黙示録へ
まるで幽体離脱をしたような感覚。空から自分のいる街を見ているようだった。
東京の空は雲がすっかりと晴れたはずだったが、再び灰色に覆われていた。人々は空を見上げてそれを確認すると、その頭を下げることはなかった。
ビル群の頭。首都高速のセンターライン。大型商業施設に公園の緑と池の水面。空が鏡のように地上を反射したこの現象は、東京だけの現象ではなく、全世界で同時に起こり、世界の人間は天を見上げた。
世界の人々はこの時をもってようやく認識した。自分が知る常識が、世界の常識ではないことを。
神々が創りだした自然の中より生まれた肉体が本来知っている力。その力によってこの世界は成り立ち、すべての存在がその存在であることができるもの。ククリの力は目の前だけではなく、瞼の裏にもあることを人々は無意識のうちで知っていただろう。
だが、意識の上では知ることがなかったことがどんなに愚かで、それがこの自然の中でどれだけ不条理なことであったことか。
人々の頭の上にのしかかるものによって、ますます痛感することになった。
この現象は超人機関の中央作戦室にて解析が進められていた。超人機関の本部で一際目立つドーム状のこの施設は、地上三階のところにあってその全高は地上6階に相当した。
その中は、一番目立つ大型ディスプレイの他、数多くのディスプレイが設置されていて、天井のない階層ごとに超人機関の中央本部、通信部、艦隊司令部、超人狩り対策本部などが置かれていて、超人機関の中枢である。
1年4組の学生隊は待機命令によって本部に待機していたが、この現象が起こったために全員は屋上に出て空を見上げていた。
「これは非常に強大な空間術だ。今この現象は世界中で見られている」
空を見上げる生徒たちの元に松岡が現れた。
「松岡隊長。それはどういうことですか? 地球は丸いじゃないですか。なぜ世界のどこでも起こっているのですか?」
「これは今いる空間を創ったのではなく、この世界と同一の空間のつながり自体を創られたんだ。つまり頭上に広がる世界には、この世界と同じく死の方向へ過ぎ去っていく古い空間、今の空間、生の方向から迎えられる新しい空間のすべて同じ空間が存在している。だから、どこにいてもこの現象が見られる」
「では、この空に広がっているのはここと同じ世界ということですか?!」
「そうだ。この世界と同一の物質が存在している。このようなことは通常、人間や鬼には決してできない」
この現象の規模の大きさに驚き、生徒たちは息を止めたように固まった。
その固まりついた一人一人のポケットから一斉に着信音が鳴り始める。松岡の携帯端末も同様に着信音が鳴った。
――天上降下黙示録。
全員の端末の画面には同じくこの一文が表示された。
そして送り先には、鬼塚一郎の名前があった。
世界中の携帯端末にそのメールが届いた。しかもその国、地域に適した言葉で世界中の端末の画面に表示されたのだ。
「これが、この実行者の名前。ガネイの国の王子、鬼塚一郎」
「僕たちはこの人に会ったことがある。こんなことを起こすことができる存在に」
「そしてその人が武君の幼なじみ……」
今度は松岡の携帯のみ電話の着信音が鳴り、松岡がそれに出る。
電話口で二言、三言を話してからその電話を切り、生徒たちの方へ向いた。
「みんな、物部が病室からいなくなった」
「え!!!」
生徒一同が声を出した。
「先生! 武はどこに?!」
「わからない。だが、おそらく鬼塚一郎によって空間に引き連れこまれたか、それとも自ら赴いたのか。みんな、中央作戦室に戻ろう。君たちには武の戦いを見届けてほしい」
その言葉に生徒たちは理解ができず、錠が言葉を返した。
「……先生。それはどういう意味ですか?」
松岡は答えなかった。そして中央作戦室に向かうエレベーターへ向かったため、生徒たちもその後に続いた。
立ち尽くした錠に瑛理子が声をかけた。
「大丈夫よ。武君はきっと」