第五十一話 復讐の終わりに
『我が名はグリード。エリシスを渡すならお前らの命だけは助けてやる』
黒滅死龍は開口一番俺たちに向かってそう言った。黒滅死龍の言葉にエリシスは肩を跳ねさせ、流雨の顔を恐る恐る横目で伺う。が、流雨の顔を見た瞬間、ほっと息をついた。流雨は、黒滅死龍をただ真っ直ぐと見据え、挑発的な笑みを浮かべて居た。
「はっ、なにほざいてんだ。グリードとか言ったか。お前、渡す気があれば初っ端から対峙してねえだろうが」
さっきの言葉はあっちにとって最大の譲渡なんだろうが、こっちにとっちゃ最悪の譲渡だ。渡す気なんか毛頭無い。だから、馬鹿にしたように吐き捨てる。
『貴様っ!素直に渡せばいいものを。全軍に告ぐ!ブレスの用意をしろ!』
グリードは後ろにそう叫ぶと、口の中に黒い炎を溜め始めた。グリードに従って他の黒龍達も溜め始め、あたりの魔力濃度が上昇して行く。
「雫達、これ使うか?」
俺はバックパックから『聖魂の札』を取り出し、雫達に見せる。雫と冬華は頷いたが、エリシスだけは違う反応をみせた。
「ここは私に任せて」
「エリシス?危ないから後ろに下がってろって」
俺たちの前に歩み出たエリシスに宥めるように声を掛ける。が、エリシスは俺に微笑み、それから前を向いた。
「これは……なにいっても聞かないね」
「ったく、本当に悪い癖だ。わーったわーった。精一杯フォローするって」
「うん、頑張ろう」
エリシスがなにするかわからないが、それを支えられるように魔力を高めて置く。
『木っ端微塵に砕け散れ』
見た限り千は超える黒龍達の黒い炎のブレスが吐き出された。全てを燃やしつくであろう黒炎をもって俺たちに牙を向くが、その牙はエリシスによって砕かれた。
「最上級防御魔法 《絶対双盾》!」
エリシスの魔法によって現れた半透明の赤と青の盾によって、黒炎は受け止められ、消し飛ばされた。
『なっ!?』
せいぜい「絶対に防がれることはない」とでも考えて居たのだろう。グリードを含めた黒龍達は口をあんぐりと開けて居た。
「フユカ!」
「了解!」
エリシスに呼ばれた冬華はエリシスの横に並び立ち、魔力を高める。
「精神凍結魔法 《コキュートス》!」
「空間魔法 《時間刻みの月時計》!」
黒死龍は冬華の魔法によって絶命し、黒龍はエリシスの魔法によって絶命した。エリシスすげえ。復讐のために努力してきたってのは本当だったんだな。
『な、何が起こった!?なぜだ!?なぜ我しかここにいない!』
一瞬にして一人になったグリードはうろたえる。それを流雨達は愉快そうに見つめ、次々と口を開いた。
「何が起こった?見ればわかるだろ」
「なぜって?それは貴方がエリシスに心の傷を追わせたから」
「なぜ貴方しかいないのかって?それは」
「「「お前の運命を呪うんだな!」」」
「炎属性最上級魔法 《炎獄》!」
「氷属性最上級魔法 《氷炎地獄》!」
「雷属性最上級魔法 《雷神ノ鉄槌》!」
光の柱がグリードの右翼をもぎ取り、地獄の業火が左翼を燃え散らし、墜落したグリードを地獄の業火と極寒の冷気が燃え尽くし凍り尽くした。そして、グリードは声を発する間もなく絶命した。
◆
「終わったん、だ」
全てが終わった後、しばらくの間空を見上げて居た。流雨達は空気を読み、少し遠くから見守って居た。
ポツリとつぶやいた後、エリシスは流雨の目の前に立ち、流雨の胸に飛び込んだ。
「ごめんっね。少し、ひぐっ、こうしてて」
「ああ、よく頑張った」
涙声になっていたエリシスの背中を、流雨労わるように優しく撫でた。
「ひぐっ、うぁ、うわぁぁぁぁぁぁっ、あぁぁぁぁぁあっ!」
それが引き金になったのか、エリシスの目から大粒の涙が零れ落ち、声を上げて泣き始めた。流雨は泣き止むまでずっと背中を撫でていた。
お父さん、お母さん、これでいいよね。仇、とったよ。これで、安らかに眠れるよね。私、頑張るから。お父さんとお母さんの分まで頑張って生きるから。
だから、さようなら。




