神話のはじまり
はるか遠い昔のことです。世界は存在しておらず、神様も生まれていませんでした。
あるとき、金色よりも綺麗なエメラルド色に輝く気の流れと、不気味に深い紫色に輝く気の流れの二色のエネルギーのようなものが現れました。二色のエネルギーは混じり合い、やがて固まりとなってゆっくりと空間のようなものを創っていきました。
しかし、その固まりは一つになることができず、やがてお互いが反発しだし、だんだんと大きくふくらみだして上下へ二つに分かれてしまいました。エメラルド色の気の流れはどんどんと昇っていき天となり、紫色の気の流れは沈んでいって地となりました。
天と地ができた時、天の方に神々の住む世界の『高天原』が生まれました。そしてそこには、アメノミナカヌシという神様が現れました。それからその後に四柱の神様が生まれ、この五柱は特別な神々でした。
そのうち、イザナギとその妻のイザナミという二柱の夫婦の神が生まれました。高天原の神々は、この二柱の夫婦に天を降りて不完全な下の世界を整えるように命じ、イザナギとイザナミは、高天原から下界の『芦原の国』に下り、世界の形を創るための国生みと世界の環境を支配する神を誕生させるための神生みを始めました。
そして、二柱の夫婦は日本列島を生み、海の神・山の神をはじめ自然、現象や物質などを司る神をつぎつぎと生んでいき、やがて人間が生まれました。
イザナミから火の神が生まれた時のことです。イザナミはこの火の神を生む時、体に火傷を負ってしまいました。夫であるイザナギの看病の甲斐も無く、その火傷が原因でイザナミは亡くなってしまったのです。
イザナギは、大変嘆き悲しみました。そしてその気持ちを抑えることができず、亡き妻を追って死後の世界の『黄泉の国』に赴きました。
黄泉の国へ来るとイザナミが住む御殿がありました。
イザナギは、その御殿の門の前で声をかけました。
「美しい我が妻よ! 私とあなたが作る国は、まだ出来上がっていない。一緒に帰ろう!」
と呼びかけますと、それに応えてイザナミが出てきました。
ですが、イザナミはその門から出てこようとはせず、イザナギに言いました。
「私はもうこの世界から戻ることはできないのです。ですが、あなたはこの世界へはるばるいらしてくださいました。あなたの気持ちに応えて芦原の国へ帰りたいと思います。黄泉の神々と相談してまいります。ですが、その間、決して御殿に入らないと約束して下さい」
そう言い残して御殿の門を閉めました。
言われるとおりに待ち続けたイザナギでしたが、いくら待っても妻は戻りません。そしてついに待ちきれなくなったイザナギは、御殿の中に入ってしまいました。御殿の中は真っ暗で、イザナギは、一つの火を灯しました。
すると、イザナギの目に飛び込んできたのは、変わり果て、醜い姿と化した妻イザナミだったのです。
イザナミは、黄泉国の女王となっていました。
イザナギは驚き声を上げ逃げ出しました。醜いその姿を見られたイザナミは、
「よくも私に恥をかかせたな!」
と叫びながら多くの魔物たちの黄泉軍と共にイザナギを追いかけました。
イザナギは、追いかけられながら辛くも黄泉の国と芦原の国の境に当たる黄泉比良坂に辿りつきました。
そしてイザナギは、黄泉比良坂を巨大な石で塞いでしまいました。
イザナギとイザナミは、巨石を挟み向かい合いました。
「愛しい夫よ! あなたがこのような仕打ちをするのであれば、私はあなたの国の人々を一日千人殺してみせましょう! 永遠に生きることができない宿命を持つのです!」
とイザナミは言いました。それに対しイザナギは、
「愛しき妻よ! それなら私は一日千五百の産屋を建ててみせる!」
と言いました。
この時に夫婦神は永久の決別をし、世界は一日必ず千人が死に、千五百人が生まれることになりました。
こうして人間は、寿命という死の宿命を持つようになりました。
そしてイザナミは、人間を殺すために鬼を造りました。