衝突
中央作戦室では、異世界にいる武へと向かっていったククリの力を確認していた。そのククリの力の出所がこの新夢の島だった。
「異世界より強力なククリの力を感知しました! そしてその人物情報は鬼塚一郎です!」
異世界の状況を映し出す大型ディスプレイには、鬼塚一郎の名前が表示されオペレーターの報告する声が響いた。
「世界を超えても感知することができるエネルギーは絶大なものだ。おそらくそのエネルギーの大きさは神に等しい」
富樫は動じることなく言った。
「あれがイザナミの力なのにゃ。この世界に住み生きるものをすべて滅ぼすことができる力にゃ」
ディスプレイを見上げる影康の横で手を合わせている少女たちがゆっくりと目を開けた。そして瑛美子がその対決の始まりを告げた。
「武君が魂を開放させました」
するとディスプレイに物部武の名前が表示された。
「異世界より物部武 学生の人物情報を感知しました! 体内にあるククリの力は鬼塚一郎と同じだけの数値を感知できています」
オペレーターが武の情報を報告すると、その後すぐまた声をあげた。
「新夢の島に莫大なククリの力が発生しております! 人物情報を参照できません! ……生命体の質量も大きすぎます! 測定できません!」
「局長。お降りになりました」
瑛理子は富樫にそう言って、富樫は指示をだした。
「大型ディスプレイを下し、表示している画面を背面のディスプレイに写し変えろ! ドームを完全に開放し、屋外を見えるようにするんだ!」
富樫の指示で大型ディスプレイが収納されていき、ドーム状の中央作戦室の天井が左右に開いて下まで下がっていった。
外の様子が見えてくると中央作戦室にいる誰もが声をあげた。
そこには金色に光る龍、武神タケミカヅチの姿が空に広がっていた。
その姿は巨大な体躯と尻尾を持つ龍ながら両手脚を持っていた。
どれだけ大きいのはわからない。空に突き抜けるほど高く、どんな建設物や山よりも大きく思えた。
「この姿が……。神様……」
神々しいその姿に圧倒されている錠の口から、この言葉のほかでる言葉がなかった。
松岡だけが口を開き、生徒たちに説明をした。
「……そうだ。そして鬼塚一郎が創った世界は空間のつながりであるから、タケミカヅチノカミはすべての空間であの異世界を破壊するように現れている。だから世界中のどこでもタケミカヅチノカミが、頭上の異世界と対峙している姿が見えるだろう。それは神という存在は空間のつながりにその存在が影響されないからだ」
二人の少女は使命を果たしたが、まだ安心した様子は見られない。先ほど見送った武が一郎に勝利することができるのか、それが心配だった。
「ありがとう。君たちのおかげでタケミカヅチノカミが降臨することができた。良くやってくれた」
富樫は瑛美子と瑛理子に礼を言った。だが、富樫の顔にもまだ安心した様子は見られていない。
「局長。鬼塚一郎はイザナミから肉体の所有権を完全に取り戻しています」
「鬼塚一郎の心の中を見たのか?」
「はい。ですが、鬼塚一郎に呼びかけることはできませんでした」
「局長。鬼塚一郎は彼の意思としてあの世界を衝突させようとしているのです」
瑛理子が簡潔に一郎の目的を説明した。
「鬼塚一郎自身もこの世界に住む人間を滅ぼそうというのか。物部武は鬼塚一郎を戦う決意をしたのだな」
「よくぞ、よくぞ決心してくださいました武殿……」
影康は武の決意に両目から涙が溢れていた。
影康の姿は大げさに見えるが、少年の決意が人々の心を打つ感動を与えたのは事実だった。神々の代理対決という宿命の重圧に押しつぶされることなく、むしろそれを受け入れ挑もうとする精神は彼らにとって尊敬するに値した。
「お互いに一番幸福だった頃の思い出の中にいたその幼なじみが、目の前に対峙する存在となり、その人と闘わなくてはならないなんて」
瑛美子が二人の不幸に悲しんだ。瑛美子にとって例えば瑛理子と対立することなど考えられなかった。
「でもお互いがそれをわかった上でお互い臨もうとしているわ。自分のすべてをかけて」
彼らの頭上に広がる異世界では二人を取り巻く二色のエネルギーが輝き、天を覆っていた。二色のエネルギーは波のように流れてぶつかり合い、波同士がぶつかると金粉のような輝きが散らばった。互いが相手の色を覆い尽くそうとしているのがわかる。
そしてその下では世界中の人々の注目を一点に集めているタケミカヅチがその衝突に構えていた。