第三十二話 複合魔術
「ったく、汚いな。もっと衛生面に気を使ったらどうなんだ」
流雨達は盗賊を殲滅したあと、アジトの中へと足を踏み入れていた。アジトの中は、まさに岩を掘っただけの物だった。隅には動物の食いかけや、毛皮などが放置してあり、それらが腐敗臭を発していた。他にも見るに耐えないものばかりなのだが、流雨は視界の隅に追いやることにした。
「さて、最大の勢力を誇っていたんだ。捕まっている人の数も多いだろう」
「それで、見つけてどうするつもりなの?助けるとか?」
冬華の問いに、流雨は僅かに口角をあげる。
「まさか、そこまで善良な人間じゃない。連れ出すだけ連れ出しといて、あとは適当に置いていくだけだ」
ある意味、捕まっているより酷いと思うんだけど。そうエリシスは苦笑した。部屋の奥へと進むと、鉄格子に囲われた牢獄が見えてきた。そこには、エルフやフェアリー、ドラゴニュートやホビット、ドワーフや獣人と、様々な種族が閉じ込められていた。
「おいおい、他種族よりどりみどりだな………は?人間がいない?」
流雨は、牢獄内を見渡して、素っ頓狂な声を上げた。確かに牢獄内には様々な種族が閉じ込められている。しかし、人間はそこには居なかった。
「ルー、知らなかった?この世界は人間主義なのよ。人間が神に選ばれし種族だってね。ちなみに私は人間主義とかどうでもいいけれど」
「ここの人間はそこまで腐っているのかよ」
流雨は、エリシスの言葉を聞いて悪態をついた。大概この世界の人間は腐っているとは思ってはいたが、正直ここまでのものだとは思っても居なかった。比べる基準が間違っているだろう。人間と獣人のどちらが優れているかなど、比べても無意味なだけだ。他種族には他種族のいいところがある。これが当たり前だ。そもそも他人の欠点しか主張できない時点で、すでに腐っていることは明白だ。
「暴論もいいところだな。手を取り合っていけとは言わんが、付かず離れずの距離を保つくらい出来るだろう。それが一番建設的と言うことがなぜわからない」
「エルフは見目麗しいから性奴隷に。ドワーフは優れた鍛治技術を持っているから屈服させる。ドラゴニュートは頑丈で力強いため肉体労働に。獣人は高い瞬発力と戦闘能力を生かすために兵士として。フェアリーとホビットは愛玩用ってところね。本当に最低」
流雨はこの世界の人間の馬鹿さ加減に呆れた表情を浮かべ、雫は捕えられている種族の使い道を述べ、嫌悪感をあらわにする。冬華も同様、嫌悪感をあらわにする。
「さて、それじゃちゃっちゃと解放するか」
流雨は真っ正面の獣人のところに、雫はフェアリーのところに、冬華はエルフところに、エリシスは残りの種族のところへ向かった。
◆
ルーちゃんの指示を受け、エルフが捕まっている鉄格子の前に私は立った。当然脱獄防止のために鉄格子には鍵をつけられていた。ルーちゃんならどうするんだろうと思い、視線を向けると、躊躇いも無く鉄格子を切り裂いているルーちゃんの姿があった。
「《ウィンド・カッター》」
風属性下級攻撃魔法 《ウィンド・カッター》で鉄格子を切り裂く。
「本当に最低だね、全員女の子なんて。同じ女として悪寒を覚えるよ」
中に入ると、三人のエルフが手足を鎖で縛られているのが見えた。全員が女の子と言うことも。最低、と思いながらも鎖を切り裂いていく。解放された三人は、私が人間ということを確認して驚いていたが、私には関係ない。ルーちゃんの指示を全うするだけ。他に残って居ないか見回すと、奥の壁に、小さい牢獄があった。
「どこまで腐ってるの」
鉄格子を切り裂き、中へ入ると、解放した女の子達と同じように鎖で縛られていた女の子がいた。壁に寄りかかり、力無く四肢を投げ出し、虚ろな瞳で、虚空を見上げていた。ろくな服を着せられて居なくて、下半身は何もつけられていない。そして、そこから零れる白濁の液体を見れば、何をされたか簡単にわかる。
「取り敢えず、これは片付けないと。臭い」
まるで塩素の臭いだ。カバンから布を取り出して、白濁の液体を拭う。
「ぁぅ」
布を当てた時、エルフの少女は小さく喘ぎ、身体を仰け反らせ、ビクンビクンと痙攣させた。秘部からは、とろりとした液体が溢れてきていた。まさか、薬まで。女の尊厳をどこまで踏みにじればいいの。
感情を押しとどめながら、拭い終える。そして、投げ捨て、燃やす。
「このものに回復を《ヒール》」
念のため、少女の体力や、傷を回復させておく。
「薬の効果は取り除けてないし、自然に抜けるのも期待出来そうもないね」
どうやら薬を常時与えられていたらしい。
「冬華、終わった?」
どうしようと考えていた私の後ろから、呼びかけられた。
「雫ちゃん」
ふりむくと、私を呼んだのは雫ちゃんだった。取り敢えず、このエルフの少女のことを雫ちゃんに説明した。
「…………凍結させただけじゃ、足りなかった見たいね」
普段から冷たい瞳を、さらに冷たくして雫ちゃんが言った。ちょっと怖い。
「雫ちゃんの白魔術で、薬の効果を取り覗けないかな」
ふと思い浮かんだのは、オルストが雫ちゃんに説明した白魔術のことだった。たしか、浄化ってあったような。
「…………やって見る価値はありそうね」
雫ちゃんはすこし考え込み、エルフの少女の額に手を当てた。
「……ん、取り除けた」
「ありがとう!」
嬉しくなって雫ちゃんに私は抱きついた。雫ちゃんはすこし頬を赤らめながらそっぽを向く。照れてるだ。可愛いなぁ〜。
「っと、次は私の番だね」
「どうするつもり?」
「んー、私の回復魔術と、精神魔術を組み合わせられないかと思ってね」
精神魔術でエルフの少女の精神に介入し、回復魔術で壊れた精神を回復させる。それが私の考えだった。雫ちゃんも私の考えに賛成してくれた。直ぐに試すことにした。
結果から言うと、驚くほど簡単に成功した。私が少し怖くなるくらいに。
「エリシスがいつも言っている異常さって、こういうことなのかな」
「多分」
エリシスの言葉を少しだけ理解した私と雫ちゃんだった。




