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転生伝説  作者: キクチ シンユウ
~天上降下黙示録~
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美しき黒髪の後ろ姿

 武のための錠と赤松による部屋の紹介が終わり、武は持ってきた荷物を整理にとりかかっていると、寮内に職員室から錠と赤松を呼ぶ放送が流れた。

 武が荷物の整理が終わってから売店に行きがてら連絡棟の紹介をするはずだったが、職員室に呼ばれたことで予定を変更し、お互い用事が済んでから連絡棟の屋上に向かい落ち合うことになった。

 荷物をすべてボストンバックの外に出し、衣服は衣装ダンスとすぐに使いそうなもの はハンガーを通しハンガーラックにかけ、本棚には家から持ってきた本を入れたが、この中には父からもらった超人に関する本も含まれていた。

 それから文房具などを机に置き、だいたい整理が終わりボストンバックをたたんで押し入れにしまった。

 荷物の整理を終えて武は部屋を出た。部屋のドアの鍵穴に錠からもらった鍵で施錠をした時、ドアノブからうっすらとした水色の波がドア全体に広がっていった。

 ――ここにも禊の力が。鍵一つかけるのに驚くぐらいじゃ慣れるのはまだまだ先だな。

 武の部屋から連絡棟の方へ廊下を進んでいき、エレベーターを越えてそのまま行くと屋外に出られるドアがある。そこから外にでると、目の前には連絡棟の屋上が広がった。

 武は中央まで出て来たが、まだ二人の姿はなかった。

 辺りを見回すと、海の方向の手すりに見覚えのある後ろ姿があった。その長い黒髪の後ろ姿を武は瑛理子だと思った。

 武は声をかけようと思って近づいていく。発見した時はボールペンほどの大きさに見えていた後ろ姿だったが、近づいてみて、やはりその女子生徒の髪型は瑛理子のものだった。

 「来栖さん?」

 その声にびっくりし両肩を一回すくめてからゆっくりと女子生徒は振り返った。

 ――え? 瑛理子さんじゃない?

 その女子生徒は別人だった。だが、確かにさきほどの瑛理子と同じ髪型をしている。武と女子生徒はお互い言葉を失い、驚いた顔をして固まってしまった。

 「あ、あの私」

 「す、すみません! てっきり来栖瑛理子さんかと思って」

 慌てて武も言葉を出して謝った。その時に見たその女子生徒の顔に胸をどんと叩かれる思いがした。一目見て、可愛いと思ってしまった。

 「いえ大丈夫です。この髪だしね」

 「……」

 「転入してきた物部君だよね?」

 この少女は武のことを知っていた。一方、武は記憶を巡ってみても瑛理子と同じ 髪型でこんなに可愛らしい顔をした生徒をクラスでみた覚えがなかった。

 ――まずい! 名前がわからない! 俺の名前は憶えていてくれているのにこれではこの人に失礼になってしまう!

 「あら、物部君?」

 武の後ろから今度は武を呼ぶ声がした。その声は窮地に立たされた武を救う一言だったが、声の主は瑛理子だった。

 「あれ? え、来栖さん?」

 武が振り返り、瑛理子を見るとなんとあの長かった髪は、肩ぐらいまでの長さしかなかった。

 瑛理子は硬直していた二人の姿を見てその状況をすぐに理解した。

 「ふふ、物部君。わたしと瑛美子を間違えて声をかけたのね」

 瑛理子に言われて武は少し顔が赤くなったが、隣の少女も頬が赤くなっていた。

 「ごめんなさい、物部君。驚かしてしまって」

 「いや、俺こそ驚かせてしまってごめん。でもさっき教室では来栖さんだけがしている髪型だったと思ったんだけど、それになんでそんな来栖さんは髪が短くなって…」

 武がそう言うと瑛理子は微笑みながら瑛美子の方へ回り、隣まで来て瑛美子の肩に手を置いた。

 「わたしたちは、同じ能力を持っているのよ。なぜこうやってさっきと髪型が違うのは、わたしたちは、自分の髪の長さを自由に伸ばせるし短くもできる能力を持っているのよ」

 瑛理子が左手を後ろ髪にまわし髪を掴んで腕を伸ばすと、耳の後ろほどしかなかった瑛理子の髪は波を描いて横へ伸びた。波をうつ瑛理子の黒髪は、綺麗に光を反射し一本一本輝きながら重力に引かれて下へ流れていった。

 そして今度は両手に後ろに回し、重くなった黒髪を弾ませ両肩の前にも髪が流れ、武は思わずその美しい流れに見惚れてしまった。

 「瑛美子はまだ自己紹介がまだだったんじゃない?」

 前髪を整えている瑛理子に言われて、瑛美子は恥ずかしそうでありながらも口を開いた。

 「(たちばな)()美子(みこ)です。よろしくお願いします」

 と言って一度少し頭を下げてから、

 「瑛理子とは名前が似ていて、それにずっと前からの友達なの」

 と言葉を付け足した。

 「瑛美子ったら、さっきは恥ずかしがって物部君に質問をしなかったのよね」

 「ちょ、ちょっと瑛理子」

 やはり瑛美子は恥ずかしそうで、それを瑛理子は面白がっていた。武は少しどうしようか、と思ったが自分から言葉を出すことにした。

 「高天原には10日ほどしかいなかったけど、聞いてくれればなんでも答えるよ」

 「は、はい。ありがとう。物部君」

 瑛美子の瞳と目が合った。充血の赤い線がない真っ白な白目が深い黒目を引き立たせ、吸い込まれそうな放射線の線が中心から放たれていた。

 その瞳に見入ってしまい、今度は逆に武の方が恥ずかしくなってしまった。

 「おーい! たけるー!」

 校舎の出入り口の方から錠の声が聞こえてきた。もちろん隣には赤松もいる。

 「錠ったら、もうあんな呼び方で」

 「いや、俺がそう呼んでくれって言ったんだ。だからみんなにもそう呼んでもらいたい」

 「じゃあ武君でいいのかしら?」

 「うん。それで大丈夫だよ」

 「わたしもそう呼んで大丈夫?」

 「もちろん」

 「それなら、わたしたちにも下の名前で呼んでほしいわ。ね? 瑛美子?」

 「う、うん。そうね」

 「な、慣れたらでもいいかな?」

 「ええ、もちろん。じゃあ武君。せっかくだから教えてあげるわ。あまり人には言っていないけど、わたしたちには同じ能力がもう一つあるの」

 瑛理子は、こちらに来る錠と赤松の距離を確認してから言った。

 「もう一つ同じ能力を?」

 「ええ、そう。それは、愛よ」

 「……愛?」

 「これは、高天原のことを教えてくれたお返しよ。だから、あまりみんなには言わないでね」

 人間であれば、愛は誰でも持っている。それをもったいぶって言った瑛理子に対して唖然としてしまった武をよそに元気に錠が近寄ってきて、つづいて赤松も来ると、瑛理子は瑛美子が武に自分と間違えられて恥ずかしがっていた話をした。

 その話に瑛美子はまた恥ずかしそうになってしまい、武も間違えて声をかけてしまったことに恥ずかしくなった。

 笑い声に合わせて弾む瑛美子と瑛理子の美しい黒髪は、輝きながら潮風に流れていた。


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