6.レヴィン到着
翌日。襲ってくる魔物を討伐しながら進み、夕方にはレヴィンに到着した。閉門時間である日没が近いのに、門の前にはほとんど人が並んでいない。
「すぐに入れたけど、いつもこんな感じなの?」
「……いや、前はそれなりに並んでたはずだ」
それほど待つことなく街に入ることができて、アルバンが訝しげな顔になる。
「馬車の往来も多かったんだがな……」
大通りを歩いているけれど、馬車は一台も通っていない。歩く人もまばらだ。
「……やはりあの噂は本当だったのか?」
「噂? 何かあったの?」
「領主の死去と不作続きで多くの人が街を出て、領地を没収されたと聞いたことがある」
「でも、近くの村は豊作みたいだったよ?」
「それが引っかかるんだよなぁ」
アルバンとエマが話していると、噴水のある広場に辿り着いた。広場に面した建物の一つが冒険者ギルドらしい。
「っと、ここまでだな。護衛の報酬だ、受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
ギルド前でアルバンと別れて、私達はギルドの扉を開ける。依頼掲示板の前に黒衣の人がいる他に、併設された酒場に何人か冒険者らしき人がいた。黒衣の人は私達に気づいていないようだ。
あ……。
誰だか思い出して思わず声を上げそうになる。カイと目が合うと無言で頷かれた。ここは気づかれる前に立ち去ろう。
「もしかして、ラットさん?」
「久し振りだな、ラット!」
無言で背を向けた私の隣で声を上げるエマとレオ。驚いて振り返ると、黒衣の人――ヴェラットも振り返ったところだった。
「……狼の集いか。何故ここにいる?」
私達を見つめる藍色の瞳に感情は映らない。警戒しているのか、疑っているのか、彼が私達をどう思っているのかわからなかった。
「護衛依頼でたまたまここを訪れたの」
「廃れた街に寄る物好きな商人がいるとでも?」
「アルバンさんだよ。……あ、依頼主の名前は基本守秘義務だった。聞かなかったことにしてくれる?」
「……アルバンか」
ヴェラットはぼそりとその名を呟いた。知り合いなのだろうか。
「ラットさんこそどうしてレヴィンにいるの?」
「里帰りだ」
「前にも同じ理由の人いたなぁ。最近流行ってるのかな?」
「偶々時期が重なっただけだろう」
何を考えているのかわからないヴェラットと能天気に話せるエマは凄いと思う。私には真似できない。
「ラットさんってレヴィンに詳しい? 明日よかったら街を案内してほしいの」
「魅力的な場所はないし、やる利点もない。疾く去れ」
ヴェラットがこちら……出口に向かってくる。端に避けて彼が出ていくのを見ていたら、再び魔力を感知した。
「……何だ?」
「何も」
思わず顔を上げてしまい、ヴェラットと目が合う。何もない振りをしていると、彼は歩き去っていった。
カイが安堵の息を吐き、じとっとした目でエマを見た。
「エマ、昨日僕が話したことを忘れたのかい?」
「昨日って?」
「ヴェラットさんには関わらない方がいいって話」
「あぁ、そんなことも言ってたね。でも、大丈夫だよ! ラットさん、悪い人ではないと思うから」
「エマはどうしてそう言い切れるんだい?」
「勘だよ、勘!」
「……はぁ」
「なに、その溜め息! もっとあたしを信じてよ!」
この二人の会話は終わりが見えない。いつまでも出入り口で突っ立っていては邪魔だから、移動した方がいいだろう。
「そんなことより次の護衛依頼を探すんじゃないの?」
「そうだった! もう夜だけど、残ってないかなぁ」
「オレも探すぜ!」
「レオは文字読めないでしょ」
依頼掲示板の端から端まで目を通す。けれど、魔物の討伐依頼が中心で護衛依頼は一つもないようだ。
「中級の『狼の集い』です。南街道に沿って旅をしているのですが、護衛を募集している人はいませんか?」
「それなら王都で探しな。人が減ったここに立ち寄る商人なんていやしないよ」
「王都からこちらに来たばかりなので、戻るようなことはしたくないんですが……」
「そんなこと言われてもねぇ」
カイが受付の人に聞くも、やはり護衛依頼はないようだ。討伐依頼をこなして路銀を稼いでから次の街を目指すしかないと思っていたところ、酒場で飲んでいた冒険者の一人が口を挟んだ。
「エルヴィンの旦那はそろそろ出発する頃じゃねぇか? 確かグラッツェルが次の目的地だろ」
「あの人に護衛なんざ必要ないよ。魔物の群れをたった一人で倒す化け物だからね」
「はは、ちがいねぇ」
グラッツェルは確かレヴィンの隣の隣にある領地だ。南街道を歩いていけば領都に辿り着けるだろう。問題は、そのエルヴィンという人が護衛を必要としていないことだけれど。
「ま、他にあてがないなら紹介するよ。採用されるかどうか知らないけどね」
「ありがとうございます」
今日はもう遅いので後日エルヴィンを訪ねることにして、ギルドに紹介された冒険者向けの宿屋へ向かう。
「ごめんなさい。部屋はたくさん余ってるけど、食材が少ないの。ご飯は出せないけどそれでいいかしら?」
「ここでも食料不足なんですね。何があったんですか?」
困った顔をする宿屋の人にカイが質問する。宿屋の人は声を潜めて言った。
「魔女の嫌がらせよ」




