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29.合同討伐 後編

「魔物から目を逸らすんじゃねぇよ」


 衝撃がいつまで経っても襲って来ない。恐る恐る目を開けると、ラウルの槍がヴァルトハーゼを突き刺していた。

 少し顔を前に出せば角が突き刺さる位置で止まっている。すぐに形が崩れて緑色をした魔石になった。


「属性魔石!? 上級相当の魔物じゃないですか。明らかに格上なのに、どうして僕達に当てたのですか?」

「上級相当? ハッ、それは魔法を攻撃に使う魔物のことを言うんだぜ。こいつは移動に使うだけだ」

「ですが、風魔法により速さが強化されたら脅威度は高いでしょう」

「だが、フリートベルクの戦士なら中級でも倒せる」


 王都の冒険者が弱いのか、上級相当の魔物と戦い続けたフリートベルクの冒険者が異常に強いのか。どうやら王都とフリートベルクとでは冒険者の質が違うようだ。王都の中級冒険者は誰もあの速さについていけないだろう。


「魔法使いが二人もいるのはすげぇが、必要なのは時間のかかる技じゃねぇ。どんな攻撃も跳ね除ける肉体だ」


 リーダーの言葉に荒波の誓いが各々の筋肉を誇張する。どんな荒波にもめげないような強靭な肉体がフリートベルクでは必要不可欠ということだろうか。


「今更努力してもあなた達のような肉体は手に入らない」

「そりゃ当然だ。俺達は小さい頃から漁師の手伝いで魚がいっぱいの網を引いたり、魚が入った箱を運んだりしてるからな」

「けれど、魔法の精度を上げることはできる」


 土壁が間に合わないなら、土の一部を浮かせて固めれた即席の盾で防げばいい。胸から肩、腕、手の平、杖、魔石、杖、地面と魔力を順に流していては時間がかかる。

 私の場合魔石で自分の魔力を土属性に変換しているらしいから、魔石に流すのは省けない。けれど、魔石に直接魔力を流したり、魔石のついている杖の頭部で地面を叩いたりすれば時短になるはずだ。


 それに、自然を傷つけてならないという誓約がなければ、火魔法で直接攻撃すればいい。そうすれば杖を介さずに済む。この辺りの魔力が多すぎて、自分でもどれほどの威力になるかわからないから使わないけれど。


「そんなにも魔法を極めたいなら魔法学校に行ったらどうだ?」

「魔法学校?」

「平民でも魔法の才能があれば誰でも通える学校だ」

「お金ないけれど」

「優秀な奴なら学費が免除される制度がある。黄色い髪の姉ちゃんは知らんが、お前なら問題ないだろう」


 孤児として冒険者として生きてきた私が、学校に通えるとは思っていなかった。基本的に貴族が通うものだし、平民でも裕福な商人などが行くところでだ。親のいない私にとっては縁遠い場所だと思っていたから、突然学校への道が開けて途方に暮れてしまう。


「すごいね、ソフィ! 学校に無料で通えるんだって!」

「つえー奴といっぱい戦えるんか?」

「でも、僕達との旅が終わりにならないかい?」

「あ……」


 はしゃいでいたエマとレオだけれど、カイの一言で沈黙した。それでもエマは笑顔を作る。


「離れ離れになるのは寂しいけど、ソフィの選んだ道なら応援するよ? ううっ……」

「何で行く前提なの?」

「へっ?」


 勝手に泣き出すエマに私は淡々と告げた。


「学校に入学するつもりはない」

「どうして? そんな機会めったに巡ってこないよ?」

「私は狼の集いの皆と冒険するのが好きだから」

「はにゃっ!?」


 エマが素っ頓狂な声を上げた。一度止まったはずの涙が再び溢れる。


「うぅ、ソフィが笑ったよぉ……久し振りに見るかも」

「エマは私が笑っただけで泣いてるの?」

「ぐすっ……うん……」

「……」


 何年も一緒に過ごしているけれど、エマの行動が理解できなくて引いてしまう。とりあえず彼女が泣き止むまで放置することにして、荒波の誓いのリーダーに向き直った。


「私は魔法学校とやらには行かない」

「ま、そりゃそうだよな。何事も実戦で磨くのが一番だ。学校で学んだら個性が失われるかもしれないしな。一度見ただけだが、多種多様な魔法がお前の武器なんだろう」


 土に魔力を流して球や矢などの攻撃手段にしたり、壁で防御したり、穴で足止めしたり。

 魔法の多様性を脳にも筋肉が詰まっていそうな人に理解できるとは思わなかった。


「……なんか失礼なこと考えてねぇか?」

「別に」


 ラウルから視線を逸らす。別の魔物の接近を魔力感知が知らせた。


「ゲヴァイヒルシュか! 角に注意しろよ、痺れるぜ」


 鹿を一回り大きくしたような魔物が角を前に突き出して突進してきた。それを荒波の誓いの盾役が受け止める。動きが止まったところに大剣で角を斬り落とそうと振りかぶった。


「そういや、そっちの剣士が何か言ってたっけ」

「確か角より魔石の方が高額って話だったな」

「角に雷属性を纏うんだから、破壊しない方がいいよな?」

「よし、作戦変更だ。魔石のある胸を狙うぞ!」

「おぅ!」


 リーダーであるラウルの指示を受け、大剣使いが狙いを角から胴体に定めた。大剣の一振りでゲヴァイヒルシュの四肢が切断される。そこにラウルが胸を突いて絶命させた。ゲヴァイヒルシュの形が崩れて、代わりに残ったのは橙色をした魔石だった。


「うおおおぉぉぉ! 初めて見る色の魔石だぜ!」

「これが雷属性の魔石なのか!?」

「魔石の鑑定をしてくれるとこに風属性の魔石も出したら、大金が手に入りそうだな!」

「てめぇら、これが合同討伐なのを忘れるんじゃねぇぞ」


 リーダーの喝で興奮していた他の三人が「あぁ、そうだった。すまねぇ」と落ち着きを取り戻した。

 ラウルが私達にヴァルトハーゼから入手した魔石を差し出した。


「ほら、お前達の取り分だ」

「いえ、倒したのは荒波の誓いの皆さんなので受け取れません」

「途中まで戦ったのは狼の集いだし、俺はとどめを刺しただけだ。上級冒険者になれるかもしれないお前達への投資だと思って受け取ってくれ」

「……ありがたく頂きます」


 その後も荒波の誓いの力を借りながら魔物を討伐し、日が暮れる前に街に戻る。私が冒険者プレートを見せたら「少し待っててくれ」と私だけ待合室に案内された。皆には先に帰ってもらい、椅子に腰掛けて大人しく待っていると、扉が開き門の兵士と見知らぬ女が中に入ってきた。


「待たせてしまい申し訳ない。こちらは波間の魔女様の使用人だ」


 波間の魔女と聞いて、一緒に入ってきた女の顔が見覚えあるものだと気づいた。昨日私達を尾行していたうちの一人だ。


「初めまして、いえ昨日振りでしょうか、若き魔女ソフィ様。波間の魔女に仕えるカサンドラと申します」

「カサンドラ……様?」

「呼び捨てで構いません。魔女が人間族の身分社会に従う必要はありませんから」

「カサンドラさん」


 年上の人を呼び捨てにするのは失礼に感じたので、さん付けで呼んだ。カサンドラは特に気にした様子もなく用件を告げる。


「波間の魔女がぜひあなたとお話がしたい、とのことです。お誘いに応じてくださるなら、明日の朝の鐘(午前九時頃)が鳴る頃、宿屋の前に迎えの馬車をご用意します」

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