四、雨墜ちる刹那
死神がどこへ帰るのか。そんなことはさして重要ではない。私に取って重要なのものは、今、太陽の落ちきった暗闇の中にある。
誓いを立てよう。戦うと。リクの二の舞いを踏むなどもう。だからこそ。
自らの世界と戦う必要がある。死を掲げる権利も、死を伴う正義も信じていないのだから。これ以上このエゴに満ちたぬかるみに足を取られてはいけない。
簡単なことだ。死神の役割を放棄することだ。仲間であったはずの、もはや仲間ではない死神たちと戦うことだ。我々は高等な神ではないと主張して。そうして全てを失っていけるなら、それで結局私は救われる。そう、もしも万が一、全てを失うことが出来るならば……。
死神が帰る場所は、生と死の挟間。ひたと闇の降りたその挟間に、金の髪を持つ青年が溶け込んでいる。
「里雪」
彼の名を囁いた。言わなければいけないのかもしれない。
私はもうあなたの仲間ではない。戦うことにした。全てと。
しかし私が先を続ける前に振り向いた里雪は、どこか諦めの混じったような瞳で微笑んだ。
「わかった」
好きにしろよ。
罵られるより理解される方が苦しい。責め立てられるより許される方が痛い。それが矛盾ではないと分かるだろうか。
私は馬鹿げた死神の世界を壊そうとしている。同じ世界に所属する里雪はそれすら否定しない。或いは彼に破壊願望があるのか。どうでもいいと思えるほど既に絶望しているのか。いずれにせよ用意されたものは、もはや不毛な答でしかない。
果てない夜を。死神に死を。見上げた闇の先で妖しく霞んだ銀の月が、雲に捕われる。
続編連載中です。→NeXT「神話21世紀」