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転生伝説  作者: キクチ シンユウ
~天上降下黙示録~
17/38

超人再び

 「只今より、日本政府による重大発表が行われます。テレビの前の方はお近くの方にこの放送をご覧になるように呼びかけてください。繰り返します――」

 日本政府による重大発表の記者会見は、テレビのすべての民放のチャンネルで、またラジオ、インターネットの生放送サイトでも放送されている。そして企業、職場、学校、病院など自宅にいない人間が多くいる場所では、この放送を視聴するように国から通達されていて、また放送を受信可能な屋外のスクリーンでも放送されていた。

 武ら生徒たちは、教室のテレビでこの放送を観ていた。

 会見の開始を司会が告げると、まず画面に現れたのは総理大臣だった。会見の檀の隣には大きいスクリーンがあって、画像、映像による説明も用意されている。そして首相が檀上から去ると、超人機関の長である富樫(とがし)義人(よしひと)が現れた。

 「私は、この日本に秘密裏に存在していた組織の代表です。その組織の名前は、超人機関。我々の組織は、この国を、この世界を侵略的な存在から守るために戦ってきました」

 富樫が発表した内容は、武が康成や白狼から教えられたことだった。超人のこと、禊の力、神、鬼、複数存在する世界のことを、富樫は、一つ一つ夫婦神の神話から現在にいたるまでの人々が知ることができなかった歴史として説明をした。

 会見の席に座る記者の中には、手元の録音機は動いていても、メモをとるペンが止まっている者が何人もいた。

 広告映像を止めて会見を放送している渋谷のスクランブル交差点では、歩行者の信号が青になってもほとんど人が渡ることなく、くぎ付けにされている。この状態は全国的に各地で見られた。

 もちろん武たちもその放送から目を離すことはなかった。自分たちがいかに世界に公開されるのか。それを見届けなくてはならなかった。

 「これで、本当に世界が変わってしまうのか」

 武は独り言を言うように錠と赤松に話しかけた。

 「世界には新しい対応を求められる。だけど、世界の本質は何も変わっていないんだ。きっとその対応はできるはずだ」

 「新しい対応か。上手くいくといいな」

 富樫の説明の終了を合図に始まるデモンストレーションのために、夢の島上空で第一空間戦闘団が複数の母艦で待機していた。

 富樫の説明も終盤にさしかかり、空間戦闘団に命令が伝達され各艦が動きだした。

 島の上空から抜け出し、偽装が剥がれて宙に浮く金属の塊が露わになった。

 この母艦は空間母艦と呼ばれている。全長が約300mあり、T字型の船体には数本の火砲と対空装備が装備されている。その姿は軍艦そのものだったが、人々が今まで見たことがない独特のフォルムだった。

 東京湾沿岸にいる人々はそれを指差して声を上げる。

その声の頭上を悠々と進んでいく母艦から発進した空間戦闘団の超人たちは、太陽光を反射させて光輝く伝令となり、その存在を地上に知らしめた。

 その様子は会見場のスクリーンにも映し出され、武たちもその様子を見ることができた。

 「おお! 武、あれは岩本(いわもと) 和之(かずゆき)少佐だよ」

 「ん? あの先頭の人?」

 「そう! あの人は第一空間戦闘団のエースで、5年前の地殻変動の原因となった鬼との戦いの時に活躍した人なんだ」

 「5年前の……」

 「ちなみに岩本少佐は28歳。超人機関では、歳を重ねて超人として戦えなくなった人は首脳部になって責任をとる立場に徹することになっているから、前線に立つあの人の意見具申は実質、部隊の指揮に大きく影響をしている」

 「なるほど。この前習った部隊の眼となり敵に肉薄している前線指揮官が、部隊の指揮に関与している超人機関の指揮系統か」

 「その通り。前線であろうと司令部であろうと認識と意図を統一していなくてはならない。その指揮系統システムは肉弾大本営というんだ」

 空を飛ぶ戦闘団の各員の連絡手段は、インカムとマイクによって母艦とまた各員同士で通信可能だった。今ではマイクとインカムと呼ばれているものだが、これは現代科学によって作られた機器ではなく、禊の力の技術によって作られた機器であった。

 「岩本少佐。下の皆さん、みんなびっくりした顔をしていますよ」

 「ああ。そうだな」

 「……少佐はこうやってお披露目できて嬉しくないんですか?」

 「みんながみんな憧れを持って俺たちを見るわけじゃない。最初はこうやって驚いて注目するが、人それぞれ思う気持ちは違う」

 「なるほど……。少佐は、どのようにすれば、自分らが人間にとって大事な存在だとわかってもらえると思います?」

 「そうだな。鬼と戦闘しているところとかな」

 「え? それは……」

 「やっていいわけがない。そんなことはわかっている」

 超人の公開の最前線に立つ岩本少佐は、様々な人間の感情を胸に感じている。

 彼は武たちと同じぐらいの年から超人として戦ってきた戦士であるが、人から敬われるために戦ってきたのではなく、目下に広がる見上げる人々の表情には何とも思わなかった。それに彼は、このデモンストレーションが終わるまで、どこから仕掛けてくるかもわからない敵に対しての警戒に神経を尖らせていた。

 第一空間戦闘団は広告塔の役目だけではなく、発表直後の混乱に乗じた鬼たちの行動をけん制することも兼ねているが、けん制することが今回の展開の本来の目的だった。

 第一空間戦闘団の登場から5分ほどすると、次は富樫への質疑応答となる。

 記者たちは、突然の発表に会見の内容を予想して用意したカバンや端末に入れてきた資料が無用の物になってしまっている。結局、記者たちが質問をしてみても、十分に練られ考えられた富樫の説明をもう一度聞き直すことになるだけだった。

 そして質疑応答も終わり檀上から富樫が消え、会見放送が終わった。その後テレビではワイドショーが始まり、担任の松岡がテレビを切った。

 「これからは、超人機関はこの会見によって鬼たちがどんな動きをとるのか、不測の事態に備えなくてはならない」

 松岡は一度ゆっくりと瞬きをし、少し息を吸ってから声を出した。

 「この度、増加することが考えられる超人狩りの被害をくい止めるために君たちの力を借りたい。もちろん学業をここで学びながらになるが、不測の事態の時は現場に駆けつけてほしい」

 松岡の言葉に生徒たちは特に心の乱れを見せることなく、その言葉を受け止めていた。

 武は公表の放送を武者震いがする思いで観ていたが、クラスメイトたちが先の行く末に対して動揺することなく、また悲観することもない様子に感心した。

 隣の錠を見て目が合うと、目に力が入っている武に対して錠は笑ってみせた。

 「君たち一人一人個人によって超人機関の作戦にどう関わるかは変わるだろう。しかし、君たちは共通して鬼からその身を守らなくてはならない! そのためにも戦闘の訓練には一層奮励努力してくれ!」

 松岡の覇気がある言葉は、胸の中まで覚悟を確認するような勢いがあり熱気があった。松岡がその言葉を発したことによって教室の室温が何度か上昇したような気がした。いや、本当に温度が上昇していた。



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