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第六話 雫の場合

105号室、ここが私の部屋か。

渡された鍵の番号と部屋の番号を確認し、中へと入っていく。

部屋の中は大体エリシスと同じ作りになっていた。

本当は着替えないといけないけれど、着替えないから着替えられない。ううん、着替えがあっても着替がえなかったと思う。

私は部屋の隅に置かれているベッドへねころんだ。

今日はあまり寝れそうにない。

目を閉じると浮かんでくるのは、流雨の本気で怒った顔。

ラディという魔獣と対立した時、私は自分の死期を悟った。

全身が強張り、硬直し、恐怖に震える。

その時に流雨は自分が囮になると言った。

私には流雨の言った意味がわからなかった。

なぜ一緒に逃げないのか、なぜ自分だけ死地へ向かうようなことをしたか。私達は貴方がいないと生きていけないというのに。

結果的には全員助かった。

流雨の元に戻って来たら、隣に居たのはエリシスと名乗る女性だった。

その人を見た時に気づいた。ああ、流雨はこの人に助けてもらったんだな、と。

私はエリシスが羨ましくなった、嫉妬した。

自分の身を守り、そして流雨を守れるその力に。

私は流雨とは長い間一緒に過ごして来た。でも、こんな感情を覚えたことはなかった。

異世界に召喚され、家族や友達と会えなくなったのは悲しかったがそれよりも、流雨と一緒に要られる時間が、流雨と会話ができる時間が、流雨に甘えられる時間が、流雨を見ていられる時間が増えたことが嬉しかった。

流雨と冬華が入ればないもいらない。

流雨の願いはすべて叶えてあげたい。

流雨の言うことはなんだって聞く。

たとえ親を殺せと言われたら、間違いなく殺すだろう。流雨はそんなこと言わないけどね。


「ふふ」


いつから自分は流雨を好きになったんだろう。

いつから流雨のことを想い、恋い焦がれるようになったんだろう。

いつから自分は流雨のことを求めるようになったんだろう。

思い出すのは、小学1年生の秋__





小学1年生の秋、私はお父さんの都合で流雨のいる小学校に転校して来た。

お父さんの仕事は異動が多く、その度に幼稚園を転々として来た。

そんな短い期間で友達もできるはずもなく、いつも一人だった。

一人でいるのが不気味だ、あまり笑わないのが怖い、そんなくだらない理由でいじめられていた。

それを見た幼稚園の先生は笑っていた。

それから私はお父さんにもお母さんにも表情を出さなくなり、ますます無表情になっていった。

この小学校も同じなんだろう。また前の小学校見たいに陰口を言うんだろうとそんなことを考えていた。


二時間目が終わり、休み時間になった。

転校生が珍しいのか一人を除いて私の周りにわらわらと集まって来た。そう一人を除いて___。

その人は窓側の席に座っていた。窓を開けて窓の方を向いてほおずえをついていた。

風が吹き、その人の銀の髪がたなびいた。

きれいだった。思わず見惚れてしまった。

チャイムの音で目が覚めた。なんだか体が火照ったような気がした。

放課後になって、その人は教室から出ていった。なぜか私はあとをつけてしまった。

行き先は屋上だった。

静かに扉を開けると、あたり一面がオレンジ色の世界だった。

その人は鉄柵の上に手を置いて、夕日を眺めていた。夕日の光が、その人の銀の髪に反射して光っているみたいだった。息を吹けば消えてしまいそうに儚く、そして幻想的だった。

私に気づいたのかこちらを向いた。


「お前は誰だ」


一年生とは思えないほど、落ち着いた声だった。なんて自分のことを棚にあげていうけども。

第一印象は冷たい人だった。


「私は森園雫。貴方は?」


名乗ってしまった。名前を聞かれても答えることはなかったのに。

私の問いにその人は少し考えた。


「俺か、俺は新凪流雨。よろしくな」


それが私と流雨の初めての出会いだった。


それから翌日、二時間目休みに流雨から声をかけて来た。


「雫、話がある。屋上に来てくれ」


流雨に名前を呼ばれた時に心臓がトクンと跳ねた。


「わかった」


私は平常を装って返した。

その一言で満足したのか席へと帰っていった。

そして放課後。

まだ二日目と言うのに、私に話しかけてくる生徒は流雨を除いて誰もいなかった。

わかっていたとはいえ少し、寂しかった。

カバンを背負って、教室を出て階段を上がり、屋上の扉を開ける。

昨日と同じように鉄柵に手を置いていた。

そして私に気づくとこちらを向く。


「あー、なんだ。友達にならないか?」


「………はい?」


友達?なんで?いくらなんでもきゅうすぎない?私と?もっといい人いるのに?……でも、毎日一人でいるよりはいいのかもしれない。


「……いいよ」


頷いてしまった。


「なんだよ。急に黙るから断られたかと思ったじゃないか。つか、これ結構恥ずかしいんだからな」


そう言って流雨は顔を赤らめて笑う。その笑顔は年相応で、教室とのギャップに思わず笑ってしまった。


「あは、あははは。ふふ。ふふふふふふ」


いつぶりだろう。こんなに笑ったのは。


「うん。やっぱり雫は笑った方が可愛いと思う。って言っても、いつも笑っていろとは言わない。時々でいい。押し殺している感情を、閉ざしている感情を少し表に出して見ると、退屈で嫌な毎日が少し、変わって見えるから」


そう言って流雨ははにかんだ。

今なんて言った?可愛い?私が?そう考えたら急に顔が赤くなった。


「俺はここから見える景色が大好きなんだよ」


そう言ってまた鉄柵に手を乗せて夕日の方を向く。

その姿を見ながら私はこの人について行こう。閉ざしている感情を少し引っ張り上げてくれたこと人に、ついて行こうと決めた。





雫の場合には続きがあります。それは次回載せたいと思います。

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