in宿屋
結局ぼっちにできなかった……。
次こそは榊をぼっちにしてやります。必ず。
鬱陶しい程騒がしかった昼間、学校についたのが授業が全て終わった後の放課後になってしまい、俺達全員先生に怒られた。
そして何故だか俺だけ反省文付き。俺は勿論抗議した。なぜ俺だけ? 平等を重んじるのが日本でしょう。俺の人権はどうした。日本国憲法を返せ。と問い詰めたが、ここは日本じゃないの一言でバッサリやられてしまった。日本の良さを実感した放課後だった。
そして俺は結局反省文を書くはめになった。
唯一有難かったことは、学校で書いていくのではなく、宿屋で書いて明日提出しろってとこ。ネットで反省文 書き方ってググってしまえばええやんと思っていたが、宿屋についてそういえばネットなんかねぇや、と思い出してしまい、ブルーになった。
そして今に至る。既に時刻は夜を回っており、先ほど夕食を済ませた所だ。今日も夕食の見た目はバイオハザードだったが、味は三ツ星だった。
俺は手元にあった缶コーヒーをちびちびと飲みつつ、原稿用紙とにらめっこをしている。まだ勝敗は決まっていない。俺と原稿用紙はお互い一歩も隙を許さない互角の戦いを繰り広げていた。
まあそりゃそうだ。原稿用紙は変顔しないから俺は笑うことはないし、俺が変顔した所で、原稿用紙が笑うことは無い。笑ったらホラーだろ。
「はははっ」
―――!? い、今……、笑ったか……?
原稿用紙に魂でも憑依して俺の変顔に笑ったのかと思い、恐怖で悲鳴をあげようとした寸前で、おかしいと悟った。
いくらなんでもそんなこと現実で起きる訳が―――。ここ、異世界だ……。
……落ち着け。ここは逆に受け止めよう。ここは異世界だ。どんな摩訶不思議なことがあっても現実じゃないから当たり前と肯定してやろう。
とりあえず分かることといえば、
「俺の、勝ちだな。原稿用紙……!」
ボソッと決め台詞&キメ顔をかましてやった。
「貴方、一人で何言ってるの? 気持ち悪いわよ」
すごく俺を蔑んだような視線で睨んでくる春野。いや、ドン引きする気持ちは分かる。いきなり知り合いが原稿用紙とお喋りしてたら関わりたくなくなる気持ちは分かる。だがこの原稿用紙は別だ。春野に経緯を説明しようとした時、また笑い声が聞こえた。
「ははっ! あーおもしれー」
それは幸村からの笑い声だった。そういえば今日学校帰りにまた本屋で小説を買ってきたっぽい。それを読んでいるのだと思うが、小説読みながら笑うなよ。それ俺やったらキモいって言われるんだぞ。
幸村が小説を読みながら笑うことは何故か黙認されている。まあ普通はキモイんだが、幸村はキモくないというのだ。それもこれも幸村の人柄と顔面戦闘力のおかげだろう。
ただのおっさんの顔面戦闘力はたったの5のゴミだとすると、幸村の顔面戦闘力は53万。どこぞのフリーザ並の戦闘力を持っているのだ。
俺も顔は悪くないはずなんだが……。リア充、爆発しろ。
んっ!? ちょっと待て。さっき原稿用紙から発せられたのは幸村の笑い声じゃ……。
よかった。どうやら急に原稿用紙に魂が宿るなんてルートには発展しないようだ。にらめっこは引き分けだな。
俺はフッと原稿用紙に微笑みを向けた。その現場をまた春野に見られてしまい、超キッツイ視線で睨んでいる。原稿用紙に向かってニヤつく知り合いなんていたらドン引きだよな。分かる。
もうどうでもいい。無視して缶コーヒーを飲み干した。いい味でした。
「やっぱり榊くんは榊くんね……」
春野がため息混じりで呟き、読書を再開し始めた。
? 俺には春野の呟いたことの意味が理解できなかった。
『……ですから、自分は決して学校をサボった訳では無く、教会から学校までの道が分からずに迷っただけです。自分はまだここに来て日が浅く、迷ったことは仕方ないと思います。そんな俺に反省文を欠かせるのは筋違いです。そもそも学校が目立たない所の方が問題です。学校が目立つ場所にあれば、迷子にも優しいと思うし、見た目も立派に見えると思います。それなのに何故、宿屋よりも小さいのでしょうか? 宿屋までならまだしも、武器屋や、道具屋や、雑貨屋よりも小さいのは普通におかしいと思います。つまり本来、反省文を書かなくてはいけないのは自分ではなく、学校側が、自分に反省文を書かなくてはいけないんじゃないでしょうか? 地味でごめんなさいってなっ!』
……よし、反省文終了。俺は腕を回しながら首を左右に捻り、コキコキとならす。
うん、そこそこいい出来の反省文だと我ながら思う。これは絶対に受理されるはずだ。
俺は書き終えた原稿用紙を机の隅に置き、ボーっと窓から夜の空を眺めていた。天上世界の夜空は生前の地球よりどこか良い。地球で見える星より綺麗な気がする。キラキラと眩しいと思うくらい光り、自己主張を続ける星を無心で見続けている。
今はまだこんな感じでゆったりしているが、学校を卒業してからはこうもいかないだろうと思った。学校を卒業すれば、この街以外に自由に他の街を転々とできる。その後は勿論魔物はどんどん強くなってくるし、神と戦わなければいけないかもしれない。いや、絶対に戦う。そして倒す。これが俺達神殺しの宿命だ。神を倒す前に成仏などしてたまるか。
だからせめて、今この学校に通っている間は、おもいっきり楽をしよう。俺も幸村のように本屋で買ってきたライトノベルを読むことにした。
「やっはー皆!」
「よう、皆の衆! 我、降臨!」
「おおーう」
俺達の部屋に入っていたのは、……まあ言わなくても分かるわな。
今日、プラス3人とパーティーを組んだので、男女混合だったのを男4人、女3人の二部屋に分けることになった。このことには鍵谷は泣いて悔しがっていた。
「くっ……、男1人、女2人の最高ラブコメ空間の安息日は今日で終わりか……」
「ラブコメって、あんたとベットを鎖で繋いでたのに?」
「ふふっ、女の寝顔を近くで見られただけで十分よ。鎖で繋がれていようが妄想はできる」
「お前、どんな妄想してたんだよ……」
つーか鎖で繋がれてたんだ。まあ鍵谷は正真正銘のゲスだし、それくらいしないとな。寝込みを襲われかねない。
「この場で披露してもよいのか? この小説が18禁になるぞ?」
「なんて妄想してたのよっ!」
ゴンッと聞こえる程大きな音で鍵谷の頭を殴る比奈田。って小説って何だよ。
この部屋から春野が去り、鍵谷が来るってだけだから俺は移動しなくていい為、さっきと同じ位置で椅子にすわり、黙々と小説を読む。
ガタっと俺の隣の椅子が引かれる音がして隣を見ると、小鳥遊だった。そのまま椅子に座り、さっきの俺のようにボーっと夜空を眺めていた。
……また何か仕掛けてくるのかと思いきや、特に何もすることなく無言無表情のままだ。昼間あれだけ騒いでいたのが嘘のようだ。
「……おい、小鳥遊」
「んー?」
顔だけをこちらに見せて、反応を示す。その時、小鳥遊の後頭部にあるポニーテールが揺れる。ちょっと動かしただけですげぇ揺れるな。
「昼間あれだけうるさかったくせにやけに静かだな。何かあったか?」
「んー? 気にかけてくれてるのー?」
無表情だが声音的にちょっと嬉しそうな小鳥遊。だがやはり、昼間程ではない。
「いや、別に。言いたくねぇならいい」
読書を再開しようと思ったが、小鳥遊は口を開いた。
「いやー……。昼間は久々に会えたからテンション上がっちゃって。今はクールダウーン」
ああ、確かにテンション高かった気がする。生前もよく俺に告白したり、変なこと言ったり、変なことしたりしてきてはいたが、今日は一段と変だったわ。
まあ静かにしてくれるんならありがたい。俺は読書を再開した。
……。
…………。
さっきから俺の横で無表情で夜空を眺めている小鳥遊。何か気になる。
「お前、さっきから外眺めてるだけだけど、暇じゃねぇか?」
「んーん、別に。いつもこんな感じだし」
「そうか……」
俺は何気にしてんだよ。読書だ読書。
「……」
今度は外じゃなくて俺をガン見してるんだが……。
「何だよ?」
「いやー、さっきから2度も龍紀から話ふっかけてきてくれて、珍しいなーって」
確かに、俺から話ふるってのは珍しいかもな。
「あ? 嫌か?」
「そんな訳がなーい。ちょー嬉しー。もしかして、私に惚れたー?」
「……いや、やっぱお前はお前だな」
「おおーう」
それからはお互い終始無言だった。
「おい、起きろ。榊よ、目覚めの時だ」
「あ……、朝か?」
鍵谷に朝を起こされるなんていう最悪なシュチュエーションの中、俺は眠たい目を擦り、のびをしながら欠伸をした。
……、ってお前、
「まだ夜じゃねーかっ! 嫌がらせか!」
時計を確認した所、夜中の1時。最悪な時間に目覚めさせられた。
「いや違う。我から重大な作戦がある。聞け、同士よ」
鍵谷と同士になった覚えはないが、とりあえず面倒だったので話を聞いてやることに。
「ふわぁぁ~。んだよ圭佑、重大な指令って」
「僕も眠たいんだけど……、任務って何かな、鍵谷くん?」
作戦やら任務やら指令やら、全員言ってることは違うが、どれも鍵谷のせいらしい。やっぱり俺もこいつを鎖で縛っておくべきだった。
「ふっ、聞いて驚け……。ここに、我のパーティーの一員である女子メンバーの部屋鍵がある」
誰もお前のパーティーじゃないからな。お前のパーティーは男も女もいない。いるのはお前だけだ。
「で、なんで鍵なんて持ってんだよ?」
幸村がそう訪ねたが、こんな夜中に、そしてこいつが持ってる時点で理由は一つだ。
「俺達男子メンバーで女子の部屋に侵入せよ! ミッションスタート!」
……やはりな。
「ええ! それは皆が可哀想だよ!」
善良な心を持つ天使、七種は、煩悩の塊であるゲスな悪魔、鍵谷を非難する。
「七種殿よ、我の気持ちも汲み取ってほしい。我は昨日の夜に酷い仕打ちを受けた。女子の無防備な寝顔、これが手の届く範囲にあるのに、縛られていて身動きがとれない。どれだけ最強な我でも縛られていたら情けないが無力だ。昨日は生き地獄のようなものだった」
まあ確かに、それはちょっと同情に値するが、コイツの普段の行動からすれば自業自得な気がする。
「今日は! 仕返しに昨日は成し遂げれなかったことをお見舞いしてやるのだ! なに、安心しろ。手を出したりはしない。ちょっと携帯で寝顔を撮すだけだ」
ちなみに携帯にはカメラ機能も搭載されていた。
「それなら俺もやるぜ! 勿論鍵谷には手を出させないし、面白そうだ!」
鍵谷は驚きでか体を跳ねらせた。
「うーん、それでも駄目だと思うけど幸村くんも一緒なら、今日くらいはいいかな? どう、龍紀?」
え、俺ですか? 勿論七種一筋だぜっ! って違う違う。
「鍵谷は監視しとけばいいだろう」
すると鍵谷が俺に近づき、俺にしか聞こえないくらいの声で話す。
「え? 手をだしたら駄目か? ちょっと体に触れるだけでもか?」
「アホか。それが駄目なんだよ、自重しろ」
「いやいや、寝顔とるだけでは我は満足せんぞ! せめて、裸を撮すくらいしたい!」
「確かに寝顔だけじゃ満足できないと思うが、止めとけ」
「ふっ、とりあえずこの場はそういうことにしておくか……」
鍵谷が俺から離れる。暑苦しかった……。
「ではいざ、戦場へ……」
鍵谷を先頭に、俺達は戦場 に向かった。
「ふっ、実に簡単に扉の前まできたな……。流石我とその部下達だ」
「そりゃ廊下には誰もいないんだし、5メートル程しかないから簡単だろうな。後、誰が部下だふざけんな」
とりあえず部屋の前までいくなら猿でも鍵谷でもできるが……。
「ここからが本番だな……。ドキドキしてきたな!」
女子達より、スリルを味わっている幸村。ああ、ここからだ。なんせ中には氷を操る氷の女王、春野と、戦闘能力は勿論存在自体謎の女、小鳥遊がいる。比奈田は……、なんだろう? ビッチか?
「開けるぞ? 全員、生きて帰れたらいいな」
鍵谷が確認をとる。本当に死ぬかもしれない。俺達は神に挑む前の最初の難所にぶつかっていた。パーティー内で何してんだよ。と、つっこむのはよしてくれ。
ドアノブの上の方にある黒い所にカードをあてる。ピッという音が聞こえた。……開いた。
「潜入!」
ドアを慎重に、音をたてずに開け、忍び足で中に入る。カチャ、となるべく小さな音でドアを閉め、姿勢を低くし、ゆっくりとベットの方に向かった。
まずは寝息を確認。全員が寝息をたてていることが分かり、改めて寝ているか確認する為、そっと顔を覗き見る。
幸村が比奈田、鍵谷が春野、俺が小鳥遊を寝ているか確認する。七種は扉の前で待機だ。元々乗り気じゃなかっただろうし。この戦場に入れるのは危ない。
「……比奈は寝ているようだ」
幸村がそう小さく呟く。
「……春野氏も寝ている。フヒ、こんな近くで顔を見たのは初めてでござる……」
鍵谷もOKらしい。気持ち悪いが。
「……小鳥遊も寝ている」
顔を確認しても、目は瞑っているし、反応を示さない辺り大丈夫だと思う。
「……OK。大丈夫そうなので自由時間をとる。各自、自分の好きなことをしろ。ただし、慎重にな。そしてもし、誰か見つかったとしても絶対に全員で来たと言うな。見つかった者だけが罪を被れ」
鍵谷はそう小声でいい。早速撮影タイムに入った。
幸村はただの好奇心でだろう、机の引き出しやらを見始めていた。
俺は特にやることもないのでその場でボーっとしていた。
なんとなく、小鳥遊を見る。髪型はいつものポニーではなく、おろしてある。うむ、ロングもありだ。こうやって間近で見ると、見た目は普通に可愛いんだなってことも分かった。
小鳥遊が俺の方を向く。あれ、こいつ……、目開いてない? ……やべぇ!
「……おっ―――、んむー?」
小鳥遊が口を開く寸前で手で口を覆った。俺は口の前に人差し指を立て、大きい声で喋るなと小声でいった。
「……」
小鳥遊がコクコクと頷く。俺は小鳥遊の口を覆っていた手を退かす。
小鳥遊は大声をださず、俺の指示にしたがってくれた。
「どうしたのー龍紀? まさか、夜這い? いいよー、甘んじて受けようじゃないかー」
「違げぇよ」
俺はことの経緯を話した。
「なんとなく分かってたけどーまたあいつの仕業かー。分かった、早く入って」
小鳥遊は俺を布団の中に入れと言ってきた。
「いや、なんでだよ」
「早くー。そろそろ罠が発動するかもよー?」
その言葉を聞いてすぐ悟った。そうだ、春野達が何もしない訳が無いと。
俺はこっそりと慎重に小鳥遊の布団の中に入った。いや、本人が良いって言ってくれたし、いいじゃない。
俺が小鳥遊の布団の中に身を潜めたのと同時に、罠だと思うものが作動した。
「ぬっ!? 見つかったのか!? 敵襲! 敵襲ぅーー!」
布団の中に身を潜めているので中の状況は分からないが、微かに声だけは聞こえる。
「なっ!? 氷だと!? ええぃ、我のセプター4 サーベルで切り刻んでやるわ! とう! 暗黒瀧山剣!」
「貴方のしょぼい剣じゃ、私の氷は砕けないわ」
「罠張っておいて正解だったよー」
「あ、あの仕掛けは汝らの仕業か! おのれ、小癪な真似を! こんな氷など……!」
続いてガキィン! と音がした。壊れたのか?
「ああぁ! 我の剣が!」
そっちが壊れたのか。弱いな鍵谷。
「コイツどうするの? はるりん」
「とりあえず体力が1になるまで氷ずけにした後、廊下に捨てておきなさい」
「あーい、らじゃーです!」
「や、やめてぇ! ぐあぁぁぁ! ……」
そして鍵谷の断末魔は聞こえなくなった。
「……そろそろいいわね。捨てておきなさい」
扉が開く音が聞こえた。どうやら幸村と七種は既に危機を察知してか見つからなかったようだな。
「いえーい! 撃退成功!」
パァン! とハイタッチでもしたかのような音が聞こえてきた。
「比奈田さん、痛いんだけど……」
「うわぁ! ご、ごめん!」
「……まあいいわ」
春野の控えめな声が聞こえてくる。きっと初体験なんだろう、友達いないしな。
「これで私達への外敵は駆除したのだけれど……」
「ふぇ? どうしたの?」
「鍵何とかくんが単身で乗り込んできたとはなんとなく思えないのよね……。小心者だし」
春野のその言葉にビクッときた。やべぇ、なんて洞察力……。
「うーん、でもあいつだけだったでしょ?」
「……いや、どこかに隠れているかもしれないわ。念のためこの部屋を確認しておきましょう」
や、やばいぞ……。殺される……結構リアルに。
ふいに小鳥遊が俺を抱きしめてくる。何事かと思ったが、まあそうしなきゃ傍から見たら小鳥遊の布団が異様に横に膨れ上がってデブにしか見えなくなるもんな。今回は小鳥遊に大いに感謝だ。あとで頭を撫でてやろう。前に結構喜んでたっぽいし。
ただ、仕方ないことだったとしても、こいつの体に零距離で顔をうずめるのはちょっと刺激が強すぎとちゃいますか? すごく……、いい匂いがします。
! やばい! 俺の顔が! 俺の顔が小鳥遊の胸に埋まってる! やけに柔らかいと思ったら! これはまずい。いや、まずくないのか? むしろ、いいぞもっとやれってくらいじゃないか? いやいや、正気になれ! 胸に理性をやられるな! だがすげぇ、これ本当に柔らか……って俺!
しかし小鳥遊はさらに俺を抱きしめる力を込める。やばい、気持ちいい! そして抵抗できない! もうこれは受け入れるしかないな。しばしの安らぎタイムといこうじゃないか。だが春野に見つかったら殺戮タイムへと早変わりだということは忘れずに。
「小鳥遊さん」
ついに、来たか。我らパーティーの氷の鬼教官、春野曹長が。
小鳥遊は寝たふりをかます。勿論寝息も忘れず、だがしかし寝たふりが上手いな。俺もさっきは騙された。
「あれだけさっき騒がしかったのに、寝ているのね。……起こすのは無粋な真似よね」
……キタァァァ! 春野回避成功! もうクリアしたようなもんだな!
「やっぱりどこにもいないし、はるりんの勘違いじゃないの?」
「……そうね、今日はもう寝ましょうか」
ミッションコンプリートッ!
……、静寂がこの部屋を包む。徐々に聞こえるのは二人の寝息と時計の針が進む音だけ。
「龍紀ー、もうちょっとこのままで待っててねー」
「いや、あの、抱きしめる力くらいは弱めて欲しいなー……」
確かに今すぐでるのは危険だが、もう抱きしめる必要は無いんじゃないでしょうか?
だが、まぁ少しの間、ミッション達成の余韻に浸りながら、至高の枕に顔を埋めるのも悪くない。全然悪くない。
「んふふー、龍紀、どう、どうー?」
「どうって……、何がだよ?」
まあ大体は予想がついているがな。
「私の胸に顔を埋めている感想はー? 正直にどうぞー?」
コイツ、やはりわざとやってたか。正直にって言ったら……。
「最高です」
まったくもって最高だ。これほど心地よい枕は無い。
「もっと寛いでていいんだよー?」
小鳥遊が嬉しそうに小声だが声を弾ませる。ははっならばお言葉に甘えるしかないな。どうせまだでれないんだし。本人がいいっていうんだから仕方がない。
はぁ……。疲れた……。いつしか小鳥遊の至高枕付きで眠りについてしまった。
「んっ……。龍紀、おやすみー。よーし、今日の夜は久々に龍紀を自由に使えるー」
こうして夜は更けていった―――。
今回の話ですが、正直いらなくね? と思うと思いますが、一応意味がないわけではないです。
読んでくださった方々に感謝を……。




