第三十四話 雫の危機
「まずは、巫女智山レミレスに行きたいな」
馬車に乗った冬華がそういった。確かに、どのような試練を告げれるのか、流雨達は興味があった。
「でも、また長いたびになるのよね」
「まあいいじゃないか。誰も行ったことがないんだろう?俺達が初めてになるんだからさ。それに、旅をするのも冒険者の醍醐味、だろ?」
「ん、流雨がそういうなら」
相変わらず相手がルーになると切り替えが早いなと、エリシスは密かに苦笑する。流雨は目を閉じ、エリシスからあげられた候補を吟味する。
「そうだな。巫女智山レミレスでいいんじゃないか?」
「ま、とくに異論はないわね」
「そうね」
「いぇーい」
目を開けた流雨の提案に、全員が頷く。切り替えが早いのは、エリシスも含まれているとは気がついていない。
「それじゃ、レッツゴー!」
なぜかテンションが高い冬華の声に合わせ、馬車を走らせた。
◆
「すぅ………すぅ」
時刻は9:05。私の隣には、流雨が寝ている。相変わらず可愛い寝顔ね。昔から変わらない。
「髪もさらさら」
少し長い流雨の銀髪を手櫛で解くと、絡まることなく指の間を抜けていく。こうしていると、少し理不尽なモノを感じる。女性よりも手触りのいい髪ってなに?いつも乱暴に扱っているのに、なんでいつもさらさらなの?そういう思いがふつふつと湧いては消えていく。
「…………っ」
流雨の顔をじっと見つめていたら、顔が熱くなった。なにを今更実感しているんだろう。ここは元の世界じゃなくて、異世界なんだと。つまりは、好きな人と一緒にいられる時間が、とても長くなったんだと、そしていま馬車の中に二人きりなんだということを身を持って実感する。
「流雨………」
あんなに遠くに見えた人に、今、触れられる。触れることができる。同じ立場にいる。
無意識のうちに手を伸ばす。伸ばしたては流雨の頬に触れ、手を添える。触れている。そう考えた瞬間、体が火照るのを感じた。頭がポーッとして、なにも考えれなくなる。下腹部からキュンとこみ上げてくる。
「〜〜〜…………ひゃあ!」
私は今、流雨に欲情してるんだ。そう考えるたら、なぜだがとても気恥ずかしくなり、少し離れようと、腰を浮かせる。すると、流雨の頭が、私の膝の上に落ちてきた。私が履いているのは、膝丈もない短いスカート。その上に流雨の頭が落ちてきたら、太ももに直に流雨の頭が乗ることになる。
「〜〜〜〜〜〜ッッ!」
太ももの感触と視界から、流雨の頭が乗っていることを確認すると、さらに体が火照り、キュンキュンとしたものが下腹部からさらにこみ上げてくる。逃げようにも逃げられず、瓦解しそうになる理性を必死に保とうとする。
「んあっ!」
そんな私に追い打ちを掛けるが如く、流雨が寝返りをうち、私の膝に手をおく。感覚が敏感になっている今、急に触れられ、思わず変な声が出てしまった。流雨の寝込みを襲おうとする本能を理性で押しとどめる。そんな私をよそに冬華とエリシスは、御者台で楽しく談笑を続けていた。誰か……助けて……。私のSOSは、誰にも届くことなく馬が馬車を引く音にかき消されていった。




