11.魔女の血
「案ずるな。私も魔女を祖に持つ」
「え?」
騎士が兜を取ると、端正な顔立ちと綺麗に整えられた金髪が現れた。
「この髪色では説得力がないがな。私の弟、ヘルフリートは黒髪だ」
そして顔は、雰囲気こそ異なるけれどヴェラットによく似ている。
「亡き父上は己に魔女の血が流れていることを誇りに思っていた。私もそう思う。魔女は時として常識を逸した魔法を使うから忌避されがちだが、己の力に溺れず何かを守るためにその魔法を使う魔女がいることを知っているからだ」
「守るための魔法……」
焚き火を囲みながらエマと話したとき、意識せず自分の口から出た言葉だ。これは誰の教えだろうか。
「その魔女はどこにいるの……ですか?」
「敬語を使う必要はない。騎士と言えど今はただの平民だからな」
カイの真似をして丁寧に尋ねたけれど、その必要はないと言われた。
「それで魔女の居場所だったな。彼女――『波間の魔女』は王国最南端に位置するフリートベルク辺境伯領にいらっしゃる」
「波間の魔女……フリートベルク……」
「徒歩だと一月はかかるな。大陸一の港街で、エルフや獣人など他種族も多く暮らす地だ」
「仲間に相談してみる」
随分と話し込んでいたせいか、仲間達は騎士に連れられて詰所に入ったところだった。
「フィリップ団長、遅いですよ!」
「あぁ、今行く」
騎士の一人が探しに戻って来た。このやりとりで私は金髪の騎士がフィリップという名前で、騎士団長であることを知る。今更だけれど普段お目にかかれないような身分の高い人と私は話していたようだ。しかも元領主一族。無礼者と斬られなくて良かった。
騎士団の取り調べは主にカイと私が答えた。こういうのはカイに任せるのが一番だけれど、カイ達はルドルフを押さえるのに必死だったし、結界に阻まれて谷の魔女と対峙することはなかったから仕方ない。言葉が足りないせいかあれこれ聞かれて大変だったけれど。
「其方を救った女性は『白の魔女』と名乗ったのだな?」
「ん」
「残念だが、その名に心当たりがない。しかし、谷の魔女を無傷で退けるということは相当な腕の持ち主なのだろう。魔女ならば一度は耳にしたことがあるかもしれぬ、こちらで調べておこう」
私の証言を紙にまとめていたフィリップが顔を上げる。
「谷の魔女に其方らの元リーダールドルフを奪われたと言うが、取り返すのは諦めた方がよい」
「え?」
「恐らく彼は谷の魔女の命令に逆らえない状態にある。魔女の血を飲んでしまったがためだろう」
「えっと、魔女は自分の血を飲ませるの?」
魔女に憧れるエマが呆然とした表情で聞いた。
「そういう魔女もいるだけで、全ての魔女がそうとは限らない。力の源である魔女の血を多量に消費した魔女は若い姿を保てなくなるので、二十代の見た目をしていない魔女には警戒した方が良かろう」
「まじょさんは若い見た目だったから大丈夫だよね、うん」
そうエマが呟いたけれど、部屋にいる人は全員聞こえたと思う。隠すつもりはあるのだろうか。
「取り調べは以上だ。協力感謝する」
「こちらこそありがとうございました」
フィリップとカイがお礼を言い合って、お開きとなった。騎士に門まで送ってもらい宿屋の部屋に辿り着いたとき、ようやく肩の荷が下りたのか「はぁ、疲れたー」とエマがその場にへたり込んだ。
「エマ、部屋に入れない」
「あ、ごめんね! でも体に力が……」
私の手を借りながらエマはベッドに腰かける。
「今日は色々あったね。ルドルフと再会したり騎士様とお話ししたり魔女に会ったり……再会はできたけど進展はなかったね。むしろ悪化した気分」
「……」
「でも、ルドルフがいなくなった理由がわかっただけでも良かったね!」
「……エマは何でいつも笑顔なの?」
「へっ?」
ルドルフが谷の魔女に操られている可能性が高いと知った。谷の魔女には足元にも及ばないのに、取り返す術がないのに。笑っていられる理由がわからない。
「ルドルフの無事が確認できただけでも良かったなって。あと、あのおばさん魔女が打倒すべき相手だってわかったでしょ? 明確な目標ができたんだし、それに向かって特訓あるのみだよ」
「私はエマのように前向きにはなれない」
魔法をどれだけ極めれば谷の魔女に勝てるのだろうか。あの風魔法には、四百年の努力が積み重なっているのだろう。たった十数年しか生きていない私に届くとは思えない。
私がそう言うと、エマはむすっと頬を膨らませた。
「一人で何でも解決しようとしないで、もっとあたし達を頼ってよ。あたし達、仲間なんだから」
「……そう」
「『そう』って、冷たいなぁ」
「四人で力を合わせても、谷の魔女には勝てないだろうなと思っただけ」
「むむむ」
それはその通り、とエマが唸る。何かを思いついたのか、ポンと手を打った。
「そうだ! ラットさんを仲間に誘うのは?」
「え?」
「めっちゃ強いし、谷の魔女も倒せるかも!」
「あの人は独りが一番。私達では足手まとい」
「断られてもいいから、一度誘ってみようよ!」
カイ達に相談してくる、と部屋を飛び出したエマ。彼女はいつも突拍子もない。
部屋で身体を動かしていたレオによると、カイは情報収集に冒険者ギルドに併設された酒場に行ったらしい。せっかくなので皆で行くことになった。
「あれ、君達も来たのかい?」
「狼の集いは常に賑やかだな」
カイはなぜか、ヴェラットと一緒に酒を飲んでいた。




