第四十一話 巫女の試練〜エリシスside〜
ルー達とわかれたあと、私は《身鏡の間》へと案内された。《身鏡の間》、対象者の心を浮き彫りにする魔法がかけられた建物。冒険者の中では有名で、私も名前だけなら知っている。はじめは浮かれていたのだが、途中で、あることに気づいた。十数年の間、誰にも知られていない、黒滅死龍とのことが、巫女さんに知られる可能性があるということに。不安になったが、どうせ自分からルー達に、いつか話そうと思っていたこと。きっかけができたと思えばいい。
「エリシス様、こちらへお座りください」
「ええ、ありがとう」
《身鏡の間》の中は、至って普通だった。なんの魔力も感じさせない。けれども魔法がかけられている。それだけで、この魔法をかけた魔術師が、どれだけ高位の魔術師なのかが伺える。ルー達も気づいていなかったみたいだし、言われるまで私も気づかなかった。
「ふふ、《金の殺戮姫》と呼ばれているエリシス様の、心の中はどうなっているのでしょうか?」
巫女さんはそう言うと、艶やかに微笑んで見せる。俗にいうアルカイックスマイル、という奴だろうか。
「……エリシス様、このことを、流雨様達に伝える気は、おありですか?」
私の心の中を覗いた巫女さんは、かなり真剣な表情をして、私の目を見つめた。
「半々ってところかしら。これは自分のことだし、自分でけりつけなきゃいけないしね」
いくら仲間だからと言って、何が何でも頼っていいということにはならない。頼む方はいいが、頼まれた方は迷惑だろう。
そんな私の考えに気づいたのか、巫女さんは、ゆっくりと首を横に振った。
「いいえ、いいえエリシス様。違います、仲間だからこそです。人は、生きている限り、誰かに迷惑をかけてしまう、そんな生き物なのです。人は弱い。爪も牙も持たず、あまりにも脆弱。そんな人が、今まで生きてこられたのは、他人に迷惑をかけてかけられて、手だすてしあって来たからこそ、人は今まで生きてこられたのです。まあ、エリシス様は、かける迷惑のスケールが大きすぎますけど。エリシス様は、本気で黒滅死龍と一人で戦って、仇を打てると思っているのですか?」
「思っていない。ええ、思っていないわ。だけど、どうしろというの?あなたにはわかる?十数年の間、ずっと一人で生きていく苦痛が。いつバレるかわからない中で、子供が、ずっとびくびくしながら生きていく、その気持ちが。やっと手に入れた仲間に、軽蔑されるかもしれないこの辛さが。あなたには、わかるかしら?」
自分が言葉を発するたびに、心が締め付けられる。
「……わかりません。ですが、これだけは言えます。そのことを話したくらいでは、流雨様達は、決して軽蔑することはないでしょう」
巫女さんは、私の目を見つめ、はっきりと言い切った。
「それが、私への試練?」
「いいえ、違います。試練は、流雨様がクリアした時点で、もうすでに終わりました」
「試練て、全員がクリアしないと、巫女智山の中へは入れないんじゃなかったんじゃない?」
巫女智山へは、試練対象者全員が試練をクリアしなければ、立ち入る許可がおりない。そういうシステムのはずだった。
「あれだけのものを抱え込んで、あまつさえ100点満点の答えを出されてしまったのです。常人ならば、あの三分の一を抱え込んだだけで、精神が壊れてしまいます。そんなものを抱え込んで置いて、理想的な答えを導き出されてしまっては、他の方に試練を出すのはおこがましいというものです。私達も、あれだけ暗くて冷たいこころは、初めて見ました。深層心理まで潜り込んでもいないのに、あの暗さと冷たさ。深層心理に潜ろうとしましたが、黒くて冷たい、鎖で縛られた大きな扉がありまして、潜ることができませんでした。よく、あんなに平然としていられるものですね。見ているこちらが壊れてしまいます」
話を聞いてなるほど、と納得した。ルーならばやりかねない。
「私達の試練はありませんが、エリシス様。エリシス様の本当の試練は、すぐやってきます。それこそ、エリシス様の人生の中で、一番大きな出来事になるでしょう。そのとき、一人で立ち向かおうとはしないでください。エリシス様には、仲間がいるのですから」
「……仲間」
「それと、エリシス様の過去を、ルー達に打ち明けて見てはいかがですか?きっと、エリシス様が忌避していることにはならないと、思いますよ」
「……そう、ね」
……うん、そうね。打ち明けましょう。たとえ軽蔑されるとしても。
巫女さんに頭を下げ、ルー達が待っているであろう宿屋へと急いだ。




