなサイラスよ。儂もやるぞ』
「浮遊都市の設計者が居るなら心強いですよ。やりましょうやりましょう」
「なあ、ラウリ。サイラスってあんな感じだったか?」
「普段は落ち着いているんですが……研究で楽しくなってくるのか段々あんな感じになっていきますね。正直良く分かりません」
ラウリが困った顔で言う。
どうやら普段からあの調子らしい。
お陰で熱中し始めるのを止めるのに苦労しているようだ。
「一応、奥さんの話を出せばすぐに気づいて治まってくれるので良いんですけど」
「博士は熱中すると止まんねぇからな」
そうはいいつつも博士の作るものは有用なものしか無いので期待はしている。
今はまだ研究所に帰れないので続きは出来ないのが残念そうだ。
しばらくはここから帰れないので向こうにいる人達に頑張ってもらうしか無い。
その後それぞれの部屋に戻り、今後の予定を立てていく。
皇帝に謁見できるようになるのがいつになるのかは分からないが、ここから帝都までは大分離れているらしいので恐らく情報のやり取りだけでも相当掛かるのは確かだろう。
ちなみに帝都に行くことになれば港に留めてあるリヴァイアサンは一旦沖に出ることになっている。
時間がかかることも有るし、何かあった時に突然攻められないようにという配慮だ。
その間、近くの海岸線沿いを進みながら地形を確認していくという。
テンペストも出発がまだ先であれば、ワイバーンを飛ばして様子を見るつもりだ。
ただ、コレットから全員に対して明日はこの街の観光案内をするという話も出ているので、恐らく明日は動けないだろう。
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翌日またも晴天となり、予定通り観光が実施された。
一つの国だけに絞ればそこまで多いわけではないので、それなりに自由が効くらしい。
ハイランドは別行動の大臣達以外なので30名ほどしか居ない。
事前に金貨の換金が行われてある程度こちらのお金を手に入れることができたが、やはり紙幣で帰ってきた時には面食らったようだ。
昨日換金した者達もその場で少し言い争いになりかけたらしいが。
やはり不安なようで本当に使えるのかと何度も聞いていた。
宿の前に待っていたのは大きな馬車が3台。
一つに付き15名ほど乗れるようになっており、簡単な日よけがついている以外はほぼむき出しだ。
ただしひいているのは馬ではなく大きな鳥だった。
恐竜のような太く大きな足を持ち、翼は退化したのか小さな物だが身体が大きい。
隊長は頭の天辺までで3~4mほどありそうだ。
「では皆さんこちらに分乗してね。車をひいているのはこの国では馬よりも一般的な魔物でクレールって言うんだ。とっても早くて力持ち、ずっと走っていても疲れないっていうすごい子達だよ」
カロス大陸語でコレットが案内を始める。
各馬車にスピーカーのようなものが付けられており、最後尾に乗っているテンペスト達にもはっきりとこの言葉が聞こえる。
観光業も盛んなためにこういったものはよく使われているようだ。
宿を出発して海を背に進む。
内陸側に行くに連れて白く大きな壁が見えてきた。
「ずっと向こうに見える壁がこの国の神様である軍神アーレス様を崇める人達が暮らすところと、私達平民とを区切る壁だよ」
もちろん、アーレスを崇めているのはこの国の人達全員だ。
壁の中は特別な人達だけが入れる聖域。特別に呼ばれない限りは平民達は壁の中には入れない。
唯一入ることが出来るのは信徒として見初められた人のみで、一度入ったら俗世と隔離されるため二度と戻ってくることはないだろうという。
「壁の中の人達は、平民と違ってアーレス様の声を聞くために毎日修行をしている凄い人達。神官様はよく平民の街へも出てくるけど、それ以上の立場の人達は基本あの場所から出てくることはないよ。街の様々なことを決定したりすることから私たちは神の番人なんて呼んでいたりするけど、本当はなんて呼ぶか分からないだけ……なんだよね」
近づくにつれて壁の全容がはっきりと分かってくる。
10mはありそうな高い壁は、全て眩しいほどに白い石材によって作られており、壁の周りには大きな彫刻が彫られている。
コレットによればこの彫刻は建国の時の様子を表したものであるそうだ。
ずっと昔に、天と地を分けた大きな戦いがありその時に軍神アーレスは前に立つものを全て薙ぎ払い、敵を寄せ付けなかった。
炎を吐き、攻め入る魔物などと戦い抜いて神々を勝利に導いた英雄。
その時アーレスは迫りくる軍勢を前に、これを飲めば死ぬかもしくは望む力が手に入れられるという霊薬を飲み、その身体を竜に変化させて何と1ヶ月もの間不眠不休で戦い抜いたという。
「国のピンチに自らの命を顧みず、国を守ったというアーレス様は私達の国のシンボルとなったんだ!」
カッコイイよね!と鼻息荒く説明するコレット。
そのアーレスが守り抜いた土地がここであるという。
月日が流れて神々は大陸中央部へと大きな都市を作り、そこに移り住むことにした。
しかしそれをよく思わなかった者達が、また戦争を始めてしまう。
結局、地上を見放した神々はそのまま都市ごと空へと帰り、今現在まで姿を表したことはない……。
「今でもその空に消えた大陸は何処かの空を漂っている……っていう話もあるけど、まだ誰も見たことがないんだよね。竜騎兵達もその残骸らしき岩が浮いているのを見たとか言う人は居るんだけど」
そんな話を聞きながら、ほぼテンペスト達のみの馬車……鳥車?ではじっとりとした目がギアズに向けられていた。
「なんだか、聞いたことがある話だな?なあギアズ?」
「そうですね。あなたは神話の人になっているのでは?」
『知らんわ……。大体この辺は何もなかった土地だったはずだぞ?儂らの国だって昔からずっとそこにあった物だ』
「歴史がこうやって作られていくんだな……って、よくわかったよ。もう何も信用しない」
『儂に文句を言うな!どうせ自分たちに都合のいいように改変しただけであろう』
やはり、ギアズは相当昔の人のようだが、どう見ても神様ではない。
そもそも神様がアンデッドになるのか?という話だが。
『ああだが嘘とも言いきれんかもしれんぞ。命と引き換えに力を得る事が出来る物と言うのは実際あった。竜になれるかどうかは知らないが』
「ちなみに飲むとどうなる?」
『その場で死ぬか、ひとしきり暴れまわった後で死ぬか……だったような気がするな。儂なら絶対飲まん』
「相当追い詰められなかったら飲めませんねそんなもの。死ぬのが確定しているんじゃ意味がない」
なんとも物騒な薬だった。
それを飲んだアーレスはその後は生きていたんだろうかと疑問に思ってしまう。
だがそれを口に出せばどうなることか。
「宗教ほど怖いものもないですよ。そっとしときましょう」
『浮遊都市で乗り付けたらどんな騒ぎになっておったのだろうな?』
「さあ。神を騙る敵とかなんとか言われて攻撃されてたりしてな」
「ありそう……」
そんなことを言っている間にもどんどん進んでいく。
ついに壁の門まで到着した。
近くまで来るとその大きさが際立つ。
壁の厚みはかなり有るようで、ゲートから向こう側のゲートまでは意外と距離があった。
しかし向こう側も更に壁に遮られて奥の方は見ることが出来ない。
辛うじて付近を歩いている白い服を着た者達が見える程度だ。
「ここが壁の入り口だよ。壁の中の人達は世俗から離れて普段から修行をしているんだ。だから来ている服も白にアーレス様を表す赤い模様の入った物を着ている。あまり近づくと怒られるからここはこれくらいで……次はアーレス様を祀った一般用神殿だよ」
白い鎧を着た衛兵がピリピリとした雰囲気でこちらに気を配っているのが見える。
確かに早めに離れたほうが良いだろう。
『……隠密が近づけなかったわけだ。薄っすらとだが魔力の流れを感じたぞ』
「許可なく近づくとすぐにバレるってことか」
「テンペストのアレは?」
「どうでしょう。攻撃さえしなければごまかせる可能性はありますが、あまり刺激したくないのでできればやりたくないです。やるなら高高度からの偵察で十分でしょう」
もしも、あの状態がバレるようなことがあれば危険すぎる。
攻撃に移れば解除されてしまうわけだし、姿を晒してしまうのは非常に不味い。
結果、壁の中は今は放っておくという結論に達した。
どのみち今はできることが少ないのだ。
と、鳥車が止まって周りを見てみれば大きな神殿があり、そこに街の一達が次々と礼拝しに行っているのが見えた。
一般用神殿とかいう物だろう。
解説によればどこの街にも必ず建てられていて、本来ならば神の番人である壁の中の人々しか入ることの出来ない神殿を一般用として新たに設けて、信心深い国民達全員が神への感謝を伝える場所とされているようだ。
管理しているのは唯一この俗世とやり取りが出来る神官の立場にあるものたちで、彼らがこの神殿を運営し、神殿長以下は全て平民となっている。
ちなみに着ている服も異なっており、白と赤の服を着れるのは壁の中の人達のみだ。
区別のためにも神殿長以下は全員灰色に青の模様が入っている。
穢が落ちぬ身を表しているらしい。ちなみに、身分が低くなると黒くなる。
段々に色が薄くなり、最後は白に……というものらしい。
ちなみに神殿長はたまに神官として昇進し、この俗世と聖域を結ぶ橋渡しとなる事があるという。
「でも多分、信徒の方が確率高いと思うけど。神殿長は簡単になれるものじゃないから」
とコレットが言う通り、そもそもが狭き門である時点で難しい。
ここでは降りて中を見学することができるそうだ。
コレットによる観光案内が始まりました。
ぶっちゃけ名所を作り出すのが面倒くさい