31.血筋と呪い
「貴女がどんな魔女か、直接会って確かめるのが主な目的ですわ」
波間の魔女は海を想起させる青色の瞳で私を見た。
「貴女が魔女なのは、ロイス村ですれ違ったときから気がついてましたわ。谷の魔女を凌ぐほどの気配の持ち主ですもの、馬車の中からでもはっきりと感じました」
「ロイス村……」
私がここに来るのに乗った馬車と同じ紋章がついた馬車を思い出す。あの時乗っていたのは、やはり波間の魔女だったようだ。
「貴女は今お幾つなのか伺ってもよろしくて?」
「十四」
「……やはり、この時代の魔女としてはありえないほど魔女の血が濃いですわね」
「血が濃い?」
自分の血管を眺めるけれど、他の人と違いがあるようには見えない。
「えぇ、全ての魔女の祖先である『災厄の魔女』と血筋が近いという意味ですわ。ちなみに一番近い方は千歳を超えていますのよ」
「千……」
「参考に谷の魔女が推定四百歳、谷の魔女と同じ血の濃さを持つ東の魔女は三百五十歳ほど、谷の魔女より少し血が薄い方々は二百歳から三百歳ほどかしら」
「……」
「ちなみにわたくしは百二十よ」
数字が大きすぎて、同じ種族とは思えない。百二十が若く感じるほどだ。
「私はどの世代にあたるの?」
「年齢だけで言えば魔女と認められない世代ですけれど、稀に先祖返りで魔女の力を有する人が現れますの。でも、その人はわたくしとそれほど変わらない気配でしたわ。やはり賢者の隠し子説が有力かしら」
「質問に答えて」
波間の魔女は謎の考察をするだけで私の血がどれだけ濃いのかはっきりとしない。
ちゃんと答えるよう主張すると「あら、申し訳ありません」と本当に悪いと思っているのかわからない声で言った。
「あなたは谷の魔女以上賢者未満、いえ谷の魔女よりは確実に濃いから、災厄の魔女の孫である可能性が高いですわ」
「災厄の孫……」
「魔女ですもの、多かれ少なかれ災厄の血が流れていることは認めなければなりませんわ」
前を真っ直ぐ見る波間の魔女からは覚悟が見えて、私も自分が魔女であることにしっかり向き合わなければいけないことを悟る。
「生まれを選ぶことはできなくても、道を選ぶことはできますわ。貴女は嫌われの魔女として国外に追放されたいの? それとも、冒険者としての今を守りたいの? それ以外に目指したい道はあるのかしら?」
「私は……」
どうしたいのだろう。記憶を失った状態でエマ達に出会い、エマに手を引かれて冒険者の道を選んだ。
フリートベルク、正確には南の海に行きたいと最初に言い出したのもエマだ。誰かの後を追うだけで、自ら選んだことはない。
自分の意見を言うのも苦手で、周りの意見に同調するだけ。そんな私が考えてもすぐに答えが出るわけではないけれど、波間の魔女はカップにお茶を注いで私の言葉を待った。
「私は仲間と一緒にいる今が楽しいと思っている。離れ離れになるつもりはない。今度こそ誰も失いたくない」
「……誰かを失った過去がありますの?」
「リーダーだった人を谷の魔女に盗られた。彼は元々谷の魔女に操られていたらしい」
「貴女はその人を奪還したいと思っているのかしら?」
「戻ってきてほしいとは思ってるけれど、それが難しいこともわかっている。操りを解く方法はないの?」
人を操ることのできる魔女ならば、その解呪方法もわかるかもしれないと期待したけれど、波間の魔女は静かに首を横に振った。
「いえ、解く方法は見つかってませんわ」
「そう……」
「でも、研究は始まっていますもの。今は無理でも、何年後には治せるようになるかもしれませんわ」
「……操った魔女を殺せば呪いは消せる?」
「可能性はゼロではないけれど、あまりお勧めはしませんわ。操られた人に残った僅かな魔力を頼りに、その人の身体を乗っ取って復活した魔女もいたと聞いたことがありますもの」
谷の魔女を倒した後に乗っ取られたルドルフやヴェラットと戦うことになるのは、できる限り避けるべきだ。やはり操りを解く方法を探すしかないのだろう。
「わたくしの双子の妹が国外で魔女の血の研究をしていますの。被験体があれば研究が捗ると言っていたから、操られた人を連れていけば喜ばれるのではないかしら」
「……国外追放された魔女?」
「えぇ、森の奥深くに住む魔女ですわ」
「“まじょさん”?」
「何の話かしら?」
小首を傾げる波間の魔女にエマから聞いた魔女の話をしようかと思ったけれど、秘密にすると約束したから止めておいた。それに、森に住まう魔女は多いだろうから、きっと別の魔女の話だろう。
「わたくしは海のような青の瞳で、妹は森のような緑の瞳。自然豊かなフリートベルクの良さを表しているようだとよくお父様に言われましたわ」
「緑の瞳」
「とても心優しい人で、英雄と呼ばれたお父様を超える魔法使いと評されたけれど、人を傷つけると自分も痛みを感じるからと守る魔法を選んだのですよ」
「守る魔法」
「そういえば、貴女が持っているその杖、妹が幼少期使っていた杖に似てますわね」
「へっ?」
まじょさんとの共通点を探していたら、不意にそんなことを言われた。




