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転生伝説  作者: キクチ シンユウ
~空間遊戯~
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稲妻返し

 天空にたちこめる雲たちは、光に照らされ金色に輝いている。

 雲の内側では、鋭い一筋の音が流れていた。

 雲の間から群青色の飛翔体が見える。超人機関の戦術輸送機だった。

 湧き上がる雲の中を進む輸送機は、まるで雲に呑み込まれたり吐き出されたりしているようだった。

 大きな雲の固まりを抜け出すと、その姿を覆い隠す雲は遠くの空までなく、上空と眼下の雲に挟まれるところに来た。

 群青色の機体に波のように描かれた数本の白線の先にはコックピットがあり、強化ガラスの内側では、敵機の襲来に緊張する者たちがいた。

 「直掩隊より連絡。19時の方向の敵の哨戒艇は速度を落とさず直進。予定の航路では追いつかれます」

 「機長。予定通り右旋回すれば追いつかれます」

 「駄目だ。ここで右旋回に入らなければ奴らに航路を悟られる」

 「ここで迎撃を?」

 「ああそうだ! 戦闘機動隊の全戦力で迎撃に出てもらうぞ!」

 コックピットの内側を覗いて驚くことに乗組員たちが座る座席は独立シートになっている。現代に存在する航空機のコックピットとは思えない空間の広さは、それが現代の科学によって造られた物ではないものだとわかる。

 「迎撃隊を出撃させたら右旋回。直掩の二人を戻して本機の防御をさせるんだ。その後の戦闘機動隊の指揮は少佐に頼むぞ」

 「了解」

 出撃する戦闘機動隊の長が答える。

 戦闘機動隊とは空中戦闘機動を行う超人部隊の名称で、空中においては2名で編成される分隊が最小の単位となり、分隊が二個で小隊の編成をしている。これは地上部隊の場合の分隊編成とは異なっている。

 操縦席で直掩隊へ防衛にあたるように通信手が忙しく呼びつけている最中、後方のハッチからまず一名が飛び出した後、続いて四名の二個分隊がそれぞれ出撃した。

 「敵の一個編隊を確認。……直掩隊戻りました!」

 「もう帰ってきたのか!」

 機長は直掩隊の迅速な機動に驚いた。戻ってきた直掩隊の二人は、飛行艇に寄り添うように飛び、敵の襲来を警戒している。

 「さすがは頭号戦闘団。それに本機を守るのは、そのエースですよ」

 操縦手が言う頭号戦闘団とは、数個ある戦闘団の中でも精強とされる第一空間戦闘団の別称であり、頭号とは筆頭を意味する言葉だった。この輸送機にはその第一空間戦闘団の超人たちが搭乗していた。

 「目標の哨戒艇は本機へもう一個編隊を出撃させ、19時の方向よりそのまま直進。本機は目標の搭載砲の射線上に入ります」

 「構わない、このまま直進。防壁を展開しろ。奴の後ろにいる巡洋艦の砲撃と比べたら大したことはない!」

 「防壁展開します」

 輸送機の前から後ろにに光が流れ、その後全体が瞬いた。

 ヒイロガネで造られた機体であっても、同じヒイロガネで造られた弾丸の攻撃力となれば、その破壊力を耐久することができない。そのため両陣営ともに使用する兵器には、ククリの力の物質に帯びる性質を利用した防壁を創る機能が備わっている。

 「敵の射線上に入ります」

 哨戒艇は爆炎をあげながら砲門をピストンさせ、飛び出した弾丸たちは攻撃隊を追い越していき輸送機に迫る。

 「本機への砲撃を確認、至近弾多数! 直撃弾も来ます! 本機への到達時間測定!」

 「5、4、3、弾着、今!」

 直掩隊が弾丸に向かって飛び込む。両腕の前腕を交差させククリの力を起こし、防壁となって弾丸を弾き返した。

 これが拠点の防壁消耗を防ぐために超人が行う防御方法だった。

 弾いた後は衝撃を吸収するために後方へ宙返りをする。一人が後方に宙返りをしている最中にもう一人が次の直撃弾に飛び込む。

 「直撃弾の排除に成功! 哨戒艇、速度はそのまま、右旋回に入ります」

 哨戒艇は速度を消化しきれず、搭載砲の旋回範囲に限界が達したところで、右方向へ進路を変える。輸送機の前を横切ることになれば、自殺行為になってしまう。

 「迎撃隊が敵の攻撃隊と交戦に突入。我方(われほう)の攻撃隊は哨戒艇に迫ります!」

 反復運動によって再び攻撃をせんとする哨戒艇に我方の攻撃隊が迫る。戦力に差はあるも、両機とも同じ状況となった。

 「さらにもう一個の攻撃隊を確認!」

 「迎撃隊はもう一個の攻撃隊を交戦に引き込めないのか?」

 「駄目です! 距離が離れ過ぎています!」

 もう一個の攻撃隊は交戦を横目に輸送機に迫る。しかもこの攻撃隊は重装備をしていて、輸送機を撃墜するための本命の攻撃隊だった。

 だが、機長はこの展開を指揮官が予想していないとは思わず、エースの登場を期待した。

 「少佐! 捉えているのか?! 少佐!」

 “捉えているぞ”

 雲の裂け目から攻撃隊に陽の光が差した時、そこへ稲妻が落ちるのを見た。

 稲妻が通り過ぎると、一鬼の鬼が落ちていく。

 「岩本少佐、攻撃隊と戦闘に突入!」

 稲妻の正体は、岩本和之少佐だった。

 岩本は急降下をした後、瞬く間に反転し急上昇した。急降下に等しい速度の急上昇で敵に迫る。この反復運動は岩本自身の行動を加速させる能力が可能とさせた。

 的となった鬼は急上昇してきた岩本の攻撃を退けるも、再び上空から襲いかかる攻撃を防ぐことはできず、攻撃隊に稲妻が通る度にまた一鬼、また一鬼と撃墜されていく。

 「すごい! あれが稲妻返し!」

 「上昇が急降下の速度と変わらない……」

 急降下を利用した一撃離脱戦法で襲いかかり、自身の行動を加速させる能力を利用することで、急速で反転し急上昇をする。この攻撃方法を使うことができるのは彼だけで、彼の能力と天才的な空戦テクニックがそれを実現させた。また、ククリの力の光によって往復する軌道は、まるで稲妻が往復する様に見え、この反復攻撃を稲妻返しという。

 岩本が第一空間戦闘団きっての撃墜王と呼ばれる所以がこの技術にある。

 敵の攻撃隊を撃滅し、残る目標は哨戒艇のみとなった。

 岩本は戦闘の終止符を打つべく、攻撃に向かう二名に確認をとる。

 「藤井、敵機を逃がすな」

 「了解。只今より目標に近迫します」

 攻撃隊の二名がいよいよ哨戒艇に迫った。

 「菊田! 目標の防壁なら俺だけで十分だ、援護してくれ!」

 藤井の後ろに菊田がまわり、手持ちの火器で支援射撃する。

 哨戒艇の対空砲火の恐れることなく肉薄した藤井は、胸の前で手を構えた。

 両手の掌に間にできた空間にはククリの力が溜まりエメラルド色に輝き、哨戒艇を眼下に捉えた瞬間、空間の一部が解放され、光線となって勢いよく飛び出した。

 光線は哨戒艇の防壁を突き破り、機体ごと貫いた。

 「命中!」

 哨戒艇は爆炎を上げて高度を落としていき、雲に呑み込まれていった。

 “敵の勢力の排除に成功。各員の目視でも敵を視認できない”

 「了解。少佐、よくやってくれた。帰投してくれ」

 岩本は了解し、展開する各員に帰投を命令した。

 「敵の目を潰した。戦闘機動隊を収容したら、全速前進でこの空域から離脱する」

 この空は、根の堅洲国の空だった。その中でも百鬼連合国家の支配下にある空域で、輸送機は危険を顧みずに目的地へと向かっていた。

 彼らにはそれを承知した上での目的があった。またこの作戦に参加するのは、彼らだけではなく、その他数十機の戦術輸送機が危険な任務に参加している。

 輸送機は再び大きな雲に呑み込まれていき、その後を追う者はいなかった。



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