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転生伝説  作者: キクチ シンユウ
~天上降下黙示録~
12/38

再来

 武の視界は数秒の間、真っ白に染まっていた。視界が開けると、先日襲われた神社の鳥居の下に立っていた。

 空の陽の光を見るに、陽の位置は午前の位置にあった。武は、高天原で10日間を過ごしたわけだが、さっそく現在の日付を調べるためポケットから携帯を取り出した。

 携帯の電波は、検索中の表示からLTEの表示に変わり、日付は襲われた日から10日過ぎていた。

 念のために、時報に電話をかけてみたが、確かにあの日から10日が過ぎている。それに肌に感じる気温が、確かに暖かくなっていた。

 「物部武さんですね?」

 武が声に振り返ると、スーツの男が立っていた。

 「あなたは?」

 「私は超人機関の竹中(たけなか)(つとむ)中尉です」

 「超人機関の方ですか?」

 「はい。影康様から聞いております。あなたを家までお送りします。そのあと我々の施設にきていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

 武は影康の名前が出てきたことで警戒することをやめて、車の方向へ向かう竹中についていった。

 竹中に促されて武は後部座席に座り、車は武の家へ向かった。

 「自衛隊と違って中尉っていう階級を使うんですか?」

 「はい。超人機関が階級を利用し始めたのは、明治の初めですがその時から階級の呼称は変わっておりません」

 武は、それ以上会話をしようとは思わなかった。それもこの神社から家まで車で向かうと、あっという間に到着するのがわっていたからだった。

 5分もかからず自宅に到着した。竹中は、家の前で準備ができるまで車で待っていると言い、武は車を降りた。

 久しぶりに見る家を前にすると、両親と会うことに急に緊張をしてきたため一つ息をついた。

 玄関を開け「ただいま」と声をだすと、武の母親が急いで出てきた。それに続いて父親もでてきた。

 武は部屋に荷物を置いてからリビングへ向かい、武と武の両親はテーブルの椅子に向かいあって座った。

 「武。すまなかった。早くお前が超人であることを気づいていればよかったが」

 まず最初に、武の父親である靖顕が謝った。

 「いや、これはしょうがないことだよ。それに俺は大丈夫だし」

 両親の表情には、武が襲われたのは親である自分たちに責任があり、こうして息子が襲われてしまい申し訳なさの気持ちが伺えた。

 武は、両親からその心配を取り払いたかった。

 鬼に襲われたことから、白狼と出会い、高天原へ行き先祖の康成から指導を受けた10日間の話を両親に話したが、両親の表情から申し訳なさが消えることはなかった。

 「お父さんも武に話しておきたいことがある」

 父は武の母と顔を見合わせた。

 「覚えているか? 一郎君が家に来たんだ」

 「一郎が?」

 鬼塚(おにづか)一郎(いちろう)。その名は武の唯一の幼なじみの名前だった。

 武は驚いた。年少の頃から交流があったが、11歳の時を最後に会うことも連絡をくれることもなかったから驚くことに無理はなかった。そしてその幼なじみが武が高天原にいた間に武の家を訪れていたという。

 「一郎はどうしていきなりこの家に来たんだろう……。俺に何か言っていた?」

 「一郎君は、本人がいないなら結構です、と言っていたよ」

 呆然とする武に父は話を続けた。

 「実はな。一郎君の父親は俺の15歳の頃からの友達だったが、俺と同じ超人だった」

 「え? それじゃあ知り合ったところは超人機関?」

 「うん。超人機関だ。そしてもっと驚くかもしれないが、一郎君の母親は鬼の女性なんだよ」

 「一郎のお母さんが?!」

 武は驚いて声を出した。だが、人間と鬼のハーフという存在に驚いたのでない。

 鬼と人間のハーフがいる存在をすでに康成から聞いていた。

 イザナミによって最初に創られた鬼は女性の形をしていたという。そのうち悪神に従える軍勢の黄泉軍には男性的な勇猛さを持つ鬼が必要になり、イザナミは男性の形をした鬼も創った。だが、イザナミのみで創った鬼には問題があった。

 人間にはイザナギとイザナミなら創られた生物の為に神と同じように子供を産み出す能力、そして子孫を残そうとする心を与えられた。

 イザナミだけが創った男性の鬼には、子孫を残そうとする心と逸物を与えることができなかった。また女性の鬼は母として母性の心がなかった。つまりイザナミが作った鬼は子孫を残す術がなく、イザナミがその神業でクローニングによって創り出されていた生物であった。

 姉妹神の女神の死によりイザナミが姿を消したが、イザナミの神業によって作られた施設、「生命の(やしろ)」では永遠と人を殺すためのクローンの鬼が誕生し続けていた。

 だが、その中で子孫を残せる鬼たちが現れた。その鬼たちは姉妹神によって愛を与えられた種族だった。

 姉妹神によって愛を与えられた鬼たちは、愛する心を持ち、その愛する心から異性と一つになりたい気持ちが芽生えた。

 イザナミが鬼を創るとき、鬼の遺伝子と魂を入れる(ぎょく)を最初に用意することを鬼たちは知っていた。

 そして空間術の一種で自分の遺伝子と魂の玉を相手の体内から取り出せることを知り、生命の丘で鬼の赤ん坊が誕生した。

 鬼に子孫を残す術を与えらのは、人間たちが必死に戦い守ろうとした姉妹神であり、愛がなければ行うことができない儀式だった。愛が無ければ出来無いのは玉が混ざり合う事がないからである。

 また人間も空間術によってその遺伝子と魂の玉を取り出す事ができた。そのために人間と鬼のハーフは存在し、その存在のことは人魂(にんこん)と呼ばれている。

 「それじゃあ一郎は、人魂だったの?」

 「そうだ。あの子の母親は私も知っている。確かに一郎君は人魂だ」

 武は言葉を失った。まさか人間の世界に帰ってきてからこうも早く、隠されていた事実に驚かされてしまうとは。

 「一郎君の家族は、幼稚園の時まで東京に住んでいた。それから一郎君のお母さんが体調を悪くしてからは根の堅洲国に移り住んだんだ。だけど、その一年後にお母さんは亡くなってしまい、一郎君が11歳の時に父親の鬼塚(おにづか)宣之(のぶゆき)が病気にかかってしまって、それ以来ここに来ることができなくなったんだ」

 その説明に武の母親が言葉を付け足した。

 「お父さんの体調が悪くなってからは、この世界に来れなくなってしまったのよ。根の堅洲国からこの芦原の国の往来には、制限がかけられていて子供一人ではとうてい来ることはできないわ」

 「そのあと一郎はどうなったの?」

 「鬼には沢山の種族とその国家がある。実は一郎君のお母さんは、その中のとある国の王家の王女だったんだ。お父さんが病気になってからはその国の人が一郎をひきとり、そのうち継承権のある一郎君はその国の王子になったんだ」

 靖顕がそれを知っていたのは、旧友の一郎の父、宣之を通して聞いていたのだった。

 そして一郎が武の家に現れた時、王子ということは知っていたが、両親はその少年に上品な風格と威厳を感じていた。11歳の姿から成長した姿だったこともあるが、鋭い眼じりの横に大きい目と、薄い唇は武よりも大人びた感のある少年に見えた。

 また髪型は、長い髪の毛を後ろで束ねて生え際の中心から数本の髪の毛が顔に垂れていた。その髪型はその国の王家の象徴だった。

 「武、なんだか一郎君は、何か目的をもってきているのは確かだったわ。あなたの前に現れた時は気を付けてほしいの」

 武は、両親からの忠告に了解した。

 話が終わって、超人機関の金鵄夢の島学院の寮に入るための荷仕度にとりかかった。

 寮に入るのは引っ越しのようなものでもあるから、準備に時間は必要だったが、両親ともにかつては超人機関の寮にいたこともあり、武のために必要であろう荷物の整理をしてくれていたために、それほど時間はかからなかった。

 荷支度を終えてから、部屋に置いてあった超人機関の学校の制服を着た。

 その制服は黒を基調とした学ランで、襟のところには(とび)が彫られている金のバッチがついている。それが学校のシンボルだった。

 武が大きなボストンバックを手に持ち、部屋から出てきて、両親と共に玄関を出た。

 玄関を出ると、家の前に止まっていた車から竹中が出てきて、武と共に出てきた両親に身分を名乗り挨拶をした。

 「それじゃあ行ってきます」

 「気をつけてね。武」

 「武。何かがあれば、ご先祖様からの教えを思い出し。どんなことがあっても、勇気を持って臨むんだぞ」

 「うん。わかったよ。何かあれば連絡するから!」

 武は家を離れることに躊躇することなく、両親から離れ竹中の車の方へ進んだ。そして竹中は両親に対し深々と頭を下げた。

 荷物を車に積んで後部座席に乗り、後ろの窓の中から少年は両親へ手を振った。

 車が走り出して、その後姿が景色から消えるまで両親は見送った。

 「けっこう簡単に行ってしまったわね」

 「俺もあんな感じだった。やっぱり少し楽しみな気持ちもあったよ。それにそんな離れたところに行くわけではない」

 「でもやっぱり一郎君のことが……」

 「……そうだな。武、頑張るんだぞ」

 両親は目に涙を浮かべている。

 遠くに消えてゆく子供のゆく先を思い、ただ祈るしかなかった。


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