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転生伝説  作者: キクチ シンユウ
~空間遊戯~
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南婆羅族

 編成完結式を終えた南婆羅族の首領たちは軍議の為に南婆羅の宮殿内の謁見の間へ移動した。

 天井へ向かう柱は金で装飾をされており、中庭を望む事ができる側面からは装飾のされたガラス越しに日の光が満べんなく差し込まれている。この謁見の間は南婆羅族の首領たちに対して配下の種族たちが謁見をする為に設けられた空間であるが、軍議を行う際にも使用されている。その部屋の高さは二段階になっていて入り口から半分は15mの高さがあるが、もう半分は8m程の高さになっていた。これは大型の鬼の種族が南婆羅の首領たちの玉座に近づくには、屈まなくてはならない造りになっており巨人たちの体躯を(ひざまず)かせる事を目的としていた。

 軍議の際には玉座の前に何十人も座ることが出来る大きなテーブルが置かれ、その机に上には砂盤(戦場を再現したジオラマ)が広がっている。広がっている砂盤は根の堅洲国内の百鬼連合国家が支配する地域を表す物であった。

 今は定例の軍議が行われているが、内容は即応を求められるものであり、勢力圏内への侵入が確認されている超人機関の複数の戦術輸送機についての対応を検討していた。百鬼連合国家は鬼の種族の連合国家であり、黄泉軍(よもついくさ)もまた各種族の戦力の集合体であったが、南婆羅族は軍事の面で発言力が大きく、そのパワーバランスによって大きな決定権を有していた。戦術輸送機の侵入については根の堅洲国内を支配する鬼たちが南婆羅族に伺いを立てている所である。

 状況の報告が終えると、首領の一同はテーブルの上座に座る濔玄(でいげん)の様子を伺っていた。だが、濔玄は発言をしようとはせず隣に座る畆弩(ぜのん)の場とした。

 「俺は、これを人間共の逆侵攻の兆しとは思ってはおらん。それで各々異存はないな?」

 誰からも反論はなかった。

 「ただ、こうも上手くしっぽを巻かれていて気色が悪い。奴らがうろちょろする意図を突き止めたいんだが、状況によっては本隊(南婆羅族直属の部隊)も出す。それでいいですね、伯父殿」

 濔玄は畆弩の伯父であった。濔玄は「かまわん」とだけ答えた。

 また畆弩は一同に向けて話を続ける。

 「そして、問題なのは人狩りをやっている連中だ。篭鬼は死んだようだし、今あの砕晶とかいう奴が仕切っているならなんで奴からの報告がないんだ。それにこの前の騒動の奴らの目的はイザナミノミコトを復活させるものと言っておったが、あの騒動で出てきよったのはタケミカヅチではないか!」

 畆弩は砕晶らへの怒りを交えて一同に言った。

 篭鬼はかつて南婆羅族の前に予言士として現れて、見事に葦原の国へ(人間世界のこと)繋がる空間の穴を発見する功績をあげた。その功績によって篭鬼が要望する人狩八十八鬼衆を立ち上げるために資金と戦力を南婆羅族は提供していた。

 そして先回の騒動で南婆羅の本隊を濔玄が率いて出陣してみたが、超人機関との戦闘を行う所かタケミカヅチの力をまざまざと見せつけられ撤退するに至った。南婆羅一党としては恥をかかされた格好となっていた。

 一同の首領たちは隣の者や向かいの者と砕晶ら人狩八十八鬼衆への事を話し始めたが、話している内容は不満や噂ばかりであった。畆弩は砕晶らの動向について何らかの有益な情報が上がる事が無いことを確認し一同に決を下した。

 「今人間共と何かをしでかしているなら人狩の連中だ。黙って何かをしているなら気にくわん。侵入する人間共がいる件は、まずはやつらに対応させ嫌でも現状を報告させる。よいな!」

 一同が「おう」と答えて軍議は終わった。

 首領たちが宮殿を後にしてから、畆弩と濔玄は南婆羅の宮殿の廊下を二人で歩いていた。

 「畆弩、わしは葦原の国に侵攻した際に見たあの空間術は明らかに神の所業であった」

 「ですが伯父殿、イザナミノミコトは現れなかった。篭鬼たちは一郎がイザナミノミコトの復活の為に必要と言っていたが、確かに一郎の力は並外れていた。我が南婆羅族の一族とはいえ……」

 鬼塚一郎は母方の血縁で小国の王子となったが、南婆羅族の一族であり本家とは遠縁にあたった。畆弩がまた話す。

 「もしイザナミノミコトの復活が本当ならあの篭鬼や砕晶たちはただの預言士などではないのではありませんか?」

 「やつらは自分らに課せられた使命と言っておったな……」

 「篭鬼や砕晶たちの仲間うちをさらに調べるべきでは?」

 「半信半疑で協力をしてみたが、とんでも無い事になってきたな。大都督が予期する通りに……」

 「確証がありませんが篭鬼を殺したのは、やはりタケミカヅチの魂を宿した物部のガキですかね……。こうもなれば人間どもが滅ぶ前に我々も戦を覚悟しなくてはならないかもしれませんな」

 巨大な南婆羅族の宮殿の廊下を歩く二人の巨体な体躯は、観閲台を登る時よりもずっと小さく見えていた。

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