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47.白の魔女、再び

「来るのはわかっていたけれど、遅かったわね。アレクサンドラはあたくしが殺したわ」

「わたくしが駆けつけられないよう人を配備したのは、どちらのどなたですか」


 黒い靄こと災厄の魔女と、白の魔女。二人は顔を合わせるとすぐに臨戦体勢をとった。


「森の魔女、ソフィの護衛をお願いできますか」

「任せて」


 地面を割って何本かの蔦が生えてくる。それらは私の周囲に集まり壁を作った。外の様子を見ることができて、屈めば防御壁になる丁度いい高さだ。


「闇には光を。魔女の定義に反する色を持って生まれたわたくしの使命は、闇の具現たるあなたを倒すことです」

「闇と光は表裏一体であることを忘れたわけではないわよね? 光が強ければ強いほど、影たる闇は濃くなるものよ」


 災厄の魔女が姿を消す。白の魔女は焦ることなく頭上に光を放った。


「影移動はさせません!」


 ほとんど日の光が差さない鬱蒼とした森を、太陽の煌めきのような光が照らす。けれど、木々に遮られて少し日向ができた程度だ。


「周りの木が邪魔かな」


 私の隣で森の魔女が足で地面を打ち鳴らす。すると周りの木々が足が生えたかのように動き出して、白の魔女を中心に大きな円が完成した。

 光を遮るものがなくなり、白の魔女の真上にある光のおかげで白の魔女の影が消える。


 災厄の魔女が姿を現したのは、まだ影の残る森の中だ。靄に口はないのに、恍惚とした笑みを浮かべて私の隣にいる森の魔女を見ている気がした。


「素晴らしいわぁ、影移動と聞いただけで周辺の木々を移動させるなんて。百年程度生きただけの魔女と侮っていたけれど、実力は確かなようね。あなたのこと、気に入ったわエリザベート」

「あなたの相手はわたくしです、災厄の魔女!」


 白の魔女が光り輝く細剣(レイピア)で攻撃するのを、災厄の魔女は影から影へ移動して避ける。

 日陰が多い森の中での戦闘は分が悪い。すかさず森の魔女が木を操作して日向の範囲を増やしたけれど、災厄の魔女は遠い日陰に移動してしまう。


「白の魔女は精霊の力を借りなくても魔法を使えるよね?」

「はい。精霊様のお力を借りられるのは、わたくしの姉の子孫であるあなただけです」

「じゃあ戦いの場所を変えよう」


 森の魔女の質問に白の魔女は振り返ることなく答える。森の魔女が私の腕を掴んで、もう片方の手を白の魔女にかざした。


「転移」


 一瞬視界がぐにゃりと曲がったかと思うと、周囲に何もない荒れ果てた地に立っていた。生物の気配がない。魔力感知をしても、森の魔女と白の魔女と私だけだ。時々吹く風が乾いた土を運んでいた。


「ここは?」

「約六百年前、一人の魔女が災厄の魔女と戦って敗れた地だよ。西のマークヴェストは知ってるかな?」

「フリートベルクに行く途中にあった」

「そこの国境門を抜けた先がここなんだ。通称『西の荒れ地』」


 ドラゴンが出没するとは道中聞いた覚えがあるけれど、こんな何もないところだとは思わなかった。夕暮れの光を浴びて私達の影は伸びていくけれど、他に影を作るようなものはない。白の魔女が照らせば影も消えて、災厄の魔女が逃げる場所を減らせるだろう。


「六百年前の戦いって? 放浪の魔女の話?」

「いえ、わたくしの六番目の姉が戦った地です」


 私の疑問に答えたのは白の魔女だった。あのとき森の魔女は彼女に触れてなかった気がするけれど、一緒に転移できたようだ。そして、もう一人。


「ふふふ……これほど高度な転移魔法を見るのはいつ振りかしらぁ。アテナ以外にあたくしの首を取れるかもしれない魔女がいるなんて驚いたわ」


 人型の黒い靄、もとい災厄の魔女が身体の芯から震えるような笑い声を出す。靄に表情はないけれど、喜んでいるように見える。

 災厄の魔女が姿を消す。


「っ、光よ!」


 慌てた様子で白の魔女が光の球を上空に放ったけれど、災厄の魔女が森の魔女の影に移動する方が早かった。


「後ろ!」

「みたいだね!」


 災厄の魔女が伸ばした手を、森の魔女は植物魔法の蔦で防ごうとする。けれど、生えてきたのは枯れて栄養が行き届いていない弱々しい蔦だった。


「やっぱり精霊がいない地だと弱体化するな……」

「わたくしが戦います!」


 白の魔女が森の魔女を飛び越え、災厄の魔女に肉薄した。闇と光が交錯する。近くにいては危ないので、少し離れたところで二人の戦いを見守る。


「六番目の姉か……」


 隣で森の魔女が呟く。先ほど白の魔女が言っていた言葉だ。


「魔女の始まりで有名なのは、災厄の魔女とその娘である七人の魔女なんだ」

「……何の話?」

「いや、白の魔女の正体って何だろうと思っただけだよ。姉が六人もいるということは、白の魔女は災厄の魔女の末女である可能性が高いんだ」

「放浪の魔女のこと?」


 災厄の魔女の末女といえば、災厄を退けた放浪の魔女が頭に浮かぶ。いや、災厄の魔女は今ここにいるから、とどめを刺すことはできなかったのだろうか。


「白の魔女が放浪の魔女……うーん、なんか引っかかるなぁ」

「……?」


 森の魔女の疑問を解消することはできないので、二人の戦いに意識を戻した。

 日が暮れて辺りが暗くなってきたことで、災厄の魔女が移動できる範囲が増えたようだ。

 暗がりから暗がりへ移動する相手に、白の魔女は光の数で対抗しようとしているけれど、追いついていない。


 災厄の魔女が背後を取り、漆黒の槍を生成する。白の魔女は残像ができるほどの速さで防いだけれど、槍をレイピアで止めるのは大変そうだ。それに災厄の魔女は、剣や矢など武器を増やしていく。


「土のか……」


 壁を作って援護しようと杖を構えたけれど、無色透明になった魔石が目に映る。

 これでは土魔法を使えないし、火は修練不足。白の魔女を手助けすることはできないのだろうか。


「あれ……その杖ってわたしがあげた杖だよね?」

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