第五十一話 開戦
「それでは、お達者で」
「いろいろありがとう。助かった」
朝食を食べ終え、入浴を終えた俺たちは馬車に乗り、巫女さん達に見送られて居た。本当はもう少しいたかったが、黒滅死龍の件で巫女さんに迷惑をかけるわけにもいかず、巫女さんもそれがわかっていたため、なにも言わずに流雨達を見送った。流雨達は巫女さん達に頭を下げ、馬車を走らせた。
「エリシス。無理しない方がいい」
「大丈夫よ」
最初に上がってきた道を馬車で下り始める。その間にも黒滅死龍と黒死龍の軍勢は着々と近づいてきており、エリシスは少し顔を青ざめさせていた。流雨と冬華は警戒のため御者台に乗り、雫はエリシスの護衛のために馬車の中でエリシスを抱きしめていた。
「エリシス、そろそろいいか?」
「ええ」
巫女智山から少し離れたところで流雨がエリシスに声を掛ける。エリシスはその声に従い、馬車を転移させた。
転移した場所は、広大な草原だけが広がっていた。他には何もなく、草花がちょこんと咲いているだけだった。あまりにも広過ぎる草原を前にして、流雨達はこの世界に草原だけしかないように錯覚する。同時に、身体の奥底から嫌悪感が込み上がってきた。身体がここにいることを拒否するかのように。
「ここは破滅の草原。昔ある一つの村があったところよ」
馬車から下りたエリシスが遠い目をしながら語り始めた。
エリシスの村がここにあったこと。今まで踏ん切りが付かず、ここに訪れることができなかったこと。そして……
「私の村を滅ぼした黒滅死龍の死に場所には、ちょうどいいでしょ?」
そう悲しそうに顔を歪め、微笑んだ。
「そうだな」
流雨達はそのことに深く触れることなく、首を縦に振った。俺達が転移したことに気付いた黒滅死龍達は軌道をこちらへ変更した。流雨達は静かに黒滅死龍達の魔力がある方向を見据え、ただ近づいてくるのを待ち構えた。
「やっとお出ましか」
「存分に痛めつける」
「遠慮はいらないね」
しばらくすると、空を埋め尽くさんばかりの黒龍や黒死龍が、一際大きい黒滅死龍を先頭に接近してきていた。流雨達はその姿を視認した瞬間に、各々武器を構える。そして、魔力を高め詠唱の準備を終わらせる。
後に歴史に名を刻まれる大決戦、『破滅の草原での死闘』が今、幕を開ける。




