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転生伝説  作者: キクチ シンユウ
~天上降下黙示録~
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帰還

 世界の誰もが見つめている。人生においてどれだけ重要な局面を迎えていようとも、これに勝る重大な局面はなかった。

 世界で起こる生命の存続に関わる様々な出来事さえも全てを超越した光景が、すべての人々の注目を集めている。

 頭上に迫った異世界が、天を裂く轟音をあげながら降下してきていた。

 金色の神は天に向けて雄々しく両手をあげ、光輝くその瞳は堕ちてくる世界を見据えていた。

 その世界に対峙する金色の巨大な姿は、人々にとってどれだけ希望となっただろうか。

 轟音をあげ世界の終焉を予感させられる頭上の天に人々は恐怖しているが、その空を待ち構える姿には人々に希望を与えるだけの力があった。

 ある者は涙を流しながらずっと見つめ、ある者はその姿に手を合わせ、ある者はその姿に恐怖さえしていた。

 中央作戦室でも、誰もがその姿を見つめていた。

 その中で富樫は、背面のディスプレイに映っていた異世界の状況の中から一郎の情報が消えていることを確認した。

 「ついに鬼塚一郎が死んだか」

 「では武は?!」

 錠が質問した。

 「この破壊される世界から、帰って来られるかどうかだ」

 富樫は正確に錠に答えた。

 この場にいる者たちは知っている。最大の危機に本当に立ち向かったのは誰であったのか。それを知っているだけで、その者が自分の友人であるだけで誇りに思えた。そしてその勇者の帰還を待ち望んでいる。

 落ち着かない錠や赤松たちと対照的に、瑛美子と瑛理子は、武を思って瞳を閉じてじっと手を合わせていた。

 「異世界さらに近づきます!」

 「いよいよです」

 「まさに天に祈るしかないのにゃ」

 いよいよ空の轟音は激しさの頂点に到達し異世界との衝突が目前まで迫った。

 タケミカヅチの天に向けた両手の手の平から何層もの波動が広がり、その波動は世界の果てまで広がっていった。

 その波動はエメラルド色に変わり、その輝きが空を覆った。

 武神の雄々しい声が世界に響くと、さらにその光は激しい輝きとなった。

 ますます光輝いた光はエメラルド色から白銀に変わり、それを見つめる者の目前までその純白の光が迫ってくる。

 その光は数十秒間ほど続いた。

 しだいに白い光は薄くなり、景色が見えてきた。

 すると鏡のように空に広がった異世界の姿はすでにもうなく、青々とした空が広がっていた。

 「異世界消滅! 空間のつながり上のすべての空間に、その姿は見られません!」

 「黙示録は回避された……」

 「や、やった!」

 中央作戦室にいる者たちは黙示録が回避されたことを確認した。

 世界中の人々は歓喜して、周りの者たちと互いに生きていることを喜びあったが、まだタケミカヅチの姿が存在していることを確認した。

 世界の終わりを思わせ、落下してきた異世界を受け止めたにもかかわらず、先ほどと変わらぬ雄々しきその武神の姿に、人々は神が存在していることを思い出し、また人間の無力さも思い出した。

 「なお、これに続く異世界の出現はありません!」

 「南婆羅軍、黄泉路へ向けて後退します!」

 中央作戦室のざわつきの中で、オペレーターの声が響く。

 「物部武の生命情報を確認しろ!」

 富樫の命令が響いてからそれに続いて声を出す者はいなかった。

 生徒たちは空を見つめていた。武の帰還をいち早く確認したいと誰もが思っている。

 「物部……どこにいるんだ?」

 熱くなりやすい松岡も、静かにその姿が現れるのを待っていた。

 武の姿はまだ空にはなく、オペレーターによる報告もなかった。

 「タケミカヅチノカミ、浮上します!」

 タケミカヅチはぐっと膝を屈伸させてから、その巨大な体を浮かした。

 そのまま天に向かってゆっくりと昇っていく。巨大すぎるゆえにゆっくりとした速度だったが、その昇る姿は軽やかに見えた。

 「タケミカヅチノカミが天へ還っていく……」

 生徒たちは金色の姿に注目し、空の中へ消えていくのを見送った。

 やがてその姿が空に消えていくと、その姿があった中心に黒い点が見えた。

 その黒い点は次第に大きくなってくる。それは落下してくるものだった。

 徐々にその物体が見えてくると、外被を身にまとっている人間だとわかった。

 「武君!」

 「武!!!」

 瑛美子と瑛理子に続いて錠が叫んだ。

 錠が飛び上がり、それに赤松が続いて、瑛美子と瑛理子、そして早奈美も飛んだ。

 松岡が富樫の顔をうかがった時、富樫はゆっくりと頷いた。

 影康は号泣をしている。

 5人に続いてクラスメイトの少年少女たちが空へ飛び上がっていった。

 「あ、あれ? 武は意識がないのか!?」

 「急いで受け止めないと!」

 全身の力が抜けた武の体は、頭から真っ逆さまに落ちていく。

 武の体には、もうタケミカヅチの力は残っておらず、自身の力までも使い果たしていた。異世界が破壊された時にその身を守るために使ったのが最後で、タケミカヅチと空ですれ違った時にその力を返した。

 落下してくる武の体を見事に錠と赤松がキャッチした。

 武が目を覚ました時には、錠たち5人に抱きかかえられていた。

 「み、……みんな。それじゃあここはもう」

 「そうよ。あなたは帰って来たのよ」

 「おかえりなさい、武君!」

 瑛美子と瑛理子の嬉し涙が瞳に溢れていた。

 「武! やったね! 世界を救ったんだ!」

 「すごいよ! お前は!」

 錠と赤松は、笑顔で武の健闘を称えた。

 「ほら見て! みんなも来ている!」

 早奈美が差す手の先にはこちらに向かって来るクラスメイトたちの姿がある。

 武は無事に帰ってこられたことを確認でき、その表情にやっと(ゆる)みが生まれた。

 「みんな……ありがとう」

 武は一言、クラスメイトたちにそう言った。

 空にいる少年少女たちには、温かな陽の光が照らされていて、太陽さえも少年の帰還を祝福しているようだった。

 その様子を高天原から康成と白狼も祝福している。

 「やってくれたな、武坊」

 「武よ。よくぞ耐え、立ち向かってくれた」

 「良かった、良かった」

 「これで鬼塚一郎による黙示録は回避された。タケミカヅチノカミの降臨と物部武の勝利は、紛れもなく芦原の国で起こった奇跡だ」



 こうして、イザナミと鬼塚一郎による黙示録の危機から芦原の国は救われました。少年と武神タケミカヅチの活躍を世界の人々が目の当たりにし、人々はその奇跡を喜びました。

 そして奇跡を起こした少年はその決意を胸に再びこの世界に還ってきました。

 ――再び、神話が始まったのです。


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