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転生伝説  作者: キクチ シンユウ
~天上降下黙示録~
21/38

再会

 二日後。休養をもらった三人は、作戦に復帰していた。

 新宿区の大久保通りを走る車の中に、武と赤松と早奈美がいた。

 運転席に武、助手席は赤松、後部座席には早奈美が座っている。

 襲撃に備えて五人一組の体制になったが、今回はどうして一つの車両に三人しか乗っていないか、その理由は車列にあった。

 武たちが乗る車の前方5両、後方11両の計17両は超人機関の車で、その内8両は学生隊が乗車していた。万が一襲撃があった場合を考えても対抗できる戦力があったために、今回はまた三人一組の車両編成だった。

 すべての車両は超人機関の車両だと思われないよう偽装のため一般車を使っている。

 先日の同時多発襲撃事件の最大の収穫は、超人狩りを実行する摩鬼たちが工事・建設現場を使用していたことを突き止めたことだった。

 武たちが参加しているこの作戦は、鬼たちに工事・建設現場を提供していた大谷組を占拠するための作戦であり、学生隊は一般社員たちの保護と避難誘導の担当になっていた。

 「しかし、まさか大手ゼネコンが超人狩りに関与していたとはな」

 「そういえば、俺が最初襲われた時の帰り道にも工事現場があったよ。だけど、会社の全員が関与していた訳ではないし、俺たち学生隊が参加するのは、超人狩りに関係のない人間を危険から守るためだ」

 「ジョー君は、今日は一緒じゃなくて空にいるんだよね?」

 「ああ。ジョーの能力は空中で活かせるからな。今頃上空のヘリで待機しているよ。なんかあれば空からミサイルがバア~ってな」

 「ねえ、お兄ちゃん? ジョー君って今日はしてないだろうけど、ヘリも運転できるんだよね?」

 「ああ。そうだよ。あいつの家はお金持ちだからな。来栖家は人間世界では財閥だし、根の堅洲国でも大企業を経営している」

 「これから始まるククリの力の生活エネルギー転用では、もう独占状態になるらしいな。俺も前からジョーの家の企業は知ってたけど、これからは世界で一番有名な企業になるだろうな」

 「すげえよな……。おい、早奈美。お前ジョーのところにお嫁さんにいったら玉の輿だぞ!一生遊んで暮らせるぞ!」

 「えええ?! ちょっと何言ってるの!」

 「あー、確かに! それもいいじゃないかな、それにジョーはイケメンだし!」

 「もー、武君まで!」

 「ははっ! 早奈美、恥ずかしがるなよ!」

 「お兄ちゃん!」

 武たちの一両前の車両には瑛美子と瑛理子が乗っていて、運転席では同じクラスの村椿が運転をしていた。

 助手席で眉間にしわを寄せている瑛理子を、瑛美子は気にかけていた。

 「どうしたの? 瑛理子?」

 「うん。武君が言ってた幼なじみの人の名前なんだけど、あともう少しで思い出せそうなの」

 「もう少しで?」

 「だけど、思い出せないわ。それに瑛美子、わたし嫌な予感がするわ……」

 瑛理子はその言葉を言って目をつむった。そして瑛美子も暗い顔をする。

 「……私もよ、瑛理子」

 車列の先頭の車の運転席からは、大谷組の本社ビルが見えていた。

 その本社ビルは、ホール状のエントランスの一階にビルが突き刺さった形状をしている大きなビルだった。

 車内のスピーカーから音声が出る。

 「目標近づく。予定の位置で先頭車両より停止せよ」

 先頭車両が本社の玄関を過ぎていく。車列の真ん中の車両が玄関のところに来たところで、車両が一斉に停止した。

 「突入」

 その指示で、まずは超人狩り対策本部の人間から突入していく。そしてその後を学生隊が続いた。

 突如玄関から押し寄せてくる黒い外被を着た者たちの姿に、社員たちは驚いた。

 「全員その場から動かないで!」

 「社長室を押さえろ! それと役員は一人もここから出すな!」

 瞬く間に超人機関の者たちが社内へ次々と展開していき、目を丸くして唖然としている受付嬢のところへ来たのは松岡だった。

 「社内全体に放送ができる機器はどこにありますか?」と丁寧に聞いた。

 玄関のあるエントランスは天井がとても高く吹き抜けになっている。その高さは三階の天上と同じ高さで、ビル部分の二階、三階が露室した形になっている。

後から入ってきた武たちが入って来た時には、すでに一般社員たちの避難が始まっていた。武の車両の三人と前の車両の三人は、6人組となって屋上に向かい、屋上にいる一般社員を避難させる任務を負っている。

 「赤松!」

 「おう、村椿。問題ないな」

 武たちの元に瑛理子たち三人がきた。

 「さすが早いな。もう予定通り一般社員の避難が始まっている」

 「武君、エレベーターに向かわないと」

 「武君?」

 武は立ち尽くしていた。

 その頭の中では稲妻が走り、その雷鳴が後頭部で鳴り響き続けるために、5人の声が全く頭に入ってこなかった。

 武が一点に見つめる先にはエレベーターがある。

 今、両側の扉が閉まろうとしているエレベーターの中から、武を見つめ返す人間が、いや、人魂がいた。

 鬼塚一郎だった。

 武の目線の先に5人も気がつきその姿をみた。そしてエレベーターに鬼が一緒に乗っているのもしっかり目で捉えた。

 「一郎だ……間違いない」

 武はエレベーターに向かって駆け出した。だが、それを待たずに一郎を乗せたエレベーターは扉が閉まり上の階へ昇っていく。

 「おい! 武!」

 「待て! 赤松!」

 5人も武を追って駆け出すと、エントランスの天上から、武と5人を寸断するようにコンクリートが落ちてきた。

 「うお! 伏せろ!」

 床に叩きつけられたコンクリートが鈍い音をたて続ける。

 その轟音に悲鳴が上がるが、その直後悲鳴の色は別の物に変わった。

 崩れ落ちた天上から、鬼たちが降りてきたのだ。

 「早奈美! 後ろに回れ! 村椿!」

 「ああ! こいつらが!」

 「赤松君! 武君が!」

 武はすでに5人のずっと向こうのエレベーターに乗っていた。

 このエレベーターは、社員たちが使うエレベーターホールのエレベーターではなく搬送や清掃業者が使うエレベーターで玄関から隠れた場所にあるエレベーターだった。

 その中は殺風景な灰色一色の壁で鏡や装飾はなく、扉の上で階を示してこつこつと光るLEDが目立っていた。

 武は迷うことなく、屋上を押していた。一郎たちが向かうのは屋上であることを直感し、また他の階に向かう理由が考えられなかった。

 ずっと姿を自分に見せることがなく――とある鬼の国の王子になり――そして自分が高天原にいる最中に家を訪れていた幼なじみ――鬼塚一郎がなぜここにいるのか、ぐんぐんと昇っていく部屋の中で考えて続けている。

 鬼と一緒にエレベーターに乗り込み、外被を着た武の姿に驚きもせず、整然とただこちらを見つめていたその姿が武の頭に焼き付いていた。

 屋上に到着すると、武は一階のボタンを押してからエレベーターを出た。血気早まって先行してしまったが、赤松たちが早く屋上に来れるようにするための措置だった。

 エレベーターのある部屋から屋外への出入り口を出ると、ヘリポートが広がる。

 その中央には見たことのない形状のヘリが停まっていて、数名がそれに乗り込んで行く姿が見えた。

 ヘリポートの隅では外被を着た3人の超人が、手すりに背中をつけて倒れている。

 「待て!!!」

 武が怒号をあげて電撃を放つために両手を構えた。

 青い光を放ちながらヘリに向かって電撃が飛び出すと、ヘリの手前に二つの黒い球体が現れ、電撃を跳ね返した。

 「空間?!」

 そのうちの一つの黒い球体は武をめがけて突っ込んでくる。

 物凄い速さ。おもわず電撃を放って弾き弾き返すが、さっき確認したもう一つの球体の姿がない。

 すると突然、武の足元の床を破ってその球体が飛び出してきた。

 それが現れた瞬間、武は能力を使った。左脚を一歩引いて回避しようとしたが、武の息は思わず止まる。

 その武の左胸の前に現れた球体から、刃が飛び出してきたのだ。

 ――しまった!

 そう思ったときにはすでに時遅く、外被を裂きながら武の左胸に刃が入刀される。

 そこで武の能力は終わり、黒い球体は武を斬りつけ空高く飛んでいった。

 「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 初めて味わう激痛に、武は思わず声を上げ、地面に両膝つけてから右手も地面につけた。

 激痛に意識が飛びそうになりながらも、武は全身で声を出した。

 「いちろぉぉぉぉぉぉぉう!!!」

 武の声が空に響く。だが、上空の超人機関のヘリはそれに気がついていない。

 目の前のヘリの中から一人出てくる。太陽によって影になっているその姿が武の方に近づき次第に見えてきた。

 紛れもなく、鬼塚一郎だった。

 「武! ずっと会いたかったぞ! この前は失礼したな」

 「なぜだ、なぜお前がここにいる! なぜ鬼たちと一緒にいる!」

 「……」

 一郎は武を見つめながら答えない。

 武たちが着る外被と似たコートを着ていた。そして長い髪の毛を後ろで束ねるその王族の髪型で、前髪少しが顔に垂れている。そして首には、赤い宝石のような装飾がある首飾りを付けていた。

 「すまなかった。このヘリを壊されるわけにはいかない。向かって来る者には容赦をするわけにはいかないのだ。だけど、その傷はすぐに治せる」

 「なんで答えないんだ! どうしてだ! お前も超人狩りに協力していたのか!」

 「……」

 「一郎!」

 「武。ここでは邪魔が多すぎる。お互いにな」

 「なんだと……」

 「外で遊べなかった雨の日にビー玉遊びをしたのを覚えているか? 俺が住んでいた家でだ。またあの時みたいにビー玉遊びをしよう!」

  一郎は、武の向こうに赤松たち5人が駆けつけているのを確認した。

 「武!」

 「うお! 武大丈夫か?!」

 「武君!」

 一同はその武の怪我に思わず驚き声をだした。

 「早奈美! 武を!」

 「はい!」

 早奈美の能力は、身体の内外の異常を元の状態に戻す能力で、武の応急処置にはうってつけだった。

 「武を下げさせろ! 武を守るんだ!」

 「や、やめろ! 赤松! 村椿! お前たちもやられてしまう!」

 武の前面に赤松と村椿が出て、一郎の前に立ちふさがった。その後ろに瑛美子と瑛理子、さらに後方に武を下げて早奈美が応急処置に当たった。

 一郎の前で構えた二人は、武に重傷を負わせたことを驚いたが、さらに一郎のその威圧感に驚いた。

 ――赤松。こいつはまずい。下で戦った鬼共とはわけが違う。俺もぶった切られるな。

 村椿は、一郎が与えるプレッシャーに()されていた。意識をする以前に敗北を予想してしまう状態になっていたが、赤松の方はまだ村椿ほど負けていない。

 自分が陣取るここを退けば、みんながやられてしまうという責任感が、赤松の両脚を支えていた。

 ――地面を踏みしめるこの感覚を失ってしまっても、退きはしない。

 赤松はクラスメイトたちに対して年の差で(おご)ることはないが、年長としての責任を果たそうとする男だった。

 その赤松の顔を横目で見て村椿は呼吸を整え闘志を立て直した。

 「君はー、お久しぶりと言ったところだな」

 そう言った一郎の目の先は瑛美子だった。

 瑛美子は黙っていたが、すぐに言葉の意味がわかった。

 「……! 瑛理子! わたしこの人と会ったことがあるわ! 瑛理子と錠君と一緒に根の堅洲国から帰ってくる時に!」

 「そうだわ! 根の堅洲国から黄泉坂の空間の中で、私はこの人から名前を聞いていたわ! そう鬼塚一郎だって!」

 「そうだな。でも君には双子の弟がいなかったかい?」

 錠のことだった。

 その言葉を最後に一郎は身を翻してヘリへ向かった。その後ろ姿は背面とはいえ、5人に油断を許さなかった。そしてヘリのプロペラがブンブンと回り始めていよいよ離陸する準備が完了しようとしている。

 「このまま脱出する気か!」

 「だけどなんでだ?! 上空から見えていないのか!」

 「赤松! この屋上は、恐らく上空から俺たちのことが見えない装置がかかっている!」

 「く! 夢の島と同じものか!」

 赤松がマイクに手をやり、上空と連絡をとる。

 「ジョー! 屋上の様子が見えていないか?!」

 “屋上の様子って、今こちらと屋上に待機している人たちと通信しているけど?”

 「それは敵の工作だ!!!」

 ヘリの機内では、ヘリポートを占領していた人員から奪ったマイクを持つ鬼が、自分の能力で声を変化させて通信を送っていた。

 「おっと。どうやら気づかれたな」

 「見事な三人一役だなぁ」

 「どうだ? そろそろ出せるか?」

 「準備完了! 離陸できます!」

 操縦手は機内に数人いる者の中から一郎に向けて言った。

 「出してくれ」

 ヘリが屋上を離れるのを確認してから、瑛美子と瑛理子が武の元に駆け寄った。

 「すごい傷だわ」

 「早奈美、頑張って!」

 「うん! 任せて!」

 空に上がった一郎のヘリの機体の姿が露呈され、上空の者たちから確認できた。

 「あ、あれだ!」

 上空のヘリの開いたドアから体を出す錠が、そのあたり一帯にミサイルをばらまいた。

 錠以外にも気づいた者たちが一斉に攻撃を繰り出す。

 だが、ヘリ周りに現れた大小たくさんの黒い球体が攻撃からヘリを守り、数秒としないうちにヘリの姿は再び見えなくなった。

 「な! どうして?!」

 「赤松。どうやら、ここの装置だけじゃなく、あのヘリには俺と同じ能力のやつが乗っている。身の周りの一切の情報を消すことができるんだ」

 「村椿と同じの? だけどお前その能力を使う時は、心臓の動きを止めるんだろ?」

 「ああ。これだけ長い間心臓を止めるのは無理だろうから少し俺と違って心臓ではない何かだろう。それでも、まだ姿を現さないなんて……」

 「それより負傷した人たちを! 三人いるぞ! 早奈美! そのまま武を頼む!」

 「うん! 大丈夫、良くなってきてるよ!」

 早奈美のククリの力によって、開いた傷口が徐々に元に戻っていく。だが、それでもまだ痛みは引かず、武の額には汗が流れ、目をつむって苦い顔をしている。

 「瑛美子、負傷している人は3人だから、私が行ってくるわ。あなたは武君をみてあげていて」

 「うん。わかったわ」

 「エミちゃん! 武君の意識を確かめていて!」

 瑛理子は立ち上がり負傷者のところに向かった。

 「武君! 大丈夫!?」

 「大丈夫……。意識はあるよ……」

 瑛美子はその瞳に涙を浮かべながら武の汗をハンカチで拭ってあげた。



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