第五十話 行先不安
「お疲れ様でした」
転移した流雨達を出迎えたのは、赤い巫女さんだった。どうやら転移した場所は宿がある場所だったらしく、移動の手間がかなり省けた。
「巫女さん、これ持ってきたんだが」
「流石、ですね」
流雨が腰につけているポーチから出した水晶を見て、赤い巫女さんは少し驚いたような顔をした。
そして、幾つかの説明をし始めた。
あの山は中には幾つかのルートがあり、そのルートの最後には流雨が持ってきた水晶のように、小さな台座に置かれた何かがあるとか。自分が通ってきたルートの最後にある何かを持ってきて、それを巫女さんに渡せばこれは終わりとなるらしい。そして、持ってきた物によるが、巫女さんからこれから来たる試練に向けて役立つ物を一つくれるらしい。
その中でも小さな水晶は、山の中で一番厳しいルートの最後にある物らしく、持ってくるとは思るかもとは思っていたが、本当に持ってくるとは思わなかったらしい。
「と言うわけで、私達から渡せる最高の物です」
「あ、どうも」
服装を正した赤い巫女さんは巫女服の中をあさり、一枚の札を流雨に渡した。
「それは『聖魂の札』という悪しき物を退けるための札です。何を持って悪しき物と判断するかは、持ち手の意思によりますけれどね」
「なるほど、ね。まあ、ありがたく受け取っておく」
「さ、今日はもうお疲れでしょう。お夕飯の準備が出来ています。どうぞ、宿の中へ」
赤い巫女さんはそういうと宿へ歩き始めた。あとに続こうとする流雨の背後で、可愛らしく誰かのお腹がなった。
「あ、あのねっ?ち、違うのっ。こ、これは、違うのっ。そうじゃなくて」
誰のお腹がなったかどうかは直ぐにわかった。冬華が顔を真っ赤に染めて手を忙しなく動かしていたからだ。普段ならば冬華も苦笑するだけで済むだろうが、今のは完全に不意をつかれたらしく、ここまで顔を真っ赤に染めている。
「ははっ、俺も空腹だ。早く宿に入ろうぜ」
「う、うぅ〜〜〜。流雨ちゃんの優しさが痛いよ」
流雨としてはフォローしたつもりだったが、どうやら逆効果だったらしく、冬華は肩を落とした。が、やはり空腹には勝てずに流雨の後を追いかけて行った。
◆
「何を持って悪しき物と判断するかは持ち手の意思次第……か」
夕食を終えた後、俺はベランダに一人出て夜空を眺めていた。
自分を害する物を悪しき物と判断するか、大切な人を脅かすものを悪しき物を判断するか。どちらにしろ、雫達に向ける害意や敵意、それから殺意を向ける奴は排除することには変わりはないんだが……どうにも嫌な予感がする。
「ったく、黒滅死龍だかなんだか知らないが、黒龍なら黒龍らしく黒死山に篭ってればいいものを」
恐らくエリシスを追っかけて来てるみたいだし、厄介なことこのうえないな。なにがそこまでエリシスに拘るか知らないが、そこまで拘るんだったら百や二百の大所帯で押し寄せるだろうしな。
「懸念すべきは黒滅死龍を前にして、エリシスがどう動くか」
言ってみれば親の仇。それがのこのこと目の前にやってくる。その時にエリシスは我を失って襲いかかるかどうかがイマイチよくわからない。そうはならないと思うんだが……
「……それは所詮希望的観測にしかすぎないか」
エリシスだって自分がどうなるかわからないだろう。エリシスがわからないものを俺達がわかるわけもない。
黒死龍や黒龍は雫と冬華に任せるとして、やはり黒滅死龍は俺が相手するしかないな。
月を覆う暗雲が、この先の不安を表しているような気がした。




