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転生伝説  作者: キクチ シンユウ
~天上降下黙示録~
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爪痕

 武が身を挺して鬼塚一郎の関与を発見したが、そのヘリの行方は全くわからないところとなってしまった。

 しかしながら、この作戦で大手ゼネコンの大谷組の超人狩りへの関与の実態がわかった。

 大谷組の専務は、鬼塚一郎の父親の兄であり、伯父にあたる。超人狩りが始まる5年前、その血縁がきっかけで鬼たちの標的となり、専務と会長は役員会議で惨殺され、役員たちは脅迫され協力せざるを負えなくなっていたというのだ。

 この協力により、大谷組の関東圏内にあるいくつかの工事・建設現場を利用していた人狩八十八鬼衆は、超人狩りのための拠点のネットワークを構築し、超人狩りを実行してきた。

 この事実はニュースとなり人々は驚愕したが、超人機関の者たちにとっては、近年、ガネイの王子である鬼塚一郎が超人狩りに関与していた事実の方が驚く事態だった。

 大谷組の戦闘の際に負傷してしまった武は、早奈美の迅速な処置によって大事には至らずに済んだ。だが、一時的とはいえ、重傷であったために超人機関の医療施設に入院することになり、再び2日間の休養をすることになった。

 一方、超人機関は超人狩りを実行してきた鬼の戦闘集団、人狩八十八鬼衆に隷下(れいか)する部隊が新設されたことに対し、首都圏に展開している空間戦闘団の増援を決定していた。

 この新設された部隊の名称は、百鬼夜行隊という。この部隊は第一空間戦闘団にとても似た特性を持つ部隊で、その設立理由は明らかに第一空間戦闘団に対抗したものであり、人狩八十八鬼衆が超人狩りから全面的な侵攻へ転換すると判断した。

 そのために、緊急時の避難方法などを国内の様々な組織、施設を通して国民に周知させることを政府に働きかけ、超人機関は鬼の軍勢との全面衝突に備え準備を進めていた。

 大谷組本社ビルの占拠から2日が経った。曇天の雲が重く空にのしかかり今にも落ちてきそうな様子で、陽が出ていないが、肌寒くはなく、気になるのは空が雨天に変わることぐらいだった。 

 休養の中で常に考えていたのは、再会した幼なじみの一郎のことだった。

 武の前に現れた姿は幼い時に知る一郎ではなく、人魂であり――鬼の種族の王子であり――ククリの力を使う者であり――鬼に協力する一郎だった。

 しかも、彼は根の堅洲国から武の元へ来る際、世界を移動する時に瑛美子と瑛理子そして錠と知り合っていた。その中で瑛理子のみが一郎から名前を聞いていたために、瑛理子は一郎の名前がかすかな記憶で残っていたのだった。

 武は病室のベッドのシーツをたたみ終え、ベッド棚の私物を片付けている。

 その中には、入院した際に瑛美子がくれたお守りがある。

 そのお守りからはほのかな温もりが感じられ、ククリの力が込められているのだと思ったが、瑛理子の言った「愛という能力」のことを思い出した。

 だが、武への思いを感じる温もりをもってしても、武の頭の中から悩ましい困惑を消し去ることができなかった。

 シーツ類をたたみ終えたところで、武のスマホに着信音がなった。

 「誰だ?」

 それはメールだった。その送り先を見ると武は記憶の奥に残っていたメールアドレスであることを確認した。

 そのアドレスは、母から教えてもらい一郎と共に初めて作成したもので、二人で共有するために作ったアドレスだった。武はこの数年間、その受信箱すら覗いていない。

 体に緊張が走った武は、周囲を一度確認していからその本文を恐る恐る開いた。

 ――天上降下黙示録。

 「間違いない。一郎が送ってきたんだ」

 武はそれを確信した。

 ――またビー玉遊びをしよう!

 後頭部では一郎のその声がこだまし続け、病室の窓から灰色の空を見つめた。

 静かにゆっくりと流れていく暗い雲はシワが多く目立ち、これから嵐が始まることを知らせているようだった。

 武は錠に持ってきたもらった服に着替え、脱いだ服を急いでたたんでベッドに置き、外被を羽織って、部屋を飛び出した。これから始まることを唯一知る者は、幼なじみ鬼塚一郎のみであるとの確信をもって。


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