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24.フリートベルク到着

 ランメルツを出てしばらく進むと、再び森の中に入った。馬車が通れるよう整備された道は北へ曲がっている。道なりに沿って進んでいけば、当然のことながら南に広がる海は見えづらくなっていく。


「ラットさん、海がどんどん遠ざかっていくよ!? 本当にこの道で合ってるの?」

「なんだ、いつ魔物に突き落とされてもおかしくない崖沿いの道を歩きたかったのか?」

「違うよ!」

「なら静かに俺の後に続け。道は合っている。海は領都に到着するまでお預けだ」

「……はぁい」


 他に道はないと知り、エマは大人しくヴェラットの後を付いていくことにしたようだ。

 森も山も多くの生物が生息しているのを、魔力感知で感じ取る。どれも魔力量が多く、けれど襲ってくることはない。まるで私達を見定めているかのようだ。


「なんか、あちこちから気配を感じるぜ!」

「決してこちらから仕掛けるな、レオ。ここに棲む魔物に反撃されたら即死するぞ」

「死ぬ? なら挑まないのが一番だな!」


 レオも気配を感じ取ったようだけれど、ヴェラットの言葉で臨戦態勢を解いた。


「ううっ、全方位から睨まれてるようで怖いよカイ」

「大丈夫だよ、エマ。僕が守るから」

「奴らはお前の盾を容易に貫くだろうな」

「ひいっ!」

「ヴェラットさん、恐怖を煽るようなことは言わないでください」


 ヴェラットが不必要にエマを怖がらせて、カイに睨まれている。ヴェラット以外目に見えない恐怖と戦いながら恐る恐る歩き、魔物が蔓延る森を抜けた。


「はぁ、怖かった! 何だったんだろ、さっきの森」


 生物の気配が完全に消えたところでエマが深く息を吐いた。


「整備された道以外足を踏み入れることを禁じられている森だな」

「ええっ!?」

「ソフィならば感じ取れるのではないか? 森の奥深くに居座る膨大な魔力を」


 ヴェラットに聞かれて私は森を振り返る。森全体に魔力が満ちているけれど、明らかに生物と思われるものが山脈付近の森に潜んでいた。

 周りの魔力に阻害されて正確な魔力量を計ることはできないけれど、人間では到底辿り着けない頂に座する魔力の持ち主なのが窺える。エルフではない。魔女とも違う気がする。


「あれは何?」

「それは俺も知らぬ。だが、その存在がいるからこそこの森を立ち入り禁止にしたのだろう、フリートベルク辺境伯は」


 魔物の脅威ではなく未知の生物から身を守るため立ち入り禁止にされているのだろうか。


「森を抜けたし、フリートベルクまではあと少しだ。ここからは下り坂が続くから気をつけろ」


 南に目を向けると、先ほどまで木々に隠されていた海が見えた。道も海へ向かって下っている。


「ふおぉ、ついに海に近づくことができるんだね!」

「……まぁ、そうなるな」

「わーい!」

「エマ、走るのは危ないよ!」


 カイの制止を聞かずにエマが先走る。海にはしゃぐ彼女を止める術はない。下り坂で立ち止まれなくなったとき、土壁で彼女が落下するのを防ぐことはできるだろうか。

 私の心配は杞憂に終わり、崖が途切れる前にエマが立ち止まった。


「ねぇ、ラットさん。道がここで途切れてるんだけど」


 エマに追いついて崖から見下ろすと、確かに道はどこにもなかった。足場とロープが崖沿いにあるくらいだ。前後左右、私達が通ってきた道以外ない。


「その足場に降りて、ロープを伝い崖を渡るのだ」

「無理だよ、そんなこと!」

「ならばフリートベルクに行くのは諦めろ」

「うぅ……」


 エマが目に涙を浮かべて崖下を見る。下は海だ、岩場があるから落ちたら助からないかもしれない。

 目的のために覚悟を決めるのか、命を最優先に引き返すのか。その二択に悩まされている様子のエマだったけれど、頭脳担当(カイ)は違った。


「ヴェラットさん、王都南門からフリートベルクの領都まで続く南街道は、馬車が通れるよう作られたんですよね? 崖で途切れるのは不自然ではありませんか?」


 カイの問いかけにヴェラットは片眉を上げた。


「ほぅ、気がついたか」

「あなたは出発前に、僕達を安全な道に導くと約束してくれました。この道も通れなくはないですが、安全な道と言えますか?」

「確かにいつ足場が崩れて落下するかわからぬな」


 私達を危険な道に案内したのを、ヴェラットはあっさり肯定した。ここで私達を突き落とすつもりなのかと身構えたけれど、ヴェラットは動かない。


「しかし、正規の道は魔物が多く出没するから騎士団の護衛なしに通れぬのだ。俺より強い騎士が六人程度いればお前らを安全に領都まで導けるだろうが、俺一人では不可能だな。だから、この道を選んだ」


 ドラッヘ山脈の南側に出没する魔物の大きさと強さ。ヴァルトエーバーのように単純な攻撃手段しか持たない魔物なら倒せたけれど、それ以外は全てヴェラットが倒していた。私達はむしろ足手まといで、庇われることしかできない己の弱さを実感する。

 この中で一番強いヴェラットすら敵わない魔物が多数出没するなら、別の道を選ぶのが正解だ。貴族に仕える騎士団を雇うお金など、あるはずがないのだから。


「俺が選んだ道を進むことに異論はないか?」

「……まずはヴェラットさんが歩いて、その安全性を証明してください」

「承知した」


 ヴェラットが足場に降りて、ロープを掴みながら渡っていく。崖が崩れる気配はない。


「次はレオが行ってくれるかい?」

「わかったぜ!」


 レオが勢いよく飛び降りたから心配になったけれど、足場は壊れなかった。


「次はエマと僕が行こう。ソフィは万が一誰かが落ちたときに土魔法で救出してほしい」

「わかった」

「大丈夫だよ、エマ。一緒に行こう。ほら、前だけ向いて」

「……うん」


 ロープを伝って崖下を進んでいく。上は木々が広がっているようで、無数の魔力反応があった。どれも魔力が桁違いに多く、ヴェラットの言っていたことが正しかったことを知る。


「木が途切れたら比較的安全だから、そこで崖を登るとヴェラットさんから伝言だよ」


 ヴェラットの言葉がレオとカイを経て私に伝わる。今上がるのは自殺行為に等しいので、言われるまでもない。

 しばらく歩いたところで木々が途切れたのか、前方のヴェラットが崖を登るのが見えた。すぐ後ろのレオもそれに続く。


「エマ、掴まって」

「ありがと、カイ」


 カイが先に登りエマに手を差し出す。二人の力で困難を乗り越える様はどこからどう見ても男女の仲だ。なぜ付き合っていないのか不思議に思いながら、自力で崖を登った。レオが手を差し出したけれど、誰かの力を借りなければ登れないような崖ではない。


「って、あの街はもしかして……」


 エマが指差した先には、夕日に照らされて輝く海と白壁と青い屋根で清涼感を覚える街並みが広がっていた。ドラッヘ山脈を背負うような位置に立派な城が建っている。


「あぁ、フリートベルクの領都だ」

「やったぁ! ついに辿り着いた!」


 ヴェラットに正解を言われると、エマは両手を空に掲げて喜びを表現した。

 王都を発ってから約一か月、私達「狼の集い」はついにフリートベルクに辿り着いたのだ。

南街道編完結しました!

閑話を挟んで次はフリートベルク編です。

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