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転生伝説  作者: キクチ シンユウ
~天上降下黙示録~
20/38

確認

 摩鬼による襲撃は当日に起こった同時多発した鬼による襲撃の一つだった。

その中でも武たち三人の鬼との戦闘は、超人の少年たちの活躍として世間でニュースになった。

 メディアは金鵄夢の島学院の生徒による鬼退治として取り上げ、インタビューこそは果たせなかったが、その三人の姿を捉えていた。

 超人機関は、三人に学生隊に先立って試験的に警備任務を遂行させたが、その戦果に驚いた。また摩鬼による襲撃は武を狙ってのことだったが、警備にあたっての危険性を考えて、学生隊は五人一組で車両による警備を実施することになった。

 そして襲撃に遭遇した三人には二日の休養が与えられ、武は軽傷を負ったが、ククリの力による治療によってその日の終わりには体のダメージは回復していた。

 襲撃から次の日の朝。武たち三人は、食堂で朝食を済ませてから部屋のリビングのテレビで襲撃事件のニュースを見ていた。

 「あー。写っちゃってるね」

 「これは仕方ないな」

 三人の姿はカメラに対して正面こそ向いてないが、しっかりとらえられていた。

 「ネットでも大盛り上がりみたいだ。記事に掲示板にたくさん」

 武が右手でスマホを操作しながら言った。

 「武と赤松は見た目は普通だけど、ここの世界と根の堅洲国のクウォーターの僕が写ってしまっては、ややこしいことになりそうだけど」

 「うーん、確かにそうだな。そしたらもう一度、富樫局長に会見してもらわないとだな」

 「褐色のイケメン、来栖錠特集!ってね」

 「冗談言ってんじゃないよ」

 錠は笑いながら二人をあしらった。

 「なあ、ジョー? 根の堅洲国はどうやって行き来できるんだ?」

 「ああ。この芦原の国と根の堅洲国を繋ぐ道のことは、黄泉坂(よみざか)っていうんだけど、そこを通れば根の堅洲国に行けるし、ここにも来れるんだ。それに根の堅洲国に行ける黄泉坂はこの夢の島にもあるよ」

 新夢の島はもともと根の堅洲国にあったから、根の堅洲国とこの世界を結ぶ黄泉坂が存在しているのは当然だった。だからこの島は根の堅洲国の人々の往来を結ぶ重要な場所であり、現在、超人機関以外の根の堅洲国からきた多くの者たちがこの島にいる。

 「その黄泉坂はただ歩いて行くんじゃなくて、用意された空間で待機しているとやがて異世界に到着するって感じなんだ。まあ、いわゆる一つの交通手段だね」

 「ちなみにジョーの実家の会社は、その空間の装置も取り扱っているんだぜ」

 赤松が追加して説明した。

 錠の実家は、人間社会において一つの財閥だったが、その実体は超人機関と密接に協力し、古くから芦原の国と根の堅洲国をまたにかける大きな企業だった。つまり人間社会の中でククリの力を利用した技術を保有する数少ない企業である。

 その創業家が、瑛理子と錠の上品な雰囲気の由縁だった。

 だが、錠はそのような恵まれた環境と天性の才能におごることなく、小さい頃から続けてきた武術にさらに磨きをかけ、その能力は学校の中で輝きをみせている。それは、瑛理子にも同様のことだった。

 「じゃあ、ジョーの実家の会社が、この島の設備にも大きく関わっているのか」

 「うん、そうなるね。落ち着いたら今度、ゆっくりこの島の街を案内するよ」

 「そうだな。武はこの前の土日は、超人機関の本部での身体検査とかばっかりで、外に行けなかったもんな。それにもちろん俺も行くからな」

 「ありがとう。その時は頼むよ」

 それから三人は、ゆったりと余暇の時間を過ごした。その間に彼らの部屋には数人の生徒たちが、鬼との戦闘の体験を聞きに往来した。

 日が暮れる頃となって夕食を食べてからその後に学生浴場へ行った。

 「だけどー、まるで修学旅行に来ているみたいだな」

 武が独り言のように言った。

 「そうだな。慣れるまではまるでそんな感じだろうぜ」

 赤松が言い返した。

 大柄の赤松の姿は、肉体の筋肉の面積が大きく三人の中で目立っているように見えたが、錠と武も超人として持つ筋力の裏付けとなる力強い筋肉を持っている。

 それに錠の褐色の肌は、日焼けをした肌とは違って全身に統一された鮮やかさがあり、武の筋肉の形は彫刻的な際立ちがあった。

 学生浴場は室内の大浴場だった。シャワーが壁に何十個も並び、また大きな湯船が3つあって広々としていて、しかもサウナ付きの浴場だった。

 それぞれシャワーで体を洗ってから湯船に浸かった。

 「全然人がいないね」

 「みんな、緊張しているんだろうな。俺たちみたいにゆったりする気になれなくて、部屋のシャワーで済ませてんだろう」

 会話をする二人の隣で、武は、自分の左腕の前腕を胸まで上げてじっと見ていた。

 「どうしたんだい?」

 じっと黙っている武に、錠が声をかけた。

 「なんだか、ついこの間この力を持ったというのが、少し信じられなくてさ」

 「高天原での日の進みとの違いが、おかしな錯覚を起こしているんじゃない?」

 「多分ね……」

 武は考えるのをやめて湯船に首まで入った。

 「ねえ? サウナ行こうよ」

 錠がサウナに二人を促した。

 「いや、今日はやめとく」

 「俺も」

 二人とも湯船から上がろうとしない。

 「えー。……じゃあいいよ、今日は」

 三人は学生浴場をあとにして、連絡棟のコンビニで買い物をしてから部屋に戻った。それぞれ買ったジュースを飲みながらリビングにいると、武のスマホが鳴った。

 武がスマホを見てみると、その着信は前の学校の三上からのSMSだった。

 「ちょっと、連絡棟の屋上に行ってくる」

 一言、二人にそう言ってから部屋を出て、連絡棟の屋上に向かった。気持ちが急ぐ武だったが、壁に貼られている歩き『歩きスマホ厳禁』の文字が、少年の気持ちを押さえていた。

 出入り口を抜けて屋上の中まで来てからスマホを取り出したが、武には迷いが生まれてしまった。

 昨日、松岡からは、「三人については写真も公開されてしまったから、もし知人たちから確認されるようなことがあれば、口外することで被害に遭うことを防ぐためにも注意をしなくてはならない」と命令されていた。

 それを伝えようとこうして電話ができるところまで来てみたが、その電話をかける気持ちに少し迷いが生じている。

 だが、自分と知人であることを口外しないように注意をしなくてはならない。

そのために武は同じくSMSで返信することにした。落ち着いてから改めて説明しようと考えた。

 「武君?」

 ちょうど、送信したところで背後から自分を呼ぶ声に反応して振り返った。

 そこにいたのは、瑛美子だった。

 「え、瑛美子さん? どうしてここに?」

 「お風呂に行ってきたんだけど、涼もうと思って」

 今日の瑛美子は、鎖骨までの髪の長さで、その髪先の肌は水分を持っていてとてもきれいに見えた。

 「武君はどうしてここに?」

 「俺は、実は前の学校の友達から連絡が来てさ。今返信をしたんだけど、本当は電話で説明しようと思ってここに来たんだ。だけど、やっぱり落ち着いてからまとめて説明しようと思ってさ」

 「前の学校の友達の方、心配してるよね?」

 「だけど、今はやっぱり電話はできないな。話すことが多いし聞かれることも多いだろうし」

 「そうね。自分が落ち着いてからの方がいいわ」

 瑛美子が目線を逸らしてから少しの時間が経った。

 「そういえば瑛理子さんは?」

 「今日もここで瑛理子と待ち合わせなの。瑛理子はサウナに入るっていうから、わたしは先に出てきたの」

 姉弟の血は争えないと、武はよく理解した。

 「瑛美子さんは、本当に瑛理子さんと仲が良いよね」

 「うん。瑛美子とはね、親同士が知り合いだったから、小さい頃からの友達なのよ。それに、一緒に根の堅洲国に連れて行ってもらったこともあるのよ」

 「それじゃあ、瑛美子さんも根の堅洲国に行ったことがあるの?」

 「ええ。今思えば、瑛理子みたいに車の運転をすれば良かった」

 瑛美子の表情は、美しさを持っている。その瞳には、ずっと見入ってしまうほどの奥深さがあって、口から出る一言々々には優しさがあった。

 武はこの雰囲気を瑛理子からも感じていた。錠と瑛理子には姉弟としての似た性質を感じていたが、この二人からそれとは違うものを感じる。

 明るく社交的な瑛理子と控えめで可憐な瑛美子。一見対照的に見える二人だが、その能力と同じように人間としても同じ性質持っていると武はこの時にもう一度確認した。

 すると、下の階から瑛理子が上がってくるのが見えた。

 「あら、武君。怪我はもう大丈夫?」

 「あ! そう! 武君、怪我は大丈夫?」

 武の変わりない姿に、瑛美子はすっかり武の怪我のことを忘れていた。

 「あ、いやもう大丈夫。昨日にはよくなったよ」

 こちらに近づいてきた瑛理子は、瑛美子と同じ髪型をしていた。

 「瑛理子、遅いわ」

 「じゃあ瑛美子もサウナに入ればよかったじゃない?」

 「錠にもさっきサウナを誘われたよ」

 大きな目を細くして微笑した瑛理子には、瑛美子に似た雰囲気を感じるが、瑛美子よりも大人びたしぐさがある。

 鎖骨まで流れる髪先にある肌は瑛美子よりも露出していて、武はとっさに目を逸らした。

 「それじゃあ俺はもう戻るよ」

 「瑛美子と話してくれていてありがとう。武君」

 「またね、武君」

 「いやいや、じゃあおやすみ」

 武は部屋に向かって戻っていった。

 その少し速足の後ろ姿を二人は消えるまで見送っていた。

 「瑛理子。やっぱりわたし見えるわ。彼がここにいることをわかったもの」

 「そうね。わたしも確認したわ。やっぱりそうなのね」

 それ以上二人は、何も言うことはなく、瑛理子は開いた胸元をしっかりと閉じた。 

 湯冷めにはちょうどいい気温と風が吹いているが、そろそろ気候が温かくなってくるのがこの日は感じられていた。



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