第九話 王都へ
賊の襲撃があった後、特に何も起きることもなく暇な道中が続き5日目の昼過ぎに漸く王都の門の前まで辿り着いた。
賊は、装備品などを全て剥ぎ取りその場で焼却。2人の生き残りは雁字搦めにされて馬車に吊るされていた。もはや人扱いはされていない。
手を出した時点で犯罪であり、よりにもよって襲ったのは侯爵と神子のいる集団だ。
その場で全員切り捨てても問題なかったが、もし生き残りがいるようであれば王都の方で取り調べて殲滅してもらったほうが良いだろうという判断だった。
ついでに言えば、魔物に襲われた時に撒き餌に出来る。
2人を差し出してその隙に全力で逃げるわけだ。
今回に限って言えばその必要もなく無事に到着できた。
ここで暫く滞在し、謁見できるようになるまで待つ。神子もいるのでそこまで待たされることはないだろうが。
貴族用の受付から中に入る。
すでにテンペストも侯爵の養子となり、身分としても貴族になっているため、単独でもこちらを使用できるようになっていた。
長く巨大なトンネル内部はびっしりと彫刻が施されており、金などを使って装飾もされていた。
かなり金の掛かった設備だろう。
そのトンネル内部は一定距離ごとに5メートルほどもある溝が壁に掘られていた。
「この溝に沿って天井に格納されている壁が降りてくるんだ。見ての通り何枚もあるから、1枚破っても先は長い。かなりの時間稼ぎになるだろうね」
魔力によって固められたその石壁はそう簡単に砕けるようなものでもないため、たとえ飛竜であっても食い破るには時間がかかるだろうとサイモンは言う。
最も、飛竜なら上を飛んで山を越えて行けば中に入れるが。
トンネルを超えるとそこには荘厳な雰囲気を放つ都市があった。
長年の歴史を思わせるものの、古いとは思えず、むしろ重厚感が増していったかのような城壁と、その奥に王城が見えている。
城壁から中に入れば活気にあふれた町並みが現れ、その広さは想像以上だった。道はとても広く、馬車同士がすれ違っても倍の余裕がある程だ。
ハーヴィン領も人は多かったが、それでもここまで馬車が行き来していたわけではないし、ここまで賑やかでもなかった。
威勢のよい声は響いていたが基本的には閑静な過ごしやすい街だ。
しかしここは市場の呼びこみの声があちらこちらから響き、負けじと買い物客も声を張り上げる。
「大分騒がしいですが、王都とは住みにくい場所のような気がします」
「ここは市場やその他の店が立ち並ぶ市場街だからね。王都は複数の街をそれぞれの機能ごとに割り当てているから、普通の家がある場所は少し離れていて静かな場所が多い。宿などもこういった騒がしいところの近くにあるところもあれば、静かな所に建てられたものもある」
王城を中心にして、工場街、歓楽街、貴族街、市場街、市民街、宿場街などと機能が場所ごとに特化されている。
騒音の多い工場街、市場街、歓楽街はひとかたまりになり、宿場街や市民街はその周辺に。貴族街は一番静かな場所を広く所持している。
それぞれの街は複数あり、大体どこかの街には同じくらいの時間で行けるように作られているそうだ。
ただし、貴族街に近い市場街に関しては高級が頭に付く。貴族様の高額な商品などが売られているエリアだ。
人口は約200万人ほどということなので、かなり大きな都市だろう。それでもまだ土地が余っているというのだから、その広さは凄まじい。
「さて、私達が泊まる宿は中心地に近い場所にある。暫くかかるからのんびりと行こう」
窓を開けて外を見ているテンペストの鼻に、美味しそうな匂いがどんどん入ってくる。
結局食欲に負け、屋台で色々な食べ物を買ってきてもらって満足気に食べることになった。
「……そういう所は子供なのよねー……」
「どうしてでしょう。美味しそうな匂いに抗えませんでした……」
指についたソースをぺろりと舐めて返事を返す。
美味しいものを食べたいという食欲、眠りたいという睡眠欲。……性欲はまだ成熟していないテンペストの身体にも、元から生殖行為というものが良く分かっていないテンペスト自身にも早すぎたため存在していないが……、三大欲と呼ばれるそのうちの2つが強く出ているのだった。
最初の頃は水を飲み込むことさえ出来なかったテンペストが、ここまで成長したのを見ていたエイダからすれば微笑ましいものではあったが。
やがて、お腹が膨れたテンペストがすーすーと寝息を立てて眠りについてからしばらくして、漸く目的地である宿へと到着した。
貴族街の近くにある高級宿である。
起こしても起きないテンペストを抱き上げて部屋のベッドへと寝かせる。
中身のテンペストとしては不本意であろうが、未熟な身体の欲求には耐えられないのだ。
考えてみれば大人でも少々厳しい道程であれば、子供であるテンペストが耐えられるわけもなく……こうして疲れのあまりダウンしてしまうのも無理は無い事だ。
サイモンはといえば準備を済ませ、謁見の申し入れを済ませると……意外なことにすぐに許可が降りてしまった。
王都の大聖堂に連絡を入れ、そちらからの人が来てからすぐにでも話を聞きたいとの事だった。
国王側もまさかここまで早く予言の人を見つけてくるとは思っていなかったのだろう、若干慌てた様子ではあったが。
エイダの方も大聖堂に連絡を入れようとした矢先の事だったので、出遅れてしまった形となる。
「うー……眠い……」
「ごめんテンピー!急に国王陛下と謁見することになったの、大聖堂の精霊神官も一緒にね。予想以上に早く見つかったことで異変がすぐにでも起きるんじゃないかってちょっと心配しているところもあるみたい」
「しかし……この眠気は……」
王都について安心したせいだろう、溜まりに溜まった疲れが一気に気の緩んだテンペストになだれ込んだ。放っておけば次の日まで寝続けたかもしれない深い眠りを、たった一時間足らずで起こされてしまったのだ。全く足りない。
「まあ、これ飲んですっきりして頂戴……眠気を一時的に飛ばしてくれるから。もう話してる間にそれが切れたら諦めてもらうから、ね?」
「んー……。……ん?あれ?」
ミントのような爽やかな味の液体を飲み下すと、すーっとした清涼感とともに眠気も消えていく。
ただし今飲んだ場合夕方までには効果が消えるため、その時はさっきまでよりもひどい眠気に襲われてしまうという。
「これは便利ですね」
「短時間しか効かないんですけどねー。そして時間が過ぎるともう何されても起きない位の深い眠りについてしまうからあまり使いたくないものです。今回は最悪最初だけでも会えればよしということで!」
「何を着ればいいですか?」
貴族用の服の上に、魔術師のローブを羽織る。
魔術師であればローブを着ていればそれが正装となるのだ。ある意味楽だが、ピンキリであり素材やそのデザイン、そして作った人などでランク付けされており……あまり安いとその分軽んじられるのだった。
その点、きちんと相応のものを購入しているのでテンペストは王城でも恥ずかしくはないだろう。
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近くで見る王城は巨大だった。
一体どれだけの時間を掛けて作ったのだろうかと思うほどに。人よりも大きな石が積み重ねられて巨大な建造物を構成している。
まるで巨人の城でもあるかのような門、中は光が差し込むように天窓がついており、光石が大量に取り付けられて暗さを感じない。
ふかふかした毛足の長いカーペットを踏みしめながら奥へと進む。
一際豪華な部屋、そしてその奥にはこれまた豪華な椅子に座った一人の王。
左右に衛兵だろうか、フルプレートで槍を持った者達が微動だにせず立っている。置物かと思い一応ピットで確認をとったが中には人が居るようで熱源反応があった。
「よくぞ見つけてきてくれたな、ハーヴィン侯、そして神子エイダよ。早速だが話を聞きたい。……が、その前に……此処から先は許可されたもののみで行う。事前に話した通り許可のないものはこの場から退出せよ」
一部の兵と、重鎮だろうか、難しげな顔をした者が一人。
真っ白なローブを着込んだ老人と、逆に今のテンペストと同じようなローブだがぱっと見にも分かる高価なものを纏った少年。
10名ほどのみがここに残る。
テンペスト達はその中で傅き頭を垂れたままだ。
「面を上げよ。ここからは一部の者しか聴かせるわけにはいかぬ。して……そちらの少女がそうであると言うのか?亡くなったという男と2人で出現したということなのか?」
「はい。実は、我々がお告げと陛下からの命を受けて領内へ帰った時に、すでに彼女……テンペストは私の街に現れておりました」
経緯を話すとやはりワイバーンに皆が食いついた。
それはそうだろう。凄腕のハンター達が何人かであたって何とか1匹倒せるレベルの火竜が5匹。それを僅か数コンタクトであっという間に撃ち落としたという話を聞かされれば、飛竜が多く生息するハイランド王国としては一つの希望となる。
そして、それを操っていたのは一人の男とだけ聞いていた国王サイドは、ここで初めてこの少女テンペストが精霊であることを明かされる。
「なんと……では、粗相のないようにと皆に伝えておこう」
そして席を立ち、国王がテンペストの前に立つ。
「知らぬこととはいえ精霊に対して失礼をした。ハイランド王国国王、エルヴィン・フーバーという」
「テンペスト・ドレイクと申します。……あの、私は精霊ではありません。申し訳ないのですが……」
「ふむ?神子エイダよ、どういうことだろうか」
自分は精霊ではないと否定したテンペストを見て、その説明を精霊使いのエイダへ求める。
「はい。精霊テンペストは自らを人の手によって作られた存在であると言っております。先ほど申し上げたワイバーンという翼竜に似た乗り物を制御するために生み出された、人工知能という存在であると。しかし……精霊と繋がる時のやり方で彼女と繋がり、今はこの通り人間を器として降臨しております。つまり、私達側から見れば彼女は精霊そのものであり、自分でその姿を変化させたことを考えても……そうとしか思えません」
「なるほど、しかし……人工的に造られたと……?」
「はい。色々と話を聞かせてもらいまして、こちらが理解した事を簡潔にまとめますと……。精霊テンペストが居た世界はここではなく、魔法のない別の世界である事、そしてその世界では高度に発達した別の文明があり、私達で言う精霊に等しい存在を生み出すことが出来るということです」
「人によって作り上げられた精霊……そんなことが可能なのか!」
困惑するテンペストに、どよめきが止まらない周りの者達。
そして……。
「サイモン、エイダ。精霊テンペストの出自は絶対に明かしてはならぬ。戦争が起きるぞ」
「はっ」
人工的に精霊を作る。
精霊使いの力を持った者達からすれば、自分専用の精霊を持てる可能性となる。
このハイランドの精霊使いは精霊を神聖なものとして扱い、精霊使いとはいっても基本的には精霊に対しての頼みごとというスタンスだ。
しかし、他にも国はあり、そちらの方では文字通り精霊を使役する者達も居る。
テンペストのような強力な精霊であれば欲しがるものも多いだろう。そして……どうやって作り出すのかを聞き出そうとするか、もしくはそれを突き止めようとするだろう。
「……それは……困ります」
「そう。だからここにいる者達以外には造られた存在であることを明かしてはならぬ。これが知れたら精霊テンペストを何としてでも手に入れようと躍起になる者達が出てくるだろうからな……。それにまだ力を使いこなせていないのだろう?その間に襲われてしまえば危険であろう」
「陛下、それに関してなのですが……、我々だけではテンペストの力を引き出すには力不足のようです。そこで大魔導師様の元へと送り、魔力を十全に扱えるようになっていただければと思っております。異変が起きた時にそれを解決できる対となる存在が彼女であるというのであれば、恐らく必要な事になるかと」
「構わぬ。すでに話は通っているそうだな。……大魔導師ロジャー殿、ここへ」
前に出てきたのは黒いローブの少年。
背はテンペストよりも少し低いくらいだった。
その幼い子供がテンペストの前に出てきて礼をする。
「大魔導師と呼ばれております、ロジャーです。話は聞いておりましたが、確かにまだ成長途中といった所のようです。僕の所で色々と教えてあげましょう、まさか精霊様に魔法を教える時が来るとは、夢みたいですよ」
「子……供……?」
「あぁ!人族から見れば僕達は子供に見えるのだったね。これでも253歳だよ。種族はリヴェリなんで見た目はもうここから成長はしないのです。同じくらいの歳に見えるのであれば話もしやすいかもしれませんね」
人族よりも長く生きるエルフと同じように、リヴェリもまた何百年もの長い時を生きる。
見た目には少しだけ耳が尖っているかな?という程度の違いしか無いため、よく子供だと思って絡んでは返り討ちに合う者達が居るのだった。
見た目とは違い、その経験は年数を重ねただけはあり、知識も豊富だ。
人懐っこそうな笑顔を向けて手を差し出す。
「失礼しました、ロジャー殿。私に魔力の使い方をもっと教えてほしい」
「もちろんさ!大歓迎ですよ、話し合いが終わったらまた会いましょう」
次に精霊神官のノーマンが呼ばれる。
恭しく一礼すると手を握り祈りを捧げていた。
驚いたことにテンペストにはその祈りが本当に聞こえているのだった。
「……世界を救うとは……」
「やはり、あなたは精霊でございます。精霊テンペスト様!私の祈りが聞こえたのが何よりの証拠でございます」
「え、いや……」
「我々聖堂の者達は精霊の言葉を聞き、精霊と共に歩むことを信条としております。もしも貴方様を捕らえ使役しようなどという不届き者が居りましたらご報告を!必ずや総力を上げて滅してみせましょう!!」
「ノーマン……落ち着け。お主はどうしてそう、精霊のことになると熱くなるのだ。ましてこれから協力をしていただこうと言う時に……」
「いえ、こちらの身を案じてのこと、ありがとうございます」
エルフの精霊神官であるノーマン。
彼は黙っていればイケメンだが、精霊のことになるとどこかスイッチが入って暴走しがちらしい。
残念なイケメンである。
エイダによれば大体いつもこんな感じらしい。エイダも結構苦労しているようだ。
「して……、異変に関してのことを聞いているだろうか」
「はい。世界の理から外れた者が現れるというお告げによって、誰かがどこかに現れ、それと対応するような異変が数年以内に起きているようだということならば」
「その通り。まだ少ない事例での推測に過ぎぬが、恐らくそうだろうということになっている。突然現れた学者がたまたま厄災から守ったというのは出来過ぎている。そして……更に前の出現した者を殺してしまった国は滅びる寸前までの打撃を受け、更に隣の我が国にもその厄災は降り注いだ。あながち無関係とは言えないのではないかと思うのだ。そこで、よければ詳しい話を聞きたいのだが……」
「構いません。こちらとしても成り行き上とは言えこの身体を与え、良くしてくれた事に報いたいと思っています。私が何か協力できるというのであれば手伝いたいです」
思えば最後のミッションでは間に合わず、更に機体性能の限界もあってパイロットを失ってしまった。
あの軽口がもう聞けなくなった、ということは今までであれば特に気にならなかったけど……この新しい体に入ってからは悲しいと思えるようになった。
あれで居て自分にとってはかけがえのない存在だったコンラッド大尉。
そして今はサイモンやエイダ。そして自分のことを世話してくれた皆。
もし本当に厄災が起きてそれが自分に対応した物で、自分が動くことで防げるものであれば……今度こそ救いたいと思う。
そう、決めてきた。その為に私は造られた。
場所を移して王様とノーマン、ロジャー、テンペスト、エイダ、サイモンだけで話をする。
これからテンペストが話すことは戦争の出来事。
それは他の者達にはあまり聞かせたくないという王様たっての希望で、この様な通常ならあり得ないような扱いとなった。
そして、テンペストが作られた理由、こちらに来た経緯を詳しく話す。
途中、こちらで認知されていない言葉に関しては、サイモンやエイダが大まかな説明をしてくれた。
「……色々と初めて聞く言葉が飛び交って、少々混乱しておるが……。魔法の代わりに科学技術というものが発達した世界……か。そしてその問題を起こした国、やはりどこにでもそういう国はあるのか」
「こちらで言えばミレス共和国というところが似ていると聞いております」
「うむ。一応隣国なのだがな……壊滅的な被害を受けてからは特に軍がその権力を強く握っておる。ちょっかいをかけてきては反応を見て、無視されれば脅す。全く困った国よ!我らハイランド王国はこのように高地で、更にミレスとの間には大山脈と宵闇の森が広がっておる。おかげでこっちには殆ど被害は無いのだが」
「逆側に接している小さな国などがしょっちゅう襲われては、同盟国と組んで何とか追い返している状況らしくて辟易しているそうです」
壊滅的な被害、それは魔物の大侵攻だ。
見たこともない強力な魔物たちが突如溢れ、反撃もまともに出来ないままに一気に食い破られていったという。
その後に新発明の武器を使い何とか少しずつ押し返したが、最終的に国土の6割近くが壊滅し、人口も半減。更に、軍事予算をひねり出すために税金が上がり、逃げ出そうとした者は強制労働で国民総軍人というひたすらに狂った国となった。
なまじ技術力だけはあるので、次々に新型の発明品を作り出しては戦闘に投入しているという。
「もしその厄災が彼の国との戦争であるならば、こちらも本腰を入れて調査をしなければならないだろうな……しかし、厄介な……」
「ミレスは閉鎖した国ですからね。入ったら出てこれない。故に密偵を送ることが出来ない」
「暫くは遠くからの監視しかあるまい」
大分閉鎖的な国らしい。自国民すら閉じ込めて置くという位だからあっても驚かないけれど。
「その発明品というものはどのようなものなのでしょうか?そしてそれは私がここに来る前からということですよね?」
「遠くから何かを飛ばしてきたと思ったらそれが爆発したとか、やたら頑丈な馬車とかだね。僕も聞いたことがある。それに確かにそれ自体は以前から作られていたものだよ。正直そこまでの脅威にはならなかったけど、魔力を使わない物を多用してくるため感知しにくいんだ」
ロケットや戦車の走りのようなものらしい。
正直、脅威になる程度の物はなさそうだ。
「正直、私が出なければならないだけの脅威を感じません。ただ、魔物を押し返した位であればある程度は強力な物を持っているかとは思うのですが……」
「そうか。であればどの程度の脅威であれば……」
「少なくとも火竜5匹以上でしょう。話を聞く限りはこの……ハイランドが吹き飛んで跡形もなくなる位のものであれば対応できるのでは」
「とりあえずは私の元の身体……ワイバーンを十全の状態で飛ばせることが大前提となりますが」
ワイバーンの残燃料は乏しい。燃料であるジェット燃料はただ突っ込めばいいというものではない。酸化防止剤を始めとしたさまざまな薬品をいくつも混ぜられて居るのが普通だ。
不純物の混入も厳しく規制されている。
それをここで作り出すのは恐らく現時点では不可能だろう。
だからこそ、ここで作り出せるもので何とかするしか無い。
「ワイバーン……か。それを飛ばせるようにすれば良いのだな?その為に我が国が誇る技術者集団に見てもらいたいのだが構わないか?」
「直す見込みがあるなら是非。そこに……私やロジャーも加えていただきたいです」
「いや、全員関わる方が良かろう。サイモン、お前は専門外ではあるがこれが外に漏れないように管理せい。ロジャーとノーマンは精霊テンペストと共に指示を仰ぎつつ、どのような機関をつければよいかなどを検討するが良い。金は国で出そう。それが復活することで異変を食い止められるのであれば安いものだ。何よりも大事なのはこの国土と国民達、金は失ってもまた取り戻せよう」
面白くなってきたとばかりに喜々として自らがパトロンとなり、後押しをしてくれるという。
これが上手く行けば自国でも似たものが作れるだろう、という打算込みでの発言ではあったが、現状それが一番いい方法と言えよう。
何よりも国がバックアップしてくれるというのだから心強い。
その後、突然耐え難いほどの眠気に襲われたテンペストは、その会議の席で完全に眠ってしまい何をしても起きることはなかった。
重要人物が寝てしまったこともあるが、大体話しはついたのでそのままお開きとなり、後ほどテンペストはロジャーの元へと弟子入りすることが決まった。
魔法を勉強しながら、元の機体を動かすためのヒントを探る。
その第一歩は順調に進み始めた。
これからワイバーンは一度この王都へと運び込まれることになるが、その際流石に馬車などで運ぶことも出来ないため自力で飛行して王都へと降り立つことになる。
場所などを決めてその受入準備が整い次第、この王都にワイバーンが舞い降りる。
それが元の姿での最後のフライトとなるだろう。
ちなみに、突然電池が切れたかのように眠ったテンペストは、次の日の朝まで起きることはなかった。
二食も抜いてしまったため、起きた瞬間ひどい空腹に襲われたのは言うまでもない。
そして……。
「やっちゃいましたか……」
「ごめんなさい、アディ……」
「いえ、私があれを飲ませたのも悪かったので。そうですよね、あの時一度もトイレに行ってなかったですものね……」
とりあえずサイモンが弁償した。
弁償は洗濯の代金ですみました。