第一話 エリシス・エリアデル
プロローグを投稿して直ぐ読んでくださった方、ありがとう御座います。
お気に入り登録してくださった方ありがとう御座います。びっくりしました。とても嬉しかったです。
いろいろと拙いですがよろしくお願いします。
「……ハッ」
ふとした拍子に目があいた。視界に飛び込んできたのは樹々の葉からもれる木漏れ日。
(あれ?木?俺がさっきまでいたとこって木なんかなかったよな)
「そうだ、二人はっ」
二人が近くにいないことに気づいた俺は慌てて起き上がり、辺りを見渡す。
すると少し離れたところに雫と冬華がかさなっていた。雫が仰向けに、冬華がうつ伏せになっていた。
その姿を見た俺は、このままずっと見ていたい衝動に駆られたがぐっと飲み込む。
兎に角、自分の置かれている状況を正確に把握したい俺は二人を起こしにかかる。
一人より二人、二人より三人ってよく言うだろ?一人で考えるよりも三人で考えた方が良いと思ったからだ。
「おい、二人とも。いつまで寝てるんだ。早く起きろ」
二人を揺する。……反応なし。
その後も何度も呼びかけた結果、やっとおきてくれた。
「う、う〜ん」
「お、重い。退いて冬華」
うん、そりゃそうだ。二人ともかなり軽いが、それは男の場合だ。同性の場合、重く感じるだろう。
「え?……あ!ごめん!雫ちゃん!」
冬華は雫の上から飛び退く。その際に胸がかなり揺れた。うん、眼福眼福。
「流雨。何考えてるの?教えて」
ものっそい重圧がかかる。やばい、怒ってる。珍しく雫がマジギレしてる。
「い、いや。何も考えてないさ。それよりもだ、真っ先に考えないといけないことがあるだろ?」
「ん、確かに」
なんとか話をそらすことに成功した。いやマジで死ぬかと思った。
「ルーちゃん、此処どこ?」
「今からそれを考えようと思ったところだ。まぁ、地球じゃないことは確かだな。こんな未知な植物なんて図鑑やインターネットの画像にもなかったんだからな」
でもそうなると、此処がどこだか限られてくるんだがーー
「ここが地球じゃないと言うことは此処は一体どこなんだろうね」
「妥当なところは、此処が異世界ってことになりそうね」
そう、そうなんだ。異世界ってことになるんだが………どう考えてもあり得ない。
まずそんなこといったら正気を疑われるに違いない。というか冬華よ。そんなぽわぼわした声を出してないで、もうちょっと緊張感をもったらどうだ………
「そうだな。まぁ、それはひとまず置いといて、これからどうする?」
そう問いかけたところで、後ろの草むらが、がさりと音を立てた。
「なんだっ!?」
思わず振り向く。そこにいたのはーー
「グルルルゥ」
涎を垂らした獣だった。
うん、おかしい。全体的にトラに似ているが違う。だって頭が二つあるんだから。しかも倍くらいデカイし。
あ、これオワタ式だな。走って逃げようとしても絶対追いつかれるしな。不幸にも相手は腹が減ってるみたいだから逃がしてはくれないだろう。
雫と冬華は硬直して動けないらしい。なのに俺は酷く冷静だ。自分でもわからないくらいに。
「雫、冬華。俺が囮になる。そのうちに逃げろ」
獣を刺激しないよう小声で話し掛ける。
「え?嫌よ。なんで流雨を置いて「いいからにげろってんだ!わからねぇのか!一緒に逃げたら助からねェんだ!」
雫の言葉をさえぎった俺は大声で怒鳴る。
「いいか、男ってもんわな。女の前じゃ、カッコつけたいもんなんだよ。俺が囮になって時間を稼ぐ。ゆっくりでいい。こいつから離れて何処かに隠れろ」
「っ!?分かった。ほら冬華行くよ」
「う、うん」
雫が冬華のを引いて走っていく。
去り際に冬華の目が「また会えるよね」と問いかけて来たが、会えて無視した。
会えるかどうかわからないのだ。だから俺は無責任なことを言うのはやめた。本当は安心させてやりたかったが、生きて帰れるか分からない以上、無責任なことを言って悲しませたくなかった。
そして改めて獣と対峙する。
とてつもなく大きい。
恐怖を感じないかと言ったら嘘になるが、後ろに護りたい人がいる以上恐怖に怯えているわけにはいかない。
「さぁ〜て、来いよバケモノ。俺が相手になってやる」
その言葉を言った瞬間、バケモノは俺に向かって跳躍した。
「速いっ!」
俺は全力で横へと飛ぶ。
「あ?体が軽い」
ドカァアァアンと大きな音がする。
俺がいた位置は、バケモノの爪で大きく抉れていた。
あっぶねー!体が軽くなきゃ今頃死んでたぞこのやろー。
ふつふつと怒りがこみ上げて来たが頑張って押し留める。
「ガルルルル」
自分の攻撃がよけられたのをみたからか、俺に対して警戒心を露わにする。
ゆっくり慎重にじっくりと俺の隙を探す。
「ちっ、高い知能を持ってんのか。厄介な」
背中を冷汗がつたう。Yシャツが肌にくっつく。
掠りでもしたら即刻アウトだ。
睨みあうこと数分。バケモノが動いた。今度はフェイントを交えながらの攻撃。
「しまっ!?」
直撃すると直感した俺は反射的に、目をつむってしまった。そしてーー死を覚悟した。
しかし、くるはずの痛みが来ないため目を開けてみると、バケモノの腕が俺に振り下ろされる直前でとまっていた。そう、空中でだ。
「はい?」
思わず気の抜けた声が出てしまった。
「よかった。間に合った」
シンと静まりかえった森の中に女性の声が響いた。フードを被った女性が木の影から現れる。その姿をみていると、不思議と安心感に包まれる。
「助けてもらってありがとう。ルウ・シンナギだ。あんたは?」
「あ、私?私はエリシス・エリアデル。よろしく」
エリシス・エリアデルと名乗った女性は、いかにも「魔法使いです」と言った格好をしていた。白いローブを着て、杖を持ち、フードを被った格好だった。
「それにしてもあなた。素手でラディとやりあうなんて中々やるじゃない」
「ラディ?このバケモノか?」
「ええ、そうよ」
へえ、このバケモノ。ラディって言うんだな。初めて知った。まぁ、このバケモノに初めて会ったから知らなくて当然だが。
《フレイムテンペスト》
そう彼女は唱えると、炎の槍が5本現れ、ラディへと飛んでいく。
ラディも避けようとしたが、抵抗虚しく炎の槍が5本共ラディに刺さった。瞬く間にラディが炎に包まれていく。
そして直ぐに生き絶えた。
「はぁ、助かった。ありがとうエリシスさん」
「エリシスでいいわよ。ええと、ルウ?……うん、ルー」
ルウと発音しにくかったのだろうかルーと読んだ。そんなに読みにくいか?俺の名前。
「ありがとう、じゃお言葉に甘えて。エリシス、今のは魔法か?」
エリシスの言葉に甘え、気になっていたことを問う。もしそうならこの世界には魔法という物が存在することになる。
「ええ、そうよ。と言っても中級攻撃魔法なんだけれどね」
そうエリシスは答えた。
話を聞くとエリシスは、冒険者ギルドの依頼途中だったらしい。その途中で大きな音がしたためにこちらへ来たとか。来てみると俺がラディに襲われていたので中級防御魔法を発動し、振り下ろされる筈だった腕を防いでくれたということである。
ある程度話を聞いたところで、エリシスはこう聞いて来た。
「幾つか質問させてもらうわね。まず、そんな軽装備でこの『魔獣の森』に居たのか。二つ目、いくらラディがEランクとはいえ、なぜ素手で戦っていたのか。私からいろいろ聞いたから答えてくれるわよね」
と。
俺はしばらく考えた結果、仲間がもうすぐ戻ってくる旨を伝えた。
「そう、分かったわ。つまり仲間が戻ってきたら教えてくれるのね」
「ああ、その通りだ」
そう言ったところで、雫達の声が聞こえた。
「流雨!無事!?」
「ルーちゃん!大丈夫!?」
「噂をすればなんとやら、だな」
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