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転生伝説  作者: キクチ シンユウ
~空間遊戯~
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変革

 鬼塚一郎による黙示録は回避された。人々は神によって創られた世界を空に仰ぎ、黄泉軍(よもついくさ)と戦う超人機関を目撃し、そして神の姿を目の当たりにした。

 人間たちは己の無力さを知り、超人という存在を、危機から自分たちを守る存在であると認識した。ほとんどの人間がそう思ったに違いなかった。

 その中でも黙示録の首謀者を撃ち破った少年のことは一番に注目されたが、人々はその少年が物部武であることを知らない。武は奇跡の少年と呼ばれていた。

 一郎の創った世界から帰還した武は、タケミカヅチが宿っていた体を検査された。超人としての力は失っていなかったが、すでにタケミカヅチの魂と力は存在しなかった。

 検査が終わり学校に戻ると、武はこの事件の最大の功績者として礼賛と歓迎の渦に巻き込まれ、彼はそれによく応えた。

 武の手には一郎へ雷を放った感触がまだ残っていた。それが武にとって初めて人の命を奪った感触だった。

 それでも武がよく応えていたのは、一郎を失ったのは悲しむべきことであったが、武のまわりの者たちが無事であったことはたしかに嬉しかったためだった。

 ようやく武が落ち着いたのは、超人機関の本部のソファーに座った時だった。腰かけたソファーは体が水に浮かんでいるように思わせる不思議な感覚を覚えた。

 武はそのソファーのことが気になったが、前にいるのはそんな事を話題にする相手ではないと思って自粛した。

 武の視線の先にいるのは富樫義人だった。ここは超人機関局長室だった。

 「君には大きな負担をかけてしまい、大変申し訳なく思っている。この場をもって謝りたい」と富樫は武に一礼をした。

 武は慌てて立ち上がった。

 「局長、僕もなんとかなりましたし、大丈夫です」

 それに対し富樫は黙っていた。富樫は弁明するつもりはなかった。

 「そもそもご先祖様がやったことですし。きっと最善の策として自分の遠い子孫である僕を使ったというか、託したんだと思います」

 「君は常人が成し得ないことをした。超人も含めてだ。絶対的な力を持つあのイザナミノミコトと、その力を手に入れた鬼塚一郎を自分の意志で打ち破った。

 君が英雄と言われるのは当然のことだと私は思う」

 今度は武が富樫の言葉を黙って聞いていた。武は自己に対して客観的に見ようとする利口な少年だった。富樫の言葉は、武が成し得たことを考えれば反論する理由はない。武は自分が発言をする機会を待った。

 「武君。君はこの一連の騒動の中で()視感(しかん)のようなものはなかったかい?」

 「既視感とはデジャブということですよね?」

 「そうだ」

 武は言葉の意味を確かめてから、鬼に襲われて以来の出来事を思い直したが、既視感と言えるものはなかった。ただ、バス事故に遭った時から自分が超人として目覚めていたことを自覚した時に感じたことがあった。

 「僕は同級生たちとは出会ったばかりですけれど、自分がバス事故の時に超人として目覚めていた事を思い出した時に、同級生たちとはずっと昔から知っていたような感覚になったんです。既視感とは少し違うかもしれませんが、そう思いました」

 「ここの学校の同級生たちのことをかい?」

 「はい」

 富樫は「そうか」と言ってそこでその話を終えた。武は富樫が何故自分に既視感があったか尋ねたのか聞こうとしたが、富樫が「君の同級生たちは君にとって大事な存在となってくれて本当によかった」と言ったためにそれ以上話すことを止めた。

 富樫は後日の検査と今回の騒動のために武に与えられる休暇の話をして武を帰した。

 * * *

 武は部屋のソファーに座りながら富樫との会話を思い出していた。富樫という人物の思うことは今の自分ではきっとわからないと思い、もっと自分の知らないことを知らなくていけないと思った。

 「武、明日は街の方へ行かないかい?」

 錠が声をかけてから赤松もきた。

 「いろいろ忙しくて武がここに来てからこんな経ったが、せっかく休みをもらったんだし行こうぜ」

 「僕たちが案内するからさ!」

 武は了解の返事をし、明日は3人で街へ出かけることになった。

 武はやはりこの場でもこの二人をずっと前から知っていると思った。

 それと同時に、康成が言った「無意識はすでに答えを知っている」という言葉を思い出した。きっとそのうちわかることだと武は思った。

 その後はとくにそのことを考えなくなり、ベッドで眠った。


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