第二十六話 人の不幸を楽しむな
次回は少し飛び、ナテア王国到着です。
「暇だ」
「そうね」
馬車の窓から温かい日差しが差し込める。さしずめ春の陽気、と言ったところか。昼飯を食べ終え、お腹が膨れたところに、温かな日差しが眠気を誘う。雫と冬華は昼寝をしており、流雨の膝を枕にして寝ている。
「エリシスも寝たらどうだ?座りっぱなしで疲れてるだろ」
「ルーはどうするのよ」
「俺か?俺は眠くはないからな」
「………………そう、ね。それじゃ寝かせてもらうわね」
「枕かなんか必要か?」
「いらないわ」
「そっか。お休み」
「おやすみなさい」
エリシスは横になり、目を閉じる。しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてくる。
「やっぱり、可愛いよな。ったく、こっちは全力で理性を保ってんのに、いつもいつもこの二人は壊すような真似をしてくちゃって」
流雨は、自分の膝をまくらにしている二人のほおを撫でながら呟く。撫でられた二人は、幸せそうにほおを緩める。
「あ、掴まれた」
雫は自分のほおを撫でている流雨の手を掴み、自分の胸に抱え込む。
「……………」
流雨は無言でゆっくりと抱え込まれている手を引く。が、雫は、離さないとばかりにさらに強く抱え込む。しまった、墓穴ほった。
「んぅ…………あむ」
冬華は、流雨の手を掴み、口に咥える。
「食いもんじゃないんだか………」
冬華は咥えた手をなんだと思っているのかわからないが、まるで味合うかのように、舌を使って流雨の手を舐める。突然の出来事に流雨は体を強張らせる。
「耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ」
理性を総動員させるため、流雨はぶつぶつと呟く。そんなこんなで時間は過ぎて行った。
「ん………………ぁ」
「んぅ…………」
日が沈み、世界が黄昏に染まった頃、雫と冬華は目を覚ました。
「え?なに、これ」
「………………ルーちゃんの………手?」
雫は胸に抱え込んでいる手を。冬華は咥えている手を見て、流雨の顔を見上げる。流雨は真っ白に燃え尽きていた。
「………っ…………っ!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
状況を把握した二人の顔は、熟れたりんごのように赤くなり、冬華は頭から湯気を出している。直ぐに流雨の手を離し、体をおこす。
「ああ、二人とも起きたのか」
「っ!ええ。おはよう」
「う、うん。起きたよ」
「そう、か。助かった」
流雨の呼びかけに、二人は一斉に顔を背け、若干早口で返事をする。
「ルー、やるわね」
「エリシスか。いつから起きてたんだ?」
「そうね、大体、二時間前ってところかしら面白そうだったから見てた」
「見てるなよ。起きてたんだから助けろ。つか、人の不幸を楽しむな」
エリシスは流雨の返答を聞き、にやりと笑う。
「あれが不幸だったの?むしろ男の子にとっては本望じゃないの?」
「確かにな。それは否定しないが、あれは蛇の生殺しだ。拷問だぜ」
「あははは。でも二人は別にルーに我慢してもらわなくても、襲って「「その先は言わないでください!」」………面白いのに」
「エリシスってそんなキャラだったか?」
「ええそうよ。こんなキャラよ」
エリシスは流雨の問いに微笑みながら答える。
「駄目だ……………着く前に力尽きそうだ……」
流雨はそういい、空を仰いだ。




