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短編

言い訳をさせてもらえるなら

作者: 慧波 芽実

勢いで書いてしまいました。あしからず。





どうしてこうなった!!



私はヒールをカツカツと鳴らして歩きながら頭を掻きむしった。


「いいじゃんいいじゃん、久しぶりなんだしさぁ」


間延びしたヤツの声を無視するが、ヤツは追いかけてくる。道行く人はギョッとした表情を浮かべながら遠巻きに見る。


もう一度言おう。


どうしてこうなった!!






その日私にとって最悪なる一日だった。

昨日の残業のせいか睡眠不足。

肌の調子も非常に悪い。

昨日は疲れて化粧を落としてそのまま寝たからシャワーを浴びた。

ふと携帯に目を落とすと今日は彼氏とデートだった。と思いだし慌てて支度をした。


そりゃあね。3年も付き合って今更っていう感覚もあったんだけども、一応今日って記念日だったわけ。そろそろ結婚話とか……って考えていたりもしたわけよ。

でも、どうしてか待ち合わせの時間が過ぎても彼氏は現れないわけ。

お互い社会人だし、忙しいのはわかっていたし、もしかしたら昨日飲みとかあって爆睡してるんじゃないだろうか、と思ってファミレスに入って彼を待ったわ。(彼とは所属部署が違うからね)


あぁ、もちろん、最近めっきり読めていなかった好きな作家さんの小説を持っていたからいい時間とも思ったけれどね。

何よ? 小説持ち歩くなんて本命それじゃないのって? 本命はもちろん、デートよ!


彼だって、今日は記念日だから、ちょっといい所で食事しようって言ってくれていたから今日はおしゃれをしていたのよ。




なのに!


彼は一時間以上遅れてやってきたわ。

まぁそれはいいわ。

問題は、彼の腕に巻きついている女よ!

彼女は私の後輩で、まぁ確かに若いし可愛いし。でもなんで彼とともにやってくるのかしら!?

彼は開口一番に言ったわ。

「悪い。コイツと結婚する」

「どういうこと?」

内心暴風雨を悟られないように言う。あら、いけない手が震えているわ。

結婚、ですって!?

私にはひとっことも! そうよ、一言も!! そんな話題出したことないじゃない!!

ちらりと見た彼女の左手には指輪があったわ。

なによ。こっちのことは事後報告ってこと?

思わずキッと彼と彼女をにらんでしまったけども。これは不可抗力じゃないかしら? 

「子どもが、出来たんです」

パチパチとおおきな瞳をうるませて言う。あぁ。はたから見たら悪者は私じゃないのよ!

ごめんなさいといいながらワッと彼女は泣き出した。そしてその彼女を支える彼は非難めいた視線を向けた。

待ちなさいよ! そんな視線をあんたから向けられる謂れはないわよ!

というかむしろこっちが非難したいわよ!!


「わかったわ」

私との3年はなんだったのよ! とかいろいろののしってやりたいことはあったけどね。

私はかっこいい女になるって何年も前から思っていたのよ。

そうよ。浮気してなおかつその子に妊娠させるような男なんてこっちから願い下げよ!

「さようなら」

絶対零度、と同僚に言われる声で言い放つと彼と彼女は呆然としていたわ。

どうでもいいわよ、今更。

泣いてすがるなんてしたくない。

いつもよりもおしゃれしていつもよりも高いヒールをならして店を出たの。

まぁ、強いて言えば、水でもぶっかけてやればよかったかしら、と店を出た後に後悔したわね。



泣き寝入りなんて柄じゃないから、そのまま髪でも切ろうかと思ったわ。

失恋して髪を切るなんて古いって思うかもしれないけども、切りたかったのよ! 

何だって、後輩の髪型と似ているんだもの! 

色が私の方が濃いくらい。背中までのロングに緩いパーマ。彼の好きな髪型だったし! 

これは切らなくてどうする! と息込んで私はそのまま美容室に入ったわ。

予約? 

そんなのしてないわよ。ダメでもともと。しかもいつも行っている所じゃなかったしね。


受付の人が困った顔をしていて、思わずごめんなさい、と言ったの。

でも、いつまでもこの髪でいるのも嫌なのよ!



その日どうやら別支店から来ている人がいたみたいでその人が、今から切ってくれると言われてもうこの際誰でもいいわ! と思っていたの。

そうなのよ。言い訳をさせてもらえるなら、私はこの時、それが誰なのか確認する余裕なんてなかったのよ!!




そうね。結論から言うわ。髪を切って貰ったわよ。ビクビクしながらね! 

ヤツ、相沢って言うんだけど。高校が一緒だったのよ。しかもクラスは3年同じ! で、ちゃらちゃらして間延びした口調とは裏腹に私より成績よかったのよぉぉお!! 

しかも生活態度は非常によろしくなく、クラス委員をしていた私にとってはそう“天敵”!! 

そりゃあね。世の中には時効なんて言葉があるとおもうけどね。

「久しぶり、い・い・ん・ちょー」

なんて耳元で言われてみなさいよ! 鳥肌ものよ!

髪を切ってもらい、お礼をいい(社会人のスキル営業スマイル付きよ!)店を出た瞬間、ヤツは追いかけてきた。そしてこともあろうが、食事に誘い、あげく、連絡先を聞いてきた。

お・ま・え! 仕事はどうした!?


「仕事に戻りなさい! 相沢!!」

「あっれー? 気づかなかった? ここ立ち上げたの俺なんだよー? で、今日は支店って言ってもまだここだけなんだけど、見に来ただけー。今日は見て帰るつもりだったらいいんちょーが入ってきて困ってたみたいだからさぁ」

へにょーと気の抜けるような笑みを見せる相沢。

「それはそれはどうも。じゃあ、さようなら!」

と言い私は歩き出した。

そうして冒頭に戻るわけなのだが。


「ねぇーねぇー。いいじゃんかー」

あまりのしつこさにピタリと足を止めた私に相沢が横に並んでのぞきこむのがわかった。

そうね。このまま帰っても、なんだかむしゃくしゃするだけよね。と思案して、使えるものはなんだってつかえ!! の精神でこの際、天敵の相沢でもいいか、と思ったのよ。

「いいわよ」

「え」

そうよ。別れたのよ、私は! 誰とどうしようが関係ないじゃない!

「ただし。居酒屋ね」



そして翌朝、私が相沢のマンションで起きて大発狂するのはまた別のお話。



補足

●私

「かっこいい女」を目標に働くキャリアウーマン。基本隙がない。

高校のときは委員長を務めていた。毎回学年順位が2位で悔しい思いをしていた。天敵は相沢。相沢が絡むと冷静さが欠ける。

そのうちお局様、と言われそうよねーと同僚に言われているためか少し気が気でない。彼氏はほどほどに好きだった模様。この人となら結婚して幸せになれそーだなぁと思っていた模様。


●相沢

美容師。個人経営の店で支店を持つなどと結構なやり手。“私”のことは高校の時からからかって遊んでいた。野良猫みたいだよねー、いいんちょーってとよく言っていた。餌付けしたら懐くかと思っている。


●彼氏

“私”と3年付き合っていた。実は“私”の方が仕事ができるなどと結構悩んでいた。


●後輩

“私”に憧れてなんでも真似をするうちに彼氏が好きになった。


オマケ―高校時代の私と相沢―

「委員長の髪ってきれいだよねー」

「触らないでくれる? 変態」

「えー」

「ほら、進路希望の紙をさっさと出しなさい!」

「えー」

「あんたそのままだと詐欺師とかになりそうよね。そのへにょーとした笑顔に何人たらしこんでんだが」

「たらしこんでなんかないよー。委員長の髪やっぱきれいだよねー」

「変態に触らせる髪はないわ」

「えー。よし、なら俺美容師になる。したら触り放題じゃん?」

「私が相沢のところに切りにいかなければ問題ないわね」


結構な仲良しでした。


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