閑話 エリシスの過去
二十話突破記念!ということで今回は閑話です。
説明が遅れました。
トルコールは、一年が360日。週の数が7日となっており、週は月の日、火の日、水の日、木の日、金の日、土の日、日の日です。
「はぁ」
水明亭の窓際の椅子に座ったエリシスがため息をつく。窓から見えるのは、厚く空に覆いかぶさった暗雲。そして、止む気配を感じさせない程に降る雨。
「はぁ」
また、ため息をつく。雨の日は気分が酷く沈む。これでは依頼を受けることも出来ない。といってもお金に困っているわけではなく、別に受けれなくてもいいのだが、なにもできることはなく、酷く暇だ。
「はぁ」
今日で三度めのため息をつく。時刻は八時ごろ。朝食、入浴と、することなど既にすべて終わってしまっている。残すは暇だけだ。
「はぁ」
ふたたびため息をつき、窓から空を見上げる。早く、止んでくれないかな、そしたら、暇がなくなるのに。と青く澄んだ空を厚く覆った暗雲をみながら考える。
そういえば、今日は月の日、お母さんのお父さんの命日だったな………とふと思い出す。
二人が生きていたら、こんな暇もなくなったのかな、と雨音をバックに物思いに耽る。
思い出すのは十五年前のあの日ーー。四歳にしては酷く鮮明に憶えている記憶。十五年前の月の日、お父さんとお母さんは魔物に殺された。
エリシス・エリアデルは辺境の村で産まれた。母親の名はエリム・エリアデル。父親の名はサイリス・エリアデル。母親は優秀な魔術師で、父親は優れた騎士だった。両親の容姿は良く憶えていないが、母親は栗色髪と栗色の瞳で父親は金色の髪と翡翠色の瞳をしていたと思う。母親はいつもぽわぽわしていて掴み所がなく、厳格な父親はいつも振り回されていた。金色の髪と翡翠色の瞳をしている私は、父親の血を受け継いでいるのだろう。剣を持つと、剣に振り回されるため、騎士としての血は受け継いでいなかったのだろう。その分、魔法を使わせると超一流。そこは母親の血を受け継いでいるのだろう。
産まれてから何事もなく、徐々に歳を重ねて行った。
しかし、このまま両親と共に歩んで行くはずだったエリシス・エリアデルの人生を大きく狂わせる事件が起きた。
ーー両親の死だーー
いつものようにエリシスは、母親と魔法の練習をしていた。魔法の練習と言ってもそんな対したことではなく、自分の中にある魔力を感じることができるように、という程度の練習だ。ある程度感じられるようになったため、次はどの属性に適性があるかを調べていた。結果は風、炎、土の三つの属性があることがわかった。そこまで調べてちょうど昼食の時間になり、母親は昼食の準備に取り掛かった。
エリシスは、縁側に座り、風をあびていた。
母親が昼食をテーブルに並べている頃、父親が返って来た。どうやらここらの魔物に不穏な動きがあるため調べに言っていた様だ。両親と一緒に椅子に座り、母親が作った昼食を食べ始めた。どんな味だったかは忘れてしまったが、 食べると心が温まったことは憶えている。昼食を食べ終え、洗濯を取り入れ、母親に抱かれ、エリシスはまどろんでいた。
突然、カーンカーンカーンと甲高い鐘の音が村中に響き渡った。鐘の音は危険を村中に知らすための音だ。鐘の音を聞いた二人は行動を起こした。娘を隠し、逃がすための手配をする。戦うための支度をする。そんな二人を見て、エリシスは不安を覚え、
「お父さん、お母さん。どこか行っちゃうの?」
と二人に聞いた。
「大丈夫よ。直ぐに戻るわ。待っててね?」
と母親が優しく微笑みながら答えた。父親は「いくぞ」と母親に声をかけ、家から出て行った。
出て行ってから数分後、聞いたものに深い絶望を刻み付ける咆哮が響いた。咆哮に怯えながら、両親が心配になり、外へ出た。扉を開けた瞬間、出て来たことを後悔した。
村を覆う程の巨体に、背中からはえた二つの翼。その体は黒く、すべてを飲み込む闇のように禍々しい。羽ばたき、村の直ぐそばに着陸した。エリシスはこれがなにかわからなかったが、龍ーー即ちドラゴンだということは本能的に理解した。しかし、ドラゴンはドラゴンでも、このドラゴンは違う。ドラゴンはありとあらゆる種類が存在する。が、その中でも頂点に位置するのが黒龍だ。だが、村を襲ったのは黒龍ではない。似ているが違う。黒龍の最上位種、黒滅死龍ーー別名ブラックエンドドラゴン。 この龍の姿を目にしたら生きては帰れないと言われている最も強く最も恐ろしく最も凶悪な龍だ。
そんな龍に村の人々、両親は果敢にも戦っていた。父親が剣を振るい、黒滅死龍の鱗に傷をつける。黒滅死龍が腕を振り、村人が吹き飛ばされる。そして父親がまた剣を振るい、鱗を割る。詠唱を終えた母親が父親の剣に雷を纏わせる。その剣を黒滅死龍の頭に振り下ろす。黒滅死龍の目の上に三日月のような傷がつき、血が吹き出る。が、対したダメージになっていない。それでも痛かったのか、大きく息を吸い込み、黒い雷を纏った黒い炎のブレスを吐いた。母親と父親以外の村人は消し炭とかした。村の家々を焼き尽くし、それでも勢いは収まらず、あたりへ燃え広がって行った。ブレスを耐えた二人も、消耗していて、限界を迎えていた。思わず両親へ向かおうとしたが、後ろから肩を掴まれた。
驚いて後ろを向くと、一人の女性が、エリシスの肩をつかんでいた。
女性の手から離れようとエリシスはもがいた。女性はそんなエリシスを見て、「君を逃がすために君の両親から言われて来た」と言った。エリシスは女性の言葉を聞き、もがくのをやめた。おとなしくなったエリシスの手を引き、女性は用意してあった馬車にエリシスを乗せた。エリシスが乗ったのを確認し女性は馬車を走らせた。後ろを見たエリシスの目に飛び込んで来たのは、黒滅死龍の振られた腕と、血を撒き散らしながら吹き飛ばされた両親の姿だった。
エリシスは泣いた。静かに嗚咽をもらしながら。声を上げてはいけないとわかっていたから。
どのくらい走らせただろうか、女性は馬車を止め、エリシスを降ろした。女性は野営の準備を始めた。エリシスはまだ泣いていた。野営の準備を終えた女性はエリシスを優しく抱きしめた。抱きしめられたエリシスは驚きながらも、温かいぬくもりと、「我慢せずに、泣いていいんだよ?」という言葉に、初めて大きく声を上げて泣いた。
両親の死は幼いエリシスの心に、決して浅くない傷をおわせた。
閑話は次回まで続きます。




