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36.竜殺しの英雄 前編

「あら、いらっしゃいソフィ。お隣の方はお友達かしら?」

「は、初めまして! エマって言います!」

「ふふ、緊張しなくてもよろしいですわ。肩肘張らず普段通りの言葉遣いで話してちょうだい」


 翌日、今度はエマと一緒に高台の館を訪ねた。出迎えたカサンドラに案内され、波間の魔女が茶菓子を用意して出迎えてくれる。

 エマは緊張した様子で固まっていて、椅子に案内されても動かない。


「エマ」

「……はっ!」


 私が声をかけると、慌てて椅子に座った。出されたお菓子を見て目を輝かせている。この様子なら問題ないだろう。


「今日はどんなお話をしましょうか」

「あ、あの!」


 ここ数日の近況を話しながら茶菓子を堪能していると、波間の魔女が話を持ちかける。それに反応したのはエマだ。


「旅の途中で耳にしたんだけど、竜殺しの英雄ってどんな人ですか?」


 エマの質問に波間の魔女は目を丸くした。


「まぁ、わたくしにその話を聞きますの?」

「波間の魔女さんは長生きで物知りなんだよね?」

「残念だけれど、英雄伝説が誕生したのはわたくしの生まれる前ですわ」

「あれ、そうなの?」

「えぇ、英雄がかつてこの地に棲んでいた魔女と結婚し、生まれたのがこのわたくしですもの」

「え?」


 竜殺しの英雄と魔女が結婚して、波間の魔女が生まれた。

 彼女はそう言ったのだろうか。


「ええっ!? 竜殺しの英雄の娘なの!?」

「あら、言ってなかったかしら」

「聞いたことがあるような、ないような……」

「この街を治める領主一族?」

「えぇ、正確には二代目フリートベルク辺境伯ですわ。今この地を治めているのはわたくしの玄孫(やしゃご)、五代目にあたりますの」

「やしゃごって?」

「孫の孫よ」

「うわぁ、想像できないや」


 波間の魔女が長生きで、子孫がいっぱいいることはわかった。けれど、そんな話を聞きに来たわけではないので、竜殺しの英雄の話に戻ろう。


「生まれる前の出来事だから、詳しくないんですか?」

「この目で見たわけではないけれど、あの日を知っているエルフから話を聞いたことがあるし、領主のみに知らされる真実も知っていますわ。貴女達にお話しできるのはエルフの口伝のみですわね」


 領主一族でもごく一部の人しか知らないような話はさすがに聞かせてもらえないようだ。

 それでも今まで断片的だった英雄譚を知ることができるから、私とエマは身を乗り出して波間の魔女の言葉を待った。


「今から百年以上前の話、人間族の支配が及ばず、手つかずの自然が数多く残る地がありました。魔力が濃い森にはエルフが、薄い森には獣人が、険しい山々には神聖なるドラゴンがおわす神秘的な場所でした」


 大自然が広がるフリートベルクやランメルツは、大気中に含まれる魔力が豊富だ。

 その中でも魔力濃度が高いところと低いところがあって、エルフと獣人は争うことなく棲み分けられていたらしい。


「しかし、山に魔力が集まり過ぎて、そこに棲む生き物が魔力に呑まれて魔物化しました。過ぎたる魔力が害を為すのは、人類やドラゴンにとっても同じです。魔力汚染で理性を失った一頭のドラゴンは、山から飛び立ち周囲に広がる森に火を吹きました」


 知能が高く人より魔力の許容量が多いドラゴンが理性を失うほどの魔力濃度がどれくらいか、想像もつかない。人では足を踏み入れることすらできないだろう。

 ……あれ?


「暴走するドラゴンの情報は里から里へ伝わり、マークヴェスト候爵領まで届きました。当時のマークヴェスト候爵が騎士や冒険者などを集めて出陣準備をする頃、山脈の反対側でいち早く異変に気がついた者がいました。それが後の英雄、レオンハルトてす」

「竜殺しの英雄!」


 英雄の登場にエマがワクワクした顔で続きをせがんだ。いや、ワクワクしているのは始めからか。


「レオンハルトは馬を走らせ山越えに成功すると……」

「質問。ドラゴンが狂うほど魔力汚染が深刻なら、馬は魔物化しレオンハルトも正気ではいられなかったはず。どうして山越えできたの?」


 続きが気になって仕方がないエマには申し訳ないけれど、私はどうしても気になることを聞いた。

 エマが邪魔されて不満げな、けれど盲点をつかれて驚きが交ざった顔で私を見る。そして、興味津々な顔で波間の魔女に視線を戻した。


「それはレオンハルトの乗る馬が元から魔物だったことと、彼の許容できる魔力量の多さのおかげですわ」

「魔物が人に使役される? 聞いたことがない。それに、ドラゴンでも暴れる魔力量を受け入れられる器なのも理解不能」

「では、彼が魔女の末裔で、魔法使いとしての腕も磨いていたとしたら?」


 魔女は魔力が豊富な地でも生きていけるらしい。むしろ、人によっては魔力が多い方が動きやすいなど、魔女にとって魔力は空気のようになくてはならないものだ。

 それに、魔女には生き物に流れる魔力の乱れを正常化させる能力があるとヴェラットから聞いたことがある。これらの能力が魔女の血筋であるレオンハルトに受け継がれていたら、山越えも不可能ではない。


「山越えできた理由はわかった。話を続けて」

「え、よくわかんなかったんだけど?」


 わかりやすく説明して、とエマが私と波間の魔女を交互に見る。私はどう説明すればエマが理解できるのか考えるのが面倒だったので、波間の魔女に任せることにした。


「レオンハルトは特異体質で、魔力で汚染された地で正気を保つことも魔物を宥めることも可能でしたの」

「すごい人なんだね!」


 本当に理解できたのか怪しいけれど、エマが「それで、山を越えたレオンさんはどうしたの?」と続きを知りたがったので、私も波間の魔女に視線を戻した。

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