第三十七話 巫女の試練 I
「ん?なにか霧が出てきたな」
馬車を走らせてから約二週間。山道を進んでいる時に、馬車がうっすらと霧に包まれ始めた。
「そういえば、盗賊も魔獣も出てきてなかったわね」
時々盗賊や魔獣が馬車を襲ってきていたのだが、山道に入ってから襲われることはなくなった。ちなみに雫と冬華は後ろで寝ている。
「おいおいどんどん濃くなって行くんだが……」
霧は晴れることはなく、どんどん濃度を増していく。やがて、霧であたりが見えなくなるほど濃くなっていった。
「でも馬は走ってんだよなぁ」
濃霧の中を馬は止まることなく、むしろ何かに惹かれるように走り続けている。
「あ、晴れた。不思議ね」
五分ほど濃霧の中を馬車を走らせると、少しずつ霧が晴れてきていた。
さらに走らせ続けると、大きい山が見えてきた。
「おい、エリシス、これはまさか?」
「これは多分、巫女智山ね」
「着いたな」
エリシスが、馬車を止めるところを探していると、どこからか声が聞こえた。流雨が、そちらへ視線を向けると、巫女服に身を包んだ女性が手招きをしていた。
「冒険者様。こちらへどうぞ」
「だってよ、どうする」
「行くしかないでしょ?」
もとより止める場所がわからなくて困っていた流雨達だ。巫女さんの言葉に甘え、着いていくことにした。
「エリシス疼いてるな」
「だって、もうすぐ試練が待ち受けているのよ、ワクワクするじゃない」
ああもうこいつ駄目だ。流雨は密かに頭を抱える。そんな流雨に気付かずに、エリシスはそわそわしていた。
「こちらに馬車をお止めください」
案内されたのは、一つの大きな馬小屋だった。雫と冬華を下ろし、馬車をアイテムボックスに仕舞うと、馬を馬小屋の中へ入れた。
「お待ちしておりました。《金の殺戮姫》エリシス様。《希代の召喚師》流雨様。《精霊の加護を受けしもの》雫様。《癒し手》冬華様。ようこそ、巫女智山レミレスへ。馬車での長旅、ご苦労様でした」
「お疲れのようですし、こちらの宿へお泊まりください」
「試練は明日に致しましょう」
赤い巫女服に身を包んだ女性が頭を下げ、それに続いて青と緑色の女性が頭を下げる。確かに流雨達は疲れているので、勧められるまま、宿へ泊まることにした。
「金の、金の殺戮姫って……こんなところで言わなくても」
「いや、まあ、諦めろって」
「なんの慰めにもなってないわよ!」
そんな流雨とエリシスのやり取りに、雫と冬華が苦笑する。宿の中へ入り、部屋を取る。鍵を受け取り、二階へ上がり、それぞれ鍵を開けて部屋に入る。
「ったく、なんだかな」
流雨は、ベッドへ寝転び、天井を眺めていた。流雨の心の中には、なにかモヤモヤとしたものがあった。嫌な予感とも違った、漠然とした不安感。巫女さんと会ったときから胸の内にたまり始めて居た。なにに対する不安かわからないが、とにかく、明日に備え、流雨は眠りに着いた。
「流雨様。流雨様。お起きになってください。朝でございます」
翌日の朝。流雨は誰かに揺すられれ感覚に目を覚ました。
「のわぁぁぁぁぁ!」
「?どうかなさいました?」
目を開けると、赤い巫女服に身を包んだ女性の端正な顔が、ドアップで映っていた。
流雨だって男だ。美人の顔がいきなり目の前に会ったら動揺もする。生理現象が起こってないだけマシだったが。
「びっくりしま……「敬語は入りませんよ?《希代の……「いや、わかった。だから頼むからそれやめてくれ」……かしこまりました。朝食ができていますので、食堂へおりてきてください」
巫女さんは、それだけ言うと部屋を出て行った。流雨は呆気に取られながらも、着替え、顔を洗って食堂へと向かった。
朝食を済ませた流雨達に、三人の巫女さんが声をかけた。どうやら試練を開始するので、呼びにきたらしい。
「それで、どこでやるんだ?」
「ふふっ、それはお楽しみですよ」
流雨がそう尋ねたが、巫女さんは微笑むだけだった。ちなみに、雫には青い巫女さんが。冬華には緑色の巫女さんが。エリシスには黄色の巫女さんがそれぞれついていた。四人の巫女さんに連れられるまま、流雨達は歩いていく。
「ここで、四方向に分かれます」
そう流雨に告げ、流雨達は、四つに分かれた。そのまままっすぐ進み、しばらくするとある建物の前に辿り着いた。




