第三十九話 巫女の試練〜雫side〜
「雫様、こちらへどうぞ」
四方向に分かれたあと、私は《身鏡の間》という建物に案内された。流雨以外に心の中を見られるのは少し不満だけど、我慢しなければいけない。
「試練と言いましても、雫様に出すものなど、ほとんどないのですけれど」
「そう」
こっちとしては願ったり叶ったりだ。他人に心の中を覗かれる時間が減るのだから。
「雫様は、流雨様のことをどう思っていますか?」
そんなの決まっている。
「好きよ」
「即答ですか」
当たり前。
「ではなぜ、その想いを流雨様に伝えないのですか?」
「決まってる。困らせたくないから」
流雨は優しい。私のことをどう思っているかどうかわからないが、多分なんとも思っていないだろう。長い付き合いだったから、私がもし告白したとしても、流雨はきっと悩やむ。好きな人が困っている姿なんて、見たくない。
「雫様はそれで満足なのですか?流雨様が他の人と付き合ってしまったとしても、それで良いのですか?」
流雨が私と冬華以外の誰かと付き合う。そう考えたら、胸がぎゅっと締め付けられた。だけれど……
「いいとは言えない。でも、流雨が幸せになるなら、なれるなら、それで良い」
想いを告げられないのは、少し悲しいけれど、流雨が不幸せになるよりもずっといい。
「そうですか。そこまで、想っているのですね」
私の全てをくれた人。流雨がいるから私は生きていられる、生きる希望を持つことができる。私は、流雨に依存しているといってもいい。流雨ならば、私の全てを捧げてもいい、捧げたい。流雨になら、なにをされてもいい。そう思っている。
「もし、流雨様が冬華様と付き合ったら?」
「それでもいい。冬華ならきっと流雨を幸せにしてくれる」
「なんとも思わないのですか?」
「だって、長い付き合いだから。冬華は、とてもいい子。なんでそんな冬華に、どろどろした感情を抱かなければいけない?」
嫉妬や苛立ち。自己嫌悪。他人と流雨が付き合ったら、私はそんな感情を抱くだろう。でも、冬華には抱かない、抱けない。
「そう、ですか。……雫様。一度、伝えて見てはいかがですか?ここは異世界です。雫様たちの世界から来たのは、雫様と冬華様と流雨様のみ。もし、ふられたとしても、そんなに早く想い人など、出来ないと思います。しばらくは、このままでしょう。一度伝えてみたら、いろいろと吹っ切れて、楽になると思いますよ」
……私への試練は。
「私への試練は、流雨に想いを告げること?」
「いえ、そうではありません。正直に言うと、流雨様が試練をクリアした時点で、立ちいる許可はすでにおりているのです。本来なら、全員クリアしなければならいのですが、流雨様は、私達が求めている以上の解答を示してくれました。あれだけのものを抱えて、答えを出すなど、普通の人には出来ません」
流雨は無事にクリアしたみたいだ。それにしても、なんの答えを出したんだろう。
「先程言ったことは、試練とは関係なく、私の考え、ということになるでしょうか」
「……困らせることになったとしても?」
「いえ、そんなことにはならないでしょう。雫様が一番望んでいることが、なにもしなくても転がり込んで来ます」
私が望んでいることは、一つしかない。
「言い切っていいの?」
巫女が、無責任なことを言って良いのだろうか。
「ええ、大丈夫です。雫様が疑問に思っていることにはならないのですから」
「……そう。ならいい」
「ふふ。雫様の試練は終わりました。長い間拘束してしまい、すみませんでした」
どうやら終わったらしい。巫女さんへお礼を告げると、流雨が待っている宿屋へ、急いだ。




