第百二話 上陸
モニタが死んで作業に支障をきたすようになったので、急遽新しいモニタを購入。
今度はインレイ感じゃなくてLEDモニタにしてみました。
ものっすごい明るいです。
画面も大きくなって細かい所も見やすい!
検疫などが終わり、色々と船長たちは質問攻めにあったようだが何とか上陸許可が降りたのは、寄港二日目に入ってからだった。
宿の受け入れ先は3つに分かれ、ルーベル、コーブルク、ハイランド、それぞれが一つの宿へと泊まることとなる。
沿岸都市ということでかなり大きなところではあるのだが、急に500人を受け入れろと言われて、はいそうですかとできるような場所は少ないだろう。
それもそれぞれが高級宿となれば尚更だ。
ついでに、この船のことをかなり細かく聞かれたそうだ。
やはり見たことのない形、そして外からは見えない動力と不審な所だらけだから当然といえば当然かも知れない。
ただ、この港は海軍司令の乗っている大きな外輪船を停泊できるだけあって、かなり大きな港を持っていた。
更にタグボートも居るため、接岸も楽にできる。
魔導車と馬車の使用も許可され、それぞれ通訳が付けられることになった。ただし1つの国に対して1人のみ。
数が少ないためどうしようもないと言うことだったので我慢するしか無いだろう。
オルトロスを出して移動を開始するが先導の馬車に合わせてなので非常にゆっくりとしたペースで進む。
道はすれ違う分には特に問題はなく、馬車以外に魔導車に似たものもちらほら走っているためそれなりに技術はある国ということが伺えた。
巡回している兵士はライフルらしきものを携えており、銃火器に関しては既に持っていると思ったほうが良いだろう。
文明レベルは高めでハイランドよりも上の印象だ。
間違いなく交易などで得る物は大きいだろう。
やがて大きく豪華な建物の庭へと入っていき、馬車が止まる。
「ここがハイランドの皆の為に確保した宿、クシェディソレイユだよ。ようこそホーマ帝国へ!」
案内をしてくれた通訳の女性、コレット。
赤毛を一つに結った色白の子だ。
恐らく20前後で快活な感じがする。言葉遣いは砕けているが相当精通していないと使い分けというものはとても難しいものだ。
きちんと意味が通じる上に流暢に操っている時点で相当なものである。
中に入り入り口でそれぞれの部屋を割り当てられていくが、基本的には船の部屋割りそのままだ。
使用人の部屋は隣となるがそれ用に作られているそうでやはり特に変わりがない。
5階建ての内、テンペスト達が案内されたのは3階の角部屋だ。
サイモンは4階だった。まあこの辺は爵位的に仕方ないだろう。
案内された部屋は見晴らしがよく、海が見える場所だった。
周りの船に比べてやたらとでかいリヴァイアサンがよく見える。
船を守る警備兵の横を荷車が行ったり来たりと忙しい。船員たちの食事分の仕入れと、こちらから持ってきたものなどの荷降ろしが行われているようだ。
町並みは整っており、全体的に白塗りの壁とレンガ造りが多い。
この宿の周りは高級住宅街になっているのだろう、かなり大きい屋敷や見るからに豪華な店などが立ち並んでいる。それらの壁は港に近い所以上に白く、道路も石畳が隙間なく敷かれるというかなり徹底した造りになっていた。
反対側の景色は高い壁に囲われた一角があり、説明によると壁の中は特別で軍神アーレスを崇める教団の幹部、もしくは信託によって選ばれた信徒しか入ってはいけない聖域となっているということだ。
これは各都市に必ず一箇所以上あり、中央の帝都にはとても規模の大きな物があるのだという。
そここそ軍神アーレスによって導かれた英雄の血を引く皇帝の住む場所でもあり、教団の総本山でもあるそうだ。
中での生活などは一切市井のものには分からず、信託によって選ばれた信徒も一度入ったら二度と出てくることはない。
しかし、信徒を排出した家では時折突然発作のような苦しみを訴える家族が居て、それは修業によって苦しみながらもそれを乗り越えるべく頑張っている信徒の苦労が具現化したものであるという。
これに耐え抜き、見事アーレスの試練を乗り越えたものは見習い神官の座が待っている。
見習い神官になると税金による給料が出て、信徒を排出した家には子供を奪うことになったことで生活に困らぬよう給付金も支給されるという。
「教団の人達は私達皆を見てくれているんだよ。国をより良くするために寄付とかは全部都市の発展に使われるし、税金は教団の人達の生活のため、そして帝国に住む皆が幸せになれるようにするために使われているんだ」
とは通訳のコレットの話だ。
本当であれば相当に頑張っている様に感じる。
税金を私腹を肥やすことに使おうとするものが居るとなかなか出来ない事だろう。
宗教を軸とした国家というのは、国が続いていく内に教義が捻じ曲げられおかしな方向へと傾くことも多いはずだが、ここではずっとブレずに続いているという。
信徒は平民達の中から早ければ10歳未満から、遅くとも16歳までの間で毎年選ばれているという。
壁の中に入ると二度と現世に戻ってこれないというのも、壁の中は神聖な土地であり、そこで暮らしながら皆の代表としてそこで修業を重ねて行くということだ。
衣食住は保証されているが、その修業は過酷で途中で亡くなるものも居るという。
その時は、その信徒の家族も一緒に連れて行かれる……つまり死んでしまうことも多いらしく、家族とのつながりがそれだけ強いことの証明である……という話もあり、そんなことがあり得るのかと言われれば、地球であれば嘘と断定できるが、魂の存在があり、精霊という高次元の存在があるこの世界ではそういうこともあるのだろう……と納得してしまう部分も多い。
「意外と良いところだね。神聖ホーマ帝国かぁ。でも言葉がわからないとちょっとむずかしいね……」
「言語に関しては通訳のコレットさんに頼んでいます。こちらで使っている言葉と私達が使っている言葉の対応表や辞書と言った物がなければ言語の習得は難しいはずですので」
「ああ……写本……」
写すのであれば構いません、という返事をもらっている。
自分が使っていたものを持ってきてくれるそうだ。発音等も書き込まれているので、それらを片っ端から覚えて行き、文章の構成方法などを理解できれば……滑らかにとまでは行かなくとも意思の疎通くらいはできるだろう。
後は使っていく内に相手の喋り方や発音などに気をつけていけばいい。
それらをどんどん対応させていけば、最終的にネイティブと同じ発音で言語を操れるようになるだろう。
テンペストが覚えてしまえばこっちのものだ。
ギアズにまずその知識を植え付け、テンペストと2人でそれぞれの頭に直接植え付けていくのだ。
魂レベルで刻みつけられるそれは、あたかも最初から知っていたかのように作用する。
効果は既にサイラスとコンラッドで証明済みだ。
ただしもれなくとてつもない頭痛と吐き気に苛まれるだろう。そういう意味ではコンラッドは肉体がなかった分マシだったのかもしれない。
他の人達には写本を分かりやすく再編したものを配る予定だ。
少しでも話せるようにしておきたい人達はそれを見て勉強すればいいのだ。
どうせこの場所にいる期間は長くなるだろう。
「信徒かぁ。なんか神官とか司教とかがミレスのせいで悪いイメージしか無い……」
「ハイランドでは精霊官などですからね」
「そう言えば、僕達が外歩いていいっていうのは嬉しいんだけど、絡まれたりしたときはどうすればいいのかな」
「それについては聞いていませんでしたね。後で確認しておきましょう」
流石に武器を持ってきていない中で絡まれるのは勘弁してもらいたい。
魔法も下手に使ったら罰せられそうな雰囲気なのだ。
ここの法律がどうなっているかよくわからないのだから、下手なことはしないほうが良いだろう。
魔法使ったら1発アウトで死刑などという可能性だって無いわけではないのだから。
「基本、ただでさえトラブルの種でしか無い私達なのですから、下手をして睨まれたくはありませんね」
見知らぬ外国の人達。その珍しさからスリなどが寄ってくる可能性は高い。
しかし武器がないとはいえ鎧を着込んだ状態で殴れはそれはそれで危険なのだ。交渉がうまくいくまではこちらの弱みをさらけ出す訳にはいかない。
ただ今のところは外に出ても言葉が通じるとは限らず、この国の中でテンペスト達の使っている言葉……カロス大陸の共通語ということでカロス語とでも呼べばいいだろうか、それを使える人達というのは本当に僅かでしか無いという。
内陸に行けばほぼ皆無と言っていい。
結局はこの宿で待つしか無いのだ。代わりに大臣クラスの人達はそれぞれここの領主の元へと案内されて挨拶をしていることだろう。
通訳のコレットもそちらに行っている。
「結局やれることは無いわけだ」
「そうなります。しかし既にサイモンの隠密が活動を開始しているということですので、それの情報を待ちましょう」
「いつの間に……。え、でも言葉わからないのにどうやって……」
「言葉がわからなくとも、出来ることはあるのですよ。この街の地理を把握することなどに関してはかなり重要であるといえます」
何処にどんな店があるか、どこからどこまでが平民街で低所得帯が集まる場所は何処か、治安が悪い場所は何処か、この場所まで行けるルートがどれくらいあるか、それらを把握しているかいないかで危険度が上下する。
襲われた際に敵が潜みそうな場所を洗い出すというのは、その場を切り抜けるためにも必要だ。
ましてここにはモンク司祭が来ている可能性が高く、コーブルク、ルーベル、ハイランドは全て敵国として認識するだろう。
そもそもここも敵として認識しつつも利用していると考えたほうがいい。
向こうがこちらを認識した時、刺客を差し向けるという可能性は大いにあるのだ。
と、話し込んでいるとノックの音が聞こえ、メイが対応に当たる。
どうやら受付のかかりの人が本を届けてくれたようだ。
「コレット様からテンペスト様に届けるようにと言われたそうです」
「ええ、頼んでいたものです、ありがとうメイ」
「もしかしてこれが?……なに、これ……」
ニールが驚くのも無理はない。
全部で4冊。
カロス語のカウース語対応表。
カウース語辞書に入門から上級までの母国語の学習書。
最後に文法書。
それぞれがかなりの厚さがあり、綺麗に整えられたものだ。
対応表と言っても結局辞書みたいなものであり、かなりの言葉が翻訳されて書かれている。
あまり情報が整理されて居ないが植物紙を使い、均一の文字が並べられていることから、こちらでは既に印刷技術があることが判明した。そして製紙技術も。
これによって研究所で印刷のステップを開始させることは決定事項となる。
思えばあの時に写本と言った時少し変な顔をしていたのはこれのことだったのだろう。
このテキスト量を見ればそもそも写本などしている暇など無く、それをするくらいならこのまま読み進めて勉強を始めたほうが遥かに速い。
しかし。
相手はこのテンペストだ。
手書きながらも機械を使ったコピーレベルの写本が可能だ。
やろうとするならば内容の整理をしながら新しい物を書いていくことも可能となれば、やることはもうひとつしかあるまい。
「テンペストが書いたみたいな感じだね」
「どうやらこちらは印刷技術に優れているようです。恐らくこれを作るにあたって何か機械を使って大量に複製を行っているでしょう。本はこちらでは特に貴重品ではないのでしょうね。だからこそ彼女も私に快く貸してくれたのだと思います」
「僕達も、作れる?」
「造作もありません。既に通った道です。……サイラス達が……ですが」
人間ではなかったテンペストは実際に使った事自体はない。
どういったものを作るかなどを決める時にサイラスは突然発展させすぎるのも……と言ったために保留になっていた為仕組みなどは知っている。なんなら巨大な輪転機を作れと言われても恐らく可能だろう。複雑な機構を持つ機械に頼らずともアバウトな命令を処理できる魔法を使えばやれないことはない。
この中に入っている物の通りに再現しろ、というだけでいいのだ。
その内カラー印刷も出来るようにすれば色々と幅が広がるだろう。
「テンペスト達の居た所の技術……か……。博士が言うように確かに一気にそういうのを僕達の国に入れると色々と混乱しそうだけど……興味があるなぁ」
「しかし研究室内では今、それらを作るために必要なものを作り上げている最中です。それはコンピュータと呼ばれる自動計算機であり、私が入っていた機械はそれを更に複雑化したものとなります。つまり、今研究中のゴーレム集積脳を小型化、多重化することによって大量の情報を並列処理させ一瞬でその答えを導き出すという物を作っています。入力と出力するための物も同時に作っているわけですが、それが出来るようになれば……全てを魔法式で置き換えた真のマギア・ワイバーンを作ることが可能となります。その場合、私の姿勢制御に関する知識をデータ化して植え込んでいくことで複数のワイバーンの制作が可能です」
「あれが……たくさん作れたら……。もう誰も飛竜に怯えなくてもいいね」
「しかし、戦争は起きるでしょう」
何と言ったって結局のところワイバーンは兵器であって、実際にそれ用の装備を付けているのだ。
パワーバランスは大きく崩れ、支配できればいいだろうが反発されると結局戦闘が起きる。
結果は火を見るよりも明らかであろうが、それでも人の嫉妬や妬みと言うものは多くを扇動していく。
他の国へ渡すという選択肢は無い。
それが自分たちを狙うことになる可能性がある物を相手に渡すことは出来ない。
たとえ今の王様達が賢人であっても、その次代が同じかと言われればわからないとしか言い様がないだろう。
「最低限だけ作って終わり、かな?」
「私とコリーとコンラッドの3機でもいいかと思います、当面は……ですが。その後最終的にハイランド軍へと配備するものが幾つか出来たらそれ以上はあまり作らないほうがいいかもしれませんね」
「流石に3機もあると……不味くない?」
「現状マギア・ワイバーンの所持が許されているのは、1機しか作成できないことと私が居なければまともに飛ばせないという制限があるからに他なりません。なので、作るのは私が侯爵となった後です」
「そうか、侯爵まで上がれれば軍を保有できるもんね」
もう既に方針は決まっているのだ。
それを実現するためにも、ここから無事に帰る必要がある。
ミレスの残党は気になるが、この国で英雄として現れたという時点で取れる手は少ない。
一番やりたいのは暗殺だが、顔を知っているのはサイラス達だけだ。
そして実行した場合……こちら側の誰かがやったと疑われる可能性が高いだろう。
危険は冒せないとなると、結局監視するしか無いのだ。ただし……マーカーをつける。
本人を特定することさえ出来れば、近くに行けば何処にひそんでいるのかは分かりやすくなる。
それと帰り際あたりにでもこの大陸自体をじっくりと観察したい。
「まずはこの本ですね。さっさと片付けてしまいますので、すみませんが少し集中します」
「分かった。手伝いが必要になったら言ってよ」
「写す時に頼みたいと思います」
そう言って一冊目を手にとってゆっくりと深呼吸。
ぱらりとページを捲り、1秒の半分にも満たないスピードで見開きを記憶していく。
ページあたりの記録量が多いためこれでも少し遅い方だとはいえ……他のものには決して真似の出来ないテンペストだけの特技。
一瞬でページの内容を絵として覚え、それを連番で管理していく。
内容を全て読み終えたら今度は一度本を閉じて目をつぶるが、疲れて居るわけではない。
この集中している時間で文字を読み取りそれぞれをテキストデータとして保存していくのだ。
同時に新しい文字の認識をしていく。
次の本を読み込めばまた更に比較用のデータなどが揃っていく。
全てを終わらせてしまえば日常会話よりも少し面倒くさい言い回しなども出来るレベルになるらしかった。
順序などがばらばらになっている単語の意味と発音などを綺麗に整理して、見やすくレイアウトし直しそれぞれを最適化して統合できる所は統合した。
2冊に綺麗にまとまったそれを書き終えた所で、挨拶回りから帰ってきたコレットが部屋にやってきた。
説明をしようと思ったらしい。
「えっ?写した……の?」
「ええ。幾つか重複しているところがあったので削ったりして綺麗に手直しししたものです。これで私達の方でも学習ができるようになりますが……発音に関しては正確ではありませんので実際に喋ってみてもらっていいでしょうか?」
「いいけど……」
「基本的な構文自体は余りこちらの言葉と変わりません。あなた方がこちらの言葉を覚える事は容易だったと思います」
文字と発音を除けば、基本的な文章の構成は同じようなものだ。
そこに態の変化……動詞をする側とされる側の方でどのように変えるかなど……や、男性形女性形での変化など幾つかのものを押さえればテンペスト達もカウース語を覚えることが出来る。
文字は少し特殊なためこれらをきちんと操れるようになるには少々時間がかかりそうだが。
コレットに一通りの発音などをさせた後、自分の頭の中でそれらを整理したテンペストはカウース語を使ってコレットに話しかける。
「こんにちはコレット。多分、日常会話であれば問題なく話せていると思いますが、どうですか?」
それを聞いて驚いたのはコレットだ。
先程までは全く言葉を喋ることすら出来なかったのに、色々と聞かれてそれを答えていたと思ったら流暢に自分たちの言葉を使って話しかけてきたのだから。
「コレット?どうかしましたか?もしかして私が話している内容が理解できないのでしょうか?」
「う、ううん……違うの。すみません、突然普通に話しかけられたからびっくりしただけです。元々知っていた……とかですか?」
「いえ、今日初めてです。もしかして文字も?」
「少なくとも、この部屋にあるものに書かれた言葉はすべて翻訳できます」
既に書き写したという紙の束と、書き写したと言っているはずなのに印字と全く同じレベルの写本の文字。
更にテンペストが突然カウース語を操り始めたという事実に、コレットの頭がついていけなくなる。
なぜ?と自問自答した所で答えは出ず、今起こったことを素直に受け入れるしか無いと理解する。
「言語に関しての憂いがなくなったので、外に出て色々と見て回りたいのですが問題はありませんか?」
「ええ……全然問題ないですよ。あっ……もしよければ案内しますが……」
ありがたい申し出だが、他にも必要としている人はいる。
しかも立場が上の人が出かける時に、通訳が居なければ何も成り立たないだろう。
それにこれからテンペスト達は全員が「話せるようになる」のだ。その様子は見られたくない。
「いえ、大丈夫です。この近くを散策するだけですから。もう少し遠くを見たい時にはお願いします。私は問題なく話せますが、他の方々……特に立場が上の方々は通訳が必要ですし、そちらを優先してもらえるとうれしいです」
「分かりました。この宿の周辺は基本的に治安は良いので安心して下さい。後、興味があっても壁の内側には絶対に入らないようにお願いします。侵入しようとした場合、どんな人であってもどんな理由であっても処刑対象となります」
「気をつけます。それと……もし絡まれるなどした場合はどうなりますか?」
盗みを働く程度ならまだいいが、強盗なんかだと割りと面倒くさい。
襲われた場合反撃が許されなければ手を出すことが出来ない。ましてや外国人となっている自分たちが何かした場合どうなるのか見当もつかない。
が、幸い強盗はするほうが悪いということで自衛や反撃は許されていた。
だが最終的な処分は警備に任せたほうが良いだろうと言うことだった。呼び出されて審問を受ける際に相手が死んでいると判断がつけにくくなるからという。
「あっ!それと……これは後ほど皆さん全員に周知しますが、神聖ホーマ帝国では軍神アーレスを信仰しています。海を渡った向こうでは精霊信仰をしているということですが、ここでは精霊信仰のことを口に出さないようにして下さい。精霊はあくまでも神の使役する存在であり、それを信仰するということはアーレスに敵対すると宣言しているも同然とみなされます」
これはかなり重要だろう。
下の立場と見ているものを信仰する=アーレスという上位の存在を脅かすとみられるということか。
かなり面倒だが、元々精霊の話などというのはあまり外に出さないから問題はないだろう。
更に注意事項として、今ホーマ帝国では英雄の出現で沸いているという。
英雄とはまさに軍神アーレスが直々に認めた存在であり、皇帝にも謁見して既に特権階級にもなっている実在の人物であるため、これを疑問視したり信じようとしない場合は審問の場へと連れて行かれることとなる。
最悪不敬罪で処刑される可能性もあるのだという。
「英雄ですか……」
「はい。たった一人で数万の侵略者を退けたと言います。その功績を認められ今は帝都の壁の内側に住むほどになったといいます!すごいですよね……それほどまでの力を持っているのであれば確かに軍神アーレス様がお力を分け与えたお方であることは間違いありません!まさか私が生きている間にそのような伝説……いや神話に出てくるような方が本当に出て来るだなんて夢みたいですよ。やっぱりこの国は軍神に愛されているのですね」
興奮気味にコレットが話し始める。
あまり聞くと色々と離してくれそうに無くなりそうだったので適当な所で切り上げることにした。
ただし、英雄は存在したということと、それがミレスの生き残りであるモンク司祭であるということは……彼の居場所は帝都ということか。
意外と早く見つけられるかもしれない。
さくっと言語習得してさっさと街に繰り出そうねぇー